杖連草 コラム2 サポート上手・され上手
サポート上手・され上手(Part1)
以前(2008年ごろ)会報に連載させていただいていたのですが、理事会から再連載してはと言うお話が有りましたので、少し修正して再連載させていただきます。なお、この原稿の書くのにあたり、諸先輩や登山用品店の店員さんからお聞きした話、「山と渓谷」などの専門誌やインターネットからの情報を参考にさせていただきました。
登山のサポートは、体力に余裕がなければできません。自分一人で登るのが精一杯と言うようでは、他に気が回らず、サポートどころではありません。また、サポートされる側も体力がないと、ただしんどいだけですし、滑ったり転んだりして危険です。それに、サポーターを押したり引いたりして、サポーターの体力も消耗させます。サポートは、する側される側の共同作業ですので、お互い体力をつけ、技術を磨くことが大切です。
サポートの基本は何でしょうか。それは、サポーター自身が、安全に体力に余裕をもって登り下りできる事だと思います。そのためには、体力、脚力アップのトレーニング、楽に登り下りする技術、読図や観天望気などをするための知識を学習することが必要だと思います。つまりサポートの基礎は、登山の基礎と言う事ですね。
登山のトレーニングは登山でと言われていますので、本来は、1週間に1度くらい、近くの山に登る事がいいのかも知れません。しかし、仕事の都合とか、いろいろな用事で時間がとれない事も多いと思います。特に視障者の場合、ちょっと時間が有るからと山に出かけるわけにはいきませんからねぇ。ではどうするかと言うと、近所に階段が有れば階段の上り下りをする。なければ、その場で立ったり座ったり、スクワットをやりましょう。テレビを見ながら、あるいは、ラジオや音楽を聞きながら数10分頑張ってみてください。最初から多くしないで、徐々に増やしてください。毎日続けることが大切です。続けていると、いつの間にか同じコースを登ってもあまり疲れなかったり、筋肉痛にならないようになります。
トレーニングをしても、すぐに体力や脚力がつくと言うわけではありません。できるだけ楽に登り下りするには、山の歩き方が有ります。あまり歩幅を大きくしないで、できるだけ同じペースで歩くようにします。高い段差を上り下りしたり、前の人との間隔が開いたからと言って、やたらとハイペースにしたりするのは、疲労を増すだけです。高い段差は、途中に足をかけられる所が有れば、それを利用し、4・5歩くらい遠回りしても、段差が小さく、安全に上り下りできるルートが有れば、そちらを上り下りしてください。このようなルートファインディングは、日ごろからベテランさんの足の運び方を観察していると、徐々に分かってきます。
登山には、一人で登る単独行、複数人で登るパーティーが有ります。サポートする場合は、最低二人以上ですから、パーティーで行動すると言う事になります。パーティーで行動する以上、団体行動ができないとだめです。集合時間や休憩時間を守り、勝手にパーティーから離れたりしないようにする、パーティー内での役割分担を果たし、パーティーでの行動に支障のないようにしなければなりません。このような事の積み重ねが、同行者からの信頼を得られることに繋がります。あの山に登った、この山にも登ったと言っても、団体行動ができていないようでは、誰からの信頼も得られないように思います。サポートは、する側される側、双方の信頼関係でなりたっています。だからこそ、共に努力し、共に感動を共有できるのだと思います。
サポート上手・され上手(Part2)
今回は、ザックとサポートロープについて書かせていただきます。
