〜 第 三 話 「 迷 神 」 〜
[昼 桂川 川原]
博雅と菅原伊道[これみち](西村和彦)が奏する笛の音が響く・・・
原作 夢枕獏
脚本 田中江里夏
音楽 H.GARDEN
稲垣_吾郎
演出 小田切正明
二人の笛の音を、伊道の妻 藤子[とうこ](南野陽子)とその息子 融[とおる]が聞いている。
伊道 「お見事」
博雅 「伊道殿も」
お互いの笛の腕を称え合う二人。融は川の方で、魚が飛び跳ねるのを目にし、川べりのほうに近づいていく。
伊道 「気をつけろ」
川縁で遊ぶ融の様子を楽しそうに見ている伊道と藤子。
伊道 「藤子、ホラ」
そういって伊道は咲いている野菊を摘み、藤子に差し出す。不思議そうな顔をしている博雅に伊道は説明する;
伊道 「ああ、いや実は、藤子を見初めたとき、野菊の花を添えて文を
送ったのです。だから私たちには想い出の花なんですよ、な?」
と。そのとき、融が足下を踏み外し、川に落ちてしまう。それを救いに川に飛び込む伊道。
藤子 「あなた!!」
[数日後 伊道の屋敷]
悲しみに暮れる藤子。伊道が融を助けるために川に飛び込みそのまま亡くなったことを完全に受け入れずにいる。そんな藤子を博雅が慰める。
博雅 「済まない、俺がそばについていながら」
藤子 「私の心まで水の底に沈んでしまった・・・信じたくない・・・」
博雅 「藤子殿・・・」
藤子 「逢いたい。せめてもう一度、あの人に逢いたい・・・」
博雅 「・・・」
悲しみに暮れる藤子の元に融がやってきて「とうさんは、いつ、帰ってくるの?」と尋ねる。遠くへ行ってしまったと話す藤子だが、徹は父が亡くなったということを理解できずに、帰ってくると信じている。
それ以上、藤子や融にかける言葉も無く博雅が屋敷を出ようとすると、乳母の浮橋がせめて一晩、博雅に泊まって行って欲しいと声をかける。
浮橋 「博雅様にいて頂けるだけで、少しは奥様のお気持ちが落ち着か
れたらと…」
博雅 「わかった、そうしよう」
博雅はその言葉を受け入れ、屋敷に泊まることにする。
[同夜 伊道の屋敷]
死んだはずの伊通が藤子の元にやってくる。伊通は死霊となって現れたのだ。
伊道 「藤子」
藤子 「あなた?!」
伊道 「逢いたかった・・・。お前の心が焼け付くような声で私を呼ぶ
から、その声に身を焦がしながらお前に逢いに来た」
その伊通を受け入れ、情をかわす藤子。部屋の外では、その夜、泊まっていた博雅はその二人の様子を目撃してしまう。
[翌日 晴明の屋敷]
いつものように縁に座している晴明と博雅。もちろん、蜜虫に酒をもってきてもらって、飲みながら話をしています。
博雅 「なぜ死んだはずの者が…」
晴明 「さぁ」
博雅 「何とかならぬか、晴明?」
晴明 「何とかとは?」
博雅 「だから、藤子殿を救うことは出来んのか?」
晴明 「藤子殿は伊通殿に会いたがっていたんだろ?」
博雅 「もちろんだ」
晴明 「それで、その伊道殿が望み通り逢いに来たんだろ?」
博雅 「ああ」
晴明 「じゃぁ、それでいいじゃないか。望みどおりになったものを、
どうして“救う”などと言うのだ?」
晴明 「どうしてって。いや、分からんか、晴明。いいか、逢いに来る
伊道殿は死霊なんだぞ!」
晴明 「分かっている」
博雅 「死霊との逢引きが幸せなはずが無い」
晴明 「幸せ、不幸せ、それは当人が決めることだろう?」
そこに酒を持って運んでくる蜜虫。
晴明 「確かに、女には好きな男と離れて極楽で暮らすよりも、たとえ
地獄ででも一緒に暮らしたいと願う心はありますわ」
博雅 「いやしかし。しかしだ、生きてる者と死んだ者が、その…交わ
るなどと、そんな、いいはずがない。このまま逢い続けたら、
藤子殿は死霊に生気を奪い取られて死んでしまうだろう」
晴明 「多分な」
博雅 「多分って…。なぁ頼む、晴明。何とかしてやってくれ。おい、
聞いているのか?藤子殿にはまだ幼い子供がいるんだ。その子
の為にもだな…」
晴明 「どちらを選ぶかは本人が決めることだ」
博雅 「そんな無責任な!!!」
晴明 「無責任?」
博雅 「そうだろ。地獄に墜ちるものを黙って見過ごすのが無責任では
なくて何だ!お前がそんな薄情なヤツだったとは知らなかった!!
