陰 陽 師  o n m y o u j i

〜 第 七 話 「 露 と 答えて 」 〜


[三日月の夜 都の通り]

数名の舎人を従えて、牛車が夜の都路を進む。

       原作 夢枕獏

       脚本 田中

       音楽 H.GARDEN

       稲垣_吾郎

       演出 小田切正明

     「第7話 露と答えて」


その牛車には、藤原兼家が乗っている。

  舎人 「うわ〜、鬼だ〜。鬼だ〜!!」

牛車を鬼が襲う。牛車に乗っている兼家にも鬼が襲ってこようとするが、やがてその騒動が静まる。

[翌日 昼 晴明の屋敷]

縁側の拭掃除をしている蜜虫。屋敷の中から晴明が縁側に降りてくる。

  蜜虫 「兼家様が鬼に出会われたのですか?」
  晴明 「大事は無いという事だから、わざわざ行くのも面倒なのだが…」
  蜜虫 「そんな・・・。百鬼夜行に出会われたなんて、きっと気が動転
      されていらっしゃいます。少しでも手助けできる事があれば…」
  晴明 「わかっている」

そして、出かける晴明を、蜜虫は頭を下げて見送る。


晴明は屋敷を出ていくと、そこには水仙の花を手にした博雅がいた。慌てて花を後ろに隠す博雅。

  博雅 「うわっ。せ、晴明。出掛けるのか?」
  晴明 「ああ。直ぐに戻る。その花、蜜虫にか?」
      (と、ちゃんと察している晴明(^^;))
  博雅 「いや、それは・・・」
  晴明 「ゆっくりしていけ。少し遅くなるかもしれん」

博雅にそう言って、晴明は牛車の方に歩いていった。


晴明の屋敷内。今度は、庭の掃除をしている蜜虫。そこに博雅が屋敷内に入ってきて、その博雅を蜜虫が迎え入れる。

  蜜虫 「博雅様、たった今、晴明様が・・・」
  博雅 「ああ、今、そこで会った」

そして、博雅はなんとか蜜虫に手にした花を差し出す(^^;)。

  蜜虫 「私に?」
  博雅 「ああ、いつも通り道に可憐に咲いていたんだ。気に入ってんだ」
  蜜虫 「綺麗・・・」
  博雅 「派手な花もいいが、俺は何故かいつもこの花ばっかり目にとま
      ってな。何故か分からないが、ずっとこの花が好きでな。まる
      でこの花は君のようで…。だから俺は…好きなんだ、この花が」
  蜜虫 「本当に綺麗ですね。お酒でも飲んでお待ち下さい」
  博雅 「いや」

と、蜜虫は淡々と、いつもの通りに酒の準備をしに、屋敷の中に入っていく。

  博雅 「・・・」(^^;)

[同昼 兼家の屋敷]

兼家の屋敷に呼ばれた晴明は、兼家の面会中。

  兼家 「ほほほほほほ。この兼家を見くびるな。鬼ごときでうろたえる
      男ではないわ」

兼家は、様子を見にやってきた晴明に、余裕をもってそう答えた。

  晴明 「さすがは兼家殿。感服致します」
  兼家 「大体、牛車には、おぬしから貰った、尊勝陀羅尼の札が貼って
      ある。鬼どもが入れないのは分かっていたのだ。ほほほほほ」
  晴明 「時子殿の所に向われる途中だったとか?」
  兼家 「うん・・・まぁ、な。
      (側人を呼んで)誰かこれを時子に届けてくれ。暫く行けんと
      詫びを入れてな」

部屋の外では、二人のやり取りを一人の女性(後藤理沙)がこっそり覗いている。

  兼家 「(櫛を手にして)そうそう、これも一緒に。いやいや、それだけ
      で十分だ。これは大伴の。ほほほほほ」
  晴明 「・・・」


兼家の屋敷を出ると、そこには一人の先程、晴明と兼家の話を聞いていた女が立っていた。晴明に近づいてきて、女が話し掛ける;

  聡子 「安倍晴明様でいらっしゃいますね?」
  晴明 「あなたは?」
  聡子 「兼家の娘、聡子と申します」

[同昼 夕子の屋敷]

