小論文の書き方

 小論文を書くことは決してやさしくはない。しかし、論文の書き方の基本をマスターすれば恐れるには当たらない。 さあ、以下の基本事項をマスターし、どんどん文章を書いてみよう。

【1】 出題の形式


 入試論文で一番多いのは、一問の指定字数が800字、制限時間が80分の タイプである。ほかに、600字60分や1000字100分などのタイプもよく出題されている。  また出題形式は、大別すると次の3通りに分類できる。
タイプ1
「〜について述べよ」  という型。
 これは論文の一番基本的な出題形式である。この形式の出題はほとんど学力検査に近いといってよい。受験生の論理的思考力・独創性・人間性など総合的な学力が試される。

タイプ2
「次の文章を読み、筆者の主張を要約し, それに対するあなたの考えを述べよ」という型。
 これは入試論文で一番多く出題されるタイプである。 課題文を的確に読み取れるか。また、それに対する自分の考えを論理的かつ明快に表現できるかが問われる。

大学教育に耐えうる力を持っているかどうかを診断するには格好の形式といってよい。 特に要約は「正解」が存在し,受験生の得点差がつきやすい。

 要約は、筆者の主張の核を探す作業で,通常は本文中に主張の核となる一文を入れてくれるのが常識である。
 しかし、それでは受験生がみんな満点を取ってしまうので,入試問題は意図的にピッタリくる一文が入っていない「悪文」の見本?のような分かりにくい課題文を出すことが多い。

 そのような場合は、「一言にまとめれば何が言いたいか」を「自分の言葉」で表現する能力が必要不可欠となる。


タイプ3
 「データを与えて、それをもとに考察せよ」という型。
  データとしては、表・グラフ・漫画などが使われることが多い。大学生になると、さまざまな実験や調査結果からどのようなことが推論できるかを求められることが多い。 このタイプの出題は受験生のそのような能力を見ようとするものである。


【2】論文の基本的な構成(800字の場合)
 論文は一般的に次のような「序論・本論・結論」の構成で書くとよい。ほかにもいろいろ書き方はあるが、とりあえず一番基本となるこの構成をマスターしよう。 なお、「起承転結」型は漢文の発想で、論文の構成には使ってはならない。

序論
 問題の所在を疑問文の形で提示する。(5%〜30%、240字)
 今なぜこの問題を論じる必要があるのか、あるいは論じたくなったのか、などを書いてもよい。学者の書く本格的な論文は、ここで従来の考え方・研究のサーベイをする。

本論
 自分の主張を述べ、それが正しいと考える根拠や理由を述べる。(60%〜80%、480字)
第一に・・・・・ 
第二に・・・・・ 
第三に・・・・・ 

結論
 以上の理由によって、私は 〜 と考える。(10%、80字)
論文とは主張とその証明のある文章である。自分の言いたいことは明示的にストレートに書くこと。


【3】論文作成の手順

 試験問題が与えられたとき、いきなり答案を書き出す人がいる。しかしこのような書き方では、残念ながら不合格になることはほぼ間違いない。建物を建てるとき、綿密な設計図が要るのと同じように、 論文を作成する場合も、書きはじめる前に全体の構成(設計図=フローチャート)をきちんと考えておくことが、非常に重要なのだ。

大雑把な目安として、この「全体の構成」を考えるのに、制限時間の1/4から1/3を使いたい。この作成要領は、以下の通りである。

(1)思いつくままにメモ書きをする。
その際、考えを深めるヒントとして

1.
データ(統計、実験、世論調査等)
2.論理
3.歴史的に考える
4.外国の例
5.新聞記事
6.自己の体験
7.極端な例を想定する

など5W1Hを基本に考える。
次に、そこからどんなことを論じようか、自問自答する。論文とは自問自答のプロセスでもある。

(2)結論を決定し短い文章でまとめ、次に全体の構成を考える
(序論・本論・結論および字数割り当て)

 あれもこれも書いてはいけない。 結論を導くのに必要最小限のことだけを書き、あとは捨てる。 捨てたものが多いほどすっきりした論文が出来上がる。

 論文は数学の証明または自然科学の証明と同じで、論理的に書くことがいちばん重要である。なお、この時大風呂敷を広げてはいけない。 自分の力で料理できるテーマに絞り込むこと。

