〜 第 八 話 「 鬼のみちゆき 」 〜
[夜 六条大路の辻]
暗闇の中、かがり火をたいて、牛が牽いていない牛車が都の通りを進む。
原作 夢枕獏
脚本 渡辺美穂子
音楽 H.GARDEN
稲垣_吾郎
演出 小田切正明
「第八話 鬼のみちゆき」
その牛車の前に数名の男達が立ちはだかる。男達は牛車を見て、物の怪だと判断し、先に進むことを阻止しようとする。牛車から白装束(花嫁衣装)の女(戸田菜穂)が降りてきて、男達の前に立つ;
女 「(丁寧に)この道をまっすぐ上がってまいります」
男1 「ここを真っ直ぐ行けば内裏だぞ!何しに行く?!」
女 「・・・」
男2 「何しに行くと聞いているのだ!!」
女 「あの人をお連れします。邪魔をするな!!」
その女の叫びと同時に稲妻が閃く。その稲妻が男達の頭上に落ち、そのまま道に倒れてしまった。その男達の傍らを、再び牛車は内裏に向かって進んえいくのだった・・・。(この雷のCGはこれでいいの?(苦笑))
[翌昼 宮中]
兼家を含む数名の貴族達が、昨晩出たという牛車に乗って現れた女の話をしている。毎晩、子の刻に現れ、一晩に一つの大路を進み、内裏に向っているというその牛車。そして、狙われているのは誰か・・・。
一方、その傍らでは博雅と親友の村上正嗣も、同じくその女の話を続ける;
博雅 「みんな、内心では自分に向っているのかもと心配なのだな」
正嗣 「博雅殿は大丈夫か?」
博雅 「俺は大丈夫だ!」
正嗣 「ははは。そうだろうな」
博雅 「どういう意味だそれは?!」(それはそういう意味でしょう…(^^;))
[同 宮中 陰陽寮]
一方の晴明君、天球らしきものを覗いたりして、久々のお仕事風景です(笑)。そこに使いがやってきて
男 「おそれいります。帝がお呼びです」
晴明 「すぐにまいる」
[同日 通り]
帝との話が終わり、晴明が帰ろうとするところに、博雅と正嗣に出会う。
博雅 「おお、晴明」
晴明 「おお」
博雅 「紹介するよ。俺の同僚の村上正嗣だ」
晴明 「安倍晴明です」
正嗣 「お噂はかねがね」
博雅 「宮中ではあの牛車の女の噂で持ちきりだ」
晴明 「ああ、あの男も恐がっている」
正嗣 「あの男とは?」
博雅 「そういう言い方はよせと言ってるだろ!!」
と、晴明の言葉に冷や冷やの博雅君でした。
[同昼 晴明の屋敷]
広げられた都の地図を指さしながら、牛車の行く道をたどる博雅。
博雅 「今夜は五条か・・・」
晴明 「道と道が交わる辻は魔性の通り道」
博雅 「魔性の通り道・・・。だから辻に現れては消えていく。やはり
物の怪か?」
蜜虫 「男の方がいけないんです。女をそこまで追い詰めるなんて、
男の方が悪い!」
と、蜜虫ちゃん、ここで厳しい一言(^^;)。そして、晴明、黙って立ち上がり、出かけようとする。
博雅 「おい、待て。行くのか五条へ?なら俺も」
晴明 「散歩だよ」
博雅 「本当か?」
晴明 「ああ。じっくり、女の言い分を聞いてやってくれ」
博雅 「ああ」
と、晴明は屋敷を出て行く。一方の博雅は、女の言い分を聞くために、蜜虫の前に座る。
博雅 「さぁ、その男が悪いのだな。じっくり酒でも飲みながら、話を
聞こうかな」
蜜虫 「・・・」
[同夜 五条大路の辻]
晴明が1人、大路にやってくる。そこに今晩も牛車に乗って、女がやってくる。
女 「貴方〜、愛しい貴方〜、私は此処よ、此処にいるわ。
貴方〜、どうして迎えに来てくれないの」
そう、呼びかけつづける女の前に、晴明が歩み寄る;
晴明 「誰かお探しですか?」
女 「!」
晴明 「私も一緒に探しましょう。
その白装束は・・・ああ、結婚されるのですか?貴女がお探し
なのはその相手・・・フフフ、逃げられましたか?それとも…」
女 「黙れ!」(そりゃ怒るわな…)