聡子はそのまま晴明をとある屋敷に案内する。

  聡子 「こちらです」

晴明を屋敷の中へと案内する聡子。屋敷の中の一室では、聡子の母親 夕子が床に伏していた。

  聡子 「母です・・・。(枕元に座って)お母さん・・・」
  晴明 「・・・」

晴明が部屋を見回すと、その部屋の床には、数多くの折り鶴が敷き詰められていた。

[同夕方 夕子の屋敷]

そして、晴明は聡子の母の病状を診終える。

  晴明 「もう心配は要りません」
  聡子 「ありがとうございました」

一安心した聡子は、晴明に自らの事、母の事を話始める;

  聡子 「私はここで生まれました、物心付いたときから。母はずっと父
      を待っていました。父が来ない夜は母は鶴を折る習慣でした。
      父がまた通ってくれるようにお祈りだといって一夜に一羽ずつ。
      でも、幾ら鶴を折っても父は来なくなりました。それで、母は
      私を父の屋敷に送り出したのです、幸せをつかみなさいって」

晴明は黙って聡子が話すのを聞いている。

  聡子 「母はそれが私の幸せだと思ったのです。でも私は、私が欲しい
      のは母の幸せなんです」
  晴明 「・・・」

誰も仕えるものもいないこの屋敷で、一人病床に伏せてしまった母への思いを晴明に訴える聡子。夕子の意識が戻ろうとしたのに気づいて、「私もう行かないと…」と言って屋敷を出る。


屋敷の門前で、晴明は聡子を見送る。

  聡子 「お願いです、私の事は母にも父にも言わないで下さい。母とは
      二度と会わない約束になっているので・・・」
  晴明 「わかりました」
  聡子 「ありがとうございました。どうか、母をよろしくお願いします」

そう頭を下げて、聡子は夕子の屋敷を後にする。


再び屋敷の中に戻ってくる晴明。煎じた薬を手にしている(って、完全にお医者さんと化してるのね)。その晴明の気配に気づき、目を覚ます夕子。

  夕子 「ああ、兼家様・・・」
  晴明 「薬です」
  夕子 「! あなたは?どうしてここに?」
  晴明 「さぁ、楽になります」
  夕子 「助けて下さったのですね。捨てておいて下さったら良かったのに…」
  晴明 「ゆっくり休んで下さい。また様子を見に参ります」

[同夜 晴明の屋敷]

縁側に座り、今日一日の出来事を蜜虫と話している晴明と蜜虫。一方の博雅は昼間にやってきて、そのまま部屋の片隅で眠っている(フリをしている)。

  晴明 「ふっ。随分と飲んだようだな、昼間っから」
  蜜虫 「それにしても、本当にお気の毒ですね、聡子様のお母様」
  晴明 「夕子殿というらしい」
  蜜虫 「それでお加減は?」
  晴明 「体より、心の方が弱っているようだ」
  蜜虫 「そうですか。何とか元気を取り戻して頂けるといいのだけど。
      全く、男の方はあちらこちらと、蝶よりも移り気なんですね。
      一人の女をずっと愛することはできないんですか?」
  博雅 「それは人によるのだ!」

と、ずっと聞き耳を立てていた博雅が起き上がって反論する(^^;)。

  蜜虫 「ああ、博雅様」
  晴明 「おまえ・・・聞いていたのか?」
  博雅 「あたた、あた」

と、起き上がろうとするが、酒による頭痛のため、よろけている。

  博雅 「それは兼家殿が悪い!俺達で何とかしてやらねば!!」
  晴明 「(呆れ顔で)おまえな…」
  博雅 「見過ごす訳にはいかんだろ!一途な想いには一途な想いで答え
      るのが本当の男だ。俺はそう思うぞ。ただ一人の女を愛するの
      が男だ。俺がガツンと言ってやる!」
  晴明 「他人が口出しするような事ではない」
  蜜虫 「それに相手は兼家様ですよ!お怒りをかうだけです」
  博雅 「いやしかし…。母を案じて思いつめている聡子殿を放っておく
      訳にはいかん!」

そう言いながら、ヨロヨロと庭に下りて;

  博雅 「さぁ、晴明、行こう!兼家殿の所に」
  晴明 「お前、何を意気込んでいる?
  博雅 「いや・・・だから・・・兎に角、行こう!
  晴明 「嫌だ。行かぬ
  博雅 「行こう!
  晴明 「行かぬ
  博雅 「頼むから!!

