私が論文試験にこだわる理由



教員になって以来ずっと論文試験を高校生に課してきた。まず最初に、なぜ私が論文にこだわるのかその理由を述べておこう。
 

1.
○×や、穴埋め方式の試験問題を出すと、君たちは個々の単語レベルの勉強しかしない。しかし、これでは本当の力はつかない。当の力とは、「点」としての知識ではなく、「線」で結ばれた体系的な知識である。

 物事を体系的に理解すること。論文試験を課す最大のねらいは、実は君たちの学習態度そのものを変えることにある。大切なのは「ロジック」であって「用語」ではない。

2.
およそ、あることが「わかる」とは、他人にわかりやすく説明ができて初めて実感できることである。論文試験を課すことによって、本当に理解してほしいことをちゃんと理解しているかどうか判断できる。およそ、1年間の学習を通して、本当に理解してほしいことは二つか三つくらいしかない。

 もし、その肝心なところが理解されていない場合は、零点をつける。かつて、「ケインズは自由放任主義を主張した。」と一行目に書いてある答案に出会った。もちろん迷うことなく零点をつけた。「普通」の試験なら、せいぜい2点か3点減点されるだけかもしれない。しかし、この間違いは、許すことが出来ない根本的な間違いである。

 私が1時間の授業で何を伝えたかったのか、そのメッセージを必死になってつかみとってほしい。どうでもよい些細な情報と、物事の「本質」をかぎ分ける嗅覚を持つことが大切である。

3.
君たちに論文を課すもう一つの理由は、自分の頭でよく考えてほしいからである。論文試験でちゃんと書こうと思ったら、自分の頭でよく考えて本当に「納得」していないと書けない。

 アインシュタインはかつて、「学校で習ったことをすべて忘れた後に初めて本当の教育の効果があらわれる」と言った。今、私が授業でしゃべっていることのうち、君たちは10年後にどれだけ覚えているのだろうか。たぶん自分の頭で真剣に考えたことくらいかもしれない。
 




(1) テスト対策は次のことを参考にしてください。


@ 予想問題を 3つか4つ作成し、自分なりに解答例を書いてみること。予想を当てるのも実力のうちです(笑)。 

A 論文の書き方についてはホームペー ジ の「小論文講座」を参考のこと。 

B 答案用紙は真っ白の紙に横線を引いてあるだけです。勉強していなければ1行も書けません


(2) 採点基準は、次の通りです。

@ 分量

A 基本的知識の理解・論理性

B 授業で強調した一番大切なところが間違っていれば、遠慮なく零点を付けます。何が一番大切なことか。そこ だけは絶対に間違わないこと。

 
                           


(3) 最近出題した試験問題

  

(法学・政治学の分野)

問1
市民革命の意義について論ぜよ。

問2
国家権力の暴走を防ぐために、今日どのような「仕掛け」が制度として組み込まれているか、4つあげよ。(コメント) 基本問題です。

問3
社会契約説
とは何か説明せよ。

問4
そもそも憲法とは何か。また、18世紀、19世紀の憲法を「近代憲法」、20世紀の憲法を「現代憲法」と呼ぶならば、両者の間にはどのような違いがあるか説明せよ。(コメント) 基本問題です。


問5
人権保障の歴史について知るところを述べよ。(コメント) 基本問題です。

問6
日本国 憲法全体の構成と目的についてふれつつ、日本国憲法を明治憲法と比較しながら論ぜよ。

問7
以下の設問に答えよ。

(1)日本国憲法第99条では「天皇または摂政および国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあり、憲法尊重擁護の義務を負う人のリストから「国民」が除外されている。その理由を憲法の性質を明らかにしながら論ぜよ。

(2)最近「日本国憲法は権利ばかりで義務規定が少ない」と批判されることがある。このような意見に対して(1)の立場からどのような反論が可能か。
 

問8
次に掲げる3つのことを説明せよ。

(1) 第二次世界大戦の原因

(2)日本国憲法における平和主義

(3)自衛隊の創設と国際貢献について


問9
新しい人権について説明せよ。

問10
「自由」に関する次のビートたけしの文章(産経新聞、1994年7月3日付、省略)を読んで、「人間はどこまで自由でありうるか」というテーマで、公共の福祉とも関連させながら論ぜよ。

問11
「55年体制」の成立と崩壊について知るところを述べよ。(コメント) 日本の政治を理解するための基本問題です。

問12
市民革命以降選挙権が次第に拡大し、今日の社会は『民主主義社会』あるいは『大衆社会』とよばれる社会になった。しかし、そのような社会における国民の意思決定が、必ずしも妥当なものになる保障はない。民主主義の持つ『危うさ』について、過去の事例や現代の日本における経済政策などとも関連づけながら論ぜよ。                  


(注)法の支配、憲法の役割
等々、ここでも同じようなテーマばかりです。
 現代の教育は「枝葉を教えて幹を教えず」とも言われます。
「中学校で憲法を暗記させるのは、国民に守らせるためだと思っていた。」と答えた生徒がいて唖然としたことがあ ります。
皆さんはそんな生徒にならないで下さいね。

 



(国際政治の分野)

問1
勢力均衡政策の原理について説明し、あわせてその有効性について歴史的事実に基づいて考察せよ。

問2
集団安全保障体制の原理について説明し、あわせてその有効性について具体例をあげながら現実に即して述べよ。

問3
ウエストファリア条約によって主権国家が誕生して以来今日に至るまで、人間は戦争を回避するための方法としてどのような工夫をしてきたか、2つあげよ。また、それぞれの方法がどのような欠点を持っているかについても具体例をあげながらあわせて考察せよ。

問4
20世紀とはどのような時代であったか。19世紀以降の動向を踏まえたうえで、あなた自身の考えを書きなさい。(オール持ちこみ可) (1999年1学期末考査問題で、ついにやりましたオール持ちこみ可。でも、持ちこんでも持ちこまなくても同じ、の声しきり!?)

