〜 第 四 話 「 鉄 輪 」 〜
[未明 貴船神社]
夜霧の立ち込める神社。境内の大木に、釘で藁人形を打ちつける白装束の女性(横山めぐみ)の姿。
原作 夢枕獏
脚本 長川千佳子
音楽 H.GARDEN
稲垣_吾郎
演出 小田切正明
「第4話 鉄輪」
[朝 堀川]
堀川に掛かる橋の上で博雅が一人笛を奏でている。振り返るとそこには女性の姿が。(その女性は先程のシーンで藁人形を打ち付けていた女性と同一人物)
博雅 「ずっとそちらに?」
女性 「聞き惚れてしまいました。何ていうか、心を奪われてしまうよ
うな素敵な笛…」
博雅 「いや、そんな風に言われたことはないので。でも嬉しいです。
風が心地よかったものですから、つい夢中になってしまって…」
女性 「あの、よくここで?」
博雅 「あ、まぁ、
女性 「またいつか、聴かせて頂けますか?」
博雅 「それはもちろん」
女性 「じゃぁ、失礼します」
そう言い残して女性は共の者と共に立ち去る。博雅はただ、ぼーっとして、女性を見送る。
[同昼 晴明の屋敷]
蜜虫が庭の掃除をしている。そこに博雅がやってくる。しかし、いつものような覇気が無い;
蜜虫 「やっぱり来て下さった。晴明様は今日も来ないと仰ったけど、
私は・・・。」
しかし、そんな蜜虫の言葉が聞こえないのか、ぼーっとしながら、いつもの縁側の方へと進む博雅。それを晴明が出迎える。
晴明 「久しぶりだな。何してたんだ?」
(この晴明の博雅に対する自然な一言で、晴明と博雅の距離が
かなり近づいた関係になった気がしました。いい感じです)
晴明 「? どうした、みょ〜な顔をして」
博雅 「ああ、何と言うか、こういう経験は初めてで」
晴明 「なんだ?」
博雅 「3日前、堀川の辺で笛を吹いていた」
晴明 「うん」
博雅 「ふと気がつくと、そこに女が立っていたんだ。品が良くて清楚
で可憐で、輝いていた」
晴明 「それで?」
博雅 「で、その人が言ったんだ。惚れた、心を奪われた、素敵だって」
晴明 「本当か?信じられんな」
博雅 「俺がお前に嘘をついたことがあるか!?」
晴明 「ない」(←この即答した“間”が好き)
博雅 「うん…。それから何となく落ち着かなくてどうしたら良いのか
分からず、お前のところに来たんだ。なぁ、どうしたらいい?」
晴明 「一目惚れか・・・」
蜜虫 「その方が言ったのは博雅様の笛のことでしょう、きっと?」
博雅 「いや、そうかもしれんが、そうじゃないきっと!」
蜜虫 「そうですか?それはよかったですね」
と、なぜか膨れっ面の蜜虫。庭掃除を終え、屋敷に上がってきて;
蜜虫 「本当に見損ないました。蝶々みたいにあっちにヒラヒラこっち
にヒラヒラ」
そう言いながら、屋敷の奥へと消えていく蜜虫(何か、今日は蜜虫、可愛いぞ!)。
博雅 「何を拗ねてるんだ。蝶々は自分だろう?」
晴明 「女心は難しいのだ」(^^;)
博雅 「なぁ、何処の誰かとも分からないんだ。どうすればまた逢える?
お前なら何とかできるだろう」
晴明 「幾ら陰陽師でも恋の道だけはどうしようもない」
博雅 「冷たいことをいわずに」
(って、陰陽師は探偵じゃないんだから我が儘言っちゃだめだよ(^^;))
晴明 「・・・。まぁ、ゆっくり話を聞こう、酒でも飲みながら」
博雅 「ああ」
[同夜 徳子の屋敷]
部屋にただ一人いる徳子。そこに食事も摂らない徳子を心配して、徳子に仕えるものが心配して徳子に声をかける。しかし、徳子は、心配は要らないと、そして、早く“仕度”をするように頼む。
[同夜 晴明の屋敷]
そのまま酒を酌み交わす晴明と博雅。博雅の出合った女性についての話が続いているらしい;
晴明 「正直に言っていいか?」
博雅 「何だ?」
晴明 「聞けば聞くほど、俺はつらくなってきた」
博雅 「何が?」
晴明 「悪いことは言わん。その女の事は幻でも見たと思って早く忘れ
た方がいい」
博雅 「どうして?」
晴明 「それがお前の為だ」
博雅 「俺が勘違いしていると思っているのか、お前まで?(盃を置い
て)馬鹿にするな、あのときの様子を見せてやりたかったよ!