[同夜 兼家の屋敷]

兼家と面会する晴明と博雅。

  兼家 「夕子か・・・。確かに3年程前までは通ったことがある」
  博雅 「夕子殿はずっと待ち焦がれて、具合が良くありません。すぐに
      お会いにならねば」
  兼家 「やめとこ、気が重いわ」
  博雅 「そんな兼家殿…」
  兼家 「いや、今はそれどころではないのだ。ついこの間ようやく大伴
      康弘の姫から色よい返事をもろうてな。ほほほほほ」
  晴明 「それはそれは」

と、上手く相づちを打つ晴明に対し、博雅は;

  博雅 「ちょ、ちょっと待ってください。夕子殿の話をしているのに、
      新しい女の話など!」
  兼家 「博雅、お前は年がら年中、同じ物を食い続けられるか?例えば
      ・・・麦」
  博雅 「は?」
  兼家 「肉に魚、塩漬けの瓜に、大根のにらき…。他に美味しいものが
      沢山あるのに、麦だけ食えるか?」
  博雅 「…俺は食います!ずっと食います」
  兼家 「目の前のほかの味を知らずに死んでいくのか?つまらん人生だ。
      この世に生まれた楽しさ、味わい知らずに死んでいくのが美徳
      だと思っておるのか?」
  博雅 「いや、しかし・・・麦にも心があります」
  兼家 「心?」
  博雅 「捨てられれば悲しいと思う心が!」
  兼家 「お前、私に説教しにきたのか?立場もわきまえず、そんな下ら
      ない口出しをしにわざわざ来たのか?」
  博雅 「しかしそれは・・・しかし夕子殿が!」

ここで、またまた晴明が口を開き、博雅の話とは全く違ったことを兼家に話し始める;

  晴明 「兼家殿、先日鬼にあわれた事で、悪い気が憑いていないかと、
      心配して参ったのです」
  兼家 「悪い気?」
  晴明 「夕子殿の所に行っている場合ではありません。“瘴気払い”を
      なされたら如何ですか?」
  博雅 「晴明!」
  兼家 「瘴気払い?」
  晴明 「明日にでも、是非」
  博雅 「いや、そんな事より夕子・・・」
  兼家 「黙れ。博雅、下がれ!晴明頼もうか?」
  晴明 「わかりました」
  博雅 「晴明、見損なったぞ!!私は麦だけを食べ続ける男が好きです」
  兼家 「無礼な奴」
  晴明 「・・・」

というわけで、兼家様は晴明の助言に従うことにしたのでした(って、後の展開を考えると、一旦は兼家が拒否して、言葉巧みに晴明が承諾させた、という展開にして欲しかったなぁ…)


博雅が部屋を出ると、廊下で一人の女性が慌てて立ち去ろうとするのが見える。

  博雅 「お待ちを、聡子殿では?」
  聡子 「はい・・・」
  博雅 「源博雅です。始めまして、安倍晴明の友人で・・・」
  聡子 「ごめんなさい。つい、立ち聞きを。だって母の事かと思って」
  博雅 「なんだ、そんな事。謝る事ではない」
  聡子 「じゃぁ、有難うございます。母の為に怒って下さったのでしょ?」
  博雅 「聞かれたのか。でも俺は諦めません。兼家殿と夕子殿を会わせ
      ますよ。会わせるべきなんだ。だから聡子殿も…」
  聡子 「・・・ありがとう、博雅様。どうかよろしくお願いします」

[翌日 昼 都大路]

晴明に率いられて、兼家を乗せた牛車が共の舎人とともに進む。牛車の中から兼家は外の晴明に声を掛ける;

  兼家 「晴明、瘴気払いとやらは、厄介なのか?」
  晴明 『少しのご辛抱を』
  兼家 「どこまで行く?」

ここにきて、牛車が止まる。

  兼家 「晴明?」
  晴明 『少々、此処でお待ち下さい』
  兼家 「ああ」

と、晴明の言葉どおりに待っていると、牛車の外では、牛がうめき声を上げ、牛車が大きく揺れ始める。そして;

  男1 「鬼だ〜!!」(って昼間から鬼って出るの?)
  男2 「逃げろ〜!オイ、早く逃げろ!!」

との悲鳴が。慌てて、怯え慄いて、牛車から這い擦り出て、近くの屋敷に飛び込む兼家。その様子を、晴明、そして最初、いなかったハズの博雅や蜜虫、聡子達が笑いながら見ている。


