人口減少社会を考える (2017年8月13日)

 
 まずは、下のグラフをご覧いただこう。日本の人口の長期的推移である。関ケ原の合戦が行なわれていたころ、日本の人口は1200万人だった。そして1720年頃、3000万人に達した。江戸時代には享保・寛政・天保の改革が行なわれたが、いずれも人口増加が止まった時期である。人口3000万人は明治まで続く。第二次世界大戦直後7200万人からまた増え続け、2008年には1億2800万人のピークを迎える。




 日本が抱えている最大の課題は人口問題である。日本は2008年から人口減少期に入った。人口減少はこれから20〜30年変わらない。人口が少なくなれば通勤電車が満員でなくなるという議論があるが、そんなことはない。本数を減らして満員状態はやっぱり変わらない。人口減少によって日本にはどのような変化が起きるかを考えてみた。


1.経済成長率は低下する。

 長期的な経済成長率は、財政や金融による有効需要管理政策では操作できない。長期的な経済成長率に影響を与えるのは、人口、技術進歩、労働生産性の3つである。

経済成長率=F(人口、技術進歩、労働生産性)

 したがって、人口が増えることは経済成長の最大の要因である。人口が増えると家を買わなければいけない。電化製品を買わなければならない。家具を買わなければならない。だから経済は成長する。これから人口が減る。2050年に9000万人にまで減る。しかし、日本の政治家はだれもそのことに言及しない。

とはいっても、これからもしばらくの間GDPは増える。なぜなら、高齢者が医者に行ってもGDPは増えるからである。ただし、GDPが増えることと豊かさは一致しなくなる。


2.地価が下がる

 人口が減ると住宅需要も減る。住宅需要が減れば地価も下がる。特に地方の地価が下がる。これから貿易自由化が進むから、日本の農村人口はますます減少する。田舎ではすでに買い手のつかない空き家が続出し問題となっている。

買い手のつかない不動産は負動産だといわれる。持っているだけで固定資産税や管理費がかかるからである。それでも昔は持っていれば値上がりが期待できた。だから買い手がついた。しかし、この先値下がりが予想される不動産は、負動産以外の何物でもない。

ただし、地価が下がるとはいっても、地域によってさまざまなバリエーションがある。地方でも、県庁所在地は比較的堅調に推移する。また、都市部では都心は上昇するが郊外は下落する。とくに、郊外の4LDKといった比較的大きな家が値崩れする。高度経済成長期にたくさんのニュータウンが建設され、緑多い一戸建て住宅に住むことはステイタスシンボルでもあった。しかし、今そうした需要は少ない。老人はみな郊外の家を手放し都心に回帰している。

いま日本には、1400兆円の金融資産と1000兆円の実物資産(主にマイホーム)がある。人口特殊出生率が1.3ということは家の需要がなくなり、実物資産としての価値も下がっていく。1000兆円からどんどん小さくなる。しかも、地震のリスクなども考えて、家にとらわれない若い人も増えている。


3.財政危機のリスクが高まる

 団塊の世代が退職を始めた。退職後は預金を取り崩して老後を過ごすことになる。その結果、日本の預金が減少する。われわれが銀行に預金しなくなると銀行は国債を買う余力がなくなり、政府は国債をファイナンスできなくなる。

政府はしきりと財政再建を口にするが、それが実現不可能なことは政治家自身一番よくわかっている。ただしそれを口にすると選挙で落選するから、本当のことを言わないだけである。民主主義は自己破壊的である。国民はいいことを言う政治家しか選ばない。財政再建はもう手遅れというしかない。


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物事には長期と短期がある。毎日の生活に追われてつい近視眼的になるが、時にはゆっくりと長期の視点で物事を考えてみることも必要ではないだろうか。



 

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