〜 第 五 話 「 た ら ち ね 」 〜
[昼 某川原]
梅の木の下で、川の向こう岸をじっと見つめながら、一人の少女が立っている。
原作 夢枕獏
脚本 田中江里夏
音楽 H.GARDEN
稲垣_吾郎
演出 小田切正明
「第5話 たらちね」
その少女に蜜虫が近づいていく;
小夜 「おかあさん?」
蜜虫 「おかあさん?」
小夜 「待ってるの…」
蜜虫 「そう」
小夜 「もうすぐ帰ってくるから…」
蜜虫 「…お名前は?」
小夜 「小夜」
蜜虫 「小夜ちゃん。おかあさんは、いつ帰ってくるって?」
小夜 「もうすぐ。(木を指さして)あれが咲く頃って…」
蜜虫 「梅・・・早く咲くといいね」
そこに、男たちがやってくる。その男たちは蜜虫を突き飛ばし、小夜を強引に連れて行く。
[数日後 昼 兼家の屋敷]
藤原兼家の屋敷内。そこに晴明と博雅が呼ばれている。
晴明 「兼家殿、ご相談とは?」
兼家 「困っておるのだ。酒が飲めなくなっての」
博雅 「あの〜、肝の臓にはシジミ汁が良いと聞きますが…」
兼家 「いやいや、体は大丈夫なのだ。いやしかし…占いがのぉ」
博雅 「占い?」
兼家 「打臥(うちふし)の巫女を知っておるだろう?」
晴明 「都で評判の巫女ですね。何でも言い当て、見通すとか。確か名前は…」
兼家 「白比丘尼と呼ばれておる。特別に取り立てて、今、屋敷の一角
に住まわせておるのだ」
[同 兼家の屋敷の別室]
晴明と博雅は兼家に連れられて、白比丘尼のいる一室にやってくる。晴明のほうを振り返る白比丘尼。
白比丘尼「! …あなたが、安倍晴明様?」
晴明 「・・・」
兼家 「白比丘尼、さぁ」
兼家に促されて、白比丘尼は占いを始める。その様子を背後から見つめる晴明たち。そして;
白比丘尼「酒に不吉な影が見えます」
兼家 「それは何度も聞いた。どんな影だ?」
白比丘尼「呪いです。兼家様を何者かが狙っております」
兼家 「誰だそれは?」
白比丘尼「分かりません」
兼家 「どの酒だ?どの酒に呪いがかかっている?」
白比丘尼「分かりません。とにかく酒を飲んではいけません」
兼家 「出所の分かった酒ならいいだろ?」
白比丘尼「いけません。お酒をお飲みになっては命の保証が出来ません」
兼家 「(晴明に)これだ。何とかしてくれ・・・」
その庭に幼い女の子(小夜)が侵入してくる。
小夜 「巫女様!お願いします。どうか占って!」
そう叫びながらやってくるが、屋敷の男達に取り押さえられる。それを見て縁側に出て;
晴明 「やめろ、まだ子供ではないか」
晴明をじっとみつめる小夜。
晴明 「大丈夫か?」
小夜 「・・・」
小夜は黙って屋敷を出て行く。
兼家 「ふん。白比丘尼の通力を狙いおって、庶民どもめ」
晴明 「・・・」
[同 兼家の屋敷の別室]
晴明,博雅、兼家の目の前に酒の入った瓶が並べられる。
晴明 「これで屋敷にある酒は全てですか?」
兼家 「そうだ」
博雅 「下賜?」
兼家 「帝からお酒を賜ったのだ。先日、正三位の位を下さった時の祝
いにと、内密の使者が参ってのぉ」
博雅 「さすがは兼家殿、帝から直々の贈り物とは…」
兼家 「ほほほほほほ・・・帝の田んぼの米から作ったそうな。
(盃に酒を注ぎながら)ははは・・・ああ、いい匂い、いい酒だ」
それを見て、いきなり立ち上がり、帝からの酒の入った瓶を取り上げる晴明。そのまま縁側に出ていき、その瓶をひっくり返す。
兼家 「(@o@) 晴明、な、何をする?ああ、何をするんだ、晴明!」
しかし、その瓶から出てきたのは1匹の蛇。そして、兼家の手にしている盃の酒も、見ると蛇に変わっていた。思わず盃を放り投げる兼家;
兼家 「ああ、なんと」
博雅 「毒蛇だ」
兼家 「そんな馬鹿な。み、帝が何故私に?」
晴明 「帝からの使者と、確かにその者は名乗ったのですね?」
兼家 「偽者だと申すのか?」
[同昼 都路]
足早に道を行く晴明。その後を博雅が追う;
博雅 「止めとけ晴明!幾ら何でも相手が悪い!首が飛ぶだけでは済ま
ないぞ!」
晴明 「嫌なら来るな」