もういい、気分が壊れた。俺はもう帰る!お月様とお話をした
方がよっぽど気分がいい」
と、今回も結局、博雅は怒って帰ってしまう(この辺もお約束?(^^;))。
博雅が出て行くのを見送りつつ;
晴明 「本当に人が良いと言うか・・・憎めない男だな」
蜜虫 「そうですか?私にはバカさんとしか思えませんけど」
晴明 「何をツンケンしている?」
蜜虫 「別に」
晴明 「満更でもないんだろ、博雅のこと?」
蜜虫 「違います!私が好きな人は、ちっともこっちを向いてくれない
から。もう少し飲みますか?」
と、ちょっと怒ってみたりする蜜虫だが、晴明に
晴明 「ああ、頼む」
なーんて優しく言われたりした日にゃ;
蜜虫 「はい」
と、酒の用意をするために奥へと下がる蜜虫。(ここでの蜜虫可愛いわ〜。そりゃ、晴明君にこんな風に言われたら、私なんてもうメロメロですもん(^^;))。でも、一方の晴明はというと;
晴明 「女というのは、本当に難しい・・・」(^^;)
[同夜 堀川]
晴明の屋敷を飛び出してきた博雅は、また、堀川にやってきて、笛を吹き始める。その音に誘われるかのように、件の女性が現れる。
博雅 「また、お会いできましたね」
女性 「素敵な笛の音に引き寄せられて来てしまいました」
博雅 「こんな夜更けにどこかへお出かけですか?」
女性 「眠れないのです。愛しい方が、今頃どんな思いでこの月を見つ
めてるのかと考えると…胸が苦しくなって…ずっと眠れなくて、
何も喉を通りません。私が幾ら思っていてもその方の心の中に
今は私の存在などありません。辛いものです。思いのままにな
らぬものです、人の心も、水の流れも…。苦いものです、恋し
さとは。でも、貴方の笛を聞いていると心静まります。私の為
に吹いて下さいますか?」
博雅 「それは…もちろん」
博雅は女性の願いを聞き入れ、笛を奏でる。
[同夜 晴明の屋敷]
そのまま縁側で、蜜虫の酌で酒を飲んでいる晴明。
蜜虫 「ああいう方だから、何か心配ですね。きっとひどく落ち込んで
しまうでしょう?」
晴明 「博雅か?」
蜜虫 「ええ」
晴明 「それもあいつの為だ。一人で恋を出来んという事を知ればいい」
蜜虫 「本当に恋って切ないものですね」
ちらっと、蜜虫を見て、黙って酒に口をつける晴明君。
[同夜 貴船神社]
白装束の女性が社内の木に、藁人形を杭で打ち付けている。その表情は憎しみに満ちている
そこに、神社の神官が現れ、その女性に告げる:
神官 「私はこの貴船の宮に仕えるものですが、不思議な夢を見てしま
って、それで・・・。
夢の中に二匹の大きな龍神が現れたのです。その龍神が言うに
は丑の刻に来た女に次のように伝えろと。今夜を限りに汝の願
い聞き届けたい、と。身には赤き衣を着て、顔には丹を塗り、
頭には鉄輪を頂き、その3つの足に灯を点し、怒る心を持つな
らば、鬼神とならん」
その言葉を聞き、至福の表情をたたえて神社を立ち去る女性。
[翌昼 晴明の屋敷]
昨晩は怒って出ていきながら、今日も晴明の屋敷に来ている博雅。蜜虫は縁側の拭き掃除中。晴明は部屋の中で小刀を片手に、木を削って何やら作っています(一体、何だ?);
晴明 「確かにそう言ったのだな?」
博雅 「ああ、今でも耳に残ってる」
晴明 「好きな人がいると言ったんだな?」
博雅 「(黙って頷く)」
晴明 「その人のことを思うと眠れない、食べられない、と」
博雅 「ああ、どんな思いでこの月を見ているのかと思うと胸が苦しく
なる・・・そう言ったんだ」
晴明 「間違いないな。恋煩いだ。お前に惚れている(断言)」
博雅 「そう思うか?」
晴明 「そこまで女に言われて、思わない方がどうかしている」
博雅 「いや、しかし。あんなに綺麗な女の人が。…本当にそう思うか?」
その質問には答えず(^^;)、晴明は作業している手を休めて、蜜虫のいる縁側の方に行って座る;