視覚障害者をサポートする場合、町中では、視障者の半歩前に立ち、視障者の左手で、右肘あたりを軽く持ってもらうか、右肩あたりに手をかけてもらいます。したがって、視障者はサポーターの右後方にいる事になります。サポーターは、自分の右側にもう一人分の幅を考慮して歩かなければなりません。登山やハイキングでも林道などある程度道幅が有る時は、町中でのサポートと同じようにしてサポートします。しかし、ハイキング道、登山道に入ると、ほとんど二人並べるほどの幅は有りませんので、前後一列になって歩きます。視障者は、サポーターの真後ろを歩くと言うのが基本となります。これだと、サポーターが落ちたりぶつかったりしなければ、真後ろにいる視障者も落ちたりぶつかったりしません。また、サポーターが、楽に上り下りできるコースを歩けば、視障者も楽なコースを上り下りできる事になります。真後ろを歩くには、サポーターの両肩に手をおけば、真後ろになりますね。ただ、実際は、ザックを背負っていますし、ストックも持っています。ストックを右手で持つとしたら、左腕を伸ばして、サポーターのザックの左後ろの角あたりに触れていると真後ろを歩く事ができます。時々、ストックを持った右腕も伸ばして、サポーターのザックの右後ろの角を確認するようにすれば、より確実だと思います。
サポートロープの装着法は、文字で説明するのが難しいので、例会などで説明させていたたくとして、要はザックにしっかり固定し、ザック後方中央からたらしたロープが、ザックの底部より少し出ているほうが望ましいです。直接ザックに触れて、ザックの動きを感じ取るのなら、サポートロープは必要ないのでは?と思われるかも知れませんが、ザックには触れているだけですので、離れてしまうことがよく有ります。このような時、サポートロープの端を持っておけば、その先にはサポーターのザックが有りますのであわてずにすみます。
真後ろを歩く際に注意する事は、あまり接近すると、サポーターの靴を踏んだり、足をけったりしてしまいます。できるだけ腕を伸ばしてザックに触るようにすればいいのですが、長時間持続するのは、かなり難しいです。かと言って、少し前かがみになって歩くのもたいへんですし、右か左に少しずらしたり、両足を少し開き気味にして歩くのも、細い所ではできませんし、へたすると落ちたり石や木にぶつかったりして危険です。それに、ザックを触らずに、サポートロープの端を持って歩くのは、腕は楽なのですが、サポーターのザックの動きが分かりませんし、ロープをピンと張ると、常にサポーターのザックを引っ張っている事になります。これは、かなりの負担になります。
サポーターのザックにあまり物が入っていないと、いくら腕を伸ばしていても接近してしまいます。そこで、できるだけ軽くてかさばるような物をザックに入れていただいて、ザックを膨らませていただきたいのです。こうすると、ザックに厚みができて、その分、視障者が後ろに下がる事になります。軽くてかさばる物としては、フリースなどの衣類、ビーチボール、空のペットボトルなどですが、一番のヒットは、100円ショップで見つけてきていただいた空気枕です。安いし軽いし、雪上での座布団代わりにもなります。ただ、いくら膨らませても、元々小さなザックとか、タウン用のザックだといくらも厚みがでません。やはり、女性だと30リットル、男性なら35リットルの登山用ザックでサポートするのが望ましいです。
それから、ザックにいろいろとアクセサリーをぶら下げておられる方もいらっしゃいますが、上に書きましたように左後ろ面を触っていますので、何かの拍子に指先に引っかかってしまう時が有ります。できるだけ、アクセサリーはつけないでいただくか、付ける場合は、できるだけ右側にお願いします。
サポート上手・され上手(Part3)
今回は、本来最初に書くべき事かも知れませんが、登山靴とストックについて書かせていただこうかと思います。
サポートとは、直接関係ないのではと思われるかもしれませんが、楽に安全に登山するには、靴とストックは、たいへん重要です。特に視障者は靴を滑らせやすいですし、サポーターを圧したり引いたりする事が有ります。予期せぬ時に圧されたり引かれたりすると、よろけたりしますので、転倒しないように踏ん張らなければなりません。そのためには、しっかりした靴とストックが必要になってきます。
登山靴は、できるだけ登山用品専門店で店員さんに相談しながら、購入する事をお薦めします。山行形態などを考慮して、登山用の靴下をはいて、ためしてみましょう。左右の靴をはいて、店の中をうろうろしてみましょう。かかとはぴったりつけて、つま先は、少し余裕を持たせましょう。余裕がないと、下りの時、つま先が当たって、ひどいときには爪がはがれたり、内出血したりします。靴紐は、店員さんに締めてもらえば分かると思いますが、かなりしっかり締めてください。足首がぐらぐらするようでは、ハイカットの意味がなくなります。紐の締め方、結び方は、いろいろと有ります。解けない結び方などと言うのも有りますが、つま先側から順に締めて、しっかりと結んでおけば、それほど解けたりしないように思います。