お前にはもう頼まん。俺が、俺が一人で何とかする」(←熱い)
晴明 「藤子殿に惚れたのか?」(←からかってる)
蜜虫 「そうなのですか?」(←蜜虫まで一緒にからかってる(^^;))
博雅 「馬鹿、すぐそんな風に…。藤子殿と伊道殿は俺の理想の夫婦だ
ったのだ。暖かくて、よい家庭だったのだ。だから…」
晴明 「(笑いながら)まぁ、酒でも飲め」
博雅 「お前と酒を飲んでいる暇など無い!藤子殿が心配だ。俺は帰る!」
晴明 「(笑)。本当に馬鹿が付くほど真っ直ぐなヤツだな」
蜜虫 「それが博雅殿の良い所ですわ」
と、帰ろうとする博雅に歩み寄って、晴明をちらっと見ながら;
蜜虫 「死霊と聞いて、行かないはずがありませんよ」
博雅 「本当か?」
その言葉を合図のように、晴明も立ち上がって、庭に出る:
晴明 「行くぞ!」
博雅 「おお。(蜜虫に)行ってくる」
[同日 都の通り]
晴明と博雅が通りを歩く。
博雅 「どこへ行くのだ?伊道殿の屋敷は方角違いだぞ」
晴明 「ああ」
博雅 「おい、藤子殿を助けてくれるんじゃないのか?」
晴明 「黙ってついてこい」
[同日 山道]
とにかく山の中をどんどん分け入っていく晴明の後を追う博雅。博雅の息遣いが荒くなってきている。
博雅 「おい、どこへ行く気だ?!」
晴明 「嫌なら帰ってもいいぞ」
博雅 「そんな、今更…」
[同日 竹林の中]
もはや道も無いところを、さらにどんどん進む二人。
博雅 「なぁ、おい、一体どこまで歩く気だ?!」
晴明 「・・・」
(^^;)
[同日 山奥]
やがて晴明と博雅は、一軒のあばら屋に辿り着く。
博雅 「何だここは?」
晴明はかまわずあばら家の中に入っていく。
博雅 「何だか気味悪いな…」
と、むくっと起きあがる男性の影が。
博雅 「(驚いて)おお〜。化け物か?」
男 「晴明か?」
晴明 「お久しぶりです」
男 「見かけん顔もあるな。」
ゆっくりと座り直し、そばにある酒を差し出す男。
男 「おお〜。久しぶりに飲むか?」
黙って盃を受け取る晴明。そして
男 「お前もやるか?」
博雅 「で、では・・・」
とはいえ、口にした途端、思わず吹き出してしまう博雅。
男 「口当たりがいいだろう?まむしの生き血が入っている。ほら、
これだ」
と言う道満。確かにあばら屋の入り口にまむしが数匹、ぶら下がってます。(これを自然の生活というのかなんというのか…いやはや、やっぱり私にはきついわ〜)。
晴明 「博雅、こちら、蘆屋道満殿だ」
博雅 「何?道満殿と言えば晴明と並び称されるほどの陰陽師じゃない
か。まさかこんな男とは…」
そんな博雅の反応を意に介さず、晴明に話し掛ける道満;
道満 「まだ宮仕えなどをしておるのか、晴明?」
晴明 「ええ」
道満 「気が知れんな。お前ほどの陰陽師が帝の飼い犬とはな」
晴明 「飼い犬ですか?」
道満 「ああ、そうであろうが。お前は帝の暇つぶしにほいほい駆り出
される情けない手品師になりさがっておる。帝のご機嫌取りを
して何が陰陽師だ。なぜ恥もせずあんな男に仕えておる、ええ?
