憲法9条を考える (2017年5月10日)


 安倍首相は2020年に改正憲法を施行したいと表明し、憲法改正に向け動き出した。2016年7月に行なわれた参議院では憲法改正には全く触れず、ひたすら「アベノミクス」を加速させることで国民の支持を得た安倍首相。それから1年。いよいよ予想通りの展開となってきた。


1.自衛隊は憲法に違反するか?

 憲法第9条第2項には「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と定めている。安倍首相は、「憲法学者の7割から8割は自衛隊は憲法9条に違反すると考えている」と述べたが、自衛隊が違憲であるというのは学会の通説である。

一般に、法の解釈には「通説」「少数説」「判例」の3つがあるが、これまで裁判所が自衛隊を合憲だとした判決は一例もない。当然であろう。24万人の自衛隊員と、世界第8位にあたる年間5兆円の国防予算を使っている自衛隊を「戦力」にあたらないとするのはどう見ても無理がある。

 しかし、政治家は学者と違って、現実の日本の安全保障に責任を持たねばならない。だから、何とか解釈を「工夫」して自衛隊は合憲であると言い張ってきた。実際、自衛隊は多くの国民に支持されている。



2.改憲プラン

 自民党は1955年の結党以来、憲法改正を党是としてきた。しかし、これまで衆参両院で憲法改正発議に必要な総議席の3分の2を獲得することができなかった。ところがここにきて、自民・公明・維新の会などを合わせると、ゆうに3分の2を超える状況が生まれた。

安倍総理としてはこの際、「おじいちゃんが果たせなかった夢を実現し、憲法を変えた男として「教科書に名前を残したい」ところであろう。ちょうどうまい具合に、中国の海洋進出や北朝鮮の核開発など、日本の安全保障に対する国民の意識も高まっている。

 では、具体的にはどうするのか?
2012年に作られた自民党の憲法改正草案では、9条第2項にある「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」を削除し、新たに「国防軍」を創設するとしている。

一方、安倍総理が今回提案したのは、9条2項をそのまま残し、第3項として「自衛隊」を明記する案である。これなら国民の支持を得やすいと考えたのだろう。しかも、大学教育の無償化と抱き合わせでやるというから驚きだ。無知蒙昧な国民に大学教育の無償化というアメを与えれば、憲法改正票が増えるとでも思っているのかもしれない。

また、行政府の長たる総理大臣が、立法府の意向を飛び越えていきなり具体案を出すというのも問題である。これでは行政府が立法府を牛耳っていると批判されても仕方がない。国民も国会もずいぶん馬鹿にされたものである。



3.あと30年はいまのままでよい

 自衛隊と憲法9条が矛盾し、自衛隊が日陰の存在であるというのはわかる。いつまでも、外に向かっては「軍隊」だといい、うちに向かっては「軍隊ではない」と主張することの苦しさもわかる。いつかはこうした矛盾と向き合わねばならないだろう。

しかし、その時期が今だとは思えない。第一段階として自衛隊の存在を憲法に書き込めば、第二段階として憲法第9条第2項「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」を削除するのは目に見えている。両者は矛盾するからだ。

そして、第三段階、第四段階と次々に憲法が修正されていき、最終的には明治憲法のような天皇制国家にまた逆戻りする可能性を否定しえない。

たしかに今の憲法第9条はほとんど死んでいる。しかし、まだ死に切ってはいない。9条の歯止めがあるからこそ、戦後70年、日本は戦争に巻き込まれずにここまでやってこれた。世界平和に関して日本は主役になる必要はない。脇役で十分である。武力以外にも国際貢献できる方法はいくらでもある

戦後70年たったとはいえ、アジア諸国の受けた傷はまだ癒えていない。あの優秀な日本軍を再び見たいと思っているとは思えない。自衛隊と米軍の一体化は、日本の国益のためというよりは米国の国益のためではないか。

せめてあと30年、今の憲法を100年間堅持し、日本が本当に平和を愛する国民であることを世界に納得してもらってからでも憲法改正は遅くはない。



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