ストックは、3段のスライド式が多いですが、ストラップがしっかりしている物を選んでください。ストックをどこかに引っ掛けるだけの紐のようなストラップはだめです。手首に通して体重が支えられるようなしっかりとしたストラップがいいです。グリップの形もいくつか有りますが、視障者の場合は、まっすぐなグリップがいいように思います。視障者にとってストックは、体重を支えたり、バランスをとったりするだけでなく、足元を探ることにも使用します。上り下りを頻繁に繰り返す場
合とか、ちょっとした上りや下りのたびに長さを調節するのもわずらわしいものです。ストラップに手首を通して、グリップを持てば下りでも使えますし、シャフトを持てば登りでも使えます。シャフトだけ握っていると、手のひらに汗をかいたり、疲れてくると握力もなくなってきます。手首にかけたストラップで支えるようにすると、あまり握力を使わなくてすみますので楽です。さらに、ストックを持ってる側に有る枝や岩などを支えにする場合なども、ストラップを手首にかけておくと、そのまま手が使えます。また、ストックを落とすと、本人も困りますが、万が一にも下方を歩いている人にでも当たったら、たいへん危険です。ストラップを手首にかける、細引き紐でストックと手首、あるいはザックと結んで、ストックを落とさない工夫をしておきましょう。
ストックは、体のそばにつきます。視障者が足元を探るのも、次に足を置くところを探るのであって、離れた所を探っても意味ありません。バランスをくずして、離れた所につくことがあっても、習慣的に離れた所につくのはだめです。対向者とすれ違う時は危険ですし、ストック自体、斜めに加重がかかるといたみやすいです。
できれば、視障者のストックは、シャフトの一番上の段をペンキなどで白く塗るか、白いテープを巻いてください。まだまだ、視障者が山の中を歩いている事を知らない人も多いです。啓蒙の意味でも、また、接触した場合など、よけいなトラブルをさける意味でも、白くしておいてください。
最後に登山靴もストックも手入れをお忘れなく。汚れはきれいに落として、陰干しでよく乾かします。手入れが悪いと、登山靴の靴底がはがれやすくなったり、ストックのスライド部分がきちっと止まらなくなったりします。バランスをくずしてストックをついた瞬間、スライド部分か緩んだら、どうなると思いますか。こわいですねぇ〜。
サポート上手・され上手(Part4)
今回は、サポートの実際について書かせていただこうかと思います。視障者がハイキングや登山をする場合、靴底やストックからの情報、サポーターのザックの動きや言葉によるサポートで上り下りします。靴底やストックで一歩一歩確かめながら上り下りすればわかり易いかも知れませんが、超スローペースになって、100m上り下りするのにもかなりの時間を必要とするでしょう。やはりサポーターのザックの動きや言葉でのサポートを受けながら上り下りした方が、スピーディーだしより安全だと思います。
サポーターの真後ろにつきザックを触っているとかなりの事が分かります。右に曲がったのか左に曲がったのか、上ったのか下ったのか、慣れてくれば左右どちらの足で登った、あるいは下ったのかも分かるようになります。しかし、誤解していただきたくないのは、ザックの動きで分かるのなら、言葉でのサポートはなくてもいいのでは…と言う事ではないのです。的確なサポーターの説明を聞き、自分のストックや靴底からの感触など、いくつかの方法を併用した方が、より確実だし、安全性が増すと思います。また、人によっては、特に山歩きに慣れたベテランさんになると、あまりザックが揺れません。ベテランさんによっては、わざと要所要所でオーバー目に、ザックをふってくださる方もいらっしゃいます。