晴明 「…で、その人の名前は何と言うのだ?」
博雅 「まだ、聞いてない」
晴明 「お前、まだ、名前も聞いていないのか?」
博雅 「ああ」
晴明 「呆れた男だ」(←本当に呆れてる)
博雅 「なぁ、本当に俺に惚れていると思うか?」
晴明 「ああ」(気のせいか、いい加減な応え方(^^;))
博雅 「じゃぁ、次に逢ったときは、何と言えばいい?」
晴明 「うん・・・屋敷にでも誘えばいいんじゃないのか?」
博雅 「なるほどな・・・。そんな事ができるか!」
真面目な博雅は晴明の言葉に怒り顔を背ける。一方の晴明と蜜虫はそんな純朴な博雅の様子を伺いながらヒソヒソ話;
蜜虫 「どうしてあんな事を?きっと、勘違いしているだけなんですよ」
晴明 「だから、早く目を覚ました方が良いだろう。放っておいたら、
もっともっと傷が深くなるだけだ」
(と、冷やかしながらも、一応、心配はしているようで…(^^;))
[昼 為良の屋敷]
貴船神社の神官が、為良の元を訪ねてきている。
為良 「それでは何か?私を恨んでいる女が夜な夜な貴船の宮に参って、
呪いをかけておるとでも言うのか?」
神官 「お心当たりはありませんか?」
為良 「そんなものは無い!!」
苛立つ為良ではあるが、実際に為良は体の不調を訴えていた。神官は、その呪いの藁人形に『藤原為良』の名が書かれていたことを気にしていたのだが、為良は無関係だと言い張り、追い返してしまう。しかし、追い返した途端に、我慢していた痛みにうなされる為良。堪らず人を呼び;
為良 「おい、遣いを出せ!源博雅に遣いを!!」
[同昼 為良の屋敷]
数刻後・・・。博雅が為良の元にやってくる。為良は博雅に事の成り行きを話し始めた。為良が言うには、3年ほど通った徳子という女性がいたが、別の女が出来て、徳子の元に通わなくなったと言う;
博雅 「早い話、その徳子という人を捨てられたのですね?」
為良 「男と女の間に、捨てたも捨てられたも無いだろう!誰だって、
心変わりをするものだ」
博雅 「そんなもんですか?」
為良 「当たり前だ、まだまだ女の苦労が足りんな。それを一々呪われ
ていたのでは堪ったものではないわ!」
その為良の言葉に、納得しがたいものを感じる博雅ではあったが、為良の「頼む博雅、安倍晴明に何とか呪いをといてもらうように頼んではもらえないか?晴明とは仲がいいんだろ?」という言葉に、一応は承知する。
[同昼 晴明の屋敷]
縁側に座して晴明に事情を話している博雅。そこに蜜虫が湯を運んできてくれて、博雅はそれを手にする;
博雅 「ああ、すまん(一口飲む)。
その徳子という女の所在だが、分からないらしい。何とかなら
んか?」
晴明 「頭に鉄輪か・・・」
蜜虫 「鉄輪って、あの炭火の上に置く三トク(?)の事ですか?」
博雅 「ああ、そうすれば鬼になる、神官はそう言ったそうだ。なぁ、
晴明、為良殿を助けてやってはくれないか?あの様子、見るに
忍びない。それに為良殿には恩があるんだ。宮中の雅楽の会に
最初に口利きをして下さったのが、為良殿なんだ。他にも色々
と世話になっている。だから、今度は俺が何とか力になりたい
んだ。行ってくれるよな」
晴明 「気が進まないな」
博雅 「何故だ?」
晴明 「男と女の事だからだ。男方の女に心変わりするのも、女が男を
殺そうとするのも、それは二人の思いの結果だ。他人が立ち入
りする筋合いのものではない」
博雅 「しかし、おい、晴明、このままでは為良殿は死んでしまうかも
しれないのだぞ」
晴明 「それも仕方ないな、自業自得だ」
博雅 「放っておく訳にはいかないだろう。何とかしてくれ、頼む、こ
の通りだ」
晴明 「・・・」
博雅 「薄情じゃないか!!」
晴明 「いい魚が入ったんだ。飲んでいくか?」
