陰 陽 師  o n m y o u j i

〜 第 一 話 「 玄   象 」 〜


[平安京 夜の町中]

日も暮れた町中を1台の牛車が供達を従え進んでいく。


       原作 夢枕獏

       脚本 小松江里子

       音楽 H.GARDEN

       稲垣_吾郎

       演出 小田切正明


牛車の目の前に、金棒を手にした鬼(永澤俊矢)が現れる。

  供の者「うわー、鬼だ〜」

怯える男達をなぎ倒し、鬼は牛車に乗った女性をさらっていく。

[数日後 一面のオミナエシの咲く野原]

夕刻。玉草(山口紗弥加)がその乳母を連れてオミナエシの花を摘んでいる。

  乳母 「姫様は本当にその花がお好きですね」
  玉草 「ええ、子供の頃から大好きだった。でも今はもっと好き」

いつまでのオミナエシの花を前に帰ろうとしない玉草に対し、乳母は玉草の兄も心配しており、そろそろ帰るよう諭す。しかし玉草は、兄は自分を出世の道具にしか考えていないことに対し不満を漏らす。

[同夕刻 羅城門]

羅城門・・・多くの死人が放置されており、盗人も集まってくる場所。そこにオミナエシの花を手に着物を被って女が一人やってくる。羅城門を見上げてるその女は玉草である。玉草はそのまま楼上に上がっていく。

[数日後 宮中]

宮中の広間で、鹿島貴次(宮川一朗太)と共に、源博雅がやってきて、その場に座して羅城門の鬼の話をし始める。

  貴次 「聞いたか、羅城門の鬼の話。狙われるのは貴族ばかり、我々も
      気をつけんとな」

博雅も帝の耳にこの話が届く前に、何とかせねばという思いはあるものの、自らの力ではどしようもないという思いでいる。そこに、複数の公家達に取り囲まれ、安倍晴明がやってくるのが見える。

  公家1「・・・生まれたという噂を聞いたのですが本当ですか?」
  公家2「晴明殿の方術も狐の母親譲りか?」
  公家1「方術で人を殺すとも聞きましたが…」
  公家2「物に宿る霊を式神という人間の姿に変え、それで殺すのですか?」
  公家3「晴明殿の屋敷では、式神が身の回りの世話をしていると聞きま
      したが、夜のお相手もその式神なのか?」
  公家達「はははははは」
  公家1「本物とその違いが分からぬもの…
      いちいち文句はいいませんが…」

そうして、晴明とそれを囲む公家達は、博雅たちと少し距離をおいた位置に座した。その様子を横で眺めている博雅と貴次。

  貴次 「みんな晴明のことを面白く思ってないからな。生まれも育ちも
      はっきりとしない陰陽師が、帝の気を引きトントン拍子の出世
      で従四位下」
  博雅 「帝の決められたことだ」
  貴次 「おまえだって面白くないだろう?」
  博雅 「まぁ、な。どこか胡散臭いな」

公家達の晴明に対する面と向かっての中傷はまだ続いている。

  公家1「悪い噂が立ちますれば・・・それはそこは陰陽師、何があって
      も方術一つでその人を消せばよいのですから…」
  公家達「ははははは」

それまで静かに聞いていた公家達言葉に対して、ようやく口を開く晴明。

  晴明 「人を殺すなどは・・・しかし、試せと仰せなら・・・
      (と、これが晴明君の第一声(^^;))
  公家2「いやそのようなことは」
  公家3「とんでもございません」
  晴明 「どなたで試しましょうか?」

不敵な様子で公家達をゆっくりと見回す晴明。

  晴明 「どなたも勇気が無いようですねぇ」

そうして、その場にいた猫に手をかざし、呪をかける晴明。猫はその場にひっくり返り動かなくなる。本当に方術で猫を殺してしまったか?というシチュエーション。

  公家1「これは死んで!」
  公家2「まさか!」
  公家3「滅多な事を!」
  公家1「恐ろしや!」

公家達はそう口々に言って、広間を逃げ去る。黙ってみている晴明。やっぱり意地悪?その様子をずっと眺めていた博雅は、猫を抱きかかえ、晴明に向かう。

  博雅 「座興で命を粗末に扱うとは、陰陽師とはそういうものか?可愛
      そうに…」
  晴明 「源博雅殿、その猫、どうされるおつもりですか?」
  博雅 「家に帰って丁重に葬ってやる!」
  晴明 「どんな命でも大切なものですからね」