言葉でのサポートは、簡潔、明瞭、具体的に説明してください。具体的とは、「あっち」とか「こっち」とかではなく、「右」とか「左」とか「上」「下」とか、時計の文字盤に見立てて、10時方向とか、2時方向30cmとかのように、具体的に説明してください。例えば、「段です。」ではなく、段にも上りと下りが有りますから、「上り段です。」とか「下り段です。」のように、より具体的に説明してください。さらに、上りにしても下りにしても、高い段差を上り下りするのは、疲れますし、危険な場合も有ります。途中に靴をかけられるような所が有れば、できるだけそれを利用するようにしてください。例えば、「10時方向20cmに左足をかけて、右足で50cm上がります。」と言うような感じです。ただ、慣れてきたら、10時方向と言えばほとんど左足ですから、この場合は左足、右足は省けます。
簡潔にと言うのは、例えば登山路では、岩や枝が出っ張っている事が多々有ります。こう言う場合、その前で立ち止まって説明しなければならない時も有りますが、岩や枝の状態によっては、タイミングを見計らって「左くるぶし岩」とか「右腰枝」と説明するだけで、立ち止まらなくてすり抜ける事ができます。しかし、視障者が、まだ山歩きに慣れてない時は、立ち止まって詳しく説明してください。
明瞭にと言うのは、サポーターも慣れないと、どうしても視障者の足元が気になるのか、ことあるたびに後ろを振り替えられます。振り返るとザックも左右に動きますから、できるだけ前を向いたままサポートしていただきたいのです。前を向いたまま後ろの視障者に説明するには、ある程度の声量で明瞭に話してもらわなければなりません。口の中でモゴモゴ言ってるような話し方だと、後ろまで聞こえません。特に雨具を着て、フードをかぶっていると、よけい聞こえにくいものです。
サポーターもつかれてくると、無言になったり、「右に曲がります。」と言いながら、左に曲がったりします。視障者も「左足で…」と聞いているのに、利き足の右足を上げたりします。サポートを交代するとか、休憩を取ってください。無理な行動は、事故の元です。リーダーは、メンバーの疲れ具合をみながら、歩く早さや休憩のタイミングを考えなければなりません。
視障者の体力や山歩きの経験などでサポートの仕方を考えなくてはなりませんし、サポーターのサポート法にも個人差が有ります。何度かペアになれば分かってきますが、初めての時は、基本に返り、慎重にサポートし、されてください。
サポート上手・され上手(Part5)
今回は、普通の登山道ではなく、沢渡りなど、より説明が必要とするような箇所のサポートについて書かせていただこうかと思います。
沢を渡る場合、登山靴をはいていれば、浅い所をばしゃばしゃと歩いて渡ればいいですが、水の流れが緩やかな所は、ぬるぬる滑り安いですから気をつけてください。橋がかかっている場合は、橋の手前で止まり、橋の形状、つまり、丸木橋なのか板橋なのか、丸木橋ならば、1本なのか数本並んでいるのか、その間に隙間があるのかないのか、滑り止めの横木があるのかないのかなどを説明しながら、視障者のストックで、橋の幅をここからここまでと触って説明します。渡る時、視障者は、右手にストックを持っていれば、ストックで橋の右側面をすらせるようにすれば、比較的渡り易いです。
次に飛び石づたいに渡る場合ですが、まず視障者のストックで視障者がいる石の先端、ここまでなら前に出られると言う場所を示します。それから、次の飛び石を示しますが、ここと1点をささずに、このへんと面を示してください。それと、次の飛び石の形状、手前に少し傾斜しているとか、平たくて大きいとか、少し頭が丸いとかです。渡る時は、まずサポーターが渡り、視障者が先端まで出て、次の飛び石までの間にストックをつければストックをついて渡ります。この時、絶対にストックを持っている手はもちろん、反対側の手を引っ張ったりしないでください。ストックを持っていない方の手首か前腕あたりを支え、視障者の動きに合わせて、手前に引いてください。飛び石間が広かったり、次の飛び石が滑り易そうな場合は、渡ると同時に、片方の腕を視障者の腰に回し支えてください。
