陰 陽 師  o n m y o u j i

〜 第 九 話 「 心 の 鬼 」 〜


[某実 昼 宮中 大広間]

「鬼払い」の大役を決める方術比べが帝の前で行われている。

       原作 夢枕獏

       脚本 渡辺美穂子

       音楽 H.GARDEN

       稲垣_吾郎

       演出 小田切正明

     「第九話 心の鬼」


藤原兼道が推す蘆屋道満と、兼家が推す晴明の2人が、兼道,兼家そして博雅らが見守る中、道満がその方術比べをしている。

  道満 「臨兵闘者皆陣列在前(りん・びょう・とう・しゃ・かい・ちん・れつ・ざい・ぜん」

と道満が九字を切ると、同時に、太陽が消え、辺りは闇に包まれる(早い話が日蝕なんだけど…)

  兼道 「さすがだ。やはりこの兼道が推す蘆屋道満に鬼払いの儀式を任
      せるのが…」
  兼家 「いや、それはまだ早い・・・。晴明!」

兼家の呼びかけに答え、今度は晴明が左手で印を結び、静かに呪を唱える。そのまま右手を太陽があった方向に向かってかざすと、再び太陽が現れた・・・(さっきとVTR、逆回しにしているだけじゃないよね?(^^;))

  兼道 「ほほほほほ。都に押し寄せる鬼を追い払えるのは、安倍晴明を
      置いて他に誰がおりましょう?」
  兼家 「いや、双方の方術、どちらともまだ甲乙付け難い。ここははっ
      きり決着をつけた方が・・・」

そこで、兼道は、箱の中味当て(^^;)で二人の能力を試すことを提案し、兼道は黒塗りの箱を取り出す。

  兼家 「この中味を当てるというのは如何かな?当てた方に褒美として
      取らせるぞ。良いか?」
  兼道 「まぁ、勝負の行方は決まっておると思うが…やってみましょ」

と、兼家も同意したところで、再び方術比べ開始;

  道満 「では、ワシから…良いな?」
  晴明 「どうぞ」

  道満 「む・・・。唐から渡って来た青磁の壷」
  晴明 「・・・いや、壷だけではありません。その中に女が入っています」
  兼家 「えっ?」

同席している者たちも晴明の言葉に驚き、ざわめく。兼道が箱を開けると、そこには青磁の壺が入っていた。

  兼道 「これは蘆屋道満の勝利ですな」

と、白々しく言いながら、壺を取り出して、皆に見せる兼道。しかし、その壺の中から、揚羽蝶が飛び出す(やっぱりね(^^;))。その揚羽蝶は、蜜虫に姿を変えたのだった(ここはCGを使って欲しかったなぁ…)

  兼家 「いや、これは恐れ入った。これは明らかに、安倍晴明の勝ち。
      いや〜、驚いた」
  道満 「さすがは安倍晴明。とてもとても我が方術の及ぶところではな
      い。参った参った」
  晴明 「それ程では・・・」

こうして、鬼はらいの儀式を行う者を決める方術比べは、晴明が勝ったのだった・・・。

[同日 昼 晴明の屋敷]

方術比べの後、晴明の屋敷に、博雅と、そして道満もやってきて、縁側で話をしている。

  博雅 「しかし不思議だな。さすがの道満殿も、晴明の術には適いませ
      んでしたね?」
  道満 「はははは。勝ちも負けも無いわ。あれはイカサマだ。うん」
  博雅 「イカサマ?」
  道満 「ああ。わしゃ、兼道から箱の中味を教えられておった」
  博雅 「えっ?」
  道満 「どうしても鬼払いの儀式をワシにやらせて、弟の兼家を出し抜
      きたかったのだろう」
  博雅 「まさか、そんなぁ」
  道満 「世の中を動かしているのは自分じゃと見せ付けたかったのじゃ。
      馬鹿らしい事じゃ。はは」

そこに蜜虫が、先程、方術比べの戦利品である青磁の壷を持ってくる。どうやらその壷は、道満に渡す約束になっていたようで、道満は蜜虫からその壷を受け取る;