一方、屋敷の中に助けを求めてあたふたと逃げてきた兼家は、そこに夕子の姿を見つける。「兼家様・・・」とハラハラと涙を流す夕子と、やられた…という表情の兼家(^^;)。


その頃、屋敷の外の晴明達は;

  博雅 「なぁ、晴明、どうしてだ。この間、鬼に遭った時は、落ち着い
      ていたんだろ?なのに、なぜ今日は我々の仕掛けにこうも見事
      にはまったのだ?」
  晴明 「嘘だ」
  博雅 「嘘?」
  晴明 「(^^;)こないだの、百鬼夜行は兼家殿の嘘だ」
  博雅 「何?」
  蜜虫 「確か、時子様の元に通われる途中で鬼に逢われたという事でし
      たよね?」
  晴明 「おおかた、他に女に会うのが忙しくて、時子殿には鬼に遭って
      行けぬと言い訳をしたんだろう」
  蜜虫 「ああ、呆れた・・・男の人っていうのは本当にもう・・・」
  博雅 「それは、人によるのだ」
  晴明 「鬼も恐れぬ強い男と思われれば一石二鳥…そう考えたんだろう。
      全く浅はかな事だ」
  博雅 「なんという不純な・・・なぁ」

と、博雅がおどおどと蜜虫に呟いてみても、なぜか蜜虫は怒って顔を背けてしまう。そんな3人はさておき(^^;)、聡子は幸せそうに屋敷の中を眺めている。


屋敷の中では、夕子が兼家の胸に抱かれている;

  夕子 「嬉しい・・・やっと来て下さったのですね」
  兼家 「久しぶりだなぁ・・・具合が悪かったそうで?」
  夕子 「いいえ、もう」
  兼家 「いやいや、大事にしたほうが良い。そうだ薬でも煎じてやろう」

と言いながら、逃げ出そうとして立ち上がると、ポロっと別の女に渡そうと思っていた櫛を落としてしまう。

  兼家 「あっ」
  夕子 「まぁ、綺麗・・・」
  兼家 「それは・・・お前に似合うと思ってな」
  夕子 「これを私に?ああ、嬉しい…。ありがとうございます、兼家様」
  兼家 「いや何々・・・(涙)」

[同日 野原]

帰り道。晴明、博雅、蜜虫と聡子が歩いている。

  博雅 「やはり、晴明にはかなわんな。俺は何の役にも立てなかった」
  聡子 「そんなことはありません。博雅様は一所懸命やって下さいまし
      た。私…私、忘れません」
  博雅 「そうか?」

と、博雅を必死にフォローする聡子。そして、空を見上げて・・・;

  聡子 「空が丸い、広い」
  博雅 「空は空だろう?違う形になるのか?」
  聡子 「私の空は四角くて小さいから」
  蜜虫 「いつもお屋敷にいらっしゃるから」
  聡子 「みなさん、ありがとうございました。忘れません、今日の事は」

そんな聡子を見て晴明君の気遣いが・・・;

  晴明 「聡子殿、この空の下には見たことも無い、もっともっと驚くよ
      うな大きな自然がある。折角だ、自分の目で大きくて広い世界
      を見ていかれたらどうだ?残念だが私たちはこれから用がある。
      この男(博雅)に案内してもらったらいい。どうだ、博雅?

  博雅 「おお、もちろん。俺が素晴らしい所に連れていってやる」

と、博雅は何の疑いも無く、晴明の言葉に応じたのでした。

[同日 山中]

山道を行く博雅と聡子。見た目はデート中の恋人同士?

  博雅 「いい天気だな、きっと聡子殿へのご褒美だよ」
  聡子 「ご褒美だなんて」
  博雅 「母君を案じる親孝行な聡子殿にな」
  聡子 「親孝行だなんて」
  博雅 「幸せになれるよ、母君は。兼家殿とまた幸せに」
  聡子 「父がまた、母の元に通ってくれるなんて、私は思ってません」
  博雅 「聡子殿・・・」
  聡子 「母もそれはよく分かっているんです。一人じゃ恋は出来ないも
      の。片思い…そんな男や女が世の中にはいっぱい、いっぱい、
      悲しいぐらいにいっぱいいるんですよね。私は女に生まれた幸
      せを大事にしたい」


そして、都の見える峠までやってくる二人;

