世にも奇妙な物語 SMAPの特別編       

僕は旅をする


01.1.1 Mon pm9:00〜11:30 フジテレビ系列 にて ON AIR


登場人物

  田代克也 :稲垣_吾郎
  田代ひとみ:桜井 幸子
  父    :寺田  農
  母    :田島 令子
  飯田とも子:銀 粉 蝶

  担当官
  女将
  仲居
  フロント

  ストリーテラー:タモリ


  タモリ : 人は何故、旅に出るのでしょうか?

        ある人は観光のため、ある人は仕事の出張で。

        実に様々な理由がありますが、

        この主人公の場合、どれにも当てはまらないようです。

        私も一緒に旅に出ようと思います


遺体安置所。死体を包んだ黒い袋が置かれた台が引き出される。



雨が降りしきる夜道。二人の男性〜田代克也とその父がそれぞれ傘を手に、無言のまま帰途についている。前を歩く初老の男性は脇に黒い箱を抱えている。



再び遺体安置所の光景。遺体となった女性が所持していた品が数点、台の上に並んでいる。その中の1つの免許証を手にし、悲しみの表情で免許証の娘の写真を眺める克也の父。

  克也 「あの、これだけですか…服とか…?」

  担当官「服はほとんど残ってませんね」

  克也 「黒い旅行鞄はありませんでした、大きい…?」

担当官は黙って首を横に振る。

  克也 「今日の午後、姉は出掛けたんです。大阪に2泊の予定で。
      黒い旅行鞄を持っていました」




〜 克也の回想。家の玄関を元気に出て行く姉 ひとみの姿。
    ひとみ「日曜の夜に帰るから!行ってきます!!」




遺体の入った袋のファスナーを担当官が開ける。中には女性の手足だけが見える。

  父  「顔、見せてもらえないんですか?
      顔見ないと本当にうちのひとみかわからないんですが…」




再び夜道。担当官の言葉が響く。

  担当官「つまりですね、お嬢さんは遮断機の降りた踏切を無理に渡ろうとして、
      急行電車にはねられ、そのまま轢きづられてしまったんです。
      その結果、体は約500mに亘って散乱してしまって、
      頭部を含めたいくつかの部分はまだ見つかってないんですよ」



遺体安置所で克也が担当官に尋ねる。

  克也 「じゃぁ、これ首ついてないんですか?」




家の前に着く克也と父。家の前では母が雨が降る中、傘をさして待っている。悲しみのあまり帰宅した父に泣きつく母。その二人の様子を見つめる克也の瞳。

− 僕だけが、姉の死を受け入れてなかった。僕はまだ、姉が生きているような気がしていた。





姉ひとみの部屋で部屋に並ぶCDなどをゆっくりと眺める克也。外は依然、雨が降り続いている。

− 本当に、死んだんだろうか?
  たった数時間のうちに全部不要品になるなんて、家の中は何一つ変わってないのに…。




〜 廃線となった線路に置かれている黒い鞄。それを手にしようとする克也。同時に、一人の少女がその鞄に手を掛ける。その少女の顔を見る克也。

    克也 「お姉ちゃん…」



〜 少女時代のひとみの後ろ姿を追いかける幼い頃の克也。



〜 姉がベッドで横になる姿を静かに見つめる克也。



〜 廃線。克也から鞄を奪い取り、ひとみは黙ってそのまま線路を歩いていく。

    克也 「姉さん、どこいくの!」


翌朝・・・鳥が羽ばたく音。

ひとみの部屋で目を覚ます克也。克也は昨晩、そのまま眠りに落ちていたのだ。ゆっくりと回りを見渡す。

  克也 「ばっかだな。ガイドブック忘れてやんの」

床に放り出されている一冊のガイドブックを手にする克也。そのガイドブックは「金沢・加賀能登」のもの。



〜 克也は昨日のひとみの様子を思い出す。ひとみの部屋で、背中を見せ少し気まずそうにひとみに話し掛ける克也。

    克也 「明日、出掛けるんだって?」

    ひとみ「うん。大阪…」




大阪に行くと言って出かけた姉の部屋に金沢のガイドブックが?!そのガイドブックにはひとみの旅行スケジュールのメモが挟まっていた。

克也はひとみの後を追いかけようと部屋を出る。丁度そこに家の電話のベルの音が鳴り響く。2階のひとみの部屋から克也が駆け下りてきたとき、ちょうど父がその電話に出たところだった。母は父のそばで電話の内容を聞いている。