[同昼 兼道の屋敷]
兼道の屋敷にやってきた晴明と博雅。兼道の目の前には、先程の「瓶」が置かれている。その瓶を前にして、冷や汗をかいている兼道。
晴明 「弟君 兼家殿の遣いで、最上の酒を持って参りました。何でも
帝に下賜された品だとか。この度、正三位の位を賜ったのも、
兄上である兼道殿のお力添えがあったからこそと大変感謝して
おられます。一方で自分が思いもかけず出世してしまって兄上
が気を悪くしておるのではないかとご心配も…」
兼道 「馬鹿を申すな。麿はそんな…心の狭い男ではない」
晴明 「そうですか。兼家殿も御安心されるでしょう。祝いの酒はまず
は兄上からと、言付かって参りました。どうか一献・・・」
博雅 「どうぞ」
博雅が盃を差し出し、晴明がその瓶から酒を注ぐ。が、飲むのが躊躇われる兼道。顔色が青くなっている;
兼道 「・・・」
晴明 「どうなさいました?」
兼道 「あ、後でよい」
晴明 「お戯れを。
目の前で飲んで頂かないと兼家殿に御報告もできません。さぁ」
兼道 「いらん」
晴明 「なぜ?祝って差し上げないと…。さぁどうぞ」
兼道 「いらん」
晴明 「どうぞ」
兼道 「いらん!!」
晴明が無理に飲ませようと勧める盃を振り払う兼道;
晴明 「・・・。これは失礼しました、禁酒中でいらしたとは」
[同昼 都路]
兼道の屋敷を出てきた晴明と博雅だが、博雅は今回の一件を納得できない様子。
博雅 「弟だぞ、晴明。実の弟を・・・。
兄弟仲良く暮らすなど、子供にだって出来る事じゃはないか」
晴明 「権力を握る為なら、親子でも兄弟でも親友でも敵に回して踏み
潰す、それが政治だ。そんな奴等が人々に下賜付かれて贅沢三
昧に暮らしている。おかしな世の中だ」
博雅 「そんな…」
そう言って晴明は去っていく。博雅は晴明が立ち去ったことに気づいていないのか、一人まだ納得できずに話し続けている(^^;);
博雅 「いやしかし、思い過ごしかもしれん。兼道殿は本当に酒を断っ
ていらしたのか?いや違うな。でも何か事情が…。
まさか実の弟の命を狙うなど、まさかそんなこと…」
一方の晴明が歩いていくと、目の前に大勢の子供達に取り囲まれて苛められている少女の姿が見える。晴明が近づいてきたのを見て、苛めている子供達は散っていった。苛められていたその少女は、先程、白比丘尼に会いに来た少女だった。
晴明 「おまえは・・・。名前は?・・・家はどこだ?」
晴明の問いかけに何も答えない少女。その少女の前で、晴明君、両手を前に出して、小さくまわして、手品のようにその左右の手に花を出してみせる(これは陰陽の術の乱用とでもいうのでしょうか?(苦笑)。でも、この晴明なりの子供との接し方がとても好きだわ〜)。
少女 「(ニコッ (^o^))」
と、機嫌をとっておいて改めて;
晴明 「名前は?」
と少女に聞いてもやっぱり何も答えない。
晴明 「じゃぁな」
背を向けてその場を立ち去ろうとするが、晴明のあとをついて少女も歩き出す。晴明が立ち止まり振り返ると少女も止まる。そして晴明が歩き出すと少女も歩き出す。もう一度振り返ると少女は立ち止まる。・・・そのまま晴明が歩き出すと、トボトボと少女もその後をついて歩いていった(小夜ちゃん、可愛いっす)。
[同昼 晴明の屋敷]
庭掃除をしている蜜虫。そこに晴明が帰ってきたようで…
蜜虫 「お帰りなさい。どうしたんですか?」
晴明 「さぁ?」
ふと見ると、玄関で、屋敷の中を覗く少女の姿が・・・;
蜜虫 「小夜ちゃん?」
[同夜 晴明の屋敷]
博雅も晴明の屋敷にやってきていて、縁側で蜜虫に酌をしてもらっている。室内では、晴明と小夜があやとりをして遊んでいる(^^;);
晴明 「じゃぁ、いくぞ」
小夜 「うん」
晴明 「こうやって・・・」
小夜 「違う違う違う」
晴明 「こっちか?」
その二人の様子を眺めながら、博雅と蜜虫が話をしている;
博雅 「迷子?」
蜜虫 「家が何処かも言わないんです。そのくせ、絶対に帰ろうとしな
くって…」
博雅 「う〜ん…。何か訳でもあるのかな?
