〜 第 十 話 「 鬼 火 」 〜
[夜 宮中]
松明を持った男達の行列。そして経文を唱える僧達。宮中では鬼払いの儀式が執り行われている。
原作 夢枕獏
脚本 田中江里夏
音楽 H.GARDEN
稲垣_吾郎
演出 小田切正明
「最終話 鬼火」
焚き火がくべられ、僧達の並ぶ上座で、晴明も唱えている。(←この辺の表現が間違っていたらごめんなさい。よく知らないんです…m(_ _)m)
[同夜 晴明の屋敷]
博雅が晴明の屋敷に来ている。しかし、屋敷には晴明はおらず、蜜虫がただ一人・・・。
博雅 「まだ帰ってきてないのか・・・」
蜜虫 「ええ」
博雅 「この間は少し言い過ぎたと思って、これ(魚)を・・・」
蜜虫 「御免なさい、博雅様。私の為に・・・」
蜜虫のその言葉に、首を横に振って否定する博雅。
博雅 「しかし遅いな、晴明は。大役を終えて今夜は疲れ果てているだ
ろうに」
蜜虫 「如何でしたか、鬼払いの儀式は?」
博雅 「ああ、都を騒がせている鬼どもも、これで出なくなるだろう」
[同夜 都の通り]
帰ってこない晴明が気になり、松明片手に宮中へと向かう博雅は、その途中、鬼の集団と遭遇する。もみ合いの末、鬼の一人を捕らえ、馬乗り状態で押さえ込むが;
晴明 「やめろ!」
と、そこに丁度、鬼払いの儀式を終えた晴明と遭遇する。
博雅 「晴明!」
晴明 「そいつらは鬼じゃない」
博雅 「しかし・・・」
晴明 「よく見ろ、人間だ」
博雅 「ええ?」
驚く博雅。
晴明 「疫病にかかっている。薬だ・・・さぁ、飲め」
晴明は薬を取り出し、男の口元に持っていくが、そこに集団の中の頭らしき男(金山一彦)が、遠巻きに様子を伺いながら叫ぶ;
男 「飲むな!」
晴明 「さぁ、少しは楽になる」
男 「信用するな!毒かもしれんぞ!」
晴明 「薬だ」
そうして、男が薬を飲み終えると、頭が男を連れて走り去っていった。
[同夜 野原]
晴明と博雅が松明片手に草むらの中を進む。
博雅 「信じられん、疫病が都の周りに…。お前は何時から知っていた
んだ?」
晴明 「ここ暫く夜毎に見廻っていた。特にオムロ(?)の村が酷い有様だ」
博雅 「疫病なら鬼払いの儀式なんて無駄じゃないか!?お前、無駄を
承知で?」
晴明 「儀式は必要だ。疫病などと知れれば、都はもっと混乱する。兼
家殿も良く分かっているのだ」
博雅 「兼家殿はこの事を知っていたのか?」
晴明 「俺が話した」
博雅 「何故だ?」
晴明 「富も権力も全ては宮中にある。大勢の民を一度に救うには、全
てを手にした男に働きかけるのが一番だろ?」
と言いながらも歩きつづけると、その草むらの中から、男の声が;
道満 「痛てっ」
と、博雅が道端で転がっていた道満を蹴飛ばした様子(おいおい)。そして、それまでの晴明たちの会話を聞いていたかのように話に加わる道満(笑);
道満 「無駄じゃな。民の為になどあの兼家が動くはずが無い」
晴明 「それは分かりません」
道満 「ふっ。こんな所で何時まで時間を無駄にするつもりだ、晴明?