  道満 「おお。そのばか者のお陰で、ワシは儲け物をしたわ。こりゃ、
      高く売れるぞ!ははは」
  博雅 「道満殿、不謹慎ですぞ!都の外れでは鬼たちが大暴れして押し
      寄せてくるというのに。宮中では大問題になっておる」
  道満 「はは。それより、兼家は箱の中味をくれとは言わなんだか?こ
      の女を嫌らしい顔で舐めるように見ておったからな」

と、そこに丁度タイミング良く(^^;)、兼家の遣いがやってくる。

  男  「恐れ入ります。藤原兼家の遣いの者に御座います。主の兼家が
      晴明殿におこし頂きたいと申しております。壷の中から現れた
      そちらのお方とご一緒に…」
  晴明 「・・・」

[同夜 兼家の屋敷]

兼家の屋敷に呼ばれた晴明と蜜虫は、兼家と面会する。

  兼家 「ほほほほほ。帝もご安心されたようだ。お前を推した私の鼻も
      高いぞ。(蜜虫に)ところで、そなたの名は何と申す?」
  蜜虫 「・・・」

  晴明 「蜜虫と呼んでおります。私の式神で…」
  兼家 「蜜虫。ご苦労であった。晴明、この蜜虫を私に譲ってくれぬか?」
  晴明 「この者には私の身の回りの世話を全て任せておるので」

晴明が兼家にそのように答えると、兼家は、御簾の後ろに控えていた一人の女を晴明に引き合わせる;

  兼家 「娘の修子だ。可愛いであろう?晴明、お前もそろそろ身を固め
      た方がいい。一緒になれ」
  蜜虫 「!」

晴明よりも、蜜虫のほうが驚き、戸惑いの表情を示す。肝心の晴明は何も答えない。

  兼家 「なんだ、不服か?」
  晴明 「いえ、あまりに急な事で…」
  兼家 「目に入れても痛くない程の可愛い娘だ。だが、可愛がり過ぎて、
      ちと、行き遅れてしまったがな」
  修子 「宜しくお願いします」
  兼家 「帝に信頼される陰陽師としての立場もある。早くきちんと結婚
      した方がよい。良からぬ陰口を叩くものもおるからのぉ」

そう言いながら、兼家は蜜虫に近づく。

  兼家 「そういう訳だ。お前はもう、晴明の所にいる必要は無い。私が
      きちんと面倒をみてやる。何も心配する事は無い。何も不自由
      はさせん。早く来たいなら、明日から来て良いぞ」
  蜜虫 「・・・」

それでも、晴明は何も答えない。

[同夜 兼家の屋敷の帰り道]

何も語らず道を進む晴明。その後を蜜虫も複雑な思いで続く。

  蜜虫 「あの・・・」
  晴明 「何だ?」
  蜜虫 「いいえ」

  晴明 「幸せというのは人それぞれだ。自分が幸せと思えば幸せ、他人
      が決めるものではない」

[数日後 晴明の屋敷]

博雅が晴明の元を訪ねてくる。晴明は、また何やら木細工をしております。

  博雅 「お前、本気か?」
  晴明 「何が?」
  博雅 「修子殿と結婚するって?」
  晴明 「ふっ、誰がそんな事言う?」
  博雅 「誰って。宮中じゃ、その話で持ち切りだ。兼家殿が嬉しそうに
      誰彼と無く触れ回っている。本当に、結婚する気は無いのか、
      修子殿と?!」
  晴明 「ああ」
  博雅 「しかし、晴明!」

な〜んて言い合いをしているところに、またまたタイミング良く話題の修子が供を連れてやってくる。

  男  「失礼いたします」
  修子 「来てしまいました。父が少しでも晴明様のお側にいて、早く人
      となりを知った方が良いと申しますので…。
      (庭を見回して)此処が晴明様のお屋敷ですか?まぁ、不思議
      な趣のあるお庭です事。晴明様、結婚の式はいつが良いですか?
      私は桜の頃がいいと・・・」

晴明の前で心に思うままを話す修子。そこに蜜虫がやってくる。修子の姿を見て、驚く蜜虫。

  修子 「あら、まだいたの?体一つで暮らせるよう、父が準備を整えて
      待っていますよ。本当に幸せな人。父に気に入って貰えるなん
      て、女としてこれ以上の幸せないもの…」