稲妻が光る。晴明は印を結び、そして、稲妻が晴明に落ちることは無かった…;
女 「あなたは・・・」
晴明 「陰陽師、安倍晴明」
女 「安倍晴明・・・」
晴明 「あなたは?」
女は晴明の言葉に耳を貸さず、そのまま牛車に戻り、立ち去っていった。
晴明 「死霊か・・・」
(って、そのまま見送ったらだめじゃないよ〜)
[翌日 昼 晴明の屋敷]
晴明の屋敷に今日も顔を出している博雅。昨日、晴明が自分を放って出掛けたことを根に持っているようす。
博雅 「どうして連れて行ってくれなかったんだ、昨夜(ゆうべ)」
晴明 「気を利かせたんだよ」(そんな事して、いいのかなぁ…)
博雅 「な、何を言ってるんだ。俺はお前と一緒にだな…」
蜜虫 「その方、結婚したかったんでしょうね」
博雅 「死んでも諦められないほど、その男と結婚したかったのか…」
蜜虫 「結婚というより、ただ、愛する人と一緒に、生きたかったんで
しょうね、いつまでも。恋をすると、自分が自分でなくなって
しまう。毎日どんな思いで待っているんでしょう。好きになる
ってつらいですね」
そう言い残して、蜜虫は部屋を出ていく。
博雅 「晴明・・・?」
博雅が晴明の顔を見て、何かを言いたげにしていたときに、庭に兼家の姿が見える。
晴明 「兼家殿?どうされたのですか、共も連れずに…」
兼家 「いやその・・・会ったのであろう?」
晴明 「誰に?」
兼家 「だから・・・牛車の女に」
晴明 「何かお心当たりでも?」
兼家 「いやいや」
晴明 「それはよかった」
兼家 「う、うん」
晴明 「今夜もその女に会いに行きます」
兼家 「そうか」
晴明 「誰にどんな恨みを持っているのか、じっくり聞いてきますよ」
兼家 「そうか、みんな不安がっている。宜しく頼む」
と、まだまだ何か言いたそうにしながらも、晴明の屋敷を出て行く兼家。
博雅 「余程恐いと見えるな。今夜は四条大路の辻か?」
晴明 「お前も行くか?」
博雅 「当たり前だろう」
[同夜 四条大路]
晴明と博雅が、通りを進む。
博雅 「あの女が向っているのは、兼家殿の処か?」
晴明 「そう思うか?」
博雅 「じゃぁ、帝か」
晴明 「この大路の行く手には、貴族がいっぱいいるからな」
博雅 「ということは…。ああ、正嗣、どうしたんだこんな時間に?」
晴明と博雅は、問題の通りに向かう手前で正嗣と出会う。
正嗣 「いや、色々やることがあるもんでな」
博雅 「そうか、いよいよだからな」
正嗣 「ああ、おまえこそどうした、こんな時間に?」
博雅 「四条大路の辻へ行く。帝を始めみんな大騒ぎだ。何とかしない
とな」
正嗣 「そうか・・・」
博雅 「あの牛車の女、どうやら死霊らしいぞ」
正嗣 「死霊?」
博雅 「それが白装束なんだ」
正嗣 「!」
晴明 「?」
博雅 「結婚するはずの男でも待っているのかなぁ?」
晴明 「では、失礼、いくぞ」
博雅 「ああ。じゃぁな」
正嗣と別れ、四条大路の辻に向かう晴明と博雅。到着すると、牛車の女がと昨日と同じように「貴方!どこにいるの、早く迎えに来て」と叫んび続けている。その女の前に晴明君が歩み寄る。
晴明 「まだ会えないんですか、その男に?。貴女の邪魔はしません。
この男も一緒です」
博雅 「あなたの力になりたいんです。探しますよ」
だが、そんな二人の言葉にやはり耳を貸さず、女は1人、男を求めて叫び続ける。
博雅 「誰に呼びかけてるんだ!誰だ、教えてくれ!俺が連れてくる、
必ず此処に連れてくる」
なおも男に呼びかけつづける女。
博雅 「そんな事してどうなる。馬鹿な真似はやめろ!」
その博雅の言葉に、ようやく自虐的に語り始める女。
女 「ははは、そうね、馬鹿よね。忘れたいのに忘れられない・・・
会ってはいけないと思いながらも、会いたくて会いたくて会い
たくて…。どうして好きになってしまったのだろう?どうして