高い身分を与えられて心地良いか?」
晴明 「これもまた修行の一つと思っております」(←それ本心?)
道満 「ふん・・・で、何の用だ?」
晴明 「罪な事をなさいましたね」
道満 「何の事か?」
晴明 「見事な反魂の術は、あなたの仕業でしょう?」
道満 「ああ、あの藤子とかいう女の事か?ハハハ、さすが見破ったな。
久しぶりの大技に腕が鳴ったぞ。いや〜、実に楽しかった」
晴明 「ですが、このまま放っておいたら、女がやつれ果てて死んでし
まいますよ」
道満 「ああ、だろうな」
博雅 「道満殿はどうして哀れな女にこのような惨い事を?まさか金の
…金のためですか?」
道満 「金だと?金なんぞ手にして何になる?ワシは銭では動かん。動
くのは呪よ」
博雅 「それはつまり、人の心ということか?」
道満 「ほぉ、多少は呪のことが分かるようだな。晴明に教わったか?
腹が減った。晩飯の仕度でもするか…」
あばら屋の外に出てくる晴明,博雅、そして道満。石で火を囲んだだけのかまどを囲んで3人が座っている。
道満 「反魂の術と言うても、誰かがそれを強く願わねばワシでもどう
にもならん。あの女はワシが誰だか知らなんだ。通りすがりの
得体の知れん男に声をかけるぐらい、あの女は男の帰りを望ん
でおった。戻ってきて欲しい妻と戻りたい夫…。奴等が望んで
そうしておるのだ。口出しするな、晴明もそう言わなんだか?」
博雅 「しかし…」
そのとき、ふと、野ウサギが道満の視界に飛び込んでくる。
道満 「そこにおれ。ああ、いい子だ、そこにおれ…。
(兎を抱き抱えて)よしよし可愛い奴だ。ホレ、今夜の夕飯だ」
と、そのままウサギを目の前の釜の中にポトリ(う〜ん、すっごくナチュラルに入れた…(^^;))。
博雅 「酷いことを・・・」
道満 「生きる為にウサギを捕らえるのを酷いと見えるか?」
博雅 「えっ?」
道満 「お前ら貴族は食うに困らぬというのに、富だ権力だと互いにい
がみ合い、他人を踏みにじって生きておるではないか。酷いと
は、そういうことを言うのではないのか?」
博雅 「しかし…」
道満 「腐った都に染まり、人間らしさを忘れておるから、自然の理に
沿った暮らしが残酷に映るのだ。それはしかし、傲慢だ。お前
はその傲慢さで、死霊と交わるあの女も不幸だと決め付けたの
であろうが?」
博雅 「・・・」
道満 「晴明よ、お前はもうこれ以上、人の世に関わるな。我らが生き
るは所詮、座興よ。死ぬまでの時間をどう面白く過ごすか…、
いや、近頃はそれも、もうどうでも良いという気がしておる。
面白かろうがつまらなかろうが、どうせ同じ時間を生きて死ん
でゆくだけのこと。晴明よ、お前もその辺りのことは、よう分
かっておるであろうが」
晴明 「・・・」
道満 「どうだ、お前、ワシの元に来んか?ちゃんと分かり合えるのは
ワシだけだぞ。こんな男ではとても無理だ」
晴明 「道満殿ともあろう方が人恋しいのですか?」
道満 「なにぃ?」
晴明 「残念ながら、すね者の繰言にお付き合いするほど、退屈しては
おりませんので…」
道満 「お前…」
晴明 「それに、今のところ人の世というものは、そう悪く無いと思っ
ております」
道満 「・・・まぁ、いい。帰ってあの女の死に様でも眺めてるがいい。
この道満の用意したなかなかの座興だぞ」
晴明 「道満殿。では、あなたの反魂の術を私が解くという座興は如何
ですか?」
道満 「お前、あの女を助けるというのか?ははぁ、面白い事を言うな。
あぁ、藤子とやらに惚れたか?」
晴明 「私はその女を知りません」
道満 「ハハハ、そりゃそうだ。お前が思う女は別におるからな」
博雅 「?!」