そう言って、黙って再び猫に手をかざし、その場を立ち去る。100%、クールな(?)晴明です。

  博雅 「無益な殺生をしておいて」

と晴明を批判して呟く博雅だが、「ミャ〜」という鳴き声が。抱いている猫を見ると、その猫は死んではいなかった。

  博雅 「!」

[同日 宮中の一室]

博雅と貴次の2人が、向きあって座している。

  貴次 「近々、宮中で宴が模様されるのだが、そこで玄象を披露するこ
      とになった」

そこで貴次は、琵琶を嗜む博雅に玄象の手入れを任せたいと帝の意向を博雅に伝える。それを聞いた博雅は快く引き受ける。貴次がその場を立ち去ると、博雅は玄象を 手にし、弾き鳴らしてみる。玄象の奏でる音色は、確かに素晴らしいものであった。博雅がその音色に聞きほれていると、そこに貴次の妹玉草がやってくる。博雅は玉草に白湯を1杯欲しいと頼む。

  博雅 「それにしても、素晴らしい…」

再び感動しながら、玄象を弾く博雅。

[同夕刻 晴明の屋敷]

晴明の屋敷の門も前で、屋敷に入ろうかどうしようかと行ったり来たりしている博雅(ちょっと可愛い(^^;))。その屋敷の庭では、蝶がひらひらと舞っている。博雅が覚悟を決めて屋敷内に足を踏み入れると、背後からいきなり女性に声を掛けられる。

  蜜虫 「お待ち申しておりました」
  博雅 「待っていた?」
  蜜虫 「はい。博雅様がいらっしゃるだろうから、ご案内申し上げるよ
      うにと…」

要領を得ないままに、蜜虫に屋敷に続く庭を案内される博雅。その庭は、雑草の手入れもされずに、思い思いの草花が生えていた。

  博雅 「これはまるで荒れ寺のようだ」
  蜜虫 「晴明様が、草も花も、命あるものはあるがままにしておくのが
      一番よいと申されまして…」
  博雅 「いや、そのこういう庭もなかなか趣があるというか風情がある
      というか…」

そして、庭を進むと、どこからともなく声がする。

  晴明 『来られたか?』
  蜜虫 「はい」

博雅は辺りを見回すが、その声の主、晴明は見当たらない。ただ、蜜虫は庭の木の上方を見上げて、そのまま話を続けている。

  蜜虫 「すぐご案内しますので…」

その不可思議な状況を目の前にして;

  博雅 「あの〜、そなた、もしかして、その、式神?」
  蜜虫 「さぁ?」
  博雅 「そなた名前は?」
  蜜虫 「蜜虫とでもお呼び下さい」

そうして、博雅は蜜虫に案内され、蜜虫の方をじっと眺めながら屋敷の中に上がる。蜜虫が気になるようで(^^;);

  博雅 「蜜虫、蜜虫か・・・あたっ」

と、御簾に頭をぶつける博雅(笑)。(半分コメディだわ(^^;))。そして屋敷内に入ってくると、そこにはいつのまにか晴明が座していた。手には杯を持っています。

  晴明 「何の用でしょう?胡散臭い陰陽師ごときの所にわざわざ来られ
      るとは…
(やっぱり意地悪)
  博雅 「いや、それは…。別に来たわけではない。家の前を通りかかっ
      てチラッと中を覗いたら、あの人(蜜虫)が無理に。ははは…」
  晴明 「そうですか?」
  博雅 「ええ、そういうことです」
  晴明 「それは失礼しました。じゃぁ無理にお引止めはしません」(^^;)
  博雅 「いや、実は…。すまぬ、晴明殿にどうしても助けて頂きたく、
      やって来ました」

