陰 陽 師  o n m y o u j i

〜 第 六 話 「 鬼 小 町 」 〜


[三日月の夜 川の辺]

ひとり笛を吹いている博雅。

       原作 夢枕獏

       脚本 渡辺美穂子

       音楽 H.GARDEN

       稲垣_吾郎

       演出 小田切正明

     「第6話 鬼小町」


そこに男の叫び声が響く。博雅が声の方向を振り向くと、その声の方向からやってきた男(風間杜夫)とすれ違う。そして、その方向には;

  博雅 「桜の花びら・・・」

花も葉も無い桜の木の下に男の死体があり、その男の首筋には出血の跡と、桜の花びらが残されていた。

[同夜 晴明の屋敷]

晴明が縁側で酒を飲んでいる。その傍に蜜虫が座っている。

  晴明 「冷えるな」
  蜜虫 「お庭の草木もすっかり枯れて・・・」
  晴明 「ああ」
  蜜虫 「毎日毎日、変わってゆくんですね」
  晴明 「自然なことだ」
  蜜虫 「でも、なんだか寂しい」

なんていう話を晴明と蜜虫がしているところに、何やら考え事をしながら無言でやってくる博雅;

  晴明 「どうした?」
  博雅 「いや・・・鬼・・・」
  晴明 「? まぁ、一杯飲め(^^;)

博雅に蜜虫が盃を渡す。博雅はそれを受け取り、一口、酒を口にして;

  博雅 「見てしまった。桜の花びらの殺し」
  蜜虫 「まさか、あの若い美男ばかりが狙われる?」

黙って頷く博雅。

  蜜虫 「今年に入ってようやく納まったと思っていたのに・・・」
  晴明 「一年で一人二人殺されて、今年で十年か?」
  蜜虫 「で、亡くなったのは?」
  博雅 「山上殿の御子息だ」
  蜜虫 「そうですか・・・」
  博雅 「あれは鬼だ」
  晴明 「見たのか?」
  博雅 「ああ…いや。でも間違いない。何だか異様な物を感じた」
  晴明 「幻でも見たんだろ」
  博雅 「(怒って)晴明!俺が鬼を見たということは、お前に何とかしろ
      という神のお告げなんだと思う(断言)」
  晴明 「フッ(笑)。随分と、勝手なお告げだな(苦笑)
  博雅 「あの鬼、泣いているように見えた…」

[数日後 夕刻 寺]

博雅がその殺された男の墓参りにやってくる。墓参りが終わり、博雅は本堂の方向に向かう。そして経を詠む男に声をかける;

  博雅 「如水!」
  如水 「博正殿!どうなさいました、急に」

博雅に如水と呼ばれた男は懐かしそうな表情を博雅に向ける。二人が出会ったのは約1年ぶりである。博雅は、殺しの現場に立ち会った男の墓参りにやってきたのだと如巣に説明する。

  博雅 「如水、お前、何かあっただろう?顔がにやけてる」
  如水 「久しぶりにお会いできたからです」
  博雅 「よ〜し、今夜はじっくり朝まで話を聞こうじゃないか」
  如水 「博雅殿、申し訳ありませんが、ちょっと・・・」
  博雅 「何だ?」
  如水 「これから大事な客が来るんです」

その如水の言葉に、博雅はそのまま帰ることにする。博雅は如水と分かれた後、門で着物を頭から被った一人の女(三田和代)とすれ違う。

  博雅 「!?」

振り返ると、如水が嬉しそうに女を寺の中に迎え入れるのが見える。

[同夜 晴明の屋敷]

博雅はその足で晴明の屋敷に来て、先程の話をしている様子;

  晴明 「坊主も人間だ。人を好きになることぐらいあるだろう?」
  蜜虫 「男と女の事は何があっても不思議じゃない、そうですよね?」
  博雅 「ちょっと心配なんだ。あいつとは兄弟みたいに育ったから分か
      るんだ。真っ直ぐで思い込んだら一直線、周りが見えなくなる」

とのまるで博雅自身のことを喩えたかのような言い回しに、晴明と蜜虫は顔を合わせて苦笑い(^^;)。

  博雅 「そのあいつが今、戒律を破ろうとしている・・・あの如水がだ。
      らしくない。どうも気になる。帰る!」

と言って、本当に晴明の屋敷を後にする博雅。(って、何しに来たんだ、博雅〜!!!)