道満 「ハハハ、それじゃぁ、惚れたのはお前(博雅)か?」
博雅 「な、な、何を馬鹿な!」
道満 「まぁ、いい。さぁ、(鍋が)丁度いいぞ。食っていくか?まぁ、
好きにやってみるがいい。所詮は一時の座興だ。お前がどう術
を解くか、お手並み拝見としよう」
晴明 「私が自由にしてよろしいのですね」
道満 「おう。ワシは何もせん」
[同夕刻 山道(帰路)]
山を下りる晴明と博雅。
博雅 「あの男との術比べになるのか?」
晴明 「競う気は無い。ただ、一言、釘を刺しておきたかっただけ」
博雅 「あの男が約束を守ると思うか」
晴明 「俺に何もしないと言ったんだ。心配は無い」
博雅 「では、すぐに行こう」
晴明 「今夜は無理だ。あの男の術を解くとなれば、俺もそれなりの用
意がいる」
博雅 「では、明日か?」
晴明 「ああ」
博雅 「・・・なぁ、晴明」
晴明 「何だ?」
博雅 「道満殿が言っていたお前の思う女というのは…ひょっとして…
やっぱり…」
その博雅の言葉に晴明は立ち止まって、博雅の方を振り返り;
晴明 「あれは赤トンボだ」
博雅 「この間はアゲハチョウと言ったぞ」
晴明 「じゃぁ、アゲハチョウだ。ハハハ、とにかくそういうヤツだ」
と、何事も無かったかのように再び歩き出す晴明。(今回はこの部分が一番ツボかも(^^;)。でも、そういうヤツってどういうヤツなのよぉ〜。すっごく気になってきました)
[同夜 晴明の屋敷]
夜。晴明は部屋の中に座し、何やら準備中。
『為』 『関』 『閉』 『門』 『急』 『急』 『如』 『律』
朱色の墨で、石にこのような文字を書き記している晴明(と、間違ってたらごめんなさい)。その晴明の様子をじっと濡れ縁から伺っている博雅はそばにいる蜜虫に尋ねる;
博雅 「なぁ、あれは?」
蜜虫 「桂川の石です」
博雅 「…何をしているのだ?」
蜜虫 「説明しても博雅様にはチンプンカンプンです」
博雅 「教えてくれたっていいだろう、ちゃんと!?」
蜜虫 「まぁ、陰陽の術の一つです」(←適当に答える蜜虫(^^;))
そして最後の文字を書き終え、筆を置き、濡れ縁にやってきて博雅の隣に座る晴明。
博雅 「晴明…」
晴明 「何だ?」
博雅 「目に見える物だけがこの世に在るというものでも無いんだなぁ」
晴明 「急にどうした?」
博雅 「野菊の匂いがするんだ。庭の何処にあるのかは見えないが、こ
うして匂いがする。その姿は見えず、匂いというものは目には
見えないのだが、花は確かにここに存在するんだ。・・・晴明、
命というのもそういうものなんじゃないかな?例えば庭に咲く
野菊を見ても、俺たちはその野菊の命を見ているわけじゃない。
その形を見ているだけだ。でも目には見えなくても、命はいつも
そこにあるんだ」
ここでようやく晴明が口を開く;
晴明 「すごいな、博雅、お前の言っていることは呪の根本に関わる事
だぞ」
博雅 「また呪か・・・」
晴明 「そんな顔をするな」
博雅 「俺はただ、聞きたかっただけなんだ。命とは何なのか、死んで
もまだ姿の見える伊道殿は一体・・・」
晴明 「どうした?」
博雅 「やめた、考えただけで俺は何が何やら頭が混乱する。お前の説
明を聞けばもっと混乱するに決まっている」
晴明 「いや、お前はよく分かっているさ」
博雅 「何がだ?」
晴明 「呪の根本がだ。余計な理屈なんぞ無視して、物事の根っ子の部
分だけをしっかりと掴み取る。お前はそういう奴だ」
[翌日 早朝 伊道の屋敷]
藤子との逢瀬を果たした伊道は、夜明けと共に屋敷を出ようとする。屋敷の門で見送る藤子。
藤子 「離れたくない…」
伊道 「私も…」
別れ際に抱き合う二人;