あの人でなければならないの?。ああ、ああ、この胸の中から
あの人を取り出してしまいたい。なのにできない、あなた〜!」
博雅 「誰なんだ、その男は誰なんだ。言ってくれ、何故言わないのだ?」
女 「あの人は、きっと来てくれる。だって約束したもの」
博雅 「約束?」
女 「約束を破ったら、許さない。私がいるのに他の女と一緒になる
なんて、許せない!待ってるのに、ずっと待ってるのに、私を
裏切ったら許さない!」
そう言って、今夜も牛車は消えていった。足元には椿の花が・・・。
そこに、道満が現れる。晴明達と女のやり取りを見ていたようである;
道満 「ははははは。おお、帝の飼い犬ども!」
博雅 「道満殿」
晴明 「やはり貴方でしたか」
道満 「はは。座興じゃよ、座興」
晴明 「憐れな女を使ってお遊びですか?」
道満 「馬鹿者どもにはいい薬じゃ。たった一人の死霊が出ただけで、
あの様だ。ちっぽけな権力を振りかざし、遊び呆けて好き勝手
やってる奴らに、ちょいと小石を投げただけじゃ」
博雅 「あの女には何も関係ないだろう!」
道満 「馬鹿が、大ありじゃ!あっ、(酒を)飲むか?」
博雅 「ううん(拒否)」
晴明 「あの女は今、一人の男の命を奪おうとしています」
道満 「ああ、そうだな」
晴明 「あなたは・・・その手助けをしたんです」
道満 「何を言うんじゃ。腐った都に染まり、ロクな事をしとらん男の
命より、憐れな女を救うほうが、余程世の為じゃ」
博雅 「救う?!」
道満 「ああ、そうだ」
博雅 「(道満の手にした酒の肴を見て)何だそれ?」
道満 「蜥蜴の燻製だ。食うか?」
博雅 「うううん」
道満 「ワシがお膳立てをしてやらなければあの女は自分にケリが付か
なかった。あの女が待つ男は、出世の為に平気で女との約束を
破った」
博雅 「出世の為?」
道満 「ああ。惚れてもない女と一緒になって、出世の踏み台にするつ
もりじゃ」
博雅 「まさか、相手が誰だか分かっているのですか?」
晴明 「それで、術をかけたのですか?一晩に一条の辻を上がっていく
という」
道満 「どうじゃ、面白い趣向だろ?」
晴明 「そんなお膳立てで、あの女の心にケリが付くと本気でお考えで
すか?」
道満 「なに?」
晴明 「道満殿ともあろうお方でも、女心は分かっていないようですね」
道満 「はは。じゃぁ、お前に分かると言うのか?」
晴明 「さて、どうでしょう」
道満 「まぁ、いい。お前が俺の術をどう解くか、楽しみじゃ。
(手にした酒の肴を博雅に放り投げ)ほれ、はははは」
と言って、晴明と博雅の前から去っていた。
そのまま晴明と博雅は家路に向う;
博雅 「どんな鬼かと思っていたが、哀しい女だったな。ひょっとして
正嗣ではないよな。あいつもうすぐ婚礼だ」
晴明 「ああ」
博雅 「相手は菅原成道殿の娘、兼家殿の重臣だ。あいつ、出生の為に
結婚を?まさか、あいつに限ってそんな!なぁ晴明?」
とはいえ、晴明君は話を逸らして(?);
晴明 「雪山童子(せっせんどうじ)の話を聞いた事があるか?」
博雅 「雪山童子?」
晴明 「ある山の中で、鬼神が唱えていた経に心を打たれた雪山童子が、
雪山童子自分の身を鬼神に食らわせてでも、その続きを聞きた
いと願うという話だ」
博雅 「で、自分の身を食らわせたのか?」
晴明 「雪山童子が鬼神に身を投げ出した途端、鬼神は帝釈天へと姿を
変えた」
博雅 「それで?」
晴明 「それだけだ」
博雅 「また呪の事を言ってるのか?」
晴明 「まぁな」
博雅 「わかっている。あの女がかかっているのは、恋の呪だ」
晴明 「ああ」
博雅 「相手は、正嗣なのか?」
晴明 「どうだろうな?」
晴明はさらりとかわすが、博雅はまさか正嗣のことが気になる。
[翌日 宮中?]