問5
次のA B 二つの考え方の是非を検討せよ。

A  戦争防止のためには、相手国に負けないだけの軍事力を持つことが必要である。したがって、相手国が核を保有すれば、自国も核を保有することが戦争を防止する有効な手段となる。

B 永久平和を実現するためには、すべての国が軍備を放棄し、世界政府を作るべきである。

 問6
次の中から1問を選択し答えよ。

1,パレスチナ問題の原因・経過・現状について述べ、あわせて今後の中東和平への道筋について考察せよ。

2,冷戦構造の形成・展開、及び冷戦終了後の国際政治について知るところを述べよ。

3,第二次世界大戦後の大半は、冷戦の時代であった。とりわけアジアは危険に満ち、冷戦は2度の熱戦となった。そうした中で日本は戦後50年間平和であり続けた。戦後の国際政治をふりかえりながら、日本が平和を維持できた理由について考察せよ。




(経済学の分野)



問1 18世紀に誕生した資本主義は、その後さまざまな弊害を呈するようになった。資本主義の弊害とは何か。 また、それらを取り除くために19世紀から20世紀にかけてどのような工夫・システムの考案がなされたか論ぜよ。(コメント) これは基本中の基本問題です。

(類題
A,スミス以降、現代にいたるまでの財政政策の役割の変遷について説明せよ。

(類題)
ソ連が崩壊したとはいえ、20世紀に最大の影響を与えた思想家の一人はまぎれもなくマルクスである。マルクス思想の歴史的意義について考察せよ。

(類題)
スミス、マルクス、ケインズ
の3人の経済学者が、それぞれどのような社会問題に直面し、それをどのように解決しようとしたか述べよ。

(類題)
20世紀は、資本主義と社会主義のいずれの社会体制が人々をより幸せにできるかという、壮大な人体実験の世紀であったとも言える。諸君はこの1年間の授業を通してどのようなことを考えたか。「資本主義対社会主義」というテーマで自由に論ぜよ。


問2 資本主義経済において、市場が果たしている役割とその限界について論ぜよ。(コメント) これも基本中の基本問題です。

 

問3 ケインズの有効需要の原理を用いて、資本主義経済において景気変動が発生するメカニズムを明らにせよ。また、不景気に陥った場合、政府にはどのような経済政策を採ることが期待されるか。その波及プロセスを含めて説明せよ。(コメント) これも基本中の基本問題です。

(類題)
ケインズの有効需要管理政策について説明し、さらにケインズ政策が今日どのような問題を引き起こしているか検討せよ。

(類題)
資本主義社会における『小さな政府』及び『大きな政府』のそれぞれの長所・短所について考察し、政府と民間経済活動の関わり方について、具体例をあげながら自由に論ぜよ。

(類題)
下記の5つの語句または人名をすべて用いて自由に論ぜよ。

 
財政政策の役割の変遷、有効需要管理政策、公債残高の累増問題、ケインズ政策と民主主義、フリードマン


(類題)
「政治経済」という学問をやる上で「教科書という書物」から学ぶことも大切だが、「世間という書物」から学ぶことはもっと大切である。このことを念頭において「小さな政府か、大きな政府か」というテーマで自由に論ぜよ。


(類題
アベノミクスについて知るところを述べよ。

 問4
下記の景気変動のグラフ(省略)を参考にしながら、戦後日本経済を以下の 5期に分け それぞれの時期の特徴を簡潔に説明せよ。

第T期 1945年〜1954年
第U期 1955年〜1973年
第V期 1974年〜1984年
第W期 1985年〜1990年
第X期 1991年〜 現在

 

問5
規制緩和の『功罪』
について論ぜよ。

 


その他の問題

問1
1年間の政経の授業を聞き、あなた自身「ハッ」と驚きをもって聞いた授業があれば、その内容と理由を記せ。またそのことに関するあなた自身の考えを述べよ。

問2
1年間の授業を聞いて、どのようなことを考えたか。自分自身で問題を設定し、それに答えよ。なお、採点は。テーマの設定の仕方、論理性、視点の斬新性・独創性、などを総合的に評価する。

問3
学問の最終目標は、身につけた知識を日常生活に生かすことである。この1年間の授業を聞いて、「政治経済」という学問が現実にいかに役立ちうるのか、あるいは役に立ち得ないのか。「政治経済」を学んだ意義も含めて自由に論ぜよ。




ここでも毎年同じようなテーマですね(笑)。
結局、経済学というのは、その当時発生している社会問題に対して、政府が解決のためにどこまで介入するかということを考える学問なのです。政府の介入の度合いが一番小さいのがスミス、一番大きいのがマルクス、その中間がケインズと言えます。


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