経済さえよければ国民は支持する (2017年6月6日)

 

 第二次安倍内閣が誕生したのが2012年末。それから4年半が経過した。アベノミクスなどというかっこいい名前で行われてきた経済政策は、日本に何をもたらしたのか。私見を述べてみたい。



1.アベノミクスとは何か?

 アベノミクスとは「abe内閣のeconomics」という意味の造語であり、次の3つをいう。

  1.金融緩和 (日本に出回るお金の量を増やす政策)
  2.財政政策 (国は借金をしてでも公共事業を増やす政策)
  3.成長戦略 (民間投資を増やす政策)

 1も2も別に目新しいものではない。戦後とられてきたケインズ政策を言い換えただけである。また、3について最初からそんな成長戦略など存在しない。その証拠に、4年半たった今も何も具体的な政策は提示されていない。

 結局、成長戦略は提示できず、拡大する財政赤字の中で財政政策もままならない。その中で唯一期待されたのが金融緩和政策である。2013年3月日銀総裁に黒田東彦(はるひこ)氏が起用され、異次元の金融緩和政策が採られた。

金融緩和の狙いは何か。
まず第一段階として日本銀行が大量に紙幣を印刷し、国民の間にインフレ期待を抱かせる
第二段階は、インフレが起きれば安いうちにモノを買おうとするから、その結果、モノがよく売れるようになり景気が良くなる、というものだ。

金融緩和によって人為的に物価上昇を引き起こし景気を良くする政策を「リフレーション政策」という。黒田東彦総裁は典型的なリフレ派の一人である。


2.アベノミクスのもたらしたもの

 財政政策も成長戦略も効果が期待できない中で、金融政策による片肺飛行が4年間続けられてきた。異次元の(=異常な)金融緩和政策は日本経済に何をもたらしたのか。

 第一に、為替レートの下落である。1ドル=80円だった為替レートは、一気に120円まで下がった。1円の円安でトヨタ自動車は年間400億円の利益が増加するといわれる。円安によって輸出産業を中心に日本企業の利益は大幅に増加した。

 第二に、株価も値上がりした。日銀は異次元緩和以降ETF(投資信託の一種)の大量買入れを開始し、その金額は今や年間6兆円に及んでいる。株式市場に資金投入するのは日銀だけではない。年金積立金140兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立法人)も大量に株式を購入している。そうした努力の結果、8600円だった日経平均は2万円まで上昇した。

第三に、所得格差の拡大である。「日本経済を立て直すには競争原理の導入が必要である」というのは小泉純一郎内閣以来の政策であるが、この点はアベノミクスも変わらない。しかし、その結果日本の相対的貧困率は16%と6人に一人という状態となっている。

 もちろん、景気が良くなって労働市場がひっ迫し、失業率が低下しているというニュースもある。たしかに2017年に入って失業率は3か月連続2.8%を記録し、高度経済成長期にも迫る数字を示している。

しかし、実はこれにはからくりがある。失業率統計は、調査期間中に1時間でも仕事をすれば失業者にはカウントされないのだ。したがって、失業している人が非正規労働者となって働けば、いくらでも失業率は低下する。すなわち、

生産額=延べ労働時間×労働生産性
    = 就業者数×平均労働時間×労働生産性

ここで、労働生産性を一定とするならば、非正規雇用が増えて労働者一人当たりの平均労働時間が減少すれば、就業者数は増えることになる。

 通常ならば好景気で労働市場がひっ迫すれば、賃金は上昇する。しかし、賃金は一向に上がる気配がない。賃金が上がらないから、景気が回復したという実感もない。結局儲かっているのは、大企業と株式を大量に持つ富裕層だけなのである



3.アベノミクスは憲法改正のための手段

 国民は基本的に自分の事にしか関心を示さない。社会全体の事を考えて投票する人は少数である。自分の事の中で最大の関心事は、もちろん経済である。森友問題が起きようが、加計学園問題が起きようが関係ない。経済さえうまくいっていれば、国民は政権を支持する

かつてはヒトラーもそうだった。世界恐慌の中で、機械を使わずわざわざ人手を多く使って公共事業を行ない雇用を増やした。その結果、国民はヒトラーを独裁者に押し上げた。

満州事変の後物価が少しずつ上がって景気が良くなってきたとき、「軍事費が増えたおかげだろうか。戦争が始まってよかったね」と大人たちはつぶやいた。また、日本が高度経済成長をしていたときも、自民党は国民の高い支持を得た。

 現在の安倍内閣も同じである。とりあえず、経済は何とか回っている。民進党にゆだねたらどうなるかわからない。それよりは安倍内閣のほうがましか。そうした思いが安倍内閣に対する高い支持率となって表れている。


 しかし、安倍内閣の経済政策は、体力の弱った人にモルヒネを打って、一時的に元気が出たように見せかけているだけである。アベノミクスはアホノミクスだと主張する経済学者もいる。膨れ上がる財政赤字、膨れ上がる日銀の国債買い入れ、膨れ上がる政府主導の株価操作。無理をしてもいずれ市場はその調整に動く。

その調整はある日突然やってくる。国債暴落、株価暴落、金利高騰、財政破たん、・・・市場の復讐が来るまではのどかで平和な日々が続く。そうして時間稼ぎをしている間に憲法を改正する。実にうまい戦略である




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