蜜虫は「それではごゆっくり」と言って、席を外す。

  晴明 「(蜜虫を)人と思いましたか?」
  博雅 「それではやはり式神?」
  晴明 「人と思えば人、式神と思えば式神。
      ・・・(杯を差し出して)飲みますか?」
  博雅 「いや、こんなに早くからは・・・」
  晴明 「美しい秋の夕暮れを目の前にして無粋なことを…
  博雅 「どうして分かったのです、私がここに来る事を?」
  晴明 「一条戻り橋を渡ったとき、『晴明はおるかな?』と呟かれた」
  博雅 「聞いていたのですか?」
  晴明 「いや、ここで酒を飲んどりました
  博雅 「(小声で)わからん、さっぱりわからん・・・」
  晴明 「で、何の用でしょう?こんな怪しげな陰陽師を頼っていらっし
      ゃるとは…」
  博雅 「いや、別にそんな風には…。陰陽師というもの、星の相を見、
      人の相を見る立派な役職のひとつ」
  晴明 「目に見えない力を操り、人を呪い殺すこともできる。世間では
      そう思われている・・・でしょ?」
  博雅 「(焦って)いや、そんなことはない。俺はそんなことは思ってい
      ない」
  晴明 「(笑) 正直な方ですね
  博雅 「あ・・・。本当は誰にも相談できなくて、事が事だけに困り果
      ててしまって。実は、とんでもない事をしてしまったのです。
      ついウトウトと居眠りをしてしまって。迂闊でした。帝からお
      預かりした大事な琵琶が消えてしまったのです」
  晴明 「消えた?」
  博雅 「ええ。もしこのことが帝のお耳に入れば大変なことになります。
      どこか遠くへ流されてしまうかもしれない」
  晴明 「あの男がそんなに恐いのか?
  博雅 「あの男?帝だぞ!」
  晴明 「たかが琵琶の1本や2本で人生を変えさせてしまうなど、バカ
      なことです」
  博雅 「たかがじゃない。あの琵琶はその辺にある琵琶ではないのだ。
      何としても探し出さねば、申し訳がたたん!」
  晴明 「誰に?」
  博雅 「決まってるだろう、その琵琶にだ。玄象という名前がつくほど
      の名器なのだ。弾いてみたら、噂通りこの世のものとは思えな
      い。聞いたことの無い美しい響きだった。あんなに美しい音色
      の琵琶は二つとない」
  晴明 「(笑)。おもしろい男だな?
  博雅 「えっ」
  晴明 「わかった」
  博雅 「助けてくれるのか?」
  晴明 「帝の為だというのなら、断ったところだ」

(う〜ん、いいおとこだねぇ、晴明君!もちろん博雅もね)

[同日夜 鹿島貴次の屋敷]

貴次を訪ねる晴明と博雅。玉草が玄象を盗んだと言われ、言い掛かりをつけられては迷惑だと突っぱねる貴次。

  晴明 「玉草殿には、最近、いい縁談のお話も出ているとのこと。変な
      噂が出て差障るよりは、事をはっきりさせておいた方が良いの
      ではないですか?」
  貴次 「何?!」
  博雅 「いや…」(おどおど)
  晴明 「今ならまだ、事を大きくしなくても済むとお話申し上げている
      のです」
  貴次 「玉草を呼んでくる・・・」

と、晴明の言葉に渋々応じる貴次は腰を上げる。そうして廊下に出てきた貴次は玉草の乳母に玉草の居場所を尋ねるが、玉草は外出中だという。そこに玉草が帰ってくる。

  博雅 「気を悪くされると困るのだが、その・・・」
  玉草 「なんでしょう?」
  晴明 「玄象が消えたのです。何かご存知だと思って・・・」
  玉草 「玄象が?」
  晴明 「ええ。博雅殿に白湯を運びましたね」
  玉草 「ええ」
  晴明 「それを飲んですぐに眠ってしまったそうです。気がついた時に
      は玄象は消えていた」
  玉草 「私が・・・何かしたとお考えなのですか?」
  博雅 「いやそういうつもりではないが…」
  晴明 「本当に何も関わりはないのですか?」
  玉草 「もちろんです」
  晴明 「そうですか、それは困りました。玄象が見つからないと、この
      博雅殿が遠くへ流されてしまうかもしれないんですよ。玉草殿
      は関係ないようですね」
  貴次 「これで気が済んだだろう?」
  博雅 「ああ。申し訳なかった」
  玉草 「失礼します」
  晴明 「花の香り・・・オミナエシか?」

(なんか、晴明君、明智君みたいじゃない?(^^;))

[同夜 晴明の屋敷]

晴明と博雅は晴明の屋敷に戻ってくる。

  博雅 「大体、あの可憐な玉草殿が帝の玄象を盗むなどと、そんな大そ
      れた事をするわけがない!」
  晴明 「人がいいな・・・」
  博雅 「じゃぁ、まだ疑っているのか?」
  晴明 「玉草殿以外に考えられんだろう?」
  博雅 「知らぬと答えたではないか!」
  晴明 「口先では何とでも言える」
  博雅 「信じないのか玉草殿を!」
  晴明 「恋をしたのか、玉草殿に?」
  博雅 「な、何を・・・。そういうことではない!人を信じない人間は
      好きではないということだ!」
  晴明 「信じるだけが道ではない」
  博雅 「陰陽師のクセに坊主のような言い方をして。
      俺は人を信じる。信じたければもっと信じる!」
  晴明 「もし裏切られても、まだ信じられるか?」
  博雅 「頼ったのが間違いだった。人が信じられないなどと…。俺はそ
      ういう男は好きではない。失礼する。もう頼まん。自分の足で
      都中を探してでも、玄象を見つけ出してくる!」