  聡子 「都がこんなに小さく見える。小さいな、私の世界・・・」

そう言って、今度はいきなり駆け出す聡子。それを追う博雅。草原を駆け抜け、そのまま草むらに寝転がる二人・・・。そして、聡子は子供の頃に聞いた話を博雅に語り始める。

  聡子 「小さい頃に聞いた素敵な物語。ある男がね、一人の姫を好きに
      なって、お屋敷から連れ去ってしまうの。恋人に背負われて姫
      は初めてお屋敷の外の世界を見たんです。夜道を急いでいると、
      草についた水滴がきらきらと月明かりに光っていたので、姫は
      恋人に聞いたの、『あのきらきら光る物は、何?』。でも、姫
      を連れたい一心の男には答える余裕も無くて・・・。でもね、
      その後すぐに、姫は百鬼夜行にであって、あっけなく鬼に食わ
      れてしまいました。愛する姫を失った恋人は、嘆いて呟くの、
      『ああ、こんなふうに悲しく別れてしまうのなら、せめてあの
      時、愛しい人にあれは夜露だよと、教えてあげればよかった…』」
  博雅 「切ない話だな」
  聡子 「ええ。これが父が教えてくれたたった一つのお話。父は困った
      人だけど、こんな素敵なお話を教えてくれたからかな、私、父
      を憎めないんです」

[同昼 兼家の屋敷]

晴明は兼家の様子を見に、兼家の屋敷に舞い戻ってきている様子。

  兼家 「ハメたな、晴明・・・」
  晴明 「何をおっしゃいます。鬼などには動じない器量の持ち主です。
      あのお屋敷においでになったのは、夕子殿へのお優しい心から
      なのでしょう?

  兼家 「ふっ、晴明にはかなわんな。・・・だが、二度と面倒はご免だ。
      よいな。ひととき甘い時間を分け合った、だが、もう終った。
      互いにそれが分かっていて顔を会わせても、何も始まらん。分
      かっておるだろうが?」
  晴明 「(兼家の顔を伺いながら)兼家殿の優しい言葉以上の薬を、夕子
      殿には煎じることは、私にはできませんので・・・

  兼家 「ふ〜、(渋々に)暮らしの面倒は見る…それでよいだろう」

(というわけで、晴明君の勝ちでございますぅ)

[同昼 川原]

そのままデートを続けている博雅と聡子。

  聡子 「私ね、好きな人がいたんです。でも、母に止められちゃった、
      身分違いだって。自分と同じ苦労はしてはダメだって。それで、
      それでお仕舞い。私の恋はそこでお仕舞いなの。ずっと後悔し
      ていた、せめて気持ちを伝えればよかったって」
  博雅 「そうか」
  聡子 「願うだけじゃ、思うだけじゃ、何も始まらないもの…」
  博雅 「うん・・・どんな男なんだろうな?」
  聡子 「えっ?」
  博雅 「聡子殿の好きになった男だよ」
  聡子 「公達です。父の宴にいらしていた、とっても笛の上手な公達」
  博雅 「ほぉ〜。笛のな」
  聡子 「ええ」

聡子はそれ以上何も言わずに、聡子は川原に咲いている花…彼岸花を手にする。

  聡子 「この花大好き。・・・博雅様もう一度京の町を見たい」

[同夕方 峠]

もう一度、都の見える峠までやってくる。夕日が差し込む中、博雅はもう一度、ここに来よう、と聡子に約束をする。

  聡子 「博雅様、笛が聞きたいな・・・」

ここに及んでも博雅は気づかず(^^;)、聡子の願いに応じて笛を奏でる。

[同夜 山道]

日が暮れて、山を降りる二人。とつぜん、聡子は歩みを止める;

  博雅 「聡子殿?」
  聡子 「足挫いちゃった」
  博雅 「何!大丈夫か?」
  聡子 「歩けない」」
  博雅 「それはいかん。よし、おぶさって」

そして、月夜の中、博雅は聡子を背負って山を降りている。聡子は博雅に背負われて、自分の思いを語り始める;

  聡子 「夜露の物語を聞いた時、私思ったんです、大事な事はちゃんと
      口にしないといけないんだって。後回しにしたら手遅れになる
      かもしれないんだから・・・」
  博雅 「そうだな。その通りだな」
  聡子 「博雅様・・・私、あのね・・・私、本当はね」
  博雅 「何だ?どうした?」

そうは言っても思いを打ち明けられない聡子。そして、周りを見渡して;