娘を袖にした男の進言を受け入れる度量など、やつには無い。
お前がとるべき道はただ一つ・・・違うか?民はこの瞬間にも
苦しんでいるぞ、晴明」
[翌日 日中 宮中]
陰陽師として兼家と対面していている晴明(おお、ここで晴明君、黒の正装姿でございますぅ。いや〜、これほど似合うとは思ってなかったなぁ…。ちょっと胸を打ち抜かれたかも(笑))。
兼家 「修子も白比丘尼も、鬼どもにさらわれたんだぞ!陰陽師である
お前が本気で鬼退治をしないからだ!」
晴明 「あれが鬼ではない事は兼家殿もよくご存知のはず・・・」
兼家 「いいや、鬼だ。民であろうが悪霊であろうが、都に災いをもた
らすものはみんな鬼だ!奴等は穀物や金品だけでは飽き足らず、
私の大切な宝まで・・・」
晴明 「彼らは飢えや病から逃れる為に、貴族を襲うしか道が無いので
す」
兼家 「そんな奴等は皆殺しだ」
晴明 「あの民たちに穀物倉を開放して下さい」
兼家 「な、何を言う!」
晴明 「彼らに今、必要なのは栄養と休息です」
兼家 「鬼どもに物を恵んでやれというのか?」
晴明 「病を持った民が何度も入り込めば、都にも同じ病が流行ります」
兼家 「ならば焼き払え!いいか、お前の役割は帝に仕え、鬼どもから
貴族を守る事にあるのだぞ!それができずに、何が陰陽師だ!」
晴明 「では、陰陽師を辞めます」
兼家 「な、何?!・・・どこへいく!」
晴明 「都を出ます」
兼家 「そんな馬鹿な!この大事な時期に陰陽師が都を離れるなどと、
帝がお許しになると思うのか!自分の使命を放棄するのか?」
晴明 「私の使命は懸命に生きる全ての人たちの手助けをする事・・・。
少しでも貴方に期待した私が馬鹿でした・・・」
そう言って、そのまま退出する晴明。
兼家 「晴明!!!」
[同昼 晴明の屋敷前]
烏の群れが屋根にとまっている。晴明は蜜虫を連れて都を出る(服装も庶民の格好(?)をしております)。
博雅 「晴明!」
晴明 「どけ」
博雅 「お前、まさか疫病の民たちの所に?」
晴明 「これ以上兼家殿を動かそうと努力しても無駄だ」
博雅 「だからといって・・・」
晴明 「病は外からは治せない。中に入り込まなくては…」
博雅 「では、俺も、俺も一緒に!手伝わせてくれ、お前一人を…」
晴明 「無理だ。医術の心得も無いお前に、何ができるというのだ?!」
博雅 「それは・・・。しかし、俺は、友として!」
晴明 「甘ったるい事を言うんじゃない。どけ博雅。邪魔だ」
博雅 「邪魔?・・・俺が邪魔だと言うのか?」
晴明 「足手まといだ」
そのまま晴明は博雅の脇を通り抜け、去っていく。その後を追う蜜虫;
蜜虫 「博雅様、色々とありがとうございました。どうか、お元気で!」
博雅 「何で、何でそんな風に背を向けられるんだよ!
晴明!おーい、晴明!!!」
[同昼 村]
空の太陽は雲で覆い隠されている。
晴明は疫病に苦しむ村のひとつにやってくる。道端には多くの疫病で死んだ人の亡骸が、むしろをかぶせただけの状態で横たわっている。蜜虫がそのうちの1つに駆け寄るが;
晴明 「手遅れだ・・・行くぞ」
と、そのまま村の中を進もうとする晴明。しかし、その晴明と蜜虫を村人達が取り囲む。
村人 「何しに来た?」
晴明 「病人の手当てをさせてくれ」
敵対心を剥き出しにした村人達が、晴明と蜜虫に襲いかかろうとする。そこに、男の声が響く;
疾風 「やめろ!」
晴明 「お前は?」
疾風 「俺は疾風。ここの頭だ。あんたに妙な物を飲まされたあいつは、
何とか持ちこたえた。とりあえず礼だけは言っておく。
・・・で、何しに来た?今までかっぱらった物を取り返しに来
たってんなら無駄だな」