  父  「はい、田代ですが。・・・とも子?」

電話の相手、飯田とも子が父に話を始める。それは死んだはずの姉に関することだった。

  ともこ『実はゆうべ、お宅の娘さんからお電話を頂いて…』

  父  「ひとみが、ゆ、ゆうべ?」

それは在り得ないことだった。昨日、死んだはずのひとみがその夜に電話を掛けたということは…
  ともこ『明日、日曜に、こちらにいらっしゃるからって。
      そしてね、どうしたものかと思って…』

  父  「本当か?ひとみが電話してきたのか?」

その父の言葉を聞き、慌てて父に駆け寄る克也。

  克也 「母さん、すぐに旅館に確認するから」



  女将 『田代ひとみ様。はい、お一人様ですね。確かにゆうべお泊りでしたけど』

電話に出た金沢の旅館の女将は克也にそう告げた。

  克也 「取り次いでもらえますか?」

  女将 『はい、先ほどもうお立ちになりましたけど…』

  克也 「そうですか。ありがとうございます」

その言葉を横で聞きながら、安堵の表情を表す母。

  母  「よかった…よかった…」

受話器を置き、克也は改めて先ほどの父に掛かってきた電話について尋ねる。

  克也 「とも子さんって誰?」

  母  「・・・父さんの前の奥さん。父さんね、再婚だったの」

  克也 「再婚?でも、何で姉さんはそのとも子さんに会いに行くの?」

両親の回想。両親の部屋に入ってくるなり、手にもっていた手紙を叩きつけるひとみ。その手紙の差出人は飯田とも子。
  ひとみ「父さん最低!」

  父  「ひとみ・・・」


両親からその話を聞き、克也はやはり姉の後を追いかけようとする:

  克也 「俺、金沢に行ってくる」

  母  「克也!」

  克也 「母さん達だって早く姉さんの無事、確かめたいだろ。
      姉さんが生きているってことは、
      誰かが姉さんの免許証を持って死んでるってことなんだから」



− あれは一体、誰なんだ。姉さんの免許証を持っていた、首の無い死体・・・



金沢。ひとみが宿泊していた旅館にやってきた克也は姉のことを尋ねる。

  女将 「ああ、田代様の…」

  克也 「黒い旅行カバン持っていましたか?」

  女将 「ああ、はいはい。何が入っとったんやろね。えらい重いバックで。
      お部屋までお持ちしましょうというたがやけど、
      自分で持ちますっておっしゃって…」

  克也 「この人に間違いありませんか?」

克也は持参した姉の写真を女将に見せる:

  女将 「さあ…」

ひとみの写真を見ても記憶が定かではないその女将は、そばにいた仲居にひとみのことを尋ねる。

  女将 「ちょっとあんた、ゆうべ泊まられた田代様の布団、あんた敷いて
      差し上げたんやろ?この人やったかいな?」

  仲居 「あらー、どうやったやろ、何やら思い出せんやわいねぇ。顔はねぇ」

  女将 「すまんね。わからんわ」



夜。結局、その旅館で姉の手がかりを十分つかめなかった克也は、手にしたひとみの写真を眺めながら、金沢の街中を歩いている。

− どうして・・・写真を見せてもわからないなんてことがあるのか?



