小てつのよも山話(No.102)

哀歌

2014年5月20日(火)                       小てつ






 今年はどこの山でもシャクナゲが狂気乱舞しているようで、観察に訪れた方は、みんな満足のレポを書かれている。どうやら今年はシャクナゲのみならず、カタクリやキスミレ、イワカガミも調子が良くて、たいへんうれしい。しかしながら、良い知らせもあれば、残念なこともあり・・。

 小父さんと、4日がかりで雪の山中を探し回り、やっと見つけた「春に花咲く大木」。ごまかすつもりはなかったけれど、実際は巨大な山桜である。細かい名前は別にして、普通の桜とは異質な存在であって、何と幹の太さが軽自動車ほどもある。北の尾根の「大杉」が「北山の大王」なら、こちらは「北山の女王」と呼べるのではないだろうか?

 とにかく大きいから、花が咲いている時期に下から見上げても、全く花がわからない。花にたかっているみつ蜂の羽音がうるさいだけである。しかしながら南側の稜線から見下ろすと、山の中にドーンとピンクの場所があるので、それとわかるくらい。とにかくスケールが違う。

 横から見ると1本に見えるが、正面から見れば幹は根元で2本に分かれている。小てつの私論では、現在の幹は「脇芽」だったと考えている。大昔に1本の桜だったものが枯れかかった時に、根元から脇芽が出ていて、それが現在の幹に成長したのではないだろうかと考えた。とてつもなく長い年月の話だと思う。

 そんな大桜が、もう花をつけることは無いようだ・・。

 今年の春先の大風で折れたのだろう、細い枝はあたりに散乱し、幹も皮がめくれたところが見えた。もう枯れてしまったようだ。

 あたりを見てみると、誰が撒いたのか炭が大量に落ちている。この桜のことを知っている人が、弱っている原因が酸性雨のためだと考えて炭を撒いたのだろうか。しかし小てつが考えるに、原因は「乾燥」だと思った。

 初めてこの桜を見たのは「写真」だったのだが、その写真の中の桜の根元は笹で覆われていた。今は何もない「はだかんぼ」である。晴れが続けば地面はパサパサだ。シカのせいと言われている。6、70年に一度、笹は一斉に花をつけ枯れるといい、シカが出てきた若芽を食べ尽くしてしまったという。前回に花をつけたときは大丈夫だったんだろうか?と思うが、今回の笹枯れの原因はそういうことになっている。山は保水能力を失っているのだ。大桜のある所は、準湿地のような場所で、夏には山ヒルで足を踏み入れたくない場所でも、そんな状況になっているのだ。

 原因の追求はむなしいだけで、事実は北山のシンボルツリーだった大桜が見られなくなったこと。小てつが望むのは、読者の方々に、京都北山にはそんな凄いものがあったことを覚えていて欲しいだけ・・。

そんな北山エレジー

小てつと大桜


                             【 記: 小てつ 】