博雅 「お前なぁ!もういい、お前には頼まん!!」
と、本日、2度目の博雅の怒り爆発で、屋敷を出て行く。
[同昼 為良の屋敷]
再び為良の屋敷に戻ってきた博雅。為良は先程と同じように苦しみ続けている。博雅の姿を見て、すがるように晴明に頼んでくれたんだろうと確認する為良を見て、断られたとは言えずに、ついつい晴明は不在だったと嘘をついてしまう博雅;
博雅 「今暫く、今暫くの我慢を!必ず晴明殿を連れてまいりますから」
[同夕方 堀川]
橋の上で、妙案が浮かばずに途方にくれている博雅;
博雅 「どうすればよいのだ・・・」
静かに笛を吹き始める博雅。そこに、徳子を乗せた輿がその橋のそばを通りかかる。従者が徳子に気を利かせてその場に立ち止まるが;
徳子 「止めないで」
従者 「しかし…」
徳子 「このまま通り過ぎて」
従者 「お会いにならなくてよろしいのですか、博雅殿に?」
しかし、その従者の気持ちを理解しつつも、徳子はそれを拒む:
徳子 「今の私にはもう、過ぎ去った世界。あの笛も・・・」
そしてそっと桔梗の花を輿の外に落とし、その場を立ち去る。
博雅 「?」
博雅が振り返ると、その輿が去っていくのが見える。少し駆け寄り、足元に落ちている桔梗を手にする博雅。
[同夜 為良の屋敷]
苦しみつづける為良。
[同夜 徳子の屋敷]
灯明の灯りの元、一人部屋に座している徳子。その表情には不気味な笑みが・・・
徳子 「フフフ・・・」
[夜 晴明の屋敷]
一人、縁に座している晴明。そこに博雅が現れる。
晴明 「戻ってきたか?」
博雅 「為良殿を見てられない」
晴明 「そんなに酷いのか?」
博雅 「やはり徳子という女は鬼になってしまった。貴船の宮の龍神が
女を鬼に変えた」
晴明 「そうかな?」
博雅 「鬼でなければ、あんなに人を苦しめられないだろう?」
晴明 「確かに呪はかかっている。しかし貴船の神官が行った事は嘘だ」
博雅 「嘘?鬼になるという事がか?」
晴明 「ああ。鉄輪を被って鬼になるなど陰陽道でも聞いたことが無い」
博雅 「どうしてそんな嘘を?」
晴明 「たぶん彼らは、三日に空けずに丑の刻参りをする女に困り果てて
いたんだ。気味が悪いし、第一、女が本当に鬼に変わってしまっ
て、そういう噂が広まってしまったら、貴船の神社には良からぬ
力があると、悪い噂が立ってしまうだろう。それを恐れたのだな。
博雅 「それで、龍神が夢に現れてお告げをしたなどと、嘘をでっち上げ
たのか?」
晴明 「考えてもみろ。女が鉄輪を被って顔を赤く塗るなどしたら、滑稽
そのものだ。女を笑いものにしようとしたんだ。しかし女のあま
りの真剣さに恐くなり、嘘だと言えなくなってしまった」
博雅 「そういうことか…。だが女は自分が鬼になったと信じ込んでいる。
何という愚かな事だ。晴明、頼む、あの女から為良殿を守ってく
れ。この通りだ!」
晴明 「女が神官の嘘を信じて会いにくるとすれば今日、明日だな。何を
する気か分からないが、何れにせよ、女の中の鬼を追い出すしか
ない・・・」
博雅 「晴明・・・」
晴明 「兎も角、屋敷へ行くか?」
博雅 「行ってくれるか?」
晴明 「ああ」
博雅 「いこう」
[夜道]
為良の屋敷に急ぐ晴明と博雅;
晴明 「急ごう。色々やらねばならん」
(その“色々”って何なのよ〜。ちゃんとドラマで説明してよ〜)
[同夜 為良の屋敷]
部屋には一体の藁人形が置かれている。その人形には「藤原為良」の名が。その部屋の御簾の陰から、部屋の中の様子を伺っている晴明と博雅;
博雅 「来るとすれば丑の刻なんだろう?」
晴明 「ああ、もうすぐだ。
いいか博雅、この辺りには結界が張ってある」
博雅 「術か?」
晴明 「徳子という女には俺たちの姿は見えない。現れても絶対に声を
立てるな」
博雅 「わかった・・・しかし女は鬼になってどうしようというのだ?