 また「あなたの意見を述べよ」と言われた場合、多少のリスクを伴うができればオリジナリティを出すこと。 誰でもが考え付くようなことを書いても合格答案にはなりにくい。 ただし、結論がありふれたものであっても、論証の材料に「おや」と思わせるものがあれば高得点がつく。
 

書き始める前のこの「設計図(=フローチャート)」の段階で論文の善し悪しのほぼ9割は決まってしまうといってよい! (ここまでで制限時間の4分の1〜3分の1を使う

(3)書き始める。

 下書きは時間の無駄である。いきなり清書をする。 この時、最初の設計図通りに書くこと。書いている途中でどんないいことを思いついても書かない!全体のバランス・論理が崩れてしまう。

 また、一度書き始めたら絶対に立ち止まらないこと。 筆が止まって再び書き始めると、論理の飛躍が起きる可能性が高い。書いている途中で立ち止まらないように、最初の設計図の段階でしっかりと全体像を作っておくこと。  


【4】書く際の諸注意

1.ていねいな字で書くこと。
(今まで、字のきたない人で論文試験に合格した人はいない)。誤字・脱字は印象を悪くする。

2.書き出しを工夫する。
 1行目はお見合いの第一印象と同じ。間違ったことを書くと致命傷! また、「題」をそっくり疑問形にしたものも不可。工夫が必要である。読んでみようか、と思わせる文章がよい。

3.one sentence の長さは50字以内が原則。
 特に文章を書くことが苦手な人は、必ずこの原則を守ること。長い文章はどうしても「ねじれ」が生じやすい。短く、きびきびした文章を書きたい。

4.S・Vの関係をはっきり書く。
 主語のない文を書かないこと。日本語は主語を明確にしなくていい言語だが、論文では「誰が(何が)」が非常に重要なので、省いてはならない。

5.語尾の文体は「〜である」調に統一する。

6.キーワード・専門用語・年号・引用などの有効活用。
 これらを随所に配置すれば、実力がより効果的にアピールできる。 また、あやふやな知識は書かないこと。

7.400字以下の場合は、段落分けをする必要はない。

8.事実によって語らせること。余分な形容詞や副詞・修飾語は一切不要である。

9.出題意図を見抜くこと
 特に学部が異なると要求される内容もまったく違う。たとえば「自由について述べよ」という問題が出されたとする。

法学部の場合は、「国家からの自由」や「他人の自由を侵さないかぎりでの自由」が問題になる。

◆経済学部の場合
は、「自由放任政策とその修正」という大きな流れが問題となる。

文学部の場合は厳密な意味での「精神的な自由」が問題となる。 仮にある人が、自分では物事を自由に考えている、と思っていても、もし常識にとらわれていたり、科学というものを絶対視しておれば、その人は自らを縛っていることになる。 文学部の小論文における「自由」は、「常識」の枠にもとらわれない徹底した自由が要求される。

10.体言止めは使わない。

11.指示語(それ、前者・後者など)はなるべく使わない。

12.自分でも理解できない難しいことを書こうとしない。
 カッコウをつけてもすぐバレる。無理な「背伸び」はせず、自分の文章でわかりやすく書こう。



【5】小論文の評価基準 

小論文の採点は、3名で行なわれることが多い。たとえば群馬大学の採点基準は次の通りである。
A.80〜100点
B.70〜79点
C.60〜69点
D.50〜59点
E.50点未満  

 評価は、下の基準で3名の評価班によって行なわれ、3名の採点に大きな違い(20点以上の差)のある場合を除いて、3名の評価の平均が採られる。

(例) 群馬大学の具体的評価基準

◎表題に対する解答の的確性・内容性
(20%)
 問題文の趣旨が分からずに、全く見当違いの解答は大幅に減点される=D以下。

◎文章の論理性(30%) 
 論理の展開が明確で、文章の構成(主語・述語の使い方等)が優れ、 何を主張しようとしているのか、ハッキリしているものがよい

◎創造性(40%) 
 出題文に引きずられての解答はB以下の得点。主張のユニークさ、場合によっては「奇想天外」「意外性」の発想が高得点につながる。

◎誤字・脱字について(10%)
 B・C段階では5点前後の減点。採点者によって異なるが、一般に高得点者には見られない。



(例)早稲田大学文学部 冨田正利教授談
 最も望ましい答案は、高校時代の自分の体験がにじみでてくる文章です。抽象的で個性に乏しい答案は、中間点以上にはなりません。しかし、受験生の小論文対策が進んだためか、最近はそうした個性なき答案がふえる傾向にあります」。 「いわゆる小論文指導というものは、技術面のみが先行していると思います