少し頭を抱える晴明君(^^;)。

  博雅 「どういう事だ、晴明?」
  晴明 「どうもこうもない」
  修子 「今日から晴明様のお世話は私がしますから、貴女もご自分だけ
      の幸せを考えて、父の処に行けば良いのよ!」
  博雅 「修子殿!!」
  修子 「はい?こちらは?」
  晴明 「源博雅、親しい友人です」
  修子 「どうぞ宜しくお願いします」

そして、晴明は庭に下りてきて;

  晴明 「修子殿、少し歩きませんか、2人きりで?」

そう言って、博雅と蜜虫を残して、修子と外に出て行く。

[同昼 池]

池の辺を歩く晴明と修子;

  修子 「自分でも驚いています、晴明様との新しい生活を考えただけで、
      何か、心が弾むようです」

そして、歩くのをやめる晴明。

  晴明 「私は貴女と・・・」
  修子 「はい」
  晴明 「結婚する気はありません。その事をお伝えしておきます」
  修子 「でも、父が・・・」
  晴明 「それだけです」

そう言って、修子の前を立ち去ろうとする(おいおい、放っていくんかい!(^^;))

  修子 「待ってください。私の事がお嫌いですか?」
  晴明 「そうではありません」
  修子 「じゃぁ、待ちます!」
  晴明 「?」
  修子 「男の人って、なかなか決心がつかないんでしょうね。本当に、
      この女で良いのだろうかって。でも私は待てます。何があって
      も付いて行く、何処までも貴方に付いて行く、そう心に決めた
      んです」
  晴明 「・・・。わかりました」
  修子 「晴明様!」
  晴明 「行きましょう。貴女に見せたい物がある」
  修子 「はい」

そうして、二人は再び歩き出した。

[同昼 晴明の屋敷]

残された蜜虫に、博雅は必死のフォローをしています。
  博雅 「相手は兼家殿の娘だからな。そう、無下にはできん。あいつも
      色々大変なんだよ」
  蜜虫 「私・・・兼家様の処へ行った方が・・・」
  博雅 「何を言っている!」
  蜜虫 「私がいれば、晴明様は幸せになれない」
  博雅 「晴明は修子殿とは結婚しないとはっきり言ってた。もう、迷う
      事は無い、ずっと此処に居ればいい!」
  蜜虫 「・・・・それぞれの幸せ。博正様も晴明様も、何れはああいう
      綺麗な着物を着たお姫様と結婚をして、幸せになられるんでし
      ょうね」
  博雅 「そんな事じゃない!女は着物を脱いだ時に輝いていなければ…。
      つまり・・・人は生まれたままの姿は誰でも一緒で・・・何と
      言えば良いのか・・・」

と、思うところは色々とあるものの、博雅も上手く蜜虫に伝える事が出来ない。

[同昼 都の外れ]

後ろを振り返ることなく、どんどん歩いていく晴明。その後を修子は必死についていってます。

  修子 「どこまで行かれるんですか?私の牛車が御座いましたのに…。
      もう、歩けません」
  晴明 「だったら、そこで休んでいればいい」
  修子 「いいえ。貴方に付いて行きます、どこまでも」

やがて、晴明と修子を都の外れまでやってくる。そこに来て、修子にすがる何かが・・・

  男  「お恵みを・・・うわ・・・何でもいいです・・・」
  修子 「うわー。鬼!!」

修子は思わず悲鳴を上げるが、道端には飢えで苦しむ人々の姿があった。そのことを晴明は修子に伝える。

  晴明 「鬼ではありません。人間です。貴女と同じ血が流れてる、人間
      です」
  修子 「同じ、人間?」
  晴明 「この人たちも生きたい、幸せになりたいと思っている。一方で
      贅を尽くした貴族の生活があります。それを支えているのが、
      この人たちの汗だ、涙だ、血なんだ。
      私はこの人達と生きたい。少しでも救いになるように働きたい
      ・・・そう思っております。それでも、私に付いて来ますか?」