伊道 「また今夜…」
藤子 「ええ、また今夜…」
そこに融がやってくる。父が来ているという藤子は融に話すが、融の目には父の姿は見えない。
伊道 「そうか、融には私の姿は見えないか…。声も聞こえないのか!!」
悲しみに暮れながら、伊道は去っていく。
[同昼 伊道の屋敷]
博雅が屋敷に入ってくると、「奥様、奥様!!」との浮橋の叫び声が聞こえる。部屋の中に入ってくると、藤子が倒れている。駆け寄る博雅
博雅 「藤子殿!藤子殿!」
藤子 「博雅様…」
傍らでは浮橋と共に、融も母親の様子を心配している;
融 「母さん、何か食べないと元気にならないよ」
そう言って、部屋を出て行く。後を追う浮橋。部屋に二人っきりになり、博雅は伊道との話を藤子にする;
博雅 「あなたが毎晩、誰と逢っているのか知っています。あれは死霊
なんですよ!このままではあなたの命が…」
藤子 「分かっています。分かっているんです。でも、どうしてあの人
を追い返せます?死んでも逢いに来てくれるんですよ。私も逢
いたい…。たとえあの人が死霊でも」
博雅 「融はどうなります?あなたがいなければ融はどうなるんですか?
愛しい相手に会えない悲しみはあなたが一番良く分かってらっ
しゃるはずでしょう?融に同じ想いをさせるんですか?」
そこに、粥を持って部屋に入ってくる融。藤子に粥を差し出す。
博雅 「この子がどれだけ心配しているかわかるでしょう。これ以上、
悲しい目に合わせるんですか?心に決めてください、もう、お
逢いにならないと…」
必死に藤子を説得する博雅。
[同夜 桂川]
伊道の霊が現れる。藤子の元へ向かう伊道。
[同夜 伊道の屋敷]
屋敷の庭では、晴明は、昨日用意した石を並べ、結界を張っている。(なぜかツボなこのシーン(^^;))
作業を終え、屋敷の部屋の中に入ってくる晴明。中で待っていた博雅と藤子に話しかけます;
晴明 「これで、まず伊道殿は中には入って来れない」
博雅 「そうか…」
部屋の扉を閉める晴明。そして、藤子の傍に近づいて、優しく話し掛ける;
晴明 「あなたの想いが無ければ私は何の力にもなれません。彼に逢わ
ない…そう心に決めて下さい。いいですか。伊道殿が何を言っ
ても、何があってもこの戸を開けてはいけません」
その晴明の言う事を聞き入れる藤子。そして・・・
晴明 「来た!」
屋敷の門をくぐる伊道。しかし
伊道 「うっ?!!」
伊道の歩みが止まる。一方、部屋の中では晴明が、左手で印を結び呪を唱える。
晴明 「為関閉門急急如律令 為関閉門急急如律令・・・」
(↑間違ってたらごめんなさいです。
初めて呪を唱える声が聞けたのが嬉しかったので書いてみました〜)
屋敷の外では伊道が、結界に阻まれ、屋敷の中に入れない。
伊道 「藤子・・・藤子〜!・・・藤子ぉぉぉぉ〜!」
(西村さん、こ、恐い…)
藤子への想いの強さによるものか、晴明の結界の中に足を踏み入れる伊道。
晴明 「結界が破れた」
博雅 「! どういうことだ?!」
晴明 「彼の想いが強いのだ」
博雅 「何だと!どうするんだ?!」
晴明 「後は、藤子殿次第だ」
部屋の扉の外では伊道が藤子の名前を呼ぶ;
伊道 「藤子…どうした…約束通り逢いにきたぞ。さぁ、開けておくれ。
藤子…藤子…」
藤子 「あなた、もう帰って、お願い…もういいんです。呼んだりして
ごめんなさい」
だが、伊道はそんな藤子の気持ちを理解できないでいる。なおも、扉越しに藤子に訴える続ける伊道;
伊道 「藤子、開けておくれ。教えてくれ、どうして俺がお前からこん
な仕打ちを受けるのだ?」
藤子 「融は、融はどうするのです?…私たちの子です、分かるでしょ?