次にかなり急斜面の岩場です。鎖やロープが張られている場合も有りますが、錆びていたり、古いロープの場合は使用しないようにしましょう。3点支持で上り下りしますが、上りの時は、サポーターは後方の視障者の足元は見えません。後ろサポーターが足元の指示をします。後ろサポーターがいない場合は、後方のペアのサポーターが指示してください。視障者が、ごそごそ足探りで探すのではなく、手で探るか、サポーターが的確に指示してください。手が届くなら、視障者のかかとあたりを持って、的確な場所に移動させてください。ただし、これをする場合は、必ず視障者に声をかけてください。いきなり靴に手を伸ばすと、靴のかかとで蹴られる恐れが有ります。足探りでごそごそしていると、石を落としたりするとたいへんです。
ここで視障者の3点支持について書きます。かなり急斜面の岩場を上り下りする、あるいはトラバースする場合、サポーターのサポートロープやザックから手を離さなければなりませんし、ストックも使えません。ストックは、ストラップで手首にかけるか、サポーターに預けてください。上りにしても下りにしても、私たちが登るコースで、垂直、あるいはオーバーハングになったような所はないと思います。せいぜい70度か80度までです。バランスさえ取れれば、立っていられます。岩にしがみつくようにせず、足で立って、手でバランスを取るようにしてください。あまり高い所に足を上げるとバランスがくずれますし、手足の4点の1点ずつ確実に移動させてください。サポーターが、靴のかかとを持って移動させる時は、後の3点で体を支え、サポーターが持っている足は力を抜いて、サポーターが動かし易いようにしてください。ただ、サポーターが指示した場所が、バランスとりにくければ、すぐサポーターに伝え、別の場所を指示してもらってください。
サポート上手・され上手(Part6)
今回は雪山での装備品、ウエア、サポートについて書かせていただきます。
まず、雪山では、装備品として、アイゼン、ストック、ロングスパッツなどが必要です。アイゼンは、4本爪から12本爪の物が有り、登る山や積雪の状態などで使い分けます。ただ、いくつも購入するのはたいへんですので、当会では、レベルを考えて6本爪を推奨してきました。しかし、小柄な方で小さな登山靴ならいいんですけど、大きな靴だと、アイゼンからつま先やかかとがかなり出てしまって、爪がない状態になってしまいます。このように少し大き目の靴には、8本爪の方がいいように思います。8本爪は、靴の長さに合わせて調節できますので、つま先側に4本、かかと側に4本の爪が有ります。ただ、4本爪、6本爪は、どの靴でも装着できますが、8本爪、10本爪、12本爪の物は、装着できない靴が有りますので、購入される際には、登山靴を持参して、店員さんとよく相談してください。
ストックは、先端付近についているゴムのわっかを雪山用の大きなわっかに取り替えられる物にしてください。また、ストラップは、体重を支えられるようなしっかりとした物を選んでください。
ロングスパッツは、ファスナーが横に有る物と後ろに有る物、最近では前にある物が有ります。前に有る物が使いやすいと思います。それから、上部がしっかりとめられることと、靴底に回すベルトがしっかりしている物を選んでください。
その他、ワカンとかピッケルなんかも有りますが、ワカンはともかく、ピッケルや12本爪アイゼンは、使用するにはそれなりの技術がいります。使用法を知らずに持ち歩くのは危険です。12本爪アイゼン、ピッケルを必要とする雪山に登ろう、登りたいと思われる方は、是非、勤労者山岳連盟などの山岳会が主催している登山学校や雪山講習を受講されることをお薦めします。
次にウエアですが、アンダー、ミッド、アウターに大別し、アンダーは直接肌に触れる物です。汗をいっぱいかく暑い季節以上に、吸湿、速乾性が大切です。下着が濡れていると、動いている時はいいですが、休憩などで止まると、すぐ冷たくなってきます。下着も登山用の方が、望ましいです。
ミッドは、中間着でフリースの物が多く、デザインや厚さもいろいろ有ります。厚手の物よりは、中厚の物や薄手の物、あるいはベストみたいな物を組み合わせるとか、ファスナーで胸元が開けられるとか、温度調節がしやすいようにした方がいいように思います。
アウターは、一番外側で、ゴアテックスなどの雨具でいいと思います。雪山用の中綿が入ったようなジャケットやオーバーパンツなども有りますが、当会の山行レベルでは暑すぎて温度調節がしずらいと思います。