[翌日 夜 寺]

如水は今宵も例の女を迎え入れる;

  女  「早くあなたに逢いたくて、走って参りました」
  如水 「私もこの文をずっと読み返しておりました」

そして、如水は女を抱き、顔を見ようと被っている着物を取ろうとする。しかし、女はそれを拒む姿勢を見せる;

  如水 「何故です、何故顔を見せてくれないのです?あなたを知りたい。
      もっと知りたい、分かりたい!」

そう訴える如水だが、女は灯りを消すように頼む。そこに・・・

  男  『はははは。あはははは。ははははは・・・・』

と、突然、男の高笑いの声が響く。その謎の声を外から部屋の中の様子を伺っていた博雅も聞く。しかも、思わず戸口に顔を近づけて、ゴツっと頭を打って音を立ててしまう博雅君(ドジ…)

  博雅 「あっ」
  如水 「博正殿・・・」

博雅に気づき、女は出て行く。

  如水 「見ていたんですか?」
  博雅 「す、すまん、お前が心配で・・・」
  如水 「帰ってください!」
  博雅 「如水、あの女、物の怪だぞ!」
  如水 「そんな馬鹿な!!」
  博雅 「おまえ、顔も見てないんだろ?それにあの不気味な声!如水、
      坊主のお前がお前を賭けた。余程惚れてるんだろ。気持ちは分
      かる。だがな、あの女は危険だ、何がある。俺の親友に頼んで
      みる。安倍晴明、陰陽師だ」
  如水 「!」

[翌日 昼 晴明の屋敷]

博雅は晴明に如水を助けて欲しいと懇願している模様。

  博雅 「頼む晴明、何とかしてくれ!」
  晴明 「男と女のことは、他人の入る筋合いのものではない」
  博雅 「分かっている。だがな、相手は物の怪だぞ」
  晴明 「相手が何であろうと如水殿がそれを強く望んでいるのだ。どう
      にもならん」
  博雅 「どうにかしてくれ。
      あいつ、子供の頃に両親に死に別れてな、俺の所に預けられた
      んだ。いつも元気に笑っていたけど、毎晩、あいつの部屋から
      すすり泣く声が聞こえてきて。本当は寂しかったんだな。その
      あいつが坊主の身を投げ打ってまで女と関係を持とうとした。
      思いを抑えて抑えて、それでも抑えきれなくなって、惚れちま
      ったんだ。初めての女が物の怪では憐れではないか!とにかく
      黙って見てられんのだ」

そんな博雅の声を聞いても、何も言わない晴明君。ただ、すくっと立ち、庭に出る。

  博雅 「晴明!」
  晴明 「日も短くなってきた。行くぞ!
      (おっ、今回は素直じゃないか、晴明君)
  博雅 「おお!行ってくれるか、良かった」

と、いそいそと後を付いていく博雅君。

[同夕刻 寺]

烏の泣き声が響く。晴明と博雅は如水の寺にやってきて、部屋の片隅にしめ縄を張る晴明;

  晴明 「私と博雅はこの結界の中にいます。女からは見えません。女が
      来たらいつも通り中へ通してください」
  如水 「・・・」
  晴明 「何かあったら、直ぐに出てきます」


そして夜になり・・・
結界の中で印を結んでいる晴明君(やっぱりこういうシーンは好きだなぁ…)。暫くして、いつものように扉の向こうで女の声が聞こえてくる;

  女  「如水様・・・如水様・・・」

如水が扉をあけると、頭から着物を被って女が部屋に入ってくる。真っ先に灯りを消す女。そのとき、またしても男の笑い声が響く。だが、その男の姿はどこにも見えない。

  男  『はははははは。あははははは・・・』
  如水 「誰だ、誰だ?」
  女  「如水様。何も心配要りません、何も」
  如水 「こいつを知っているのか?」
  男  『やめとけ、やめとけ』
  如水 「誰だ、誰なんだこいつは?!」
  女  「明日の晩、伺います・・・」