何も考える事も出来ず、ただ、首を振る修子。修子はそのまま、その場を立ち去っていく。そこに道満がやってくる。

  道満 「貴族など、みんなあんなもんだ。自分の事しか考えておらん。
      苦しめばいいのだ。恐がればいいのだ。人の痛みを思い知らせ
      るしかない!都に押し寄せて来ればいいのだ。凄まじい数の鬼
      がな」
  晴明 「しかし、多くの命が失われます。どんな命でも、命は尊いもの。
      この世に生を受けた以上、生きていくのが人の定め・・・」
  道満 「そうだな。生まれた事を恨むのは罪深い・・・。
      まぁ、(晴明の肩を叩いて)好きなようにやれば良い。ははは」

道満は笑いながら、晴明の前から去っていった。

[夜 晴明の屋敷]

灯明の明かりの揺れる部屋。縁側で酒を飲む晴明の傍らに蜜虫が戸惑いながら座っている;

  蜜虫 「私・・・私は晴明様の・・・」

蜜虫は晴明の言葉を待つが、晴明は何も答えない。

  蜜虫 「私はここをでます」

  晴明 「・・・それは・・・お前が決める事だ」
  蜜虫 「・・・」

[夜 兼家の屋敷]

晴明は兼家に修子のことで呼び出されている。

  兼家 「許さん!絶対に許さん!何が何でも修子と結婚をしろ!これは
      命令だ!!]
  晴明 「しません」
  兼家 「私に恥をかかせるつもりか?可哀想に修子はすっかり打ちしお
      れてしまっている。帝からもお祝いの言葉を頂いているのだぞ。
      一体どうするつもりだ」

激高し続ける兼家に、冷静に答える晴明。

  晴明 「私はあなた方の為に生きようとは思っておりません」
  兼家 「何?」
  晴明 「鬼が一斉に押し寄せてくる。宮中への怒りと怨みを煮えたぎら
      せて・・・。このままでは皆、食い殺されてしまう。
      ・・・死んでしまったら、面子も恥じも無いでしょう?」
  兼家 「・・・!!!!!」

[昼 晴明の屋敷]

思いつめた表情の蜜虫。屋敷を出ようと心に決め、黙って屋敷を出ようとしたところに博雅と鉢合わせしてしまう。

  博雅 「どうした?」
  蜜虫 「・・・。さようなら、博雅様」

[同日 河原]

そのまま飛び出した蜜虫を追ってくる博雅。博雅は必死になって蜜虫が出て行くのを思いとどまらせようと説得する。だが、蜜虫は;

  蜜虫 「いつかはこんな日が来るとは思っていました。晴明様の将来を
      思えば私なんか側に居てはいけないんです。私なんか邪魔なん
      です」
  博雅 「何を言ってる!」
  蜜虫 「これまで、側に遣える事が出来ただけでも幸せでした。でも、
      もう夢を見てはいけないのです。私みたいな者が・・・」
  博雅 「どうして・・・あいつは、身分や位などにとらわれたりしない。
      そういう事を一番嫌うヤツだ」
  蜜虫 「そんな事じゃないのです!私の心に鬼が住みだしたのです。嫌
      なのです、それが。哀しいのです。もうどうしようもない…」

そんな蜜虫の哀しい叫びに、とうとう、博雅は;

  博雅 「好きだ!初めて会った時からずっと。胸の奥に閉じ込めておく
      つもりだった。蓋をしておくつもりだった。君が晴明しか見て
      いないのが分かっていたから。君が幸せならそれがいい、そう
      思って。でも、今の君は・・・。
      俺は、俺は哀しませたりしない。泣かせたりしない。幸せにし
      たい、この世にたった一人しかいない俺の好きな女を幸せにし
      たい。俺じゃダメなのか?晴明じゃなきゃダメなのか?!!」
  蜜虫 「御免なさい。私は式神だから・・・」

蜜虫は涙を流しながら、逃げるように博雅の前から走り去った。

[同夜 晴明の屋敷]

