アベノミクスの評価 (2017年8月14日)

 
 安倍政権が誕生したのは2012年12月である。2013年から、三本の矢によるいわゆるアベノミクスが始まった。金融緩和に慎重だった日銀の白川総裁を、リフレーション政策(通貨膨張主義)に積極的な黒田総裁に変更しての新たな挑戦であった。それから4年半が過ぎた。アベノミクスは成功したのか。検証してみた。


1.失敗したリフレ派の狙い

アベノミクスとは次の3つの政策をいう。
1.金融緩和(お金の量を増やす政策)
2.財政政策(公共事業を増やす政策)
3.成長戦略(民間投資を増やす政策)

 アベノミクスなどと言われるが、実は1や2はケインズ政策の言い換えであり、3については4年半たった今も何も具体的な内容は示されていない。結局、目新しいことは何一つない。唯一実施されたのが異次元の金融緩和政策である。

金融緩和の狙いは、国民の間にインフレ期待を抱かせ、値上がりする前にモノを買った方が得だというムードを高め、それによって景気回復を図る、というものだ。物価上昇を人為的に引き起こし景気回復を図る政策を「リフレーション政策」という。黒田東彦総裁は典型的なリフレ派の一人である。

異次元の(=異常な)金融緩和政策は日本経済に何をもたらしたのか。結論から言えば、リフレ派の狙いは完全に失敗したといってよい。



 買いオペによってマネーストックを増やそうとしても、企業に資金需要がないため資金は日銀の当座預金に「ブタ積み」されたままであり、結局、企業投資は増加せず、通常のルートによる景気回復は実現しなかった。業を煮やした日銀は「ブタ積み」されている資金に罰金(=マイナス金利)をとるぞと脅しをかけたが、やっぱり投資は増えなかった。また、物価上昇も起きなかった。

それでも、景気が回復したのは為替レートの下落による。1ドル=80円だった為替レートは、一気に110円まで下がった。1円の円安でトヨタ自動車は年間400億円の利益が増加するといわれる。円安によって輸出産業を中心に日本企業の利益は大幅に増加した。

企業業績の回復とともに株価も値上がりし、8600円だった日経平均は2万円になった。また、土地も値上がりした。資金の一部は都心部の土地購入にも向かい、2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、東京の地価(路線価)はバブル期を超えた。


2.アベノミクスの副作用

 アベノミクスによって得をしたのは企業と富裕層だけである。企業業績が良くなっても労働者の賃金は上昇しなかった。だから、景気が良くなったといわれても「普通の人」にはほとんど実感がない。その結果、所得格差の拡大が深刻な問題になりつつある。現在、日本の相対的貧困率は16%と6人に一人という状態となっている。

安倍内閣の経済政策は、体力の弱った人にモルヒネを打って、一時的に元気が出たように見せかけているだけである。膨れ上がる財政赤字、膨れ上がる日銀の国債買い入れ。無理をしてもいずれ市場はその調整に動く。国債暴落、株価暴落、金利高騰、財政破たん、・・・市場の調整はある日突然やってくる。

森友問題、加計学園問題で国民の信頼を失った安倍政権はもう長くはない。2017年7月の都議選における自民党の歴史的大敗以来、手のひらを返したように「低姿勢」「謙虚さ」を演出しているが、それが余計白々しい。異次元の金融緩和の副作用が出てくるのはこれからである。ちょうどいい潮時かもしれない。

私たちが選んだ政府である。その尻ぬぐいも私たちがするしかない。


3.2017年という年

一説によると、下一桁に7がつく年は、世界経済に異変が起きる可能性が高いのだという。

1987年 ブラックマンデー
1997年 アジア通貨危機
2007年 サブプライムローン問題
     (翌年のリーマンショックの原因)

経済学のテキストには、景気循環には周期性があると書いてある。10年周期をジュグラーサイクル、4年周期をキチンサイクルというから、過去30年を見るとこの「予言」も全く的外れと一笑にふすわけにもいかない気がする。

サブプライムローン問題が発生してから10年。アベノミクスが始まってから4年。ひょっとしたら、ひょっとするかも。
その時に備えた準備をしておいたほうがいいのかもしれない。

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