そう言って女は出て行く。

  如水 「・・・」

結界から出てくる晴明と博雅。

  晴明 「声が聞こえましたね。あれは死霊です。女に取り憑いている。
      このままでは、あなたの命はありません」
  如水 「!」
  晴明 「どうしますか?」


黙々と如水の体に陰陽道の経文を書いている晴明(一応、ここでは右利きなんだ〜)。その筆をおいて;

  晴明 「これで女に姿は見えない。現れても決して声を出してはなりま
      せん。声を出したときは、命を奪われるときです」

そう言い残して、寺を後にする晴明と博雅。寺の外に出てきて;

  博雅 「もし、如水が声を出したら?」
  晴明 「それは本人が強く望んだこと。思いを止める事はできない」
  博雅 「しかし・・・」
  晴明 「これは如水殿の問題ではない。あの女の問題だ
  博雅 「あの女?」
  晴明 「呪だ」
  博雅 「呪?」
  晴明 「あの女に呪が掛かっている」
  博雅 「呪とは物を縛ること」
  晴明 「そうだ」
  博雅 「では、あの女を縛っているのは?」
  晴明 「自分自身・・・あの女自身だ

[翌日 昼 桜の木の下で]

晴明と蜜虫が二人で桜の木の下までやってくる。

  蜜虫 「此処ですね、博雅様が見たという・・・」
  晴明 「ああ」

二人は木を見上げる;

  蜜虫 「寒そう…丸裸にされているみたい。花の無い桜はただの大木…
      何だか寂しい。つぼみの頃は今か今かと待ちわびられて、満開
      の時はむさぼるような視線を浴びて、花が散って、色が褪せて
      いくのと同時に熱い視線も消えていく・・・全ての花が散った
      後は見向きもされない・・・。如水様、大丈夫でしょうか?」
  晴明 「博雅が行っているだろう」

[同夜 寺]

晴明の張った結界の中で、如水を見守る博雅。いつものように、女がやってくるが、晴明が如水の体に施した経文の効果で、女には如水の姿は見えない。女は悲しみにくれてそのまま出て行った。博雅は結界から出てきて女が去っていくのを確認する。

  博雅 「晴明のお陰だ・・・無事で良かった…」
  如水 「あの方を初めて見たのは山上家の墓前でした。花をそえていま
      した。このままではあなたの命が無い・・・晴明殿にそう言わ
      れた時、何となくそうかもしれないと・・・」
  博雅 「まさか・・・桜の花びらの殺し」
  如水 「でも、あの方を思うと胸が苦しくて…」
  博雅 「如水・・・」

[十日後 昼 晴明の屋敷]

晴明と博雅が縁側で話をしている。

  博雅 「如水に付きまとう女と桜の花びらの殺しと、何か関係がある。
      俺は見たんだ、あの日、死体から逃げていく男を。『桜の花び
      らの殺し』は、あの女に取り付いている死霊だ。あれから十日、
      如水の気持ちも落ち着いただろう」
  晴明 「今宵は満月だ」
  博雅 「ああ」
  晴明 「満月の夜は・・・男と女を狂わせる

[同夜 寺]

満月が空に輝く夜。

  女  「如水様・・・如水様・・・」

いつものように女がやってくる。しかし、これまでと同じように如水の姿が見えない女。部屋中、女が如水を探すが、その女の様子に、例の男の声が嘲り笑う;

  女  「逢いたいでしょ?」
  男  『逢いたくないとよ』
  女  「逢いたいでしょ?」
  男  『逢いたくないとよ。お前の顔など見たくないとよ』
  女  「お前になど聞いていない。黙れ!・・・私は・・・逢いたい。
      逢いたい・・・ひと目でいい、逢いたい・・・逢いたいの」

その言葉に耐え切れずに、女に抱きつく如水。と同時に、如水の体から晴明の施した経文は消えた・・・

  如水 「もういい、どうなってもいい!あなたが何であろうと、地獄
      の果てまでも一緒だ!」

そう言って、女が被っていた着物を取り、初めて顔を見る。

  如水 「!」

如水は女の年老いたその顔を見て、怯えている。

  男  『ははははは、どうした坊主!どうした!!!』
  女  「どうしたのです?どうしてそんな顔をしていらっしゃるの、如
      水様?」
  男  『嫌だとよ、嫌だとよ。この坊主もお前が嫌だとよ。さっきまで
      あんなに欲情しておったのに。見てみろ、怯えた坊主の顔。お
      前が嫌だ嫌だと言っておるわ!』