正嗣に直接会い、牛車の女の話をする博雅。結婚相手に本当に惚れて一緒になるのかと、確認する。だが、正嗣は「あたりまえだろう」と答え、さらに、そこにやってきた婚約者と仲睦まじい様子を博雅の前で見せる。
[夕刻 晴明の屋敷]
今日も兼家が晴明の屋敷にやってきていて、なにやら庭をうろうろと・・・(^^;)。
兼家 「・・・いや、その・・・」
晴明 「牛車の女の事ですか?兼家殿、一つお聞きしたい事があります」
兼家 「何だ?正嗣殿と満子殿の間を取り持ったのは、兼家殿と伺いま
したが…」
兼家 「ほほほ、あれか。あれは正嗣の為にやったのだ。あいつの家は
落ちぶれておったからのぉ。お家立て直しといった所だ」
晴明 「ご親切ですね」
兼家 「そんな事より、晴明、今夜も辻にいくのか?」
晴明 「はい」
兼家 「そしたら、明日屋敷に来てくれ、色々と聞きたい事がある」
晴明 「・・・」
兼家 「いや、いや、その帝も心配しておられたからのぉ」
晴明 「わかりました」
兼家 「それじゃぁ」
晴明の屋敷を出て行く兼家。それと入れ違いに博雅がやってくる。
博雅 「兼家殿は何だって?」
晴明 「牛車の女の事だ」
博雅 「相当、参っているようだな」
晴明 「どうした?何か良い事でもあったのか?」
博雅 「いや、あの二人、やはり愛し合っている。正嗣だよ。ホッとし
たよ。あいつが惚れてもいない相手と一緒になるはずが無いも
んな」
晴明 「・・・」
[同夜 三条大路の辻]
今夜も「貴方〜」と呼びかけつづける女。そして、今夜も晴明と博雅はその女の元にやって来る。
博雅 「誰に呼びかけてるんだ?男にどうして欲しいのだ?」
女 「思い出して欲しいのです、私を」
博雅 「思い出して欲しい?」
女 「あの人に忘れられるのがつらいのです」
と言って、直ぐに「貴方〜」と再び呼びかける。そして、今度は晴明君;
晴明 「思い出してくれれば、忘れていなければそれでいいのか?どう
なんだ」
女 「いや、私はあの人をつれていく!」
で、また、そのまま女は牛車にのって帰っちゃうんだな(だから、放っておかないで、何とかしなさいって!)。
道満 「いよいよ明日は朱雀門だな。あの憐れな女を、お前はどう救う
つもりだ?まぁいい。明日のお楽しみじゃ、面白くなってきた
ぞ!ははははは」
と言って立ち去る。
晴明 「・・・」
[翌日 兼家の屋敷]
昨日の兼家との約束通り、晴明は兼家の屋敷にやってきている。
兼家 「で、どうだった?牛車の女は?何とか止めてくれ」
晴明 「私にはとても手におえる女ではないようです」
兼家 「何、安倍晴明でもか?」
晴明 「あの女を鬼にしたのは、兼家殿、あなたです」
兼家 「どういう事だ?」
晴明 「正嗣殿の結婚、少しも心が痛みませんか?」
兼家 「痛む?何故だ」
晴明 「出世を餌に、要らなくなった女を部下にあてがうなどと」
兼家 「ふふふ。正嗣は満子の事を知らない。それで良いではないか」
晴明 「あなたが人の心を弄ぶから牛車の女は鬼になった。これからも
何台の牛車が兼家殿に向うことやら・・・。
ご自分の不始末は、ご自分で解決して頂かないと」
兼家 「ふっ、たかが陰陽師のくせに」