晴明 「病人の手当てをしに来た」
疾風 「ふん。何故貴族が俺たちを助ける?」
晴明 「俺はもう、貴族じゃない」
疾風 「何?」
晴明 「病に苦しむ人々を少しでも救いたいのだ」
[同昼 病人達が収容されている小屋]
外では村人達が亡骸を運んでいる。
小屋の中では、咳に苦しむ人々が大勢収容されている。懸命にその人々を診てまわる晴明と蜜虫だが、そこに疾風がやってくる。
疾風 「おい!死んだ人間を一つの小屋に入れてどうするつもりだ?」
晴明 「説明は後だ。湯を沸かしてくれ。病人が使った器をそこに入れ
るんだ」
疾風 「俺に命令する気か?」
晴明 「仲間を助けたいだろ?」
渋々承知する疾風。一方、小屋の中で看護を続ける蜜虫は、その病人の中に白比丘尼の姿を見つける。
蜜虫 「白比丘尼様・・・!」
その声に、晴明も白比丘尼の傍に駆け寄る。
白比丘尼「晴明様」
晴明 「ここにおいででしたか?病に苦しむ人々の元へ行かれたと聞
いて、心配しておりました」
白比丘尼「私を探しにここへ来て下さいましたの?でも、ここにいらし
てはいけません。ここに居れば晴明様も私と同じように病を…」
晴明 「私も・・・あなたと同じ思いでここに来ました。出来る限り
の事をしたいのです。村人達にも、あなたにも・・・」
[同夜 村の通り]
夜も看護を続け、小屋から小屋へと移動する晴明たちの様子を伺っている疾風。
[昼 宮中]
博雅は兼家に晴明の希望どおり、食物庫を解放するよう直訴している。しかし兼家はその話に耳を傾けようともしない。
兼家 「都を護るなど、晴明ごと焼き払った方が早いわ!」
博雅 「何という事を!兼家殿は何度も晴明に助けられたじゃありませ
んか!」
だが、兼家は、晴明のことを裏切り者と言い放つ。もちろん、庶民の為に食物倉を開放する気は毛頭無い。
兼家 「可哀想に、人の良いお前は、晴明に惑わされただけだ。お前の
在るべき場所で、この宮中で、貴族としての役目を果たすのだ。
・・・良いな!」
兼家はそう言い残して部屋を出ていった。
一方、博雅が部屋を出ると、廊下では他の貴族達が話をしている。
男1 「それは真か?」
男2 「一大事なのだ?!
この世の終わりかと思わせる貴族達の話の中に博雅が加わってみると、それはずっと求愛していた女が他の男と結婚するということであった。その、貴族達と都の外の有様とのあまりの意識の違いに、一人思い悩む博雅。
[同昼 晴明の屋敷]
博雅は自然と誰もいない晴明の屋敷にやってきていた。そこに、誰もいないハズの屋敷から、蜜虫が出てくるのを見つける博雅。
博雅 「蜜虫・・・」
蜜虫 「博雅様」
博雅 「どうしたのだ?何故ここへ!」
蜜虫 「行かないと・・・晴明様がお待ちだから…」
そう言って出て行こうとする蜜虫の蜜虫の腕を取って博雅が引き留めると、その反動で蜜虫が手にした器に入ったごく僅かの食料を落としてしまう。それを拾いながら;
蜜虫 「これがあったのを思い出して…。これだけあれば、お粥が少し
作れるから・・・」
[同昼 村の通り]
晴明は村人達の衣類を焼いている。そこに疾風が慌てて駆けつける;
疾風 「止めろ!妹が着ていた物だぞ!」
晴明 「焼くしかないんだ。可哀想だが、集めた亡骸も燃やさなければ
ならない」
疾風 「何?仲間を焼けというのか?」
晴明 「病の元を断たねば、誰も助からない」
疾風 「ダメだ、許さん。絶対に許さん!」
晴明 「生きている仲間のことだけを考えよう。な、頭?」
疾風 「・・・」
そこに、蜜虫が博雅と共に戻ってくる。博雅も蜜虫も晴明に笑顔を見せている。
博雅 「晴明・・・」
嬉しそうに晴明に近づいていく博雅だが、晴明はそれを拒む;
晴明 「帰れ!」