 しかし技術面の偏重は、個性のない紋切り型の文章の習熟に終始してしまい、結局は低い評価しか受けません。 むしろ高校生活の中で、クラブ活動や交友、師弟の交わりなどを通じて豊かな感性、柔軟な思考力を磨くことによって、 借り物でない自分の視点や考え方を持つことが、早大文学部のみならず、小論文試験で高い評価を受ける早道と考えて下さい」。


(例)京都大学経済学部 尾崎芳治教授の談話を要約
 「論文試験で独創性のある人を採りたい。受験勉強で伸び切った人はいらない。いわゆる普通の試験で「秀才型」の学生を集めることはできる。 しかし秀才型ではなくとも、膨大な本を読み、荒削りでもよいから "Original" な考え方のできる学生も採りたい

普通の試験では拾えなかったそういった人材を、論文試験を課すことによって全国の受験生(約50万人)から20人でも30人でもすくえればよい。」


【6】日頃から心がけておくこと

 論文なんて作文と同じで、何か書けば点をもらえるだろう、なんて思ったらとんでもない間違いである。 この点を誤解している受験生が意外に多い。では、日頃から何を心がければよいのか?

1.過去問を分析して出題傾向を調べる。いくつか予想問題を作っておき準備しておくのも一つの手である。

2.受験する学部・学科に関する本(岩波新書など)を読んでおく。書く力は読んだ本の量に比例する。 志望学部に関連した岩波新書レベルの本を、少なくとも10冊程度は読んでおきたい。無から有は絶対に生じない。

3.新聞などで関連する事項があればコピーをとっておく。に投書欄は他人の考え方を知るのによい。社説は無理をして読むことはない。

4.友達や先生をつかまえて、出題されそうなテーマについて議論をする

5.書いた小論文を先生に添削してもらう

.自分から問題を探しにいく。大切なのは「与えられた問題を解くこと」ではなく「自ら問題を発見する力」。他人に問題を出してもらって、それを解いてばかりいても本当に考える力はつかない。大学側が、論文試験でとりたがっている人間とは常識を疑うほどの好奇心を持った人間である。

7.いろいろな経験をすること

8.時には、あえて「ひねくれた」モノの見方をしてみる。


 いずれにしろ、試験問題をみてその場で考えてもいい答案は書けない。 早めに自分の志望学部・学科の出題傾向を分析して、事前に書くべき論文(=得意ネタ)を準備しておこう。 もちろん、そのものズバリ出るということはありえない。しかし、基本的な「知識」のストックがなければ何も書けないことだけは確かである。




【7】小論文が苦手な人へ

 小論文が苦手だという人に共通しているのは、以下の4点である。 もし、原稿用紙を前にして、何を書いたらよいか思いつかないという人がいたら、次の項目のどれに原因があるのかチェックしてみよう。

小論文が書けない原因

1.心の底から「訴えたいという気持ち」が欠けている。

2.書くべき内容に関する基本的知識がない。

3.物事を因果関係で考える習慣が身についていない。

4.論文にまとめる技術や日本語の表現力が不足している。


(1)心の底から「訴えたいという気持ち」をもつ。
 
 論文を書くうえで一番大切なことは、読者に何かを訴えたいという「気持ち」である。 「みなさん、聞いてくださーい。私はこんなふうに考えます」という気持ちが論文を書く際のエネルギーとなる。 この気持ちが心のなかに十分高まっていないと、いくら原稿用紙とにらめっこしていても論文は書けない。

 与えられたテーマを自分の身におきかえてみること。 「ゴミ問題」だったら、自分の家の前に不法投棄された高さ10メートルのゴミの山があり、 風が吹くたびにほこりが飛んできて洗濯物を汚す光景を想像することである。