月を眺めて、縁側で晴明が一人、座っている。そこに博雅がやってくる。

  晴明 「欠けては満ち、満ちてはまた欠ける・・・
      毎日毎晩姿を変えるんだな、月は・・・」

  博雅 「・・・出て行ってしまったぞ、彼女」

  晴明 「・・・みたいだな」

  博雅 「何故泣かせるんだ?」

  晴明 「・・・」

  博雅 「おまえだって居て欲しかったのだろう?どうしてそんな簡単な
      事が言えないんだ。彼女はその一言が欲しかったんだ」

  晴明 「人は・・・自分の思いで動く・・・本人が決めた事だ」

  博雅 「人の言葉で思いが変わる事もある」

  晴明 「そうかな?」

  博雅 「そうさ」

  晴明 「・・・」

  博雅 「冷たいな」

  晴明 「・・・(振り向く)」

  博雅 「・・・月がだ」

そういって屋敷を出て行く博雅。

[同夜 兼家の屋敷]

修子は何やら思いつめている。そこに、娘の事が気になった兼家が修子を慰める。だが、修子は…;

  修子 「お父様?」
  兼家 「ん?なんだ」
  修子 「ひとの幸せって何ですか?」
  兼家 「そりゃぁ女なら、地位も名誉もある男と結婚し、毎日美味しい
      物を食べて、この様に綺麗に着飾って、可愛い子供に恵まれて」
  修子 「それが幸せですか?」
  兼家 「そうだ」
  修子 「世の中に飢えや貧しさで死んだり苦しんだりしている人が幾ら
      いてもですか?」
  兼家 「おまえ、晴明に何を吹き込まれた?」
  修子 「私は私じゃなかったんです。お父様の人形だった…」
  兼家 「修子!」
  修子 「自分の目で見たいんです。自分の耳で聞きたいんです。自分の
      口で話したい…」
  兼家 「何を下らない事を!お前は私の言う通りにしていれば幸せなん
      だ。二度とつまらぬ事を考えるんじゃない!わかったな」

[翌朝 兼家の屋敷]

兼家は白比丘尼の処にやってきて、晴明と修子が結婚をするのか?、蜜虫が自分の元にやってくるのか、占うするように命ずるが、白比丘尼は何も答えない。

[同日 晴明の屋敷]

血相を変えて、晴明の屋敷に飛び込んでくる兼家。

  兼家 「あっ、晴明。修子はいるか?」
  晴明 「いいえ、こちらには」
  兼家 「おらんのだ。幾ら探してもおらんのだ!どこに行ったか心当た
      りはあるんだろ?」
  晴明 「いえ、ありません」
  兼家 「修子に何を言った?何を吹き込んだ!人の恩を仇で返しおって。
      このままじゃすまんぞ!」

そういい捨てて、兼家は屋敷を立ち去ろうとする。

  兼家 「どこへいきおった、白比丘尼まで」
  晴明 「!」

[同日 河原]

蜜虫は白比丘尼と偶然出会う。

  白比丘尼「みんな枯れて、寂しい季節ですね」
  蜜虫  「白比丘尼様…。この季節はお嫌いですか?私は好きなんです、
       心の中が寒くても冬のせいにできるから」
  白比丘尼「でも、心の中が寒くなるのは冬ばかりではないわ。私などは
       心の中が寒々しく凍っていました。人の心を寒くさせるのも
       人の心。でも、心を温めてくれるのも人の心。
       捨ててしまった私にも、捨てられたあの子にも、冷たく寒い
       物だけが心の中に残ってしまった。どれだけ貧しくても、汚
       れた身の上になっても、何があっても離れるんじゃなかった。
       一緒に居ればせめて温め合えたのに。身勝手に捨ててしまっ
       たのに、いつか何処かでまた会える日が来る…そう信じるだ
       けで生きていける。そんな温もりを感じられるの」
  蜜虫  「温もり・・・」
  白比丘尼「人は支え合って、寄り添って温め合っていないと凍えてしま
       います。晴明様を宜しくお願いします」
  蜜虫  「・・・」
  白比丘尼「じゃぁ、私は・・・」
  蜜虫  「あの・・・何処か遠くへ行かれるんですか?」
  白比丘尼「ええ、都の外に。疫病で苦しんでいる人が大勢居ます。力に
       なれるか分からないけれど、せめて寄り添ってあげたいと思
       って。子供を捨ててしまった女の罪滅ぼしです。さようなら」
  蜜虫  「・・・」

[同日 晴明の屋敷]