蜜虫 「晴明様・・・博正様は集められる限りの食料を全部持ち出して、
一緒に来て下さったのです!」
博雅 「俺もここで手伝いをさせてくれ、晴明!」
晴明 「駄目だ。お前の居場所に戻れ!」
博雅 「それがここだと思ったから来たんだ」
晴明 「何不自由なく育ったお前に耐えられる場所ではない」
博雅 「大丈夫だ。頼む。遠くからお前や蜜虫を案じているのは耐えら
れないんだ」
晴明 「お前は分かっていない。此処へ来るという事は、今までの暮ら
しを全部捨てるという事なんだぞ」
博雅 「お前だってそうしているじゃないか!」
晴明 「俺とお前は違う。帰れ、帰るんだ!!」
博雅 「お前はいつも勝手な価値観を人に押し付けるなと、俺に怒って
ただろう?!俺だって自分の人生は自分で決める!俺はここで
お前を手伝う事に決めたんだ。口出しするな」
晴明 「・・・」
博雅 「・・・」
晴明 「・・・フフフフフ。馬鹿なヤツだ」
博雅 「じゃぁ、いいんだな?」
晴明 「勝手にしろ」
そして、晴明は博雅の横を通り抜け、博雅の持ってきた食料を分け与えるように疾風に指示をするのだった。
晴明 「頭、みんなに食べさせるんだ」
[同昼 死体→病人達が収容されている小屋]
博雅は疫病で亡くなった人の収容されている小屋に入ってくる。その無惨な有様に言葉が出ない。
そして、続いて隣の小屋に移動する博雅。その様子を遠くから見ている晴明。
病人達が収容されている小屋に入ってきた博雅は、やはり想像を超えたその状況に言葉が出ない。その病人の中に、白比丘尼の姿を見つける博雅;
博雅 「白比丘尼殿・・・」
白比丘尼「博雅様・・・(咳き込む)」
博雅 「まさか、あなたまで病に?」
博雅 「何という事だ。何という事だ!これほどまでに酷いとは(涙)」
白比丘尼「泣いて下さるのですね。悲しい事です。沢山の人がこんなに
苦しんでいるなんて・・・。
でも、今、私はどこか幸せなのです。長い間、私は許されぬ
夢を見てきました。遠い昔、子供を手放した私には許される
はずの無い夢…。いつか息子と再会したい、息子と共に時を
過ごしてみたい、いつか息子に母と呼んで欲しい。
・・・博雅様・・・男と女に運命がある様に、母と息子にも
不思議な絆があると思いませんか?たとえ顔が分からなくて
も、互いに呼び合い、巡り会える運命があると・・・きっと
あると思いませんか?
私には分かるんです、息子が誰なのか。母親には分かるんです」
博雅 「!」
その、言葉の続きを言おうとした所で、絶妙のタイミングで晴明が入ってくる(まぁ、この辺はお約束ということで…(^^;))。
晴明 「白比丘尼殿・・・お休みにならなくては、さぁ・・・」
晴明は静かに白比丘尼を寝かせつける。
[同昼 村の通り]
蜜虫や晴明は、個別に家をまわって衣類を集めている。そこに博雅が晴明に近づいてくる;
博雅 「晴明、俺に何かやらせてくれ。白比丘尼殿や苦しむ村人の為に、
俺にも何かさせてくれ!何の心得も無いが俺だから出来る事が
何かあると思ったんだ・・・例えば、帝の薬草園から・・・」
晴明 「やめたほうがいい」
博雅 「晴明、みんなの命を、白比丘尼殿を助けたくはないのか?!」
晴明 「無理だ・・・兼家殿が管理しているんだぞ、あの薬草園は」
博雅 「俺だから、何とかなるかもしれん。薬草があれば救えるのだろ?」
晴明 「それは・・・もちろんだ」
博雅 「じゃぁ、やってみる。やるしかない」
晴明 「命懸けだぞ!それでもやるのか・・?」
博雅 「ああ、必ずもって帰る。待ってろ!」
晴明 「博雅・・・」
博雅 「必ず薬草を持ってくる」
そして、その博雅の思いを信じ晴明も;
晴明 「頼む」
[同夜 山奥にある薬草園]