帽子は、耳、後頭部を防寒できる物がいいです。後頭部、後頚部を冷やすと、すごく寒いです。
手袋も濡れると非常に冷たいので、乾きやすい物で、オーバー手袋をするか、オーバー手袋と一体になった物がいいです。ただ、アイゼンの脱着は、基本的には手袋をしたままで行いますので、一体型でない方が、やりやすいかも知れません。
その他、サングラスもあった方がいいですし、あった方がいい便利グッズもいろいろ有りますので、例会当でお尋ねください。
装備品は購入時店員さんに着脱法をよく聞いて、何度かやってみてください。着脱に時間がかかると同行者に迷惑をかけます。購入時だけではなく、雪山に行く前には、点検をかねて着脱練習をしておいてください。
次は、雪山での歩き方とサポートです。
ロングスパッツは、足にまいて上部を軽く止め、ファスナーを上げます。靴底にベルトを回し、外側で止めます。靴紐にかける金具は、一番つま先よりの紐にひっかけてください。上部をきちっと止めたら、出来上がりです。
アイゼンの、装着法はいくつかありますが、紐締めの場合、留め金が外にくるようにし、留め金から出た紐の末端部分は、どこかに巻きつけるなどしてきちんと固定しておいてください。アイゼンを装着した時は、左右の靴の間を握りこぶし二つ分くらいあけて、できるだけ靴が平行になるように歩きます。間隔が狭かったり、つま先が外に向いていると、アイゼンの爪でロングスパッツなどを引っ掛ける恐れが有ります。また、はずした時は、手に持ったりザックの外側にブラ下げていると、他の人と接触したり転倒したりした時にたいへん危険ですので、ザックに収納するようにしてください。
雪山を歩くには、前を歩く人の足跡をたどって歩くのが、一番楽で安全です。ただ、晴眼者だと足跡をたどるのは容易ですが、視障者ではかなり難しいです。したがって、先頭を歩くコースリーダーは、できるだけ一定の歩幅で歩くようにしてもらって、視障者はサポーターの真後ろにつき、できるだけサポーターと左右の足並みを合わせるようにすると、比較的うまくサポーターの足跡に合うように思います。
急斜面の上り下りはキックステップを使います。上りでは、靴のつま先を雪の斜面に蹴りこんで、靴先で雪を押さえ込むようにして登ります。前の人がつけたステップを利用して登ると、ステップが踏み固められて、後の人ほど登り安くなります。ただ、左右の足を間違えると、上がりにくいので、左右どちらの足をステップにのせるかはっきり指示してください。下りもステップを利用すると楽なのですが、崩れやすいので、靴のかかとで雪を抑え込むようにして下ります。
斜面をトラバースする時は、山側の足は進行方向に向け、靴の小指側を雪面に蹴り込みます。谷足は、つま先が斜面の下方に向くようにします。
サポーターと視障者が接近しすぎると、視障者のアイゼンでサポーターの足を傷つける恐れが有ります。かと言って、サポートロープの端を持って間隔をあけると、ロープだけでは、サポーターの動きが分かりません。できるだけサポーターのザックを膨らませるか、もう1本ストックを用意し、ストックの先端にカラビナを取り付けて、サポーターのザックの左側面に固定します。そのストックのグリップを左手で持って左体側に当てておくと、サポーターとの間隔もあくし、動きも比較的分かり易いです。
サポート上手・され上手(Part7)
今回は、この連載のタイトルにもなっています「サポート上手・され上手」になるためにはどうすればいいかのまとめをしてみたいと思います。
まず、サポーターにしても視障者にしても、1にも2にも体力、脚力をつける、または、落ちないようにする事です。次に、ルートファインディングや読図など、登山に必要な技術、知識を学習する事です。視障者はサポーターの動きにすばやく反応できるようにサポーターのザックの動きに注意し、バランスを崩してもすぐ立ち直れるように、ストックの使い方やザックのパッキングの方法などを学習してください。体力に合わせてザックの重さを考え、コースや行動時間を考慮して、自信がなければ、できるだけザックは軽くしてください。登山の技術や知識を学習するには、「山と渓谷」などの専門書を読んだり、経験豊富なベテランさんの話を聞いたりして、例会や個人山行のチーフリーダーやサブリーダーをやってみましょう。