 また、「脳死問題」だったら、自分の親が脳死になって、動いている心臓を取り出す光景を頭に思い描いてみることである。 このように、与えられたテーマを自分の身におきかえることによって、「訴えたいという気持ち」が生まれてくることが多い。

 一般に、社会科学系の小論文では、現状に対する問題の指摘をし、改善して理想に近づけるというパターンをとる事が多い。   


(2)基本的知識を日頃から収集しておく

 無から有は生じない。テーマが与えられたら、指定された字数の少なくとも十倍は書けるだけの知識を持っていることが必要である。 800字でまとめよと言われたら、少なくとも8000字程度は書けなくてはいけない。

 答案用紙で書くのは、自分が知っている知識の1割程度、 まさに氷山の一角と心得ておいてほしい。そして、答案をまとめる際に大切なことは、知っていることをすべて浅く広く書くのではなく、 一つのテーマに絞り込んで、深く書くことである

 一般に受験生は、自分が知っている知識をすべて書くことが良い答案の条件であると勘違いをしている。 例えば「地球環境問題について800字以内で論ぜよ」とあったら、地球温暖化・オゾン層の破壊・酸性雨・熱帯雨林の消滅など、すべてを盛りこみ、 いかにも自分がたくさん知っていることをアピールしたがる傾向がある。

 しかし、これは間違いである。 800字ですべてを盛り込むなど土台無理な話である。いい答案とは知識の量ではなく、分析の鋭さを感じさせる答案といってよい。そのためには、ひとつのテーマに絞り、深く書くことである。

 800字のなかで、あれもこれも盛り込んでも決して感動を与える答案にはならない。ひとつの小さなテーマに絞り込み、深く書く。 もし分析の鋭さが十分に示されていれば、たとえ答案に書かれていなくても、採点者は受験生が本当はどのくらいの知識量を持っているのかを 感じ取ってくれるものである。知っていても書かない。その奥床しさがいい答案にしあげる秘訣といってよい

 
また、「いろいろ」とか「さまざまな」とかいうごまかした表現もなるべく避けたい。基本的知識が不足している答案とみなされるからである。 本当にわかっていたら、具体例をあげられるはずである。

 同様に、抽象語ばかりを書き並べた答案も避けたい。 抽象語を具体的事例に置き換える力がないといい答案にはならないことも知っておいてほしい。


(3)物事を因果関係で考える。
 
 多くの場合、社会現象には因果関係がある。子どもの数が減れば、相対的に老人の数が増加し、その結果、年金や医療保険が破綻の危機に 瀕するかもしれない。また、公定歩合を引き下げれば、金回りがよくなって、景気が回復し、さらに行きすぎるとバブルが発生するかもしれない。

  このように、社会現象はさまざまな事柄が影響しあっている。したがって、物事を考える際には、ある事象が、何が原因で生じているかを常に意識することである。 大切なのはロジックであって、用語を暗記することではない。すなわち、原因をx、結果をyとすると、y=f(x)で考える癖をつけることである。
  
 とくに理科系の論文では、データを見て、そこに因果関係を発見し、 それをy=f(x)に結びつけることができれば、それで十分合格答案である。書き方そのものはそれほど重要ではない。


(4)論文にまとめる技術や日本語表現力を養う。


 まず第一に、言いたいことをはっきりさせることである。そのためには「結論を短い文に書いてみる」ことを勧める。 その際、訴えたいことは一つにすべきである。おもしろい話でも、一つだけなら心にしみるが、いくつも聞かされれば印象に残らない。

全体を読み終わって、結局何を言いたいのかよくわからない答案は絶対に書いてはならない。たとえば資料文が与えられた場合、最初に著者の見解をしっかり読み取り、その上で、著者「賛成「反対か自己の立場を明らかにする。賛成の場合は、著者と同じ理由では論文にならないから、著者とは違う理由をあげる。

第二に、論文の構成も大切である。とくに序論における問題提示と、結論の答えの部分の対応が一致していないと意味不明の答案になる。 序論・本論・結論の各パートがそれぞれの役割をはたしていることが求められる。

第三に、わかりやすい日本語表現を心がける。論文における最良の日本語とは、一読して意味がわかり、 しかも100人が読んでも一通りにしか解釈できない日本語である。あいまいな文学的表現は避けたい。




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