晴明 「しかし、たかが陰陽師ごときに縋られている、天下の兼家殿が。
女の心一つ動かせず、人の世を動かすとは・・・。国の将来、
案じられます」
兼家 「何?」
晴明 「兼家殿、人の心、金や権力だけで動くとは限りませぬ。では、
私は・・・」
兼家 「晴明!」
兼家の呼びかけに答えず、晴明は黙って兼家の屋敷を後にした。
[同日 正嗣の屋敷]
婚礼の準備が行われる正嗣の屋敷内。その庭に晴明が現れる。
正嗣 「どうなさいました、晴明様?」
晴明 「この花に覚えはありませんか?」
正嗣 「いいえ」
晴明 「そうですか・・・。
女は貴方を呼んでいます。いや、貴方に迎えに来て欲しい様だ。
毎晩、子の刻に、牛の引かない牛車に乗って女は貴方を待って
います」
正嗣 「私には関係ない。帰ってくれ!御覧の通り今夜はひ合せの日だ。
私の結婚なんだ。非常識にも程がある。さぁ、帰ってくれ!」
晴明 「今夜は朱雀門に来ます。・・・行った方がいい。貴方次第です」
そうして、晴明は女が落としていった椿の花を置いて帰っていく。
[同夜 正嗣の屋敷]
夜、満子と寝ている正嗣
[同夜 朱雀門前]
晴明と博雅は朱雀門で牛車を待ち構える。
博雅 「そろそろ来る頃だな。お前、相手の男が誰だか分かっているの
か?」
晴明 「来たぞ」
牛車から降りた女は、今夜も男を呼ぶ。その様子を、じっと見つめる博雅と晴明、そして、陰から覗いている正嗣の姿。女は正嗣が近くにいることを感じ取る。
女 「貴方ね・・・この近くにいるのね!ああ、貴方〜。覚えている?
3年前の冬の夜、貴方は私に言ったわね、何処へも行くな、俺
の側にいてくれって。あれは私の結婚の夜だった。貴方は私の
手を取って夜の闇を連れ出してくれたわ。外には雪がちらつい
ていて、冷たくなった私の手を貴方はそっと包んでくれた」
家のための結婚から逃げ出したものの、二人が一緒になれるのはあの世しかない。そうして、椿の花に、あの世で永遠に一緒にいようと二人は約束をしたのだった。しかし、正嗣だけが生き残り、女は三年間、男を待ちつづけた。だが、男が自分を裏切る事、忘れる事が女には絶えられなかった。
その女の思いを聞いて、正嗣は女の前に姿を現す。
正嗣 「ごめん、淑子」
淑子 「貴方なのね。本当に貴方なのね」
抱き合う正嗣と淑子。淑子は正嗣を夜が明ける前に(あの世に)連れて行こうとする。しかし・・・
正嗣 「行けない。お前と一緒には行けないよ」
その正嗣の言葉に、出世をしたいがためにあの女と結婚をするのかと責め、懐から出した小刀で正嗣の胸を貫こうとする。ここでようやく晴明君;
晴明 「待て!その男の胸を刺せるのか!」
淑子 「黙れ!約束したのよ、あの世で一緒になろうって。そうよね、
約束したわよね?」
晴明 「この世は動いている。一瞬でも止まっているときは無い。太陽
は昇り、沈んでいく。季節はうつろい、人の心は変わっていく。
約束も流れ行く時の中で、形を変えてゆく。永遠じゃない。
かつて抱かれたその胸を貴女はその手で刺せますか?正嗣殿の
未来を貴女のその手で奪えますか」
(って、今回の晴明の台詞、ちょっと意味不明じゃない?)