おい、小夜、おじさんと一緒に遊ぼうか?」(おじさんかぁ(^^;))
小夜 「・・・」(無視しなくったって…(^^;))
博雅 「嫌われたか?」
蜜虫 「晴明様、小夜ちゃんに気に入られているみたいですね」
博雅 「(冷やかして) 晴明、兄妹みたいだぞ」
晴明 「・・・」
蜜虫 「照れてる」
晴明 「何だ、お前まで…」(可愛いじゃないか、晴明君!!!)
蜜虫 「ごめんなさい」
そして、再び「こうか?難しいな・・・」と言いながら小夜とあやとり続きを始める晴明・・・。
(きゃー、このシーン、可愛いよ〜、吾郎君…(*^^*)。ドラマが始まって最初の頃はクール&ビューティな晴明様だったのに、最近は博雅の影響もあってか人間味のあるキャラクターになってきて、今回に至っては非常に可愛いのだ!!!これって吾郎君本人のイメージの変遷とも重なってないですか?(^^;)。ああ、とっても幸せだわ…。この調子で、晴明と小夜ちゃんでプリッツのCMパロをやってくれてもよかったのに…(←それは間違ってるぞ)。でも、あやとりごときでこれだけ苦労している晴明君、実はかなり不器用?(苦笑))。
[翌日 川原]
晴明,博雅,蜜虫が小夜を連れて、最初に蜜虫と小夜が会った梅の木のある川原にやってくる。
小夜 「(晴明の手を引いて) 帰りましょう?」
博雅 「お前の家はこの辺なのか?」
小夜 「(更に晴明の手を引いて) 帰りましょう」
そこに、柄の悪そうな、如何にも、って感じの男達(^^;)が3人やってくる。
男1 「あ、いたぞ、いたぞ!」
博雅 「何だ?」
男2 「そのガキを返してもらおうか?」
博雅 「お前らに渡すわけはいかん!」
男3 「へっ、だったら力ずくで取り返すまでよ」
博雅 「おい、油断するなよ晴明!」
と、臨戦体制に入る博雅だが、肝心の晴明は背を向けて、この場は完全に博雅に任せている。
博雅 「(振り返って晴明を見て)・・・お〜い!」
とはいえ、男達は殴りかかってくるわけで、博雅は左パンチ、右パンチ、もう一回左パンチ、であっさりとやっつけてしまうのでした。男を取り押さえる博雅を見て;
晴明 「案外強いな」
蜜虫 「格好良い・・・」
(全く、このふたりときたら・・・。今回はシリアスストーリーゆえ、この手のおトボケシーンは少なかったけど、ここはなかなか絶妙でございます(^^;)。そっか、博雅って強いんだ…)
[同日 某集落]
小夜を連れ戻そうとした男達の集落にやってくる晴明と博雅。小夜を管理しているらしい男に話を聞く;
男 「小夜?ああ、あの狐の子か…。ったく、仕事、放っぽり出して
何処に行きやがった?」
博雅 「働かせているのか?あの子の両親は?」
男 「そんな者はいるかよ。買ってきたんだから」
博雅 「買った?人を売り買いするなど…」
男 「此処にいる奴らはな、みんな売られてきてるんだよ。俺もな」
博雅 「馬鹿な!」
男 「小夜を返してもらおうか?大事な働き手が居なくなると、俺が
親方様に怒られちまうんだよ」
晴明 「本人は帰りたくないようだ」
男 「知ったこっちゃないな」
晴明 「じゃぁ、これでどうだ?」
そう言って、晴明は男の手に金を握らす;
男 「ふっ、わかった。3,4日は預けてやるよ!」
と、男がふと見ると、自分たちの牛の乳を勝手に搾って飲んでいるオヤジ〜蘆屋道満の姿を見つける。(な、何て唐突な登場の仕方だ〜(笑))
男 「ほら、このオヤジ、また勝手に飲みやがって!」
道満 「気にするな、こいつ(牛)にはちゃんと断ってあるからな」
男 「ったく、へんなおやじだよ」
[同日 再び川原]
川原では蜜虫が小夜と遊んでいる。その小夜の様子を見ながら、道満は小夜についての話を博雅にし始める;
道満 「あの子をどうするつもりだ?」
博雅 「母親を探してやる。死に物狂いであの子を探しているはずだ」