そう言って博雅は屋敷を後にする。(交渉決裂・・・ってか?(^^;)。晴明がちょっと意地悪っぽく博雅を試しているような雰囲気ですね。2人ともなんだか可愛いわ〜)

博雅が出て行ったのと入れ違いに蜜虫が酒を持ってやってくる。

  晴明 「まっすぐな男だ・・・
  蜜虫 「折角来られたのに、怒らせてしまうなんて…」
  晴明 「あの男が勝手に怒り出しただけだ(おトボケ晴明君)
  蜜虫 「いい方ですね、博雅様・・・」
  晴明 「気に入ったか、お前は?
  蜜虫 「わたくしは晴明様がお気に召せばそれでいいんです」
  晴明 「(杯に目をやって)飲むか?

(この蜜虫とのシーンはなんか好きですね。吾郎君の「気に入ったか、お前は?」な〜んていう台詞も妙に新鮮で、素敵で…。蜜虫との関係って、当然ドラマオリジナルなんだけど、このドラマの設定は好きだったかも。今後の展開に期待、って訳じゃないんだけど、好きなシーンでした。ドラマにおける蜜虫の役回りって、ある意味、狂言回的な役回りというか、上手く晴明や博雅の心の内を語らせる役回りの担っているような、そんな気もしました。これから蜜虫とのシーンは要注意かな?)

[同夜 貴次の屋敷]

貴次が玉草のところに縁談の話をしにやってくると、その玉草は思いつめた表情でいる。先程の晴明とのやりとりで、博雅が流されるという言葉を気にし、貴次に自分が玄象を盗んだことを打ち上げる。

  貴次 「なぜ、そのような事を!」
  玉草 「それは言えません!」

玄象の在り処を打ち明けようとしない玉草に対し、貴次は玉草に何かがとり憑いていると考え、祈祷師を呼び、火の焚かれた部屋で、玉草に憑いたものを追い払おうとする。さらに、夕刻、玉草が時折外出していることを乳母から聞き出した貴次は、そのことをも玉草を責める。

  貴次 「もっと火を焚け!玉草にとり憑いた物をあぶり出すんだ!」

(このシーン、ちと長い…)

[同夜 羅城門前]

晴明の屋敷を飛び出した博雅は、一人の舎人を連れて玄象を探すために、これ以上のアテも無く都内をさまよい歩いている。

  博雅 「どうすればいいのだ、これだけ探して無いとなると…」

そこに、琵琶の音が聴こえてくる。その音は羅城門の方角から流れて来るものだった。

[同夜 晴明の屋敷]

晴明の屋敷を飛び出したにも関わらず、結局晴明の屋敷に戻ってきた博雅(笑)。晴明に先程の琵琶の音の話をしています。

  晴明 「確かに羅城門の方から聞こえたのだな?」
  博雅 「ああ、聞き間違うはずが無い!この世のものとは思えぬほどの、
      切なく、悲しい音色だった」
  晴明 「この世の物ではないかもな」
  博雅 「・・・鬼?いや、しかし鬼だろうが何だろうがこの博雅、何と
      してでもあの玄象を取り返さねばならん!」
  晴明 「無事を祈っている
  博雅 「ああ・・・おい!一緒に行ってくれくれぬのか?一人で行けと
      いうのか!頼む、一緒に行ってくれ!この通りだ」

と、博雅が頭を下げているのに、すぐには承諾しない晴明君。かなり意地悪です(笑)。

  蜜虫 「相手が鬼と聞けば、行かないわけにはいきませんよね」

と、蜜虫が助け舟を出し、仕方なく;

  晴明 「玄象とかいう琵琶の音が聞いてみたくなった。きっと酒が美味
      いだろう…」
  博雅 「そうか、行ってくれるか!」

[同夜 羅城門への道]

蜜虫が灯りを持ち先導する形で、博雅と晴明が後に続いている。もちろん晴明は手には瓶子と杯を手にしています。

  晴明 「おい、恐いのか?