山行を企画したり、パーティーの先頭を歩く事は、技術、知識を深めるには絶好の機会です。後ろから付いていくだけでは、得られないように思います。視障者もコースリーダーはできませんが、リーダーやサブリーダーをすることによって、団体行動やパーティーシップの大切さなどを再確認できると思います。また、山行から帰ったら、自分なりの記録をつけるようにしましょう。コースタイム、感想、反省点、ベテランさんからのアドバイスなど、次の山行の参考になりますし、後日、他のパーティーが行く時の参考にもなります。ただ、誤解していただきたくないのは、経験豊富なベテランだと言ってもサポートした事がなければ、サポートはできません。あれこれ試行錯誤しながらサポートの回数を重ねて行けば上手になりますし、上手なサポーターでもしばらくサポートしてなければ、息が合いません。視障者も山行の間隔が空くと、山道を歩く感覚がにぶってきます。
サポートする側としては、 例会や下見の時、同行者のサポート法をよく観察してください。すでに「サポート上手」なサポーターのサポート法を、よく観察していると、たいへん参考になります。さらに、休憩時間に、疑問点をたずねてみましょう。常に、こう言うサポートの方が良かったかなとか、この説明の仕方の方が分かり易かったかなと創意工夫する事が大切です。スポーツや音楽やその他なんでもそうですが、自分は上手だ! うまい! ちゃんとできていると思うようになると、そこからは上手にはなりません。やはり常に上手になるには…と、頭の片隅においておいてください。
時には、目隠しをして疑似体験してみるのも参考になります。ただ、気を付けないといけないのは、いきなり最初から山道を疑似体験すると、けがをする危険性が多いのと、こわかったぁ!とか、視障の人は、よく歩けるなぁ!とか、それだけで終わってしまいます。最初は、目をつぶって食事してみてください。テーブルには何が並んでいるか、幕の内弁当のどこに何が有るか、説明してもらって食べてみてください。それから、登山口までの舗装された路や林路を、目隠しして疑似体験してみてください。この疑似体験で学んでほしいのは、こう言う説明の仕方は分かりやすいなとか、こう言うふうに言った方が分かりやすいなとか、体験を通して感じていただきたいのです。
入会当時、下見だったか何だったか忘れましたが、何人かのサポーターの方から「視障者が一緒だと、時間がかかるから、思うような山にいけない。」と言うような事をお聞きしました。当時は、そうだろうなぁと思っていましたが、それなりにトレーニングして、息が合ったサポーターとなら、かなりのスピードで行動できますし、かなりの山には登れるように思います。サポートが上手になるには、基本的に視障者を交えたみんなで登るのが楽しいと思えるような人でなければ無理だと思います。ただ、有名な山に登りたい、登った事のない山に登りたいと言うなら、プロの山岳ガイドをお願いするなり、ツアー登山を利用すれば、いくらでも登るチャンスは有ります。同行者間で、互いに任務を分担し、思いやり、気遣い合い、時には叱咤激励しあいながら登るのが、パーティーによる登山ではないかと思っています。視障者が転んだ場合、ここはああして、こうして、言ったようにして…と叱咤するのもいいですが、内心では、もっとこう言う説明をした方が良かったかなとか、手前で止まって説明した方が良かったかなとか、反省する事が大切です。視障者も内心で「ちゃんとサポートしてやぁ!」と舌打ちしたりせず、なぜここで転んだのか、ストックのつき方はどうだったか、足の運びはどうだったか、原因を考える事が必要です。こう言う事の積み重ねが、上手になる一歩です。また、「息を合わせる」には、サポートの回数を重ねる事と、何と言っても相互に信頼しあうことが不可欠です。信頼を得るには、人間性によるところが大ですが、私は日ごろの言動、同行者への気遣い、謙虚さなどを重要視しています。
長らく連載してまいりましたが、今回で終了させていただきます。お互い「サポート上手・され上手」になって、安全で楽しい山行をしましょう。
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