道満 「目出度い奴だ。あの子を売ったのはあの子の母親だ」
博雅 「そんな馬鹿な」
道満 「馬鹿はお前だ。あの子の母親は端金で娘を叩き売って、川の向
こうへ消えてったわ。梅が咲いたら迎えに来るから、と出任せ
で娘をなだめてな。だからあの娘は梅が咲く度、川のほとりで
母親を待っている。顔も知らない決して迎えに来ない母親をな」
博雅 「許せん・・・」
道満 「親が子を売ることなど、珍しい事ではないわ。お前が知らんだ
けじゃ」
博雅 「まさか」
道満 「本当にお前は世間知らずだな」
博雅 「子を思う気持ちは貴族も庶民も変わらないはずだ。なぁ晴明、
そうだろう?」
晴明 「・・・」
道満 「(晴明を見て)同病相憐れむ…か?甘ったるい同情や哀れみを
一番嫌っておったお前がな。ははは・・・、ははは・・・」
そういい残して道満は去っていった(あれっ、もう帰っちゃうのね)。
晴明 「・・・」
[翌日 晴明の屋敷]
蜜虫 「晴明様、お客様です」
蜜虫が晴明と博雅のいる屋敷内に白比丘尼を案内してくる。庭では小夜が一人遊んでいる。
白比丘尼「兼家様の事では有難うございました」
晴明 「誰の仕業だったのか、ご存知だったのですか?」
白比丘尼「おおよそは。でもそれを兼家様に申し上げるには憚られて…」
晴明 「お抱えの巫女殿もご苦労ですねぇ」
白比丘尼「(小夜を見て)あの子は母親の行方を私に聞きたくて、兼家様
のお屋敷に入り込んだのですね?」
晴明 「おそらく・・・」
白比丘尼「とても放ってはおけません。どうか私に占いをさせて下さい」
そして、突然、占いを始める白比丘尼様(な〜んか笑っちゃうんだよなぁ、こういう占いのシーンって(笑))。
白比丘尼「綾小路の巽の方角。小さな祠の傍に緋色の腰紐の結わえらた
た家があります。そこに首にホクロのある女が立っています」
晴明 「ほぉ、随分とお詳しい。さすがは兼家殿お抱えの巫女様だけ
はある」
白比丘尼「・・・。恐れ入ります」
晴明 「博雅、出かけるぞ!」
博雅 「おう!」
小夜 「私も行く!」
晴明 「小夜は待っていなさい」
蜜虫 「小夜ちゃんは待っていましょうね」
[同日 綾小路]
晴明と博雅が、白比丘尼の占いの言葉どおりの場所を求めてやってくる。
博雅 「この辺だよな?」
晴明 「あれか?」
小さな祠を見つける晴明と博雅。その傍に玄関口に確かに緋色の腰紐がぶら下げられた家があった;
博雅 「何の印なんだ、これは?」
不思議がる博雅だが、晴明に続いて家の中に入る。その家の中には、数名の淫靡な女性の姿があった。
博雅 「はっ、何だこいつら?」
晴明 「男に体を売る女達だ」
博雅 「何?こいつらみんなか?」
晴明はそのまま何も言わず、一人一人女の首筋を見ながら目印のホクロを探す(はっ、はっ、はっ、まさかこういうシーンでやられてしまうとは思ってもみませんでした。首筋のホクロを探す為とはいえ、女性の首筋を触るシーンなんて、な〜んて素晴らしいシーンなんでしょう!!・・・って、馬鹿だわ、私って(苦笑)。)。
そして、奥からさらに別の女性 妙(美保純)が出てくる;
妙 「珍しいねぇ、貴族様のお客様はさ」
その女性の首筋も同じように確認する晴明。そしてホクロはあった;
晴明 「小夜がお前を探しているぞ」
その晴明を無視して今度は博雅に色香を放つ妙;
妙 「ふふふ、結構いい男じゃないか。さぁ、好きな女を選びなよ」
博雅 「おい、聞こえないのか。小夜がお前を!」
妙 「なんだい、客じゃないのか」
博雅 「お前、小夜の母親だろう!」
妙 「聞いた事無いね、そんな名前」
博雅 「女の子供を産んだことがあるだろう?」
妙 「あっても直ぐに売っちまうからね」
博雅 「何?」
妙 「この商売、ガキは邪魔なんだよ!」
博雅 「小夜がどんな思いをしているか!おい、会って詫びるんだ!」