博雅は一人で警備の厳しい(そうか?(^^;))薬草園にやってくる。博雅は正面から中に入ろうとする;
晴明 「私は帝より従三身の位を頂く源博雅だ。御命令により薬草を取
りに来た」
男 「お待ちを、博正殿。帝からそのような御命令は伺ってはおりま
せんが・・・」
博雅 「いや、実は兼家殿から・・・」
男 「兼家殿には厳しく言いつけられております。この薬草園を護れ。
殊に晴明殿と、博雅殿には注意せよ、と」
とりあえず引き上げようとした博雅の前に、木陰から道満登場(タイミング良すぎ・・・(^^;))。
道満 「やめとけ」
博雅 「道満殿・・・こんな所で何を?」
道満も薬草を盗りに来たものの、警護の厚さに、対策を考えたまま眠ってしまったという(笑)(ちなみに、方術を使って乗り込めば良いじゃない、というお約束の突っ込みはここでは無しね(笑))。
道満 「おい、お前、あそこに押し入る気か?あれを手に入れれば全て
が解決するとでも思うのか?あそこにあるのは所詮ただの草だ。
ただの草を手に入れたところで一体何人が助かる?何も変わら
んかもしれん。だが、お前は違う、お前の人生は確実に終るぞ。
帝の薬草園に無許可ではいるなどと、下手すりゃ死罪だ」
縁も所縁も無い庶民のために草を盗むなど、愚かな行為だ博雅に語る道満。
道満 「そんな無茶をしても、英雄になどなれんぞ、博雅」
博雅 「俺は英雄など!」
道満 「ならば、お前の居場所へ戻れ!今戻れば、何不自由無い幸せな
人生がお前を待っておる。やがて結婚して子供が出来、親孝行
も出来る。出世も出来る。ただの草の為に命を捨てるな。恥じ
る事など何も無いぞ。己を大切にするという事は、他人をいと
おしむのと同じぐらい大切なことだ」
[同昼 村の小屋]
治療を続ける晴明;
白比丘尼「晴明様・・・」
晴明 「お気を確かに、必ず助かります」
白比丘尼「もう助けてくれましたわ。あなたは私を救って下さいました。
晴明様、お願いがあります・・・
一度でいい、一度でいいから、私を・・・」
だが、その後に続く言葉を噤む白比丘尼。
白比丘尼「いいえ、なんでもないんです。」
晴明 「(汗を拭きながら) さぁ、眠ってください・・・母上・・・」
白比丘尼「・・・・・!!」
静かに泣きながら手を合わせる白比丘尼。
(こういう展開もお約束の展開ですが、やっぱりいいシーンなんだな。)
[同夜 山奥にある薬草園]
なおも思い悩む博雅(日が暮れるまで悩んでいたのね・・・(苦笑))。
博雅 「確かにあそこに踏み込むのは恐い。足を踏み入れたら、一体、
俺はどうなってしまうのか。だが、俺は晴明に誓った。俺の生
きる場所はお前のそばだと。薬草を持って戻ると約束をした。
あいつは今、人を助ける為に命をかけてる。俺が薬草を持って
戻るのを待ってくれている。俺は・・・あいつを裏切れない!」
そうして、刀を持った者達を相手に、素手で強行突破を計ろうとする博雅(これが強いんだな(^^;))。なんとか倉に乗り込み、薬草を持ち出そうとする博雅の背後に、静かに警備の者刀を構える・・・というところで、道満が手にした瓢箪で一撃(^^;)。(ここで博雅、素手で乗り込むな!というツッコミはあるんでしょうけど、逆に刀を持ち出されて殺生沙汰を起こしたりしたら、博雅が嫌いになりそうだから、この選択は正解ということにしておきませう(笑))。急ぎ、薬草を手に、薬草庫を後にする博雅。
道満 「ふっ、本当にやりおったわ・・・」
薬草を抱えて、博雅は山を駆け下りる。
[翌明け方近く 村の小屋]
病人達の収容されている小屋で、晴明も蜜虫も壁にもたれた状態で眠っている。白比丘尼が目を覚ます。眠っている晴明の顔を見て、そして、おぼつかない足取りで、小屋の外に出て行く。蜜虫はその気配に気づき、目を覚ます。