と、また博雅に茶々を入れる晴明。

  博雅 「す、少しだ」
  晴明 「いざとなったら逃げればよい」
  博雅 「男としてそんな真似ができるか!!」
  晴明 「じゃぁ、鬼に食われるまでだ
  博雅 「お〜い!

(う〜ん、いいコンビが出来上がりつつありますねぇ(笑)) そうこうしている間に羅城門に近づき、琵琶の音が響いてくる。

  博雅 「聞いたことの無い曲だが、胸が締め付けられる」
  晴明 「異国の旋律のようだが・・・」
  蜜虫 「唐か天竺・・・」

その琵琶の音に誘われて、そのまま羅城門の足元にまでやってくる3人。晴明はその羅城門で、何やら見つけてそれを手にする。一方の博雅は琵琶の音にただただ;

  博雅 「幸せものだ〜。これほどの曲が聴けるとは・・・」

と、感動しています。と、そこに頭上から炎が飛んでくる。(ここはもう少し余韻が欲しかったところだな。蜜虫の舞いも見たかったし…(^^;))

  博雅 「(驚いて) おお〜」
  鬼  「お前達は誰だ?」

楼上からの鬼が、晴明たちを覗いている。博雅は帝の琵琶を取り戻しに来たのだと語り、琵琶を返そうとしない鬼に切りかかろうとする。しかし、晴明はそれを制して
  晴明 「よい琵琶の音だった。だがな、その玄象はついこの間、宮中か
      ら盗み出された物。盗み出したものが見つかれば、そいつは間
      違いなく罰を受け殺されるだろう。どうする?それでも琵琶は
      返さぬか?」

と、妙な説得を晴明は行う。そして、鬼もその妙な説得に耳を傾け;

  鬼  「わかった琵琶は返そう。だが条件がある。その盗んだ者を此処
      へ連れて来い」

と、晴明の申し出に応じる。

  晴明 「わかった、明日の晩ここで・・・」
  鬼  「本当だな?」
  晴明 「約束する」
  鬼  「お前達の名を聞いておこう」
  博雅 「博雅だ」
  鬼  「博雅?」
  博雅 「そうだ」

そして、一方の晴明は;

  晴明 「正成だ」
  博雅 「?」
  鬼  「正成・・・」
  晴明 「お前の名は?」
  鬼  「漢多太た。では約束だ。」
  晴明 「ああ、漢多太」

[同夜 貴次の屋敷]

なおも、玉草から玄象の在り処を聞き出そうとしている貴次。そこに貴次に宛てた晴明からの文が届く。

[同夜 晴明の屋敷]

貴次の文を読む晴明。(いや〜ん、こういう吾郎君の横顔に思わずうっとり(*^^*))。

  晴明 「貴次殿は承知した」
  博雅 「しかし玉草殿を鬼の元に連れて行って本当に大丈夫か?」
  晴明 「手荒なことになるかもしれんが、やるしかない・・・」
  博雅 「そうか。でもまだ信じられん。あの玉草殿が玄象を盗んだなど
      と…」
  晴明 「(笑)。本当に人がいいなぁ・・・

と、一途な博雅に呆れるやら感心するやらの晴明(笑)。

  博雅 「どうして確信が持てた?」
  晴明 「これだ。このオミナエシの花が教えてくれた」
  博雅 「花が?」
  晴明 「昨夜、羅城門で拾ったのだ。玉草殿の甘い香りを辿れば、羅城
      門の鬼に行き着いたというところか?」
  博雅 「香り…?だが何故、鬼に玄象を渡す?鬼にとり憑かれたのか?」
  晴明 「まぁ、そんなところだろう。今夜分かる」

そう言って立ち上がり、縁側で庭を眺める晴明。それに博雅も続いていき;