妙 「知らないと言ってんだろうが、小夜なんて!」
そして、そのまま女達に「邪魔だよ!出てけ!!」と言われて追い出される晴明と博雅。
妙 「・・・」
[同夜 晴明の屋敷]
晴明と博雅が屋敷に戻ってくる;
博雅 「信じられん、あんな親が小夜の・・・」
二人を小夜、蜜虫、そして白比丘尼が迎える。
晴明 「(白比丘尼に) まだいらしたんですか?」
白比丘尼「気掛かりで、お帰りをお待ちしていました」
屋敷の中に上がり、晴明と博雅が白比丘尼と話をしている;
白比丘尼「それで、見つかったのでしょうか?」
晴明 「ええ、当人は認めようとはしませんが…」
白比丘尼「認めない?」
博雅 「あんな親が小夜の母親だなんて酷すぎる。子供を愛して守っ
てやるのが母親ってもんでしょう?それが金のために売り払
うなんて…名前すら覚えてないなんて」
白比丘尼「可哀想に・・・」
博雅 「そうでしょう?あんなに必死になっている小夜の事を思うと」
白比丘尼「その母親のことです」
博雅 「何ですって?」
白比丘尼「子供を捨てなければならない母親の気持ち、母と名乗れない
女のつらさがわかりますか?」
博雅 「いやしかし、あの母親は金の為に!」
白比丘尼「博雅様は貴族の生活しかご存知ないから…。食うや食わずで
生きていく人が殆ど。子供が生まれるともっと食べられない。
親も子供も生きていけないんです。子供に生きていて欲しい
から、生かす為に子供を捨てる…そんな暮らしもあるんです」
そんな白比丘尼の言葉に口を切る晴明;
晴明 「そうだろうか?」
白比丘尼「?!」
晴明 「貧しさだけじゃない」
白比丘尼「えっ?」
晴明 「きれい事だ。母親より女で居たい人間も居るでしょう。子供
より自分が可愛い人間もいる。
理由はどうであれ、捨てるのであれば子供にそう告げるべき
です。お前を捨てると、きちんと子供に話して聞かせるべき
です。
でなければ、子供は待ちます。母を信じて、いつまでも待っ
てしまいます。子供は親を責めない、自分を責めながら親を
待つ。眠っては母の夢を見、起きている間は母が戻らない理
由を考え、夏の花が揺れる度に母の足音かと思い、吹雪の音
が聞こえれば、母の呼ぶ声かと耳を澄ませ・・・。
夢を見させるだけ残酷だ。絶望は一度でいい。
毎日毎日少しずつ、望みが薄れていく生活は・・・辛過ぎる」
そこまで言って、立ち上がり部屋を出ていく晴明。
博雅 「晴明!」
白比丘尼「・・・」
(このシーンは私の中では本日、前半の山場でございます。この後のシーンの博雅の台詞にもあるように、普段は感情を表さない晴明だから、晴明の心内を描写したものは非常に心にずしりとくるものがあります。晴明と白比丘尼の関係って、ドラマ上はそういうことになってるんですよねぇ???白比丘尼の方はその関係に気づいているようですが、肝心の晴明の方はどちらなんでしょう?)
[翌日 川原]
蜜虫が、川に向かってしゃがんでいる。その横に博雅は立っている;
博雅 「昨日は驚いたよ、ほとんど感情を見せないやつなのに・・・。
捨てるならそう言えか。そういえば前にもそんな事言ってたな」
博雅も蜜虫の横にしゃがむ;
蜜虫 「晴明様は狐の子だっていう噂があるでしょう?あれは晴明様に
不思議な能力があるからだけじゃないのです。晴明様の出生が
誰にも分からないからなんです」
博雅 「えっ?」
蜜虫 「何処で生まれたのかも、どんな親なのかも…。本当のところは
晴明様自身もご存じないのかもしれない」
博雅 「そんな・・・」
蜜虫 「いかがわしい母親に捨てられた、って噂する人もいます。でも
晴明様は強いから、勝手な憶測や悪い噂も全部逆手にとって、
得体の知らない人ですっていう顔をして周りを煙に巻いてしま
うんです」
博雅 「そうだな」
蜜虫 「でも、強いからといって寂しくない訳じゃないでしょう?
