憲法記念日に寄せて (2017年5月6日)
5月3日の毎日新聞に、天王寺高校における私の授業が紹介された。
ちょうど、絶対王政から市民革命を経て憲法が誕生するあたりの授業だったので、タイミング的には非常に良かった。
1.憲法は人民を入れておく檻ではなく、政府を入れておく檻
授業では、憲法は国家権力の暴走を防ぐために作られたもので、人民を入れておく檻ではなく、政府を入れておく檻であることを強調した。国家権力を憲法で制限する考え方を「立憲主義」という。
法学部出身の人にとってこんなことは常識である。しかし、このことをきちんと理解している生徒は今も少ない。この20年間、日本の憲法理解はほとんど進んでいないといってよい。
2.安倍政権、檻からはみ出す?
2015年6月4日、安保関連法案に含まれる「集団的自衛権の行使」について衆議院で意見を求められた長谷部恭男(早稲田大学)、小林節(慶応大学)、笹田栄司(早稲田大学)の各氏は、いずれも安保関連法案は憲法違反だと断じた。しかし、それにもかかわらず安倍総理は、憲法解釈を変更して違憲ではないと押し通し、安保関連法案を可決成立させてしまった。
「法律ができたからといってすぐに動くのはまずい」と思ったかどうかは知らないが、あれから2年がたち、安保関連法がそろりそろりと躍動し始めた。
(毎日新聞2017年5月3日)
3.安倍一強の元凶は小選挙区制
新聞に掲載された反響は大きかった。大阪をはじめ、金沢、富山、岡山など、多くの知人から新聞を見たという連絡を受けた。
その中にこんな意見が寄せられた。
「日本の三権分立はすでにアンバランスだと思っているんです。監視はできるが、制御できないですよね。」(岡山県 Oさん 女性)
なかなか鋭い指摘である。
現在の日本は行政権と立法権が一体化しており、三権分立ではなく二権分立である。行政の長たる総理大臣が「私は立法府の長でもあります」なんて、国会で堂々と言う時代である。
その根本をたどれば、1994年に衆議院に小選挙区制が導入されたlことにある。総理大臣が党の公認候補を決定する権力を握ってしまい、安倍チルドレンが大量に生まれてしまった。
誰もが総理の顔色を窺う「ヒラメ政治家」ばかりが増えてしまい、かつてのような自由闊達な議論が党内で行なわれなくなっている。安倍一強の元凶は小選挙区制であるといってよい。それに民主党のふがいなさが加わって、現在の状況が生まれた。
やがて、最高裁判所長官を総理大臣が指名できる憲法の規定を使って、司法もまた行政に屈する日が来るかもしれない。その兆しはすでにある。そうなったら、日本の針路は危うい。
三権分立が機能しなくなったら、国民は悲惨な目に遭う。民主主義的に選ばれたリーダーが、民主主義を擁護するとは限らない。ヒトラーはそのことを我々に教えてくれた。第二のヒトラーが出ないように、デモ、集会、表現の自由など許されるあらゆる方法を使って権力を監視しなければならない。
多くの国民は目先の経済状況にしか関心を示さない。その間に、少しずつレールのポイントが切り替わるように、日本は戦後70年かけて作ってきたものを破壊する方向に進んでいる。
民主主義を生かすのも多数決なら、民主主義を殺すのも多数決である。
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