戻ろうか、戻るまいか・・・ゆっくり門を開け、屋敷の中に入っていく蜜虫。屋敷の中を伺いながら、戸惑っていると;

  修子 「あなた?」
  蜜虫 「修子様・・」

[同日 河原]

修子は出家したのだった。修子は蜜虫に、この歳になるまで何も知らなかったことを恥じながら打ち明けた。

  修子 「でも晴明様はそれをさり気なく教えて下さった。・・・本当に
      大きな方です・・・優しい方です。そんなお方と結婚できると
      思っていた私は大馬鹿者ですね。私は、晴明様のように苦しん
      でいる人たちの中に入っていく勇気は今はありません。だから
      せめて、祈ろうって決めたんです。私にできるのはその位なん
      です。きっと貴女も優しくて大きな方なんでしょうね。ずっと
      晴明様のお側にいらっしゃるから…」
  蜜虫 「いいえ、私は・・・そうじゃないんです」
  修子 「どうかしたの?」
  蜜虫 「私・・・あの屋敷を出てしまったんです」
  修子 「私のせい?」
  蜜虫 「いえ…。私なんかが修子様に・・・心の中に鬼が住んでしまっ
      たんです。晴明様の側に居られるだけで幸せだといくら思い込
      もうとしても、苦しくなって・・・。でも、もう追い出す事が
      出来ました。真直ぐな修子様にお会い出来たから、勇気を頂き
      ました」
  修子 「そう。よかった・・・戻って下さいね、晴明様の所に・・・」

[同夜 晴明の屋敷]

晴明は縁側で、やっぱり一人酒を飲んでいます。でも、すっごく意地を張っている感じ。寂しそうです。庭に蜜虫が入ってきます。

  晴明 「帰ってきたか…」

  蜜虫 「はい・・・・」

泣きそうなぐらい小さな声で答える蜜虫。

  晴明 「そうか・・・」

  蜜虫 「私をもう一度、側に居させてください」

  晴明 「・・・そうしたいなら、そうすればいい」

  蜜虫 「はい」

  晴明 「(顔を見て)お前が決める事だ」

  蜜虫 「(泣きそうになって)はい・・・」

  晴明 「酒が無くなった。かわりを持ってきてくれ」

  蜜虫 「すぐに・・・」

蜜虫はそのまま屋敷に上がる。晴明も、泣きそうな表情をしている。やがて、蜜虫は酒の準備をして戻ってきて、晴明の盃に酒を注ぐ。

  晴明 「(一口飲んで)寒かったろう、外は・・・お前も飲め」

そう言って、蜜虫に自分の盃を蜜虫に渡し、今度は晴明が酒を注ぐ;

  蜜虫 「もうこれだけで温かくなりました」

  晴明 「そうか・・・」

一口酒を飲む蜜虫。

  晴明 「もうすぐ、満月だな。誰の心にも鬼は住む。だから人だ。哀しくて、愛しい・・・」

[翌日 昼 晴明の屋敷]

晴明は部屋の中で何か書き物をし、蜜虫は縁側の拭き掃除をしているという、一見、これまで通りの光景。

  蜜虫 「白比丘尼様に偶然お会いしました」
  晴明 「そうか・・・」
  蜜虫 「兼家様のお屋敷を出られたそうです」
  晴明 「・・・」
  蜜虫 「都の外の人たちの苦しみを救いたいと、そう仰ってました」

  蜜虫 「行かれるのですね、晴明様も・・・」
  晴明 「・・・」
  蜜虫 「どこまでも付いて行きます」

  晴明 「・・・・・・ああ」

そこに、庭に博雅が現れる。

  博雅 「帰ってたのか?良かった、心配したぞ。そうか、良かったな。
      幸せになれよ」

だが、二人とも何も答えない。

  博雅 「?。何だ、一緒になるのだろ?結婚するのだろ?違うのか?」

屋敷の中に上がっていって、晴明に詰め寄る。

  蜜虫 「博雅様!」
  博雅 「お前!帰ってきたのだぞ!お前を思って、思いあぐねて帰って
      きたとはそういう意味ではないのか?!今度はお前がきちんと
      答えを出すべきだろう!晴明!晴明!」
  晴明 「・・・」