あの子は私がいなければ、融を守らなければならないのよ。あ
の子を捨ててはどこにも行けない…。もう逢わない、もう逢え
ない…融を悲しませたくはないのです」
それでも伊道は藤子が自分を拒むことを受け入れることができないでいる;
伊道 「開けておくれ。お前は二度と私の顔を見なくても、声を聞けな
くてもそれで良いと言うのか?俺は嫌だ。おれはお前がいなけ
ればダメだ!!」
その伊道の叫びに、ついにたまらなくなり、屋敷の扉を開けてしまう藤子。
博雅 「いかん、行くな!!」
その博雅の声も振り切り、部屋の外にいる伊道の胸の中にすがりつく藤子…;
藤子 「あなた、ごめんなさい。ついて行きます。ここにいたってどう
していいかわからない。本当は伊道様がいなければ、どうして
いいのか分からない…」
伊道 「藤子…」
藤子 「あの世で一緒に暮らしましょう」
伊道 「藤子…」
そうして、伊道と共に旅立とうとする藤子。
博雅 「融はどうなる?!融を捨てる気か?!!」
藤子 「私などがいなくても、あの子はきっと立派に育ってくれます」
博雅 「何言ってるんだ!」
伊道 「博雅殿…」
そして、その様子を見ていた晴明が1歩前に進み出る。
伊道 「何者だ?ただの人ではないな…」
晴明 「陰陽師 安倍晴明」(名乗りはもう、お約束だね!)
伊道 「安倍晴明?では、俺をあの夜に追い返すつもりだったのか?」
晴明 「そうだ」
藤子 「晴明様、これでいいのです」
博雅 「藤子殿、死んでしまったら終わりだろ!」
藤子 「やはりこが私の幸せなんです。一緒に暮らせるのなら、この世
であろうとあの世であろうと…」
博雅 「馬鹿な!」
藤子 「もう止めないで…一緒に行きたいんです、私…」
晴明 「わかりました。もう止めはしない」
博雅 「!!晴明」
晴明 「言っただろう、博雅?本人が強く望まなければ、たとえ陰陽師
でも何もできない」
そして、そのまま屋敷を出て行こうとする伊道と藤子。そこに;
融 「母さん!!」
振り返る藤子。
融 「母さん、何処行くの?」
藤子 「お父様の処よ…」
融 「僕も行く!」
無邪気にそう答える融。しかし、藤子は融に一緒に行くことは出来ないと諭す。だが、藤子にしがみつき、離そうとしない融。そんな親子の様子を眺めている晴明と博雅。博雅は飛び出そうとするがそれを晴明が制止する;
晴明 「決めるのは藤子殿だ。見守るしかない…」
融 「嫌だよ、僕も父さんに会いたい。一生懸命頑張るから、お願い
だから僕も連れてって!」(←思いっきり棒読み(涙))
藤子 「そうよね、会いたいよね。融も会いたいよね。でも・・・」
そして、ここからが晴明君の出番です(笑)。
晴明 「この子は、まだ幼くて自分では何も決められない。あなたが連
れて行くと決めれば死ぬ。置いていくと決めれば生きている。
夫婦から授かった命だから、どうしようと夫婦の勝手なのかも
しれない・・・でも・・・私はその子が可哀想で仕方が無い。
何も分からないまま親の身勝手に振り回されて、胸が張り裂け
そうなほどに苦しんでいる。その子がどんな夢や希望を持って
生きているのか、知っているのか?」
そして、傍らにいた博雅が融に話し掛ける;
博雅 「融、大きくなったらどんな男になるんだ?」
融 「大きくなったら父さんみたいに優しくて強くなって、笛の名人
になりたい」(←最後まで棒読み(涙))
博雅 「そうか、そうだな」
伊道 「・・・」
藤子 「・・・」
晴明 「その子の命は、その子のものだ。その子を捨てるというのなら、
何故捨てるかをきちんと分からせてやって欲しい。でないと、
ずっと心の中に母への暗い想いが残ってしまう…」
その晴明の言葉が胸に突き刺さる藤子。
藤子 「あなた・・・私・・・」
伊道 「もういい、いいんだ…。お前や融を苦しめるつもりなんかなか
った。ただ急に死が訪れてしまって。でもお前に逢いたくて、
それだけで一番大事な事を忘れてしまっていた。お前と融を守