如水は狂気を含んだ老女の顔を見て、完全に言葉を失っている。

  男  『ワシしかおらんぞ!お前を好いておる男はワシしかおらんぞ!』

そこに;

  晴明 「姿を見せろ!」

と、晴明君が博雅と登場!(ずっと結界の中いたのね…)。その晴明の言葉に、声の主が姿を現す。その声の主は、博雅が最初に桜の木の下での殺しの現場ですれ違った男だった;

  博雅 「お前、あの時の!」
  晴明 「お前は誰だ?」
  少将 「ワシを知らんのか?深草の少将よ」
  博雅 「深草の少将?もしかしてあなたは!」
  少将 「そう、この女は、あの小野小町よ。誰もが憧れた小野小町よ!
      ははははは」
  晴明 「何故、小町殿に取り憑いている?」
  少将 「ワシはこの小町の元に九十九夜通い続け、百夜目に焦がれ死に
      をした」
  晴明 「九十九夜とは?」
  少将 「百夜通いを知っておるか?」
  晴明 「百夜通い続け、百夜目が来たら自分の思いを遂げられるという」

深草の少将は、惚れた小町の言う通り、百夜通いを九十九夜目まで行ったこと、そして百夜目を達成することが出来ず、死んでからも小町に対する深い思いから成仏できずに小町に取り憑いていることを話す。そして…;

  少将 「お前を見た全ての男達がお前から逃げていったのだ!もう馬鹿
      な真似は止めろ!」

深草の少将は自らの思いを小町にぶつけ、小町の行動を諌めるが、小町には深草の少将の言葉は戯言でしかなかった;

  小町 「悪いのは男達よ、私じゃない。私は小野小町…私を見た全ての
      男達が私の虜になる」

そして小町は語りつづける、男達は自分のことを思うとこの体が欲しくてたまらなくなるのだと、男達はその熱い思いを文をぶつけるのだと。さらに、恍惚の表情で語り続ける小町;

  小町 「でも、私は簡単には手に入らない。なぜなら、私は小野小町だ
      から」
  少将 「はははは。まだ分からぬか、小町。お前は昔のお前ではない」

今や年老いた小町の肉体に、かつての美しさは無い。深草の少将も、目を覚ますように諭す。

  小町 「誰に向かって物を言う!お前が私に命令か!
      深草の少将、百夜通いの約束…ははは、まだ分からないのか?」
  少将 「何のことだ?」
  小町 「あんな約束など、ただのお遊び」
  少将 「何だと?」
  小町 「お前が百夜目に通ってこようと、生きようが死のうが、関係な
      い!そう、ははは、何の関係も無い。お前の事をこの胸に思っ
      たことなど、ただの一度も無いわ!」

それどころか小町は事が上手くいかないのは深草の少将のせいだと言い、もう一度如水に迫る;

  晴明 「如水殿、正直に答えるのだ。心に思う事、はっきりと小町殿に

如水は怯えながらも、ようやく、もはや小町を好いていないと断言する。小町は;

  小町 「はははははは、馬鹿にして!殺してやる!死ね!男などみんな
      死んでしまえ!みんな死ね!この世からいなくなればいいのだ!」
  博雅 「晴明!」
  晴明 「喰らってどうなる。
      如水殿に罪の無いこと、貴女には分かっているはず
  小町 「黙れ!」
  晴明 「貴女は小野小町。男にとっては永遠の憧れです。
      その小町殿が・・・悲しい事だ

その晴明の言葉に、小町はいたたまれなくなり、部屋を飛び出す;

  晴明 「・・・」

[翌日 昼 晴明の屋敷]