強いからこそ、孤独ってこともあると思う」
博雅 「・・・」
蜜虫 「あの子を救うことで、晴明様はもしかしたら子供の頃の自分を
救おうとしているのかも・・・。
あ〜あ、もっと私に甘えてくれればいいのに・・・」
(このシーンも好きなんですよねぇ。私は結局、晴明=吾郎君しか見てないので、その晴明の話をしているこのシーンはとても好きです(オイオイ(^^;))。博雅はいい漢だし、蜜虫ちゃん可愛いし、この二人には好感が持てるぜ!でも、ここまで晴明のことを知っている蜜虫って、一体何者だ?)
[同日 晴明の屋敷]
博雅は蜜虫の話を聞いて、今一度晴明を説得しようと試みる;
博雅 「あの母親をもう一度説得しよう」
晴明 「博雅・・・」
博雅 「必ず分かってくれる。なぁ、どれほど小夜が会いたがっている
か。母親だってきっとそうだ。素直になれないだけなんだよ。
俺達が力を貸そう。あの母親だってきっとそれを待ってるんだ。
今から直ぐ母親を連れて来よう」
晴明 「俺は反対だ」
博雅 「どうして。子供の足で、綾小路外れまで歩いてゆけと言うのは
酷だし、それにあんな所に小夜を連れて行けるか!あの女達を
見て、小夜がどう思うか…」
縁側の陰で、二人の会話をそっと立ち聞きしている小夜。それには気づかずに二人は会話を続ける;
晴明 「そんなことを言ってるんじゃない。母親になど会わせない方が
いい。あの女は小夜を捨てたんだぞ。小夜には母などいなくて
も強く生きるよう教える」
博雅 「晴明!」
晴明 「母親に会いさえすれば、必ず幸せになれると思うほうが馬鹿だ。
元々親など居ないものと思い込めば生きてゆける」
博雅 「気持ちは分かる、分かるよ晴明。
だが、ひねくれるな、素直になれよ。
お前、小夜と自分を重ね合わせてるんだろう?だったら小夜と
母親が幸せになる姿を見たら、お前だって思いが変わるかもし
れないだろ!」
晴明 「さっきから何を言ってるんだ、お前は?」
博雅 「俺、何も知らなくて、お前の事・・・」
晴明 「俺のことは関係ない。人の幸せには色々な形があっていいんだ。
・・・?!」
そこまで言って、博雅の向こうに小夜の姿を見つける晴明。博雅も振り返って小夜がいるのに気づく;
博雅 「小夜。・・・小夜、お母さんに会いたいだろう?」
晴明 「やめろ」
博雅 「連れて来てやろうか?」
晴明 「やめろと言ってるんだ!」
小夜 「会いたくない」
博雅 「えっ?」
小夜 「私、お母さんなんかに会いたくない!」
(こんな大事な話を、小夜ちゃんに聞かれるとは、この二人はそういう配慮と言うものが無いのか!(^^;)。このシーンは博雅がいいですね。逆に晴明の方が意固地になっているように見えてしまいますもん(笑))
[同日 晴明の屋敷]
縁側で蜜虫の酌で酒を飲んでいる晴明。小夜は部屋の中で一人黙って座っている。
蜜虫 「小夜ちゃん、あやとりしよっか?」
折角の蜜虫の誘いにも、黙って部屋を出て行く小夜。
晴明 「・・・」
[翌未明 都路]
未明 一人綾小路に向けて歩きつづける小夜。空では雷の音が響く。
空も明るくなり、やがて雨が降り始める。それでも雨に濡れながら、枯れ野を進む小夜。そして、例の祠の傍の家までやってくる。
目印の腰紐のある家に入り、男と共にしている女達をゆっくり眺める。そして、同様の母親・・・らしき女にようやく声を掛ける小夜:
小夜 「お母さん?お母さんでしょ?お母さん…」
しかし、妙は「お前の母親なんか此処にはいないよ。出てけ!」と罵声を浴びせ、家から追い出す。そして、急に咳き込み、口から血を吐く妙。
外では、いまだ振りつづける雨の中、放り出された小夜は妙を待ちつづける。
一方の晴明と博雅。妙がいなくなったことに気づき、雨の中、傘も差さずに道を急ぐ;
博雅 「すまん、晴明。俺・・・」
晴明 「いや・・・」
そして、例の家にまでやってきて、そこの前で倒れている小夜の姿を見つける;
博雅 「おい、晴明!」
晴明 「小夜!」
[同夜 晴明の屋敷]
小夜を寝かせ、その傍らで薬を煎じている晴明。博雅、蜜虫も傍にいる。