小屋の外で、蜜虫は白比丘尼に声を掛ける;
蜜虫 「白比丘尼様・・・何処へ行かれるのですか?もうすぐきっと
薬草が・・・」
白比丘尼「お慕いしているのですね、晴明様を・・・」
蜜虫 「・・・はい」
白比丘尼「そう・・・。どうか、晴明様を支えてあげてね、私の分も。
お別れです、私はもう・・・」
蜜虫 「どうして、どうしてそんな事をおっしゃるのですか?晴明様
は一生懸命、あなたのお世話を・・・」
白比丘尼「もう十分です。沢山の思いやりを頂いたもの・・・」
蜜虫 「やめて下さい!晴明様を悲しませないで」
小屋の中では晴明も目を覚まして、蜜虫と白比丘尼の会話を聞いている(ここでの晴明の表情がなんともいえず、悲しかったかな。あと、吾郎君の表情って、どこか幼顔なところがあるんだけど、それがここでは上手くハマっていて、母親の事を想う子供の表情のように見えて、なおさら味わい深いものを感じました)。
白比丘尼「悲しませたくないからなのよ。いつか会えるかもしれないと、
そう思って欲しいの。だから・・・」
蜜虫 「白比丘尼様・・・」
白比丘尼「晴明様に、ありがとうと伝えて」
そう蜜虫に言い残して、白比丘尼は村を出て行くのだった。
蜜虫が小屋に入ってくると、晴明は起きていた。ただ、小屋の窓の方を黙って向く晴明。
[翌明け方近く 山道]
夜道を博雅が駆ける。
[翌明け方 村の小屋]
博雅が晴明の元に戻ってくる。
博雅 「晴明!戻ってきたぞ!」
晴明 「博雅、よく戻ってきてくれた」
博雅 「白比丘尼殿は?」
晴明 「出て行かれた・・・」
博雅 「何だと?!あんな体で、お前止めなかったのか?」
晴明 「・・・・」
博雅 「何故だ?白比丘尼殿は・・・ひょっとしたら、そう思った事は
ないのか?晴明!」
晴明 「・・・。何かを信じる事で、人は幸せになれる事がある。強く
生きていけるときがある」
そして、思い直して、晴明は博雅の行為に労いの言葉を掛ける;
晴明 「しかし、よくやれたな」
博雅 「お前が信じてくれたからだ」
晴明 「ああ、そうだな・・・」
博雅 「だから・・・白比丘尼殿とも・・・きっと」
晴明 「(頷いて)いつか会えるさ」
太陽も昇り、村の外では薬が配られる。その様子を黙って見ている疾風。
小屋の中では、寝たきりの病人達にも博雅の持ってきた薬を配る晴明達。
晴明 「これでみんな、だいぶ楽になるだろう」
そこに疾風が小屋に入ってくる。
疾風 「その・・・疑って悪かったな。助かったよ。あんた本当に俺達
を助けに来てくれたんだな。」
晴明 「この博雅が頑張ってくれたお陰だ。蜜虫もよく頑張ってくれた」
そこで、ほっと一息つくまもなく、外から村人達の叫び声が聞こえる;
男 「火事だ!火事だぞ!!」
晴明たちが外に小屋の出ると、目の前では村の一角が炎に包まれていた;
女 「子供が子供が中に!!誰か!!」
子供 「おかあさん、助けて!おかあさん!!」
その様子を見て、反射的に炎の中に飛び込む晴明と蜜虫。
博雅 「危ないぞ晴明!おい!やめろ!!!」
炎の中で、子供を捜す晴明と蜜虫だが、そこに炎に包まれた柱が倒れてきて・・・;
蜜虫 「晴明様!」
炎の外に弾き飛ばされる晴明。
晴明 「・・・」
そこには、蜜虫の姿は無かった・・・
疾風 「許せん、火を付けたやつを殺してやる!都中火を付けてやる!」
博雅 「やめろ!」
疾風 「放せ!」
博雅 「無謀な事をするな。残された人の為にやる事がいっぱいあるだ
ろう!」
疾風 「許せるか?!絶対に許せん!」
晴明 「許せん・・・俺が行く」
[同夜 小高い丘?]
