首相の解散権 (2017年8月9日)

 
 
 憲法が定める衆議院の解散方法には2通りある。7条解散69条解散である。7条解散は、「内閣の助言と承認」によって天皇の国事行為として解散するものである。これに対して69条解散は、衆議院で「内閣不信任決議」が可決され、その結果、内閣が解散を選択するものである。通常は7条解散が一般的であり、69条解散は戦後4回しか行われていない。

 しかし、考えてみれば7条解散とは「変な」解散方式である。内閣総理大臣が、与党にとって一番有利な時期を見計らって解散を選択できるのである。こうした解散方式は憲法違反ではないかとして、1952年、衆議院議員苫米地義三が解散の無効を主張し歳費請求訴訟を提起した。しかし、最高裁判所は統治行為論を採用し、高度に政治性のある国家行為については裁判所の審査権の外にあるとして、上告を棄却した(苫米地事件)。そして、これ以降は7条解散が一般的となり定着した。

 首相の解散権について、例えばドイツの場合、首相には任意の時期に解散を命じる解散権は認められていない。どうしても議会を解散したい場合には、自分の党の議員に命じて、わざと議会に内閣不信任決議を可決させる。議会が内閣不信任決議を可決しない限り、首相は議会を解散することができない仕組みになっている。

 イギリスも同様である。2010年までイギリスの首相は日本と同じように解散権を持っていた。しかし、2010年に「議会任期固定法」が成立し、これによって任期満了まで解散できないことになった。今はイギリスの首相は解散権を持っていないのである。どうしても下院を解散したい場合には、下院の3分の2以上の多数の賛成を得るという高いハードルを越えなければならない。与党だけではなく議会の多数が賛成した場合のみ、解散・総選挙が実施されるのである。

 一方、日本では「解散は首相の専権事項」「解散時期について首相は嘘をついてもよい」などと言われる。首相は解散権を「脅し」としてちらつかせることによってリーダーシップを発揮する。「俺の言うことを聞かなければ、お前たちをクビにするぞ」(笑)。誰だって解散は嫌だ。金もかかれば落選する恐れもある。だから、首相の言うことに従う。

しかし、国民によって選ばれた国会議員を、政局の都合で首相が自由に解散できるとする現在の憲法解釈は、首相の権限(=行政権)をいたずらに強化するものであり、好ましいとはいえない。7条解散に一定の歯止めをかけるべきである。


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