今からでも遅くは無い。神官が嘘を言ったと事情を話して女を
説得した方が・・・」
晴明 「もう無理だ。既に呪がかかっている」
博雅 「しかし・・・」
晴明 「きたぞ!」
その言葉に廊下の方に目をやると、頭に被った鉄輪の脚のそれぞれに蝋燭の灯を点し、徳子が部屋に向かって一直線でやってくる。その様子を陰から伺う晴明と博雅。徳子は為良の藁人形の前に座ると、静かに語り始める:
徳子 「為良様、そこにいらしたのですか?私です、徳子です。とうと
う会いに来ました。ああ、あれからもう何日が経ってしまった
のでしょう?私は毎晩毎晩一人、貴方が来るのを待ち続けてい
ました。待ち焦がれていました・・・」
徳子は人形に向かって為良に対する恨み言を並べる。その人形の裏側にある御簾の奥の部屋では、その徳子の声を聞きながら、為善が呪の書かれた白い衣をまとい、呪文を唱え続けている(と、この辺は今回も長いので省略ね(苦笑))。
徳子 「ねぇ何か言って。何故、何も言ってくれないの?こんな私には
もう言葉もかけたくないのですか?何故私の気持ちが分からな
いの!?」
徳子は藁人形を本物の為良と信じ込んで訴え続けるが、言葉が返ってくるハズが無い。そして、堪り兼ねて刃物を手にし、人形に切るかかる徳子。しかし、その瞬間、藁人形であることに気づく徳子;
徳子 「これは!何処にいるのです。何処に?ねぇあなた、何処に?」
部屋の中を探し回る徳子の姿を見て、堪らず結界の外へと飛び出す博雅。(これって、晴明が「声を出すな」と言った台詞が全然活かされてないんだよねぇ);
博雅 「何故だ!!!」
徳子 「博雅様・・・何故、何故貴方が此処に?」
博雅 「貴女が徳子殿・・・まさか貴女が、あのときの貴女が、何故!!」
徳子 「知っていたのですか、何もかも?」
博雅 「いいや、違う!!!」
徳子 「ずっと見ていたのですね、そこから全てを。私の全てを。あの
あさましい姿を。ああ…何という事を、見られたくなかった。
貴方にだけは見られたくなかった」
涙に暮れながら、その場を走り去る徳子。
博雅 「徳子殿!!」
すぐ後を追おうとする博雅だが、それをすぐに晴明が制する;
晴明 「お互いもっと傷つくことになる」
博雅 「晴明!!!」
晴明 「・・・」
博雅 「何故あの人が!何故あんな姿に!!何故なんだ!!!」
為良 「出て行ったのか、あの女?」
晴明 「ああ・・・」
御簾の奥から窶れ果てた為良が出てくる。そして、刃物の突き立てられた藁人形を見て;
為良 「はぁはぁ。やはりこの俺を殺そうとしたのか?何て奴だ。あの
女、鬼になりおったんだな。貴船の龍神も余計な事をしてくれ
たものよ。晴明殿、あの鬼を何とかしてくれ」
その言葉を聞いて、1歩前に出て為良に何か言おうとする博雅を、静かに晴明が制する。為良は続ける;
為良 「このままではまたいつ教われるか分からん。鬼を始末してくれ」
そうした為良の言葉に、ようやく晴明の登場!