陣取っている兼家の元に松明の列が近づいてくる。
兼家 「晴明?」
松明の行列は、晴明を筆頭に、博雅,疾風,村人達が手にしたものだった。晴明は兼家に向って指をさす;
兼家 「な、何だ?無礼であろう」
晴明 「兼家、お前は人ではない」
兼家 「わ、私は悪くない!私はただ鬼を焼き払うように命じただけだ」
晴明 「鬼はお前だ」
その晴明の迫力に(?)、兼家の供の者達は「逃げろ」と叫びながら散っていく;
晴明 「鬼はお前だ。鬼は焼き殺さねば」
兼家 「や、やめろ!」
晴明 「鬼はお前だ・・・鬼はお前だ・・・鬼はお前だ」
兼家 「や、やめろ・・・」
怯える兼家もその場から逃げようとするが;
晴明 「動くな兼家!」
晴明の方術により動きを封じられる兼家は、そのまま炎に包まれる;
兼家 「熱い、晴明熱い!助けてくれ!晴明助けてくれ!」
晴明 「鬼はお前だ!」
兼家 「許してくれ!晴明!!許してくれ〜!」
晴明は指差していた手をそのまま静かに下ろした。と、同時に兼家を包んでいた炎も消えた。
[数日後 村の通り]
疫病から救われた村を眺める晴明,博雅、そして道満。
道満 「お前達が助けたのはたった一つの村だけ。白比丘尼もきえ蜜虫
ももういない。失ったものの方が余程多いのではないか?」
晴明 「でも、何人かは助かった。できる限りの事はしたんだ。何もせ
ずにいるよりは、はるかに良かった」
道満 「・・・そうだな。
まぁ、おまえらも咎めを受けなかったしな。兼家の指示で晴明
がこの村に派遣され、そして薬草園も解放されたという話にな
っておる」
博雅 「兼家殿も今回の件では反省されたのではないのか?」
道満 「はは(笑)。やはりお前は甘いな。兼家はな、民衆の命を守りな
がら、都の安全も図ったという事で、帝から褒め言葉を貰った
そうじゃ」
博雅 「ええ?」
道満 「強いやつがヌクヌクと生き、弱い者達はその下で苦しむ。勝っ
た者が神仏と呼ばれ、負けたやつは鬼と呼ばれる。これがこの
世のならいじゃ」
晴明 「ええ。千年も前から、何一つ変わっていない。きっと千年後も
人間は同じ事を繰り返していくのだろう。もしかしたら永遠に
変わらないのかもしれない・・・」
道満 「全く、人間とは、愚かで哀しい生き物よ。のぉ、晴明、お前も
今回の事では骨身に染みたろう?わしゃ、しばらく旅に出るぞ!
どうだ、お前も一緒に来んか?」
晴明 「・・・。病んでいるこの世だからこそ、その中で出来る事が何
かあるはず。だから、都に戻ります」
道満 「ふふ、本音をいったらどうだ、晴明」
晴明 「?!」
道満 「この愚直な男(博雅)のそばに居たいのだと。この男の真直ぐな
心だけがお前の孤独を癒す。初めて見つけたお前の日溜りなの
だと。(博雅に向って)ははは、まぁ、お前は思ったよりも骨の
ある男のようだ。元気でな。いい友を大切にしろ、晴明。フフ(笑)」
晴明 「・・・」
博雅 「・・・」(←妙な間だぁ(笑))
博雅 「蜜虫の亡骸はとうとう見つからなかったな」
晴明 「ああ」
博雅 「それは・・・つまり・・・もしかしたら・・・」
晴明 「いつかまた会える・・・そう思っていよう」
博雅 「ああ」
[夕刻 野原]
晴明と博雅が二人で野原を歩いている;
博雅 「晴明、本当にいいのか?都に残るのか?」
晴明 「ああ。病を治さなくては・・・」
博雅 「そうだな・・・。
晴明、俺はな、千年後は、もっと良い世の中になっているかも
しれないと思う。人間は愚かだが、そう、捨てたもんじゃない
・・・俺はそう信じてるんだ」
晴明 「お前らしいな」
博雅 「だが、お前は本当にひとりぼっちになってしまったな」
晴明 「そんなことはない・・・お前がいるではないか」
博雅 「ふっ」
晴明 「ふふふ」
博雅 「ばか・・・」
[エンドロール]
晴明&博雅の仲良し後姿のツーショットなのだ!!(笑)