博雅 「ちくしょう、俺のせいだ・・・」
晴明 「(薬をさじに載せて)飲みなさい」
小夜 「ごめんなさい」
晴明 「ん?何も悪い事してないだろう?」
小夜 「嘘なの。会いたくないなんて、嘘なの。それに本当は晴明様に
お願いがあったの。晴明様は陰陽師なんでしょ?陰陽師って何
でもできる人なんでしょう?お母さんが小夜のことを思い出す
ように、おまじないして欲しかった・・・」
晴明 「・・・」
その言葉を聞いて、博雅は席を立つ。
[同夜 綾小路]
雨の中、再び妙の元にまでやってくる博雅。
博雅 「小夜が死にかけている!うわ言でお前のことを呼んでいるんだ」
しかし、妙は頑なに博雅を拒む。
妙 「出てけーーー!!!」
博雅 「お前は・・・お前は鬼だ!」
[同夜 晴明の屋敷]
寝ずの看護をしている晴明;
小夜 「お母さん!お母さん・・・」
晴明 「・・・」
[夜 綾小路]
妙 「小夜・・・」
妙は男に抱かれながら、目には静かに涙を浮かべている。
[翌朝 晴明の屋敷]
蜜虫が雨戸を明け、部屋の中に朝日が差し込む。外の雨は既に止んでいた。その朝日で部屋の片隅で眠っていた博雅も目を覚まし;
博雅 「晴明、小夜は?」
黙ってうなづく晴明。小夜も目を覚ます。
小夜 「晴明様・・・」
晴明 「よくがんばったな、小夜」
小夜 「お母さんの夢を見た」
晴明 「夢?」
小夜 「雨の中、ごめんねって」
晴明 「!」
晴明はその小夜の言葉に反応し立ち上がる;
晴明 「小夜を頼む!」
博雅 「おい!」
そのまま屋敷を出ていく晴明(ここでようやく晴明が活躍?(爆))
[朝 川原]
烏が声が響く空。梅の木の下で、妙が口から血を吐いて倒れている。晴明は妙の傍に駆け寄る;
妙 「小夜は?」
晴明 「大丈夫だ」
妙 「ゴホゴホ(咳込む)」
晴明 「しっかりしろ」
妙 「待ってたよ・・・あの子がそうしてたって言うからさ・・・、
私もあのこと同じように、ここで・・・。こんな事したって、
あの子の助けにはならないんだけどさ、他に何にも思いつかな
いから、してやれること・・・。手放したくなんか無かったよ、
本当はさ。だけどあそこに置いておいたらいずれ私と同じ商売
をする羽目になる。大人にならないうちから、恋を知らないう
ちから、男を知る羽目になる。だから・・・。怒ってるだろう
ね、あの子。恨んでるだろうね、あの子・・・」
晴明 「しっかりしろ!もうすぐ小夜が来る」
妙 「来ないよ・・・来るはず無いだろう?ゴホン(咳)・・・罰だよ、
長いことあの子を悲しませた罰だよ。…突き飛ばしちゃったよ、
あの子を、会いに来てくれたのにさ。本当は、本当はさ、抱き
しめたかった・・・」
そういう妙の瞳に小夜の姿が映る。博雅と蜜虫が晴明の後を追って小夜を連れてやってきたのだった:
小夜 「おかあさん?おかあさん!!」
妙 「小夜・・・ごめんね、独りぼっちにして」
小夜 「おかあさん」
妙 「これからは、ずっと一緒にいるよ」
堅く抱き合う二人。しかし、そのまま妙は息を引取る。
小夜 「・・・おかあさん?嫌だよ、お母さん、死んじゃダメ。
おかあさん、死んじゃダメ!!おかあさん・・・」
黙ってその様子を見つめる晴明達。
[翌日 川原]
梅の花が咲いている・・・。晴明、博雅、蜜虫、そして梅の木の下の墓石に手を合わせる小夜。そこに白比丘尼がやってくる。白比丘尼も墓石に手を合わせる。
白比丘尼「晴明様はお見通しだったのでしょう?あの時、この方の居所
を言い当てたのは占いではなかったこと…。
私はこの僅かの能力のお陰で、今でこそ兼家様に取り立てて
頂き、不自由無い生活をしておりますが、以前はこの方と同
じ事をして食い繋いでいたんです。
私にも子供が…生き別れた息子がおります。風の便りで、ど
こかのお屋敷にで引取られて都で暮らしていると聞き、追う
ように私も都に辿り着きました。それで祠の傍のあの家で。
そのときこの方と…。何とか子供を救いたくて。私もせめて
生きて欲しいと願って子供を捨てた母なのですから。晴明様