この日、ひとみが宿泊する予定だった別のホテルにやってくる克也。フロントでひとみのことを尋ねる。

  克也 「すみません、予約した田代ひとみの弟なんですが…」

  男性 「田代ひとみ様は先程お電話を頂きまして、
      今夜は他にお泊りになるとのことで、キャンセルになってますが」

  克也 「本当ですか?」

そのまま、そのホテルの部屋に入ってくる克也。そのまま部屋のベッドに横たわる。

〜 克也の回想。少女時代の姉の後姿をおいかける幼い頃の克也。そして、大人になったひとみが線路を歩いていく姉の後姿を黙って眺めている克也。

部屋の電話の音が響く・・・

  克也 「もしもし。ああ、母さん。聞いてよ。姉さんさぁ…」

母に金沢での状況を報告しようとする克也。しかし、電話口の母親からは思いもよらない言葉が:

  母  『克也、聞いて。さっき警察から電話があってね。
      指紋照合したら、やっぱりひとみだったって』

  克也 「何が?」

  母  『あの死体。やっぱりひとみだったって・・・』

電話の向こうで、母の言葉が涙に変わる。しかし、その母の言葉をすぐに受け入れることができない克也。

  克也 「嘘。嘘だよ。違うよ、そんなの。だってゆうべ電話あったじゃない。
      予約した旅館にもちゃんと泊まってるんだ。それに今日だって電話で…。
      じゃぁ、誰。誰が姉さんの鞄を持って旅行をしてるの!」

〜 家を出掛けるひとみの姿。
    ひとみ「日曜の夜に帰るから!行ってきます!!」



〜 遺体安置所の遺体



〜 幼い頃の姉との思い出
    母  「ひとみ、お豆腐買ってきて!」

    ひとみ「はーい」

    克也 「お姉ちゃん、待って!僕も行く、お姉ちゃん、お姉ちゃん!!」

  姉の後姿を追い、駆けていく克也



〜 部屋のベッドに横になっている姉の姿・・・



〜 幼い頃、戯れる姉弟


〜 廃線で黒い鞄に手を掛けたひとみの視線

  ・・・そしてその鞄を奪い取るようにして、ひとり歩き去っていく後ろ姿




翌朝。金沢の街中を歩く克也。

− 電車に撥ねられて死ぬ瞬間は、やっぱり痛いんだろうか?
  死に顔は苦痛を残しているんだろうか?




足取りを進める克也の前を、小学生の学校に通う子供達が通り過ぎる。

  男の子1「早く行くぞ!」

  男の子2「待ってよ!」

  女の子1「待って!」

その言葉の聞こえる方向に視線を向けると、姉らしき女性の後姿が見える。

  克也 「姉さん・・・」

町並みの曲がりくねった細い道を、姉の姿を追って駆ける克也。

  克也 「姉さん!!」

そして少し広い道に出ると、その先には姉の姿は無かった。

  男の子1「置いていくぞ!」

  男の子2「待って」

  女の子1「待ってよ」

  男の子2「待って!」



  克也 「・・・」

克也は一軒の家にやってくる。その玄関先にいる一人の年配の女性に声をかける。その女性が父の前妻のとも子だった。とも子の家に上がる克也。

  とも子「どうぞ」

その女性は克也にお茶をすすめる:

  克也 「すいません、図々しく押し掛けちゃって…」

  とも子「田代さんにこんなに立派な息子さんがいらっしゃったなんてねぇ」

そこに一人の若い女性の声が。

  たか子「ただいま」

  とも子「あら」

部屋に続く階段をあがってくる足音がする:

  克也 「!」

その女性の顔を見て驚きの表情を示す克也。その女性は姉のひとみと瓜二つだった。

  たか子「お客さん?」

  とも子「娘のたか子です」

  克也 「えっ」

  とも子「今は就職して会社の寮に。
      こちらはね、東京の田代さんの・・・あなたの弟にあたる克也さんよ」

  たか子「ああ、あなたが克也さん?」

  克也 「はじめまして。克也です」

  たか子「はじめまして」

  克也 「姉が、今日こちらにお邪魔するって伺って・・・」

  たか子「ひとみさん?ちょっと前に東京に戻られましたよ」

  克也 「えっ?」

  たか子「実は昨日、ひとみさんが寮の方に訪ねてくれて、
      せっかくだから泊まってもらって、二人で朝まで飲んだんです。
      それで起きたらもうお昼で、ゆっくりしている時間がないから、
      ここには寄らずに帰るって・・・」