だが、正嗣は、(さっきは行けないと言っておきながら)晴明の言葉を否定する;
正嗣 「もういいのです。淑子、殺してくれ。あの時俺も死にたかった。
お前と一緒に死にたかったよ。まさか俺だけが、俺だけが生き
残ってしまうなんて・・・」
正嗣は語る、三年間、淑子の事を一瞬たりとも忘れずにきたが、結局、死ぬことも出来ず、ただ生きていただけだったと。
正嗣 「お前がいいなら、それがいい・・・」
しかし、そんな正嗣の思いを聞いた淑子は、もはや正嗣に刃物を向けることはできなかった。
淑子 「貴方がこんなに苦しんでいるなんて、知らなくて、私・・・。
御免なさい、御免なさい。ああ・・・」
泣き崩れる淑子を抱き起こす正嗣。
正嗣 「どうした・・・?」
淑子 「見せて、貴方のお顔。よく見ておきたいの。お願い、私を抱き
締めて・・・」
その通りに、顔を淑子の前に近づけ、抱き合う二人。
淑子 「忘れない。この胸も肌の温もりも・・・忘れない・・・」
正嗣 「淑子、何を言ってるんだ。これからは一緒だろ?俺を連れて行
ってくれるんだろ?」
淑子 「貴方を連れて行けない。貴方は生きて。生きて!」
正嗣 「待て!行くな!せめてもう少し、もう少しだけ此処にいてくれ!」
淑子 「もう少し一緒に居たら、もっと一緒に居たくなる。もっと一緒
に居たら、もっと離れられなくなる。貴方にもう一度抱き締め
られたら、永遠に離れられなくなる・・・」
立ち去ろうとする淑子をじっと見る正嗣。
淑子 「笑って・・・あなたの笑顔が好きだった」
そして、もう一度、顔を見合わせる二人:
淑子 「もう忘れたわ、貴方の事。貴方も忘れて。幸せになって。さようなら」
正嗣 「淑子〜!!
黙って二人の様子を見つめる晴明と博雅。
事が終わり・・・
道満 「なかなかの座興だったな。人を傷つけるのも人、人を救うのも
また人か。晴明、お前を帝の飼い犬にしておくのは勿体無い。
どうだ、ワシと組まぬか?」
だが、晴明も博雅も、無言でその場を立ち去った・・・
[数日後 晴明の屋敷]
蜜虫 「愛する人の事を思って、自ら身を引く・・・そういう愛仕方も
あるんですね」
博雅 「晴明、あの、雪山童子の意味がやっと分かった気がするよ」
晴明 「そうか」
博雅 「命まで投げ出そうとした時、鬼は鬼でなくなるのかもしれない
な」
晴明 「ああ」
そして、そんな話をしているところに;
蜜虫 「命がけの恋・・・」
博雅 「!」
蜜虫 「私にも出来るかな・・・」
博雅 「えっ」
蜜虫 「傷つく事を恐がっていたら、何もはじまらない」
博雅 「命懸けの恋って・・・相手は・・・その・・・」
蜜虫 「知ってます、博雅さま?一番の恋は忍ぶ恋って言いますよ」
そうして、ゆっくりと晴明を見る博雅。そして晴明は・・・
晴明 「あっ」
蜜虫 「雪」
博雅 「おお、雪だ。・・・あれから正嗣はどうしているかな」
縁側で三人が眺めるその庭に、真っ白な白い雪が舞い落ちる。
[翌日 野原]
雪の舞い散る野原を1人行く晴明。
[次回予告]
晴明 「それは、お前が決めることだ…」
<第8話感想> 晴明の気持ちがわからない・・・
さて、原作に沿った内容ではラストの第8話。
今回は、晴明の出番は多かったのだけど、晴明の心がわかんない…。
淑子には「逃げられた」とか言って意地悪だし、兼家には挑発的だし、道満も無視するし、蜜虫には冷たいし・・・。色々とラスト2話に向けて、伏線が張られているのだろうとは思うのだけど(特に蜜虫の関係は次週に乞うご期待、と言いたいのだろうけど)、これまでの流れとは、明らかに違うものを感じてしまいました。特に、兼家との関係は、ドラマ版晴明は上手く世渡りしていくキャラだと思っていたのだけど、あそこまで正面きって意見しちゃダメでしょう。こういうのは、遠回しに言うのがいいのになぁ。
それに、今回こそは、ちゃんと晴明が術を解いて欲しかったです。最後は淑子と正嗣を面会させて欲しくなかったのよ…。晴明が正嗣のメッセンジャー+カウンセラーとなって淑子を救うとか、もしくはこの際、正嗣を悪者にしてしまうとか・・・な〜んていう展開でもいいんじゃない?道満と術比べらしい術比べを見たかったです。
と、文句だけをたれていても建設的じゃないか。ラストのシーンは好きなんだけど、今度は晴明と蜜虫、そして博雅の関係が気になっちゃって…。来週、ドラマ版の真価が問われる話になるだろうと思うので、この辺のところを含めて、きっちり描いて欲しいですね。
(01.05.27)
ホームに戻る
|