  博雅 「一つ聞いていいか?」
  晴明 「何だ?」
  博雅 「なぜ昨夜、嘘の名前を言った?『正成』と嘘の名前を言っただ
      ろう?」
  晴明 「呪よ」
  博雅 「しゅ?」
  晴明 「呪いと書いて『しゅ』と読む。たとえば名前・・・」
  博雅 「名前?」
  晴明 「名前とはこの世で一番短い呪だ」
  博雅 「俺の博雅とか、お前の晴明とかいう名前か?」
  晴明 「そうだ。だから本当の名前を言わなかったのだ。鬼に呪をかけ
      られないようにな」
  博雅 「よくわからんな」
  晴明 「呪とは・・・要するに物を縛ることだ。物の根本の有様を縛る
      のが名前。・・・例えばお前の博雅という名前だ。その名前が
      お前を縛っている」
  博雅 「じゃぁ、もし俺に名が無ければ、俺という人間はこの世
      にはいないということになるのか?」
  晴明 「お前はいるさ。博雅がいなくなるんだ」
  博雅 「?」
  晴明 「形ある物だけではない。目に見えない物でも、名前という呪で
      縛られる。男が女に、女が男にそっと心を寄せる。その思いを
      名付けると・・・恋。恋を感じた瞬間(とき)からどんどん縛
      られる。相手に思いを伝えたい、一緒になりたいと。…例えば
      この女の事をどう思っている?」

と、丁度、そばにやってきた蜜虫を指して博雅に尋ねる。

  博雅 「どうって?」
  晴明 「恋しているだろう?」
  博雅 「俺は!!何を言ってるんだ!」
  晴明 「ハハハ。ほら、もう呪にかかっている」
  博雅 「何を・・・(汗)」

[翌夜 貴次の屋敷前]

屋敷の前に、晴明,博雅,そして蜜虫が揃って、玉草の準備を待っている。玉草は頭から着物を被り、そのまま輿に乗り込む。出発の直前に、晴明は蜜虫に何やらこっそり指示をする。

[同夜 羅城門]

羅城門までやってきた一行。玉草は輿から出て、晴明,博雅と共に羅城門の足元までやってくる。そして、楼上を見上げて鬼に語りかける。

  博雅 「約束通り玄象を盗んだものを連れてきた。約束通り玄象を返し
      て貰おうか!」

しかし鬼の要求により、先に玉草だけを一人鬼のいる楼上にやる。その様子を見ながら晴明は;

  晴明 「遅いな、間に合わぬか・・・」

  漢多太「この玄象を手に一緒に逃げよう。俺の故郷に一緒に行こう」

玉草はそのまま漢多太の胸に飛び込む・・・しかし、漢多太の表情が突然陰る。

  漢多太「何故だ〜」

漢多太が胸に手をやると、手には真っ赤な血がついている(鬼も血を流すのね…(^^;))。玉草だと思っていた人物が被っていた着物をとると、それは玉草の兄、貴次だった。騙されたと思い、貴次に怒りをぶつける漢多太。

[同夜 夜道]

道を急ぐ蜜虫&玉草。

[同夜 羅城門楼上]

様子を察して、楼上にやってくる晴明と博雅。漢多太は怒りで頭にきている。

  漢多太「約束破った!みんな殺してやる」

そこに蝶が舞うのを見て・・・;

  晴明 「約束は破っていない・・・」

と漢多太に告げる晴明。まさしくそこに蜜虫に連れられて玉草がやってくる。玉草はそのまま傷ついた漢多太の元に駆け寄り、漢多太を庇うように兄の前に立ちはだかる。玉草はそのまま全てを打ち明ける、自分は漢多太を愛していると、そして最初、さらわれたときは恐いと思ったが、自分には優しく接してくれたと。そして玉草は漢多太の為に自分が玄象を盗んだのだと…(と、この辺の説明はやや省略ぎみでお許しを。だって、だって、だって、ねぇ…(察してね))

漢多太は続けて語ります;

  漢多太「誰が鬼にした!!鬼にしたのは人間たちだ!」

天竺から奴隷として唐に売られ、琵琶作りをしているときに、この都に連れてこられたのだと。そして、琵琶作りが終ると、自分は羅城門に捨てられたのだと。そしてこの玄象こそが自分が唐にいたときに作ったものだと。

  漢多太「俺は玉草と故郷に帰るんだ!」
  貴次 「玉草はやらん!」

そうして貴次は漢多太に切りかかるが、あっさりとやられてしまう(本当にあっさりすぎるような…(^^;))

  博雅 「おのれ!」

博雅は漢多太に切りかかろうとするが、漢多太は博雅に「博雅、動くな!」と呪をかけ、動きを封じる。そして、晴明にも;

  漢多太「正成、動くな!」

しかし、昨晩、嘘の名を名乗っていた晴明は…;