は子供に捨てると告げないのは残酷だとおっしゃいました。
けれど母親も夢を見ているのです。いつか…いつの日にか、
生きて再会出来るのではないかという夢を。だから子供にも、
いつか会えるという夢を持ち続けて欲しいと、そう思ってし
まうんです」
蜜虫 「それで会われたんですか、息子さんに?」
白比丘尼「(首を振る)でも、いつか名乗りあえると信じてますわ。
どんな人ごみの中でも、どんな闇の中でも、(じっと晴明を
を見て)それが息子なら母親には分かるものなのです」
黙って白比丘尼の方を向く晴明。そのまま白比丘尼は何も言わずに立ち去った。
小夜 「じゃぁ、ここで」
博雅 「本当にいいのか?」
蜜虫 「寂しくなったり、つらい事があったら、いつでも来るのよ」
小夜 「ありがとう。でも大丈夫、お母さんと会えたから。もう頑張れ
る。それに私はあそこに買われていったの。だからあそこの子。
みんないい人だし、大丈夫です。じゃぁこれで、さようなら」
去っていく小夜。
晴明 「・・・小夜!」
小夜 「はい」
晴明 「・・・いや。元気でな」
小夜 「晴明様もね」
晴明 「・・・」
[次回予告]
晴明 「これで女には姿は見えない。声を出したときは、命を奪われるときです」
<第5話感想> 今回は晴明がメイン!
第五話はタイトルの「たらちね」にあるように「母親」がテーマで、ゲストキャラの妙と、母親に捨てられた娘 小夜の話。娘が生きていく為にやむを得なく娘を捨てた母親と、「梅の花が咲くとき」に迎えに来ると言った母親の言葉を信じて待つ娘 小夜が、母親の死に際で再会…、というベタなストーリーでございます。
・・・でもね、ベタなんだけど、やっぱりと言うか、案の定と言うか、まんまと術中にはまってしまい、私はしっかり泣いてしまいました(第三話でも泣かなかったというのに…)。
だってさぁ、今回の子役の小夜ちゃん、可愛いんだもん。
それに妙と小夜の母子関係に加えて、晴明と白比丘尼(ドラマではこういう設定なのね)の関係を重ね合わせて見たりなんかしたら、余計に晴明の台詞の一つ一つが泣けてきました。
私的には今回はかなり満足度が高かったりします。今まで色々ひどい事を書いてごめんなさい>NHKさま(ハハハハハハハ←笑って誤魔化す m(_ _)m )。先週分の感想で書いたコメント、一部撤回します。音楽も良かったよ〜。山場も今回は適当な長さだったし。ちゃんと最後まで飽きずに楽しませていただきましたです。
でも鬼は相変わらずだな。あと、晴明の役立たず加減も(だって、全然「陰陽師」として活躍してないじゃない)
今回の吾郎君的ツボは、小夜ちゃんと接しているときの手品見せたり、あや取りしたりしている可愛らしい晴明君だったりする。ああ、子供と接している吾郎君って、「催眠」以来弱くなってるわ〜、私(もちろん、可愛い子役に限るってことなんだけど…)。
後もう一つはもちろん、ホクロ探しをしているシーンは艶かしくてドキドキ(^^;)。
今回はさすがに晴明がメインということもあって、晴明の「寂しさ」が描かれたのは嬉しかったし、その晴明を思いやる博雅や蜜虫の姿も身にしみました。「もっと私に甘えてくれればいいのに…」だなんて、いじらしいっす、蜜虫ちゃん…。
それにしても、今回の「たらちね」って原作にあるのでしょうか?(文庫化されている3巻目までしか読んでいない私)。1〜4話までは原作がガチガチにある状態でのドラマ化。ゆえに、かなり原作を意識して、作られていたし、こちらも見てしまっていたのかなぁ、という気もしています。もちろん、今回も原作の内容を部分的には採用しているのだけど、根本的にオリジナルなので、原作の内容の折り込み方にさほど無理は感じなかったし、ドラマに集中できたんですよねぇ。もしかして、原作の呪にかかっているのは私の方なのだろうか?(苦笑)。
とにかく、今後もこの調子でお願いします!
(01.05.06)
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