晴明 「お前だよ。徳子殿を鬼にしたのは龍神ではない・・・お前だ」
為良 「何?」
晴明 「そして、お前自身の心の中にはもっと邪悪な鬼が住んでいる。
鬼は・・・お前だ」(ここの晴明、格好いいっす〜)
晴明はそのまま「行くぞ、博雅」と告げて屋敷を出て行く。後を追う博雅。部屋に残された為良;
為良 「おい、貴様!おい!何、鬼?俺が…ふっ、はははははは」
(妙な雰囲気がありますね、この部分)
[同夜 外]
道を急ぐ晴明と博雅。その先を蝶々が先導する;
博雅 「徳子殿の行き先はわかるのか?」
晴明 「ああ」
博雅 「胸騒ぎがする。急がないと」
[同夜 徳子の屋敷の門の外]
蝶の案内によって徳子の屋敷にまでやってきた晴明と博雅。その門の前では蜜虫が泣きながら晴明を見つめる;
晴明 「どうした?」
蜜虫 「止められなかった・・・」
[同夜 徳子の屋敷内]
博雅が屋敷内に入ると、徳子が腹部から血を流して倒れている。徳子を抱き起こす博雅。
博雅 「徳子殿!徳子殿!徳子殿!」
徳子 「博雅様」
博雅 「徳子殿!」
徳子 「貴方にだけは見られたく無かった。あんな姿をあさましい鬼に
なった姿を見られたくなかった」
博雅 「済まない。知らなかったんだ。俺は取り返しのつかない事をし
てしまった。為良殿を救おうとして貴女を追い詰めてしまった」
徳子 「貴方のせいじゃない、醜い鬼になった私がいけないんです」
博雅 「いや、俺が」
徳子 「鬼になって、あの人を殺して、死んでしまおうと思ったのに、
できなかった。でも今こうして貴方に抱かれて死んでゆけます。
嬉しい…。美しい笛だった、あなたの笛を聞いている時だけが、
私の救いだった。貴方の心はあの笛と同じ、曇りも無く澄んだ
優しさに満ちています。私もせめてそんな心を持っていれば、
恨みや憎しみを忘れることが出来たのに。もっと早く会いたか
った。鬼にならずに澄んだのに・・・」
博雅 「貴方は鬼じゃない!」
徳子 「いいえ、鬼です。こんなあさましい女です」
博雅 「そんな事は無い。そんなことは無い、徳子殿!貴女が鬼であろ
うが、何であろうが、俺は貴女のことが好きだ。初めて会った
時から!」
徳子 「博雅様、聞きたい・・・笛・・・貴方の笛が・・・」
博雅 「わかった」
徳子の最期の望みを聞き入れ、徳子を抱きながら、笛を吹く博雅。そのまま徳子は息を引取る;
博雅 「徳子殿・・・?徳子殿!!済まん、済まん・・・」
慟哭する博雅の様子を晴明と蜜虫が黙って見つめている:
博雅 「人は何故鬼になるのだ!人は何故こうまでして鬼になるのだ!