  晴明 「俺にはきかんぞ、本当の名は別にあるのでな」
  漢多太「なに?」
  晴明 「漢多太、動くな

その晴明の呪で動けなくなる漢多太。

  晴明 「昨夜俺に名乗っただろう、漢多太と。呪にかかったのよ」
  漢多太「貴様、罠にかけたな!おのれ!普通の人間ではないな?」

と、尋ねられたら、ここはめいいっぱい溜めて…

  晴明 「陰陽師、安倍晴明

(と、カメラ目線の吾郎君!いや〜、いいわ、いいわ〜。もうこういうドラマはこうじゃなくっちゃ!!(爆))

  漢多太「呪ってやるー。貴様もこの国の人間も、みんな呪い殺し
      てくれる。うおーー(咆哮)」

その叫びを聞いた晴明;

  晴明 「漢多太、悲しいのだろう…お前のその気持ちわかるよ
      (この台詞、なんだかしびれました、私)

  漢多太「貴様などに何がわかる!故郷から無理矢理遠く引き離された者
      の気持ちが。たった一人、この地で果てゆく者の気持ちの何が
      分かると言うのだ!人間として扱われず、生きるために鬼にま
      で成り果てた!そんな俺の気持ちが貴様に何がわかるというの
      だ!」
  晴明 「分かるよ…。あんな深い悲しみの音は聞いたことが無い
      (なんかこういう台詞の一つ一つが好きなんだなぁ…)

そして、晴明は言葉を続けます;

  晴明 「俺はお前が玉草殿を連れて逃げるというのなら止めはしない」
  博雅 「晴明、何を言ってるんだ!」
  晴明 「だが、今度はお前が玉草殿を連れ去る気か?故郷から遠く離れ
      た異国の地へ。その悲しみを誰よりも知っているのはお前だろ
      う?連れて行けるのか?玉草殿にお前が背負ってきた深い悲し
      みを味あわせたいのか?お前を慕う玉草殿に・・・」

その晴明の言葉を否定するように、玉草は漢多太にすがり付き、どこまでも漢多太と一緒にいたい、自分も連れて行って欲しいと訴えます。晴明の言葉、そして玉草の想いに、漢多太は、玄象を手に入れるために玉草を利用しただけであり、用が済めば殺そうと思っていたと玉草に話す。

  漢多太「俺は鬼だ!鬼だ〜!!!」

そこに、最期の力を振り絞って漢多太に切りかかる貴次(まだ生きていたのね)

  貴次 「鬼めぇ〜」
  玉草 「兄上やめて!」
  貴次 「玉草・・・」

漢多太を庇った玉草に、貴次の刃が突き刺さる。そのまま力尽きる貴次ぐ。そして玉草も・・・。倒れる玉草を抱き寄せる晴明(ちゃんとフォローしております(^^;))。消え入りそうな声で;

  玉草 「漢多太様の故郷に行きたかった…。見てみたかった…。
      漢多太様・・・あなたに会えてよかった・・・。
                 ・・・愛してます(息を引取る)」

  漢多太「玉草・・・う、う、うわーーーーーーーーー」

嘆き悲しむ漢多太。漢多太は、玉草の故郷の匂い〜オミナエシの香りに惹かれたのだと、そして玉草も鬼である自分を愛してくれたと、独白します。

  漢多太「頼む、俺を殺してくれ。玉草のいないこの世にいても、苦しむ
      ばかりだ」

晴明は玉草のそばを離れ、ゆっくりと立ち上がり、そして、博雅の脇に刺した刀を抜き取る。右手にその刀を、左手で印を結び、呪を唱える晴明(いいじゃないか、この映像!!指先までうっとり…(*^^*))

そして、晴明が手にしたその刀は漢多太に向かって振り下ろされたが、空を切っただけだった。それと同時に、漢多太の動きが自由になる。

  晴明 「漢多太よ、呪はとけた・・・」
  漢多太「玉草…。俺もお前に合って救われた。鬼が人に恋をするとはな。
      ・・・玉草」

そして、漢多太はそのまま自らの喉に刀を突き刺し、息絶えた。同時に、博雅にかけられていた呪が解け、玄象を取り戻す。

晴明は漢多太と玉草の2人の手をそっと重ね合わせる。そのとき、玄象の音が鳴った。

  博雅 「晴明?!」
  晴明 「今、漢多太と玉草殿の魂が玄象に憑いたのだ。この世では結ば
      れぬ、鬼と人の魂がな・・・」

[数日後 宮中]

宴が催されている。博雅は玄象を奏で、晴明もその宴に同席している。

[同日 通り]