家の外。克也とたか子は街中を歩きながら、ひとみについて話を続ける:

  たか子「何かね、わざわざ私に会いに来てくれたんだって、ひとみさん」

  克也 「たか子さんに?」

  たか子「うん。・・・知ってる?私とひとみさん、同じ年なの。
      つまりあなたのお父さんは二股かけてたのね。
      ひとみさん、そのこと気にしていたみたい」

  克也 「何話したんですか?」

  たか子「取り留めの無いことばかり。何か気あっちゃって。でも会えて良かった」

  克也 「やっぱ似てますね、姉さんと」

  たか子「そう?・・・あれ・・・ああ、変なの。
      一晩のみ明かしたのに、何か顔、思い出せないかな・・・あれ・・・」

  克也 「それは多分、顔が・・・」

  たか子「はい?」

  克也 「いや、何でもないです」



荒れ狂う冬の海。海岸を歩く克也のそばを姉弟らしき子供が走り抜ける。

〜 戯れる幼い頃のひとみと克也


〜 ひとみの部屋で姉の寝姿を静かに眺める克也
  ・・・その姿を見て、ゆっくりとその唇に自分の唇を重ねる・・・
     眼を開けるひとみ


克也は、姉の唇と重なったその自分の唇に手を当てる・・・姉のことを思いながら・・・



自宅の玄関のドアを開ける克也。

  克也 「ただいま」

誰もいない家。玄関には、両親書いたと思われるメモが置いてある。

  『・・・通夜 15日・・・
   ・・・告別式16日・・・』



克也はそのまま姉の部屋にやってくる。しかし、やはり部屋には誰もいない。そのまま部屋にいると、玄関のドアが開く音が聞こえる。そして、今いる部屋に向かって階段を上がってくる足音が聞こえる。部屋の扉をじっとみつめる克也。開いたドアの向こうには、旅から帰ってきた姉の姿があった。

  ひとみ「ああ、びっくりした!」

  克也 「・・・。何やってんだよ。バカヤロウ」

そのまま姉の体を抱きしめる克也。

  ひとみ「何?どうしたの?ああ、どうしたの?」



克也は部屋のイスに座り、ひとみは着ていた上着を脱いでいる。

  ひとみ「え・・・嘘。じゃぁバレてんの?」

  克也 「そうだよ。向こうのお母さんから電話があったんだから」

  ひとみ「いやー、ダッサー」

  克也 「黙って出掛けるからだよ。ばっかだな。
      でもさ、会ってどうするつもりだったの?」

  ひとみ「別に・・・。ただ、合ってみたかっただけ。
      たか子さん、いい人だった。でね、私と顔、似てんの」

  克也 「よかったじゃん」

  ひとみ「うん。何か安心した・・・。眠い。何か疲れた・・・」

そう言って、そのままベッドに横になるひとみ。克也は部屋を出て行こうと、ドアを開ける。

  ひとみ「お父さんとお母さんは?」

  克也 「今、出かけてる」

  ひとみ「うん・・・ねえ、熱ーいお茶欲しい」

  克也 「はいはい」

  ひとみ「サンキュー。やっぱうちはいいわ」

そのまま目を閉じるひとみ。克也はそのまま出て行こうとするが、その前に、ゆっくりともう一度振り返り姉の顔を眺める。



台所でお湯を沸かす克也。姉のために、お茶を入れ、再び2階の部屋に続く階段を上がっていく。そして、部屋のドアを開けると・・・そこには誰もいなかった。ただ、部屋には姉が旅行に持っていったあの大きな黒い鞄が置かれている。

〜 家の玄関を元気に出て行く姉 ひとみの姿。
    ひとみ「日曜の夜に帰るから!行ってきます!!」


克也は部屋に置かれた黒い鞄をゆっくりと開ける。その鞄の中にはひとみの顔が・・・ゆっくりと姉を慈しむように、その頬にそっと手を当てる。

− 慌て者・・・自分が死んだことにも気づかないで、旅行を続けるなんて・・・
  でも、ちゃんと帰ってきたね




  克也 「よかった…」

Fin


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