縁側で酒を飲む晴明。そして、博雅と蜜虫。

  蜜虫 「鬼にしたのは男の方達です。所詮この世は男の世の中。女の夢
      や希望も男に委ねるしかない。どんなに力を尽くしても女は無力」
  博雅 「そんなことは・・・」
  蜜虫 「男の方は若くて美しい女が好き。だから女は若さにしがみ付き、
      美しさを追い求め、好いてくれる男の方に自分の存在を確かめ
      るしかない」
  博雅 「俺の事もそう思っているのか?晴明のことも?・・・いや、俺
      は、女は姿形が全てだとは思っていない。・・・そりゃ、若い
      女はいい。美しい女を見れば心が躍る」
  晴明 「(笑)
  博雅 「笑うな!」
  晴明 「すまん」
  博雅 「だが、そういう事ではなく、上手く言えないが、その・・・」
  蜜虫 「博雅様、私がおばさんになっても、今と同じように接して頂け
      ます?」
  博雅 「いや、それは・・・」
  晴明&蜜虫「(笑)」
  博雅 「また、おまえら、俺の事を笑いものにして!」
  晴明 「そんなことはない。
      博雅、お前は正直なよい漢(おとこ)だ
  蜜虫 「ホント」
  博雅 「もういい!」

と、盃の酒を一気に飲み干す博雅。その博雅の様子を見ながら、晴明も一口酒を運ぶ。

[翌日 昼 川の辺]

川に向かって一人佇む小町。深草の少将がその様子を見守るように陰からじっと眺めている。


一方、晴明と博雅は川のほとりを歩いている。その周りを蝶が舞っている。

  博雅 「何だか寂しいな。もうすぐ秋も終わりだ」
  晴明 「ああ。俺は何故か秋の野に心惹かれる」
  博雅 「そうかなぁ?俺はやはり、生命力の溢れる春の野がいいな。
      一面にぱーっと花が咲いて」
  晴明 「お前に秋の野の良さ、判らぬか・・・青いな
  博雅 「青い?」
  晴明 「?」

と、そこで川沿いの向こうに、小町の姿を見つける晴明。


小町は川の辺にしゃがみこみ、自らの姿を水面に映している;

  晴明 「はなのいろはうつりにけりないたずらに
          わがみよにふるながめせしまに

  晴明 「桜の花の色が、色褪せていっていくように、
              私の美しさもいつかは衰え果てていくだろう」
  小町 「若かったから、そんな歌も詠めたのです。…夢の中では私は、
      ずっと白くて滑らかな肌。髪も艶やかに輝いている。私は言い
      寄ってくる男達に無理難題を押し付けて面白がってるの。私は
      心のままに男達を操り、この肌を任せ、恋の歌を詠み、楽しく
      暮らしている。…でも、夢は夢。本当はずっと分かっていた。
      私には満開の桜しか見えなかった、満開の桜しか見たくなかっ
      た。枯れて、散って踏み潰されゆく花をじっと偲んで見ている
      なんて嫌だった。ずっと女でいたかった…」

  晴明 「沈んでいく夕陽に泣けてしまうことはありませんか

  小町 「!」

  晴明 「はらはらと散って行く枯葉に、泣けてしまうことはありませんか

  博雅 「晴明・・・」(ここで博雅は晴明の心の内が見えたのね)

  晴明 「息ができないほど胸が絞めつけられ、誇りも自信も、
      何もかも剥ぎ取られ、死にたくなるような寂しさの中で
      ふと、側に居る誰かに寄り添いたくなる
      ・・・そんなことはありませんか

晴明の言葉を聞いて、哀しみに崩れ落ちる小町。

  晴明 「誰にだって、そんな時はある

そうして、小町は懐から小刀をとりだし、自らの髪を断つ。

  小町 「何という、何という事をしてしまったの?私は私は…自分への
      思いの為だけに何人もの若い命を奪ってしまいました。償いよ
      うも無いことを・・・」

泣き崩れている小町の肩に、小町を支えるように差しのべられる手・・・それはずっと小野小町を思い続ける深草の少将の手だった。見詰め合う二人。ここに至り、ようやく小町は少将の存在を受け入れ、そのまま2人は寄り添い、桜の花びらの舞い散る中・・・消えていった。

[数日後 晴明の屋敷]