こんなに可憐な女の人が、何故鬼にならなければならないのだ!」
晴明 「人は誰でも、鬼を心に住まわせているんだ」
博雅 「人は誰でもそうなのか?だとしたら悲しい。俺は人であること
が悲しい」
晴明 「鬼になりたいと願うのも人・・・だが、人のために泣けるのも、
人だからだ。博雅、安らかな顔をしている。徳子殿は、お前に
救われたのだ、最後は鬼を追い出すことが出来た・・・」
涙に咽ぶ博雅。(この最後の徳子が死んでからのシーンが今日のベストかな?博雅の涙と、それに重なる晴明の言葉がドラマを引き締めてくれたような気がします)
[数日後 昼 晴明の屋敷]
庭に向かって縁側に座っている晴明と博雅。そして傍に控えている蜜虫;
晴明 「救われないと分かっていても鬼になるのを止められぬ事がある。
特に女はそうだ。女は何とも愚かで悲しい…」
博雅 「お前の言う通りにしておけばよかった。俺が徳子殿の命を奪っ
てしまった。・・・晴明、悲しいものだな、人は」
晴明 「ああ。しかし鬼があるからこその人だ。考えてもみろ、鬼が人
の心に住むからこそ、人は歌を詠み、琵琶も弾き、笛も吹く。
鬼がいなくなってしまったら、人の世は味気無いものになるだ
ろうな。それに・・・」
博雅 「?」
晴明 「(少し悪戯っぽく) 鬼がいなくなれば、俺の仕事が無くなる」
博雅 「・・・。鬼があればこその、人か?」
晴明 「ああ。男も鬼・・・女も鬼だ・・・」
博雅 「済まんな、色々慰められた。晴明、お前はよい漢だ」
晴明 「ふっ。お前もよい漢だ」
そして、博雅は黙って屋敷を出て行く。
蜜虫 「きっと、徳子様に会いに行かれるのですね」
晴明 「・・・」
黙って博雅の後姿を見送る晴明。
[同夕刻 堀川]
橋の上で、笛を奏でる博雅。
[同 草原]
草原の中を進む晴明の後姿。
[次回予告]
晴明 「捨てるのであれば、子供にそう告げるべきです」
<第4話感想> みんな可愛い〜
今回は、なんだかメインのキャラクターが生き生きしていたような、そんな気がした回でした。もちろん、それは裏を返せば時代劇っぽくないと言われるのかもしれませんが、晴明はオチャメだし、博雅は実直だし、蜜虫は可愛いし、3人のアンバランスさが素敵(^^;)。博雅の実直さもはまってきたし、それを見守っている(いじめてる?)晴明と蜜虫の二人も楽しいし。晴明と蜜虫の関係もかなりいい感じになってきたように思います。まぁ、式神の設定については原作に拘る人にはまだまだ違和感があるかと思いますが、私はこのドラマの関係にいい雰囲気を感じてしまったので、これはこれでいいもんだ、と思っている次第です。蜜虫がいないと、晴明の台詞が少なくなるか、もしくは無理に独り言のシーンばかりになったり・・・なんてことになりそうな気がして。だから、実は蜜虫はドラマの中で色々とバランスをとってくれている存在ではないかなぁ、と。それに、やっぱり晴明がメインのシーンは好きなので、晴明と蜜虫の決して恋愛に発展しない二人の恋愛論は見ていて楽しいです(^^;)。
さてさて、放送が始まって一ヶ月が経過し、大体、ドラマの良い部分,悪い部分にも慣れてきたような気がします。私自身が気になる部分は…「音楽」と「山場」と「鬼」
「音楽」は好きなのですが、やや単調ぎみの印象。もう少しバリエーションが欲しいよね。冒頭→山場→エンディングと、流れている音楽がパターン化されているような気がする。冒頭&エンディングの定番BGMはいいのですが、中盤&山場の音楽が地味で、もう少し別パターンもないのかなぁ、と思わないではない。一層のこと、音楽無しの方がいいんじゃない?と思うシーンもあったりして…。まぁ、時代劇って予定調和が原則だから、これがいいのかな?
「山場」については、ここの描き方如何でドラマの出来が変わってくると思うのですが、いくら心に残るシーンであったとしても、どうも時間が長いような気がします。私のような落ち着きの無い人間は、あまり長いと飽きちゃうんですよねぇ。メリハリのある山場だったらいいのですけど、方向性は1つしかない訳だし、少し勿体ないなぁ…と。何事も程々が肝要かと・・・。
あと「鬼」については、どうなんでしょうねぇ?原作では「鬼」と言えば、鬼そのものを描いていたような気がするのですが、ドラマでは心の中に潜む鬼(つまり心の在り様ってことね)を「鬼」として描いているところに、特に小説に沿ったシーンではギャップを感じてしまう。小説と違った解釈をする場合、その展開については小説に頼らずに(縛られずに)、上手くその差を埋めて欲しいなぁと思います。
と、結局、また愚痴ってしまいました m(_ _)m。
(01.04.29)
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