  聡子 「・・・綺麗・・・きらきらしている」
  博雅 「(^^;)。・・・愛しい人よ、これが夜露だよ
  聡子 「!」
  博雅 「聡子殿?」
  聡子 「・・・博雅様の背中、温かい。
      ・・・(涙を拭いて)降ります。ありがとう博雅様」
  博雅 「何だよ急に?」

そして、博雅の背中から降り、「今日のこと忘れません。さようなら」と言って走り去ろうとする聡子。その姿を見て;

  博雅 「あっ、足!」
  聡子 「私は嘘つきなの!悪名高い兼家の娘ですもの(笑)」
  博雅 「聡子殿!」

そのまま、聡子は消えていった。博雅のいる、その道端では彼岸花が揺れていた・・・。

[同夜 夕子の屋敷]

晴明は今度は夕子の屋敷にやってきている。その夕子から聡子の話を聞いている;

  夕子 「聡子が亡くなって、もう3年になります。流行り病で…本当に
      あっけない最期でした」
  晴明 「やはりそうですか?確かにその頃、兼家殿の姫君が亡くなられ
      たと聞いてはいましたが…」
  夕子 「あの方は妻も娘も沢山おいでだから、ご存じないのは当然です。
      でも、私にはたったひとりの娘だったんです。私は、兼家様の
      お通いを待つだけの儚い身で・・・。だから娘には同じ思いを
      させまいと、それだけを願っていました。女の幸せはいい殿方
      の正室に収まる事と…。不自由な生活をさせました。聡子は私
      の言う通りに作法を身に付け、兼家様の屋敷に引取られて…。
      喜びも楽しみも何一つ知らぬ、あんなに儚く逝ってしまうのだ
      ったら、どこにもやらずに、ずっとずっと抱き締めてやればよ
      かった。お転婆も、初恋も、何もかも、みんな許してあげれば
      よかった・・・」

聡子を思い出しながら、涙を流する夕子。

[同夜 夕子の屋敷の外]

晴明が屋敷を後にしようとすると、振り返ると聡子が立っていた。頭を下げて、晴明の方に近づいてくる。

  聡子 「何もかもお察しだったんでしょ?
      (晴れ晴れとした表情で)楽しかった、とっても」
  晴明 「そうか」
  聡子 「もう、思い残すことは何もありません。母の事も、私自身の事
      も・・・」
  晴明 「伝えたのか、博雅には?」
  聡子 「えっ?(そして、少し照れて首を振る)」
  晴明 「そうか・・・」
  聡子 「だって、恥ずかしかったんだもの。でも、いいんです、博雅様
      の背中は温かかったから・・・もう十分!」
  晴明 「そうか」
  聡子 「ありがとう、晴明様。私もう行かなきゃ」
  晴明 「ああ、そこまで送っていこう」
  聡子 「うん!」

そして;

  聡子 「ここでいいです。さようなら・・・」
そうして聡子は夜の暗闇に消えていった。

[数日後 聡子の墓前]

聡子の墓前に手を合わせる晴明と博雅。

  博雅 「まだ信じられん。あの聡子殿が・・・きっと、母君の事が心配
      で彷徨っていたんだろうな」
  晴明 「・・・それだけじゃないな。博雅、聡子殿はお前の事を好いて
      いたのだ」
  博雅 「えっ」
  晴明 「ふっ。やはり気づかなかったのか」
  博雅 「いやしかし・・・聡子殿のお相手は、笛の上手な」
  晴明 「・・・(--;)」(←まだ気づかないのか…という表情(^^;))
  博雅 「ああ・・・(そのまま落ち込む博雅)」
  晴明 「博雅・・・。おい、博雅!」
  博雅 「何だ?」
  晴明 「お前は救いがたい鈍感者だが、聡子殿に素敵な思い出を作って
      あげたじゃないか
  博雅 「そう思うか?」
  晴明 「もちろん」
  博雅 「本当か?」
  晴明 「ああ、聡子殿は、実は母君以上に、お前の事が気になっていた
      のかもしれん。本当は、一度でいい、儚く消えてしまった初恋
      の相手ときちんと向き合いたくて、俺の前に現れたのだろう」
  博雅 「・・・」

そして、博雅は懐から笛を取り出し、聡子を思い出しながら吹き始める。

[数日後 晴明の屋敷]