ることが喜びだった。それが幸せだった。あの時も融を守る為
に川に入った。それなのに・・・済まない、どうかしていた。
お前達と別れるのは寂しい。でも、お前が元気でいてくれるの
なら、俺は幸せだ。今までも、これからも、お前と融の幸せが
私の全てなのだから。楽しかったなぁ藤子。本当に楽しかった。
・・・ありがとう。融を頼むぞ。幸せに慣れよ、いいな!」
そう言って屋敷を後にする伊道。その後を藤子が追う。
博雅 「!?」
晴明 「大丈夫だ、きっと・・・」
[同未明 桂川]
あの世に旅立とうと、藤子と最後の別れの言葉を交わす伊道。融はただ、川の方を向いている。その様子を晴明と博雅が眺めている;
伊道 「とうとう、私を一度も見てはくれなかったな、融・・・」
伊道は舟に乗り、岸から離れていく。博雅の笛の音が響く。そしてその音に伊道の笛の音が重なる。
融 「お父さ〜ん!!」
融は伊道の笛の音がした方向に向かって叫ぶ。その息子の叫び声に、手を止める伊道。じっと融を見つめながら、伊道の姿は消えていった・・・
[朝 山奥]
道満の元へ向かう晴明と博雅。
道満 「本当にこれで良かったと思うのか?」
晴明 「分かりません。あの子が大きくなった時に藤子殿が答えを出す
でしょう」
道満 「まぁ、色々あっての人の世だ。ハハハ。しかしまぁ、お前らし
いな、わざと弱い結界を張ってあの女に任せるとはな。甘いと
は思うが、嫌いじゃない。そういう陰陽師もまぁ、いる方が面
白いか。ハハハハハハ」
そう言って道満はその場から立ち去る。
[数日後? 晴明の屋敷]
縁側で、晴明,博雅が庭を眺めて座っている;
博雅 「なぁ、晴明。ずっと気になっていたんだ」
晴明 「何だ?」
博雅 「融には、どうして伊道殿の姿が見えなかったんだろう?他人で
ある俺には見えて、息子の融には見えないのはおかしいと思わ
ないか?」
晴明 「ふふ」
博雅 「親子なのに何故なんだ?」
晴明 「幼い子供だからだよ。子供は未来だけを見つめている。真っ直
ぐに未来を見ているから、大人のように過去に惑わされたり、
振り回されたりしないんだろう?」
博雅 「そうか…そういうことか。汚れてないということか、子供は…」
そこに、酒の用意をして蜜虫がやってくる。
蜜虫 「博雅様だって純粋で全然汚れてないという感じですよ」
博雅 「子供っぽいという意味か、俺がそれは!」
蜜虫 「褒めてるんですよ。さぁ、はいどうぞ」
蜜虫に酌をしてもらう博雅。
博雅 「しかし、陰陽の術というのは凄いもんだな」
晴明 「そうか?」
蜜虫 「凄いのは博雅様ですよ」
晴明 「どうして?」
蜜虫 「だって、藤子様を励まして生きようと決意させたじゃありませ
んか」
博雅 「それは、まぁ・・・」
晴明 「陰陽師は人の心が強く望まなければ何も出来ない。だが、お前
は心で人の心そのものを動かしたんだよ」
(今まで博雅の三枚目的な部分がクローズアップされてしまってましたけど、うん、このシーンで、いい漢(おとこ)っぷりがようやく見えてきた感じですね)
[翌朝? 伊道の屋敷]
藤子と笛の練習をする融。その様子を影から博雅と晴明が眺めている;
博雅 「きっと父親譲りの笛の名手になるぞ」
晴明 「そうだな」
博雅 「なぁ晴明、女というのは難しいもんだな。どこまで女を通し、
どこから母になるのか・・・男で良かったよ。
しかし母親っていうのはきっと、腹を痛めた子供のことをまず
思ってるんだろうな・・・」
晴明 「・・・」
博雅 「晴明、お前だったんだろう、藤子殿が行こうとした時に、融を
目覚めさせたのは?」
と、晴明の方を振り向くと、そこには晴明の姿は消えていた・・・
[同日 草原]
今回も一人たたずむ晴明の後姿。(やっぱり最後は晴明一人の後ろ姿なんだね。親と子の愛情を見た晴明の心内は一体・・・?といったシーンなんでしょうね、これは)
[次回予告]
晴明 「一目惚れか?」
<第3話感想> 晴明の活躍シーンが少な〜い!!!