いつものとおり、いつもの縁側に座る晴明と博雅。そして、蜜虫。

  博雅 「女とは、悲しいもんだな」
  蜜虫 「小町様、極楽に行けるかしら?行けますよね、きっと…」
  博雅 「深草の少将殿がいたのに、あんなに深く愛されていたのに、
      どうして今まで…」
  蜜虫 「好いたお方でないと、女の心は満たされません。ただ…愛して
      くれる誰かがいれば、救われる。一人は寂しすぎます」
  晴明 「見えたのだな・・・小町殿だ。
      自分の心を縛っていた鬼が、やっと見えたのだ
  博雅 「女は誰でもそうなのか?満たされんのか、好いた男でなければ?」
  蜜虫 「知りません…」

と、そのまま屋敷の奥へと引っ込む蜜虫;

  博雅 「あっ。・・・女とは、難しいものだな」

晴明は黙って立ち上がり、庭に下りる。

  博雅 「なぁ、お前の寄り添いたくなる女は?
      …晴明、俺はな、お前がいるからこの世はそんなに悪い
      もんじゃない、そう思ってるんだ。正直に言えよ、お前、
      本当は寂しいんだろ。…この世に自分一人しかいないと
      思ってるんだろ。お前を見てると、時々胸が痛くなる
  晴明 「・・・。そんなことはない
  博雅 「本当か?」
  晴明 「(笑って) お前がいるではないか!
  博雅 「馬鹿!(笑)」

[同 秋の野]

それでも最後は一人ぼっちの晴明君;

  晴明 「独りか・・・

 

[次回予告]

  博雅 「捨てられれば悲しいと思う心が」

  (た、頼むぞ、次回!!!)


<第6話感想> 晴明君、笑顔が増えたね

結局、吾郎君の出番(台詞)が多いか少ないかで、私の満足度は測られてしまうのだろうか?

今回のエピソードは三田和代さんと風間杜夫さんのお二人に引き込まれたという感想を持った方が多いようですね(その分、吾郎君の下手さが際立った、などとも書かれてるけど…)。ゲストの三田和代さんも風間杜夫さんも素敵だったのだろうとは思うけど、個人的にはこの話は、もっと二人の「狂気」を描いて欲しかったという気持ちが私の中であったため(スミマセン、私も原作の呪がかかってます)、気持ちを高めきれずに終わってしまいました。でも、ああいうシーンで画面に緊張感を保ちつづけるというのはホント、素晴らしいですね。

それでも私にとって肝心なのは、やっぱり吾郎君の出番が多いか、少ないか、なんだなぁ、と実感。折角、風間杜夫さん(@少佐殿)との共演なんだから、もう少し絡んで欲しかったの〜。やっぱり吾郎君と他の役者同士のぶつかり合いが見たい!!!でも、肝心の晴明君はああいうキャラだから、ぶつかることはないんだけどね(苦笑)。


今回の吾郎君的見せ場はラスト5分かな?

1つは小町に語りかける台詞「沈んでいく夕陽に泣けてしまうことはありませんか・・・」。ここは素直に晴明の心の中の独白ととるべきでしょう。今回のドラマ、毎回、ゲストキャラの情念を描いているドラマですが、実は晴明の心の内を同時に描いているんですよね。毎回、こういうシーンは胸を締め付けられます。そして横にてそれをちゃんと感じ取る博雅も「いい漢」だ〜(笑)。

そしてもう1つが最後の「お前、本当は寂しいのだろ?」という博雅とのやりとり。
原作でも2人のやり取りの中では一番好きなシーンでして、原作ではこの会話は別のエピソード(5話の冒頭のエピソードにあったもの)で出てきてます。原作と違うという意味では違和感を感じないわけではないですが、でも、ここでドラマならではの解釈ができるわけで、それまでは孤独だった晴明が、博雅と出会うことで友と呼べる存在を手に入れることができた…。そう思うと、2人の関係というのが、この台詞により、さらに生きてくるような気がして、ちょっと嬉しいドラマならではの変更点でした。博雅という無二の親友を得ることが出来、今回の話では晴明君、笑顔が増えましたよねぇ〜♪

さてさて、次週、誰しもが不安に思う第7話。せめて晴明がいっぱい映ってくれたら嬉しいのだけど、次回は博雅がメインかなぁ・・・。

(01.05.13)


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