<第10話感想> 大団円
さてさて、孤独な晴明が博雅という無二の親友を得るまでのお話がひとまず区切りとなりました。NHK的と言えばNHKなのだけど、こういう終り方は良いですね。
最終話は、いろんな晴明が見れてよかったかなぁ(笑)。もちろん、博雅と仲良しの晴明が一番のツボではありますが、他にも白比丘尼との名乗り合わないものの気持ちを分かり合うシーンや、静かな怒りを表すシーンといった、その微妙な表情のそれぞれが、それぞれに切なさや、穏やかさを感じておりました。
博雅との友情は、上手くまとまって終りましたね。お互い命懸けで相手の事を信じられるほどの友情ということで、まぁ、いわゆる「走れメロス」状態なわけですが、結果的にお互いの『いるべき所』がお互いのそばに見出したという結論が、より二人の関係が深まったことが具体的に感じられてよかったです。なるほどぉ、こうやって小説版の二人に続いていくのね・・・な〜んて。
そうなると、蜜虫の立場って微妙かも。
蜜虫も九話であれだけ晴明についていく覚悟を決めていたのに、意外とあっけない最期が不憫と言うかなんというか・・・(苦笑)。ここはやっぱり説明的であっても、もう少し時間をかけて欲しかったかな(せめて子供を助けに飛び込んだんだから、ちゃんと助けなきゃ。何も考えずに火に飛び込むんだもん(^^;))。
最終話で晴明の蜜虫に対する思いがもう少し表れて欲しかったと思うのだけど(もちろん熱く語って欲しいと思っているわけではないけどね)、蜜虫では晴明の孤独を癒す事が出来なかったということなのかなぁ、と思うと、蜜虫も悲しい・・・。まぁ、蜜虫は自分が作り出した式神だから当然なのだけど、やっぱり不憫だわ(^^;)。
白比丘尼との関係は、別れ際の晴明のなんとも言えない切ないけど優しい表情が好きでした。最後の最後で母親の愛情を感じ取ることができて、ようやくこれまでの母親に対する呪から晴明自身も解き放たれたんだよね。そういう全ての感情が、表情の一つ一つに丁寧に映し出されていて(という気に私が勝手になっているだけなのだけどね)、この辺りの描き方は好きでした。
全体的には、最終話のような話は好きです。やっぱり晴明が主役じゃないと面白くないし、もう少し方術を駆使して欲しいという気持ちもまだ残ってはいるのですが、一人の、普通の(?)人間として最後まで描かれていたのが吾郎君キャラらしくて(?)良かったです。まぁ、もっと最終話までの話で描いておいて欲しい部分もありましたけど…(苦笑)。
と、何だかんだと、好きな部分、好きとは言えない部分が入り混じってはいますが、吾郎君が作り上げた晴明像に魅力を感じていることだけは断言できるかな。まさしく晴明の陰と陽の部分が、吾郎君自身に私自身が描いている陰と陽のイメージに上手くはまっていたと思えたし、台詞が無くても吾郎君の晴明は独自の空間を作りあげていたと思えたし。個人的にはやはり九話のラスト10分で泣けたという事実が大きいですね。これまで私がドラマを見て泣くのは、人が死ぬシーンか、登場人物の涙に誘われて泣いたりとか、「いかにも泣くぞ」というシーンで泣くことが多かったのですが、吾郎君の表情だけで泣けるとは思わなかったなぁ。やっぱり吾郎君は台詞の無いシーンほど映える!(いや、台詞があるシーンがどーのこーの言ってるわけじゃないのよ(^^;))。というわけで、あのシーンが私の中では今回のドラマのベストシーンだったりします。
と、なんだか色々とまとまり無く書いて申し訳ないです(汗)。
最終的には「続編希望」!もちろん吾郎君が主役でね。続編を思わせる終わり方でしたので、勝手に期待させていただきますですわよ、NHKさま〜!(笑)
(01.06.10)
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