  博雅 「前にも増して、切なくいい音だったな」
  晴明 「俺には2人の泣き声に聞こえた」
  博雅 「あの可憐な玉草殿の中にあのような力があったのだろう?」
  晴明 「恋という呪がかかれば、女は変わる」
  博雅 「恋の呪か・・・」
  晴明 「だから女は分からないのだ」
  博雅 「不思議な男だなぁ、安倍晴明」

[同夕刻 オミナエシの花の咲く野原]

一人たたずむ晴明の後姿。(う〜ん、こういうシーン、大好きだわ〜。BGMも上手く重なって、とても印象的です)

 

[次回予告]

  晴明 「男は女の姿かたちにだけ心惹かれていると思うか?」


<第1話感想> ファンのくせにネガティブな意見かも

さてさて、ドラマ全体の感想ですが、まだ上手くまとまっていない状態だったりします。賛否両論、いろいろと盛り上がっている(?)、NHK公式HP(他諸々のHP…)もちらっと覗いたりもしているのですが、賛否両論まっぷたつって感じですね(というより否が多いのかな?(爆))。事実、私自身の中にも賛否両論あるので、どちらの意見も理解できるつもり。なのだけど、それでも私は吾郎君ファンなのよ!!!この大前提がある限り、頭ごなしの否定的なコメントは、一切受け入れる余白をもてずにいたりして、まだまだ頭の中が混乱中(う〜ん、私ってば意志の弱いファンだよなぁ・・・)。

混乱中のまま書くのも申し訳ないですが、とりあえずドラマを見たときの第一印象を以下に書き記します。今回はややネガティブなので、そういうコメントを見たくない人は、次回以降のアップを見てね。

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さてさて、とにかく45分って短いですね。原作があると、原作と比較して見ちゃうから…。原作にある部分は是非とも映像化して欲しいと思うし、かといって、ドラマなんだからドラマのオリジナリティを出して欲しいと思うし…。

今回のドラマ、原作ファンがあーだこーだと言う気持ちは分からないではない(恐くてあまり吾郎ファン以外のサイトは覗いていないけど…)。でも、言っておくけど、それは吾郎君のせいではないよ、今回は。

個人のイメージが違うというのは人それぞれだから「吾郎君が晴明のイメージとは合わない」という意見については如何ともし難いものがあるけれど、今回の作品における吾郎君の存在は素直に悪くないと私は思ったんですよねぇ。

当初、私自身は、他のキャスティングはそれなりにイメージが沸いていたけど、本当のところを言うと吾郎君の晴明に対するイメージが、一番、出来上がっていなかったんです。でも、オンエアされた映像を見ると、登場キャラの中で、吾郎君の晴明が一番受け入れやすくて、吾郎君の晴明はハマっていたように思えました。生意気な言い方だけど、吾郎君は役の雰囲気をいち早く理解し、それを表現することができる役者さんなのだな、と感じられたし。第1話から、私が不安を感じなかったというのはそういうことなんだろうなぁ、と。

もちろん共演者のみなさん、杉本さんもよかった、本上さんもよかった、ゲストの宮川さんも、永澤さんもよかった・・・(って、誰か抜けてるぞ!以下沈黙…m(_ _)m)

あとは、脚本なのかなぁ、演出なのかなぁ・・・(でも、「ドラマ4月号」に掲載されていたオリジナルのシナリオはいい感じに見えるんだよなぁ)。初回だから、晴明と博雅をもっときちんと描いてくれても良かったのに…とは思うけど(玉草の話をメインにしすぎかなぁ。折角、タイトルが「玄象」なんだからさ、「玄象」をちゃんと描きべきだよねぇ…)。せめて初回、拡大バージョンにしてくれたら、もう少しうまく「間」を表現できたのかもしれないけどね。

「間」・・・1つは「空間的な間」。折角綺麗な映像なのに、奥行きがある映像になるはずなのに、もう少し空間を広く見せる工夫をして欲しかったな、特に羅城門のシーン。もう1つは、余韻とでも言うべきかな?台詞と台詞の「間」だとか、次のシーンに移るときの「間」というような「時間的な間」。

と、1話はあえてネガティブな意見にしておきます。原作ファンへも配慮しつつ(^^;)、吾郎君ファン故の今後への期待も込めて…ということで、初回はこのようなネガティブな意見もお許し下さい。

2話以降は、晴明と博雅も友好関係にあるだろうから、その掛け合いも楽しめるだろうし、ゲストが変わるとまた雰囲気の違ったものに仕上がっているだろうしね。

(01.04.08)


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