博雅は蜜虫と二人っきり。聡子から聞いた昔話を蜜虫にしている。

  博雅 「…そして、そして男は嘆いたんだ。あの時、あれは夜露だよと
      答えてあげれば良かったと。これは大事な事を教えているんだ。
      つまり、大切な事は、きちんとその場で伝えねばならぬと」
  蜜虫 「はぁ・・・?」
  博雅 「つまり、俺が何を言いたいのかといえば。・・・つまり」

と、もじもじするだけで、結局、その先の言葉が続かず;

  博雅 「ああ、喉が渇いた!」(爆)
  蜜虫 「はぁ。またお酒を飲まれるのですか?まったくもう・・・」
  博雅 「そういうわけでは」

結局、博雅は思いを言えぬまま、蜜虫は屋敷の奥に酒を準備しに引っ込む。

  聡子 『はははは、博雅様〜』

博雅がその声に振り返ると、庭では彼岸花が揺れていた。

  博雅 「聡子殿・・・」

[同昼 草原]

草原を一人歩く晴明。(今回、最後に一人ぼっちだったこのシーンの意図は何?)

 

[次回予告]

  蜜虫 「女をそこまで追いつめるなんて、男の方が悪い!」

  (蜜虫ちゃん、こ、恐い…(^^;))


<第7話感想> 晴明のしたたかさがツボ

ずっと重い話が続いたので、ここで小休止、という雰囲気の第7話でした。誰も死ななかったし(聡子は最初から死んでいたから、この際、数にはいれないということで…)、全体的にほのぼのとした気分。こうやって色んなエピソードを入れられるのが連ドラのいい所ですよね。

原作を既に読まれた方はご存知の通り、今回の「露と答えて」は同名のエピソードが原作にあります。当然、今回も原作とは全く違うストーリー展開(笑)。全く違っても、兼家が百鬼夜行に遭遇したことを理由に女の元に通わなくなったというエピソードや、博雅が「あれは夜露だよ」と答えてあげるシーンなどが上手く引用されていて、私自身は話の展開は好印象を受けました。

最初のシーン、第一話と同じく、牛車を襲うシーンから始まってます。今回のゲストを考えると、思わず第一話の再現か?!と、いや〜な予感が走らないでもなかったですが(あっ、いや、この辺はみなさんの思いと同じですよね?)、中盤以降、「聡子=お転婆な少女(あくまでも少女)」と変換してしまえば、あまり違和感もなく見ておりました(←偉そう(^^;))。

今回の主役は博雅でしたので、どうしても晴明の出番は少ないですけが、でも、きちんと要所要所を押さえている晴明君でしたので、なかなか良かったかのではないかなぁ、と思っています。今回の晴明、かなり好きです。これまでの重たい話の中で、晴明らしい行動&台詞で晴明らしさを感じるのも良かったのだけど、今回のように軽い話、ノーマルな状態で、優しさ,強かさの双方を持った晴明らしさを感じることが出来たのが嬉しかったかなぁ、と(上手く表現できなくてごめんなさいですm(_ _)m)。

それに今回はようやく、聡子の思いを叶えたり、夕子を助けたりと、人の役にも立ったようですしね。特に、兼家と駆け引きしている晴明がなんだか好きでした。

忘れちゃいけないのが、博雅との掛け合い。特に2人が出掛けるときに、小説では「ゆこう」「ゆこう」となるのが、ドラマでは「ゆこう」「行かぬ」となるのが好きだ〜(笑)。あくまでもドラマはドラマの世界を貫いて言って下さい(爆)(←喧嘩売ってる訳じゃないよ)。

ドラマでは、晴明と博雅の出会いから描かれて、今や親友と呼べる間柄になっていますが、これって実際に吾郎君や杉本さんがドラマに馴染んでいく過程と重なるのかなぁ、と、最近、ますます「いい感じ」になってきている2人のお芝居を見ていて、そんなことを思ったりしています。そう思うとドラマの設定って、侮れないなぁ(笑)。

全体的に、博雅と聡子のデートシーンはもう少し端折って頂きたかったけど(いや、だって、晴明が出てないと、退屈なんですもの…(←我が儘なファン))、オンエア前はどうなることかと恐れていたのが、意外にもまとまっていたので、少し得した気分になれた第七話でした。こうやって私は騙されていくのね、きっと…(苦笑)

さてさて、それにしても、晴明,博雅,蜜虫の三角関係は今後どーなるんだ?!(^^;)

(01.05.20)


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