今回の話はきっと、切なくて、良い話だったんだろうな。南野陽子さんの藤子も切なかったし、西村和彦さんの伊通も恐かったし(^^;)、寺尾聰さんの蘆屋道満も、あの独特の雰囲気はさすがだったし。
でもね、でもね、やっぱり晴明君の大活躍がないと、なんとな〜く物足りなさを感じてしまった第3話でございました。私って、結局のところは吾郎君しか見ていないのね(苦笑)。
最終的には晴明がいろいろと配慮して、わざと弱い結界を張って藤子の決意を促したり、融を連れ出してきたりという画策をしていて、晴明が活躍したという表現にはなっているんだけどね。でも、最後であれだけ引っ張るなら、もう少し晴明君の出番が欲しかったなぁ…な〜んて。
今回はドラマ版の晴明という人間が徐々に描かれてきている回なのではないかと思ったりもしています。第一話では、玄象探しなんかして、淡々と推理を重ねていく「明智」っぽいイメージを持ったのですが、今回は『実は人間好き』という「佐竹城君」タイプ。過去のドラマのキャラと重ねて見ることはあまりいいことではないかもしれないけど、色々とつながりを感じてしまいますね、どうしても。(ところで、このキャラクターの変化…、実はまさか脚本が替わったから、という理由だけだったらどうしよう…?(苦笑))。
道満が言うように「甘い」陰陽師の晴明(あれっ、そういや嵯峨先生もそんなこと言われてなかったっけ?)。そういう甘さ,優しさを持つ人物というのが吾郎君キャラの持ち味なんだろうか?吾郎君の演じる役って、最近は「癒し系」という範疇の役が多いよね?人の心の中に滑り込んでいくというか…。晴明が癒し系キャラだとは思わないけど、「人の心の在り方」をテーマ(?)にしているこのドラマは、ある意味、催眠の嵯峨先生のようなカウンセリング的な役割を持つことが要求されるのかもしれません。
・・・と書いているうちに、なんだか元々書こうとしていた事から話がどんどんズレたコメントになってしまったわ。まあいいや。
今回はやっぱり晴明と道満のやりとりとか、もちろん、晴明と博雅のやりとりとか、そういうシーンが充実してきたのは非常に嬉しかったりします。
道満さん、いいですね。小説版と違ってドラマだとビジュアルに訴える部分がある分、晴明との対比が上手く感じ取れるような気がしてます。ある種の悟りの境地に達して世捨て人的な生活をしている道満と、人の世に対して愛情を持って接している晴明君。道満を描くことで晴明のキャラクターがより浮き上がってくるような、そんな感じもしますので、今後、この両者の関係がどういう描かれ方をしていくか、楽しみですね。
それにしても、晴明が「思う女」って気になりますねぇ…。博雅が蜜虫との仲を勘ぐっていましたが、やっぱり晴明と蜜虫は何か関連あるんじゃないかなぁ…。終盤のドラマオリジナル(?)の展開に密かに期待している私です。と、こういうことを言うから、「アイドルのファンは・・・」とか言われちゃうんだよね…(すみません。反省)。
(01.04.22)
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