  博雅 「お前は誰も愛さない、誰も寄せ付けない、誰にも心を開こうと
      しない。何故だ?!
      お前、呪がかかってるんじゃないか?!自分の出生への呪だ!
      お前はこの世に絶望している。生きても死んでもどうでもいい
      と思っている。この世を、人間を信じられなくなってる。女は
      余計に信じられないのだろう?お前にどんな過去があったのか
      はよく分からない。でも、いつまでも母親に拘るなよ、さっさ
      と忘れて蜜虫と一緒になれよ。幸せにしてやれよ、この女は、
      お前の事だけを考えて生きている女なんだぞ!!」
  蜜虫 「もうやめてください」
  博雅 「女一人、幸せにできないお前に、何が救えると言うのだ!自分
      一人救えないお前に、何が救えると言うのだ!」

それまで黙っていた晴明が、ようやく口を開く。

  晴明 「分かったような口を利くな」
  博雅 「!」
  晴明 「俺には、俺の思いがある。お前の思いを人に押しつけるな。
      俺は自分の幸せの為だけに生きられない。それが俺の定めだ」

  博雅 「定め!そんな…定めが何だと言うのだ。力一杯生きていくのが
      人生ってもんじゃないのか?人を愛して愛される事が生きてく
      って事じゃないのか?」
  晴明 「・・・」
  博雅 「お前の事をこんなに思っているのに、どうして蜜虫の気持ちが
      分からないのだ。どうして俺の気持ちが分からないのだ。どう
      して…。俺にはお前が分からないよ…」

  晴明 「・・・」

 

[次回予告]

  晴明 「では、陰陽師を辞めます…」


<第9話感想> 晴明の気持ちがわからない・・・

なんか、自分の感想と世間一般の感想(つまり公式BBSってことなんだけど)がずれてしまうと、非常に書きにくいのだけど・・・。

とにかく、私は最後の晴明の表情にやられてしまったのです。晴明が何も語らない、その静けさにやられてしまったのです。そして、晴明のその秘めた思いに、涙してしまったのです。

晴明の蜜虫に対する想い・・・冷たいなぁ、と思うことは多々あったのだけど(^^;)、でも、今回の全体的な静けさも好きだったし、その静けさの中に表現された晴明のその時々の想いの変化がたまらなく切なくて、苦しくて、そして

  蜜虫 「どこまでも付いて行きます」
  晴明 「・・・・・・ああ」

のシーンでまず涙が溢れ出しました。哀しい二人ですよね。

蜜虫については、式神なのに何で恋愛感情持つんだ〜!!という批判が集中していますが、う〜ん、何て言うのかな、私は人間になりたがった妖怪人間ベム,ベラのように・・・っていう喩えは何なので(^^;)、ピノキオみたいなものかなぁ、とか思ってみたりしています。「式神=心を持たない存在」の蜜虫が、晴明や博雅達と触れ合ううちに、心というものを持ち始める。ただ、蜜虫は式神だから、その心というものがどういうものか分からずにいて、鬼が住みついたと一人悩んでしまう。でも、そういった物が上手く解消できたときに、蜜虫は人間の心を持った存在として晴明の前に再び姿を現すことができたのかなぁ・・・なんて(と、自分で書いていても都合のいい解釈?)。

晴明は晴明で、「誰の心にも鬼は住む。だから人だ」と言ってるわけですし。

とはいえ、晴明の蜜虫に対する感情というのが、実際のところ、まだまだ推し量るのが難しいのですが、色んな物を背負っちゃってるから、なかなか素直になれないのかなぁ…と簡単な解釈をしています。

などという議論をするから、恋愛ドラマみたいだと非難されるんだな。他にも色々と書きたいことはあるのだけど、上手く纏まっていないので、最終回が終って、整理ができそうだったら、まとめてアップします。

さてさて、次回はいよいよ最終回。うん、楽しみですよ、純粋に。ハッピーエンドにはなりそうにないけど、心に残る最終回を期待しています。

追伸:今回のレポ、私が本当に伝えたかったのは台詞の無い部分、晴明のその時々の表情だったりするのですが、上手く表現できていないことをお許しください。

(01.06.03)


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