第235回放送 '17.01.26
浅田次郎「黒書院の六兵衛」
いつものオープニング。
吾郎:こんばんは。
外山:こんばんは。さぁ、今夜なんですが、作家界の重鎮の方がいらっしゃいます。
吾郎:はい。ちょっと緊張しますよね。
外山:そうですね。
吾郎:どうしよう、怖い方だったら。
外山:ええぇ〜(笑)
それぞれの席に座って;
吾郎:いやー、でも、嬉しいですよね。この番組に。
外山:嬉しいです。まさかね、いらして下さるとは思いませんでした。
吾郎:ねぇ?ずっとオファーし続け。
外山:ようやく。
吾郎:はい、ようやく。
ここでゲストの浅田次郎さん登場。お着物姿で来て下さいました。
吾郎:いつも、直木賞・芥川賞が発表されると、そのゲストの方に。
外山:そうですね、お話伺いますよね。
吾郎:審査する側の、選考委員の方のお話って、あんまり聞いたことが、実は…
外山:そうなんです。
吾郎:無かったんですよね。
そう、今回のゲストの浅田さんは、過去に直木賞を受賞された作家さんですが、現在はそれを選考する側の方だったりします。今回の第156回直木賞の選考も関わられました。
外山:今回はね、恩田陸さんが直木賞受賞されましたが。
浅田:今回の作品は、音楽と言う言葉では本当は、字では表すことができないものを果敢に挑戦して小説にしたっていうところに良い評価があがりましたねぇ。
吾郎:どんな話し合いをされるんでしょうね、その…料亭なんですよね。
外山:新喜楽(という料亭が選考会場になってます)
吾郎:結構、長い時間なんですか?
浅田:みなさん、熟読してきますからね。選考委員も9人…
外山:直木賞は、はい。
浅田:いますけれども、少なくとも2時間…もっとありますかねぇ。そのときによって時間は違いますけどね。
吾郎:へぇ〜。
浅田:ま、あっさり決まっちゃうときもあれば、中々決まんない時もありますから。
吾郎:最初、本題に入る前に何か、いろんなお話とかされますよね?
そういえば、ゴロウデラックスに過去にゲストで来て下さった作家さんの中には、選考委員の方もいらっしゃいますよね。そういう話をしたことあったりするのかなぁ。
浅田:あ、これは不思議なものでね、あの…
吾郎:どんな感じなんですか?
浅田:会場になる座敷にはいきなり入るわけではないんですね。
吾郎:はいはい。
浅田:で、そこの芥川賞が1階で、直木賞が2階でやってるんですが、同じフロアにある別室に、まぁ、控え室に集まって、メンバーが揃ってから選考会場に行くという形なんですけども。控え室に集まってるときには、不思議なぐらい、この、作品に関する話題はしないですね。これはタブーですね。
吾郎:タブー?
浅田:タブー。世間話しかしない。それで、会場に入って、コの字型に席が組まれてるんですが、そこのお座敷で、入ったところからスタートと。
外山:へぇ〜
吾郎:へぇ〜
浅田:お互いの先入観、全く無いですね。
吾郎:すっごい緊張感ありそうですよね。
浅田:やっぱり、他の文学賞の場合は、何々賞作家って言われないでしょう?でも、直木賞作家の場合は、一生、直木賞作家。とても作家の人生の中ではかなり重たいものなんですよ。その人の作家人生を決めるっていう緊張感は、その選考会場には、それが一番ありますよね。
吾郎:そうですよねぇ〜。何かちょっと白熱して、空気が悪く…揉めてしまったりとか、そいうことにも?
浅田:ありますよ。
吾郎:なってしまいますよね、真剣ですからね。
浅田:うん。その人の読み方によって、やっぱりそれぞれ小説は違うから、だから、孤独の「○」になっちゃうときもあるし、孤独の「×」ってなるときもあるし。そのときは責任持たなきゃダメなんですね、その理由に対して。だから、ちゃんと論理的な説明ができなければならないですから。
外山:
吾郎:あれ、俺だけ違った、みたいな?
外山:ねぇ。
吾郎:先輩の作家さんにはちょっと言いづらいとかさ、そういうのがありそうだよね。
浅田:それはあんまり無いですね。
吾郎:そこは無いですか?そいうのは平等に?
浅田:それは意外と文壇というのは、先輩後輩っていう考え方は無いと思いますね。あんまりそういう序列というのは意識しないですね。
吾郎:ああ。。。であって欲しいですけどね、ついね、選考委員になった一年目とかだったりとか。
外山:ちょっとね、自分の意見言っていいのかなとか思っちゃいますよね。
吾郎:言っていいのかなぁ〜みたいになっちゃうよね。
今回の直木賞の発表は、浅田さんが代表して記者さんの前で発表されてます。
吾郎:会見をされる方っていうのは。
浅田:今回、僕、久しぶりでしたね。
吾郎:そうでしたね。それはどうやって決まるものなんですか?
浅田:えっとねぇ、一応、推した人の誰かがね。でも、受賞するからには大概の人が推してるから、そいういうときっていうのは、選考会終わった途端にトイレ行った人なんですよね、大体ね。
外山:あはははは(笑)
吾郎:えっ!?
外山:あ、そうだったんですか?
浅田:今回そうなんです。前も同じパターンのときがあったんで。
外山:あはは(笑)
吾郎:(^^;)
浅田:だから、帰ってきたら決まってたんですよ、「じゃぁ、浅田さんお願いします」ってことになってたから、これはしまった、トイレ・・・
外山:あははは(笑)
浅田:トイレ行ったせいかと思ってね。まぁ、それも7,8年前の話しだったんで、今回はうっかり行っちゃったんですね。
外山:(笑)。7,8年前だったので、ちょっとね。
ゴロウデラックスだからこそ聞けるエピソードですね。
そして今回の課題図書『黒書院の六兵衛』。日経新聞に連載の小説で、大政奉還前、江戸城明け渡しの期日が迫る中、場内に無言で座り続ける正体不明の武士・六兵衛が主人公の小説です。
その主人公が最初に登場したシーンを吾郎さんが朗読。
外山:キチンとした人なんだ。
吾郎:キチンとしてるってことですよね。何か、最初は歴史小説だから難しいのかなぁって思ったけど、やっぱりもう、恥ずかしいんですけれども、言葉が分からない言葉があったりとか。
外山:私もです。
吾郎:でも何か、どんどんどんどん引き込まれましたし、すごく読みやすかったですし。
外山:そうなんです。
吾郎:サスペンスとかミステリーみたいな感じで。
外山:面白かったぁ〜。
最初は、江戸城の中で謎の侍と鬼ごっこをしているという夢を見たんだそうです。それがすごく怖かったそうなのですが、それで色々と想像しているうちに話が出来上がったと。
浅田:日経新聞の締め切りも迫ってることだし、これにしよう・・・
吾郎:(^^;) 夢でこれにしようって…
話の筋は大体決めてから書き始めるという浅田さん。ただ、あまりきっちりとは決めずに書き始めるようで、最初からノートにきっちりと決めてしまうこともあったようですが、それをすると話が広がらず、弾力性を残しておかないとダメだと感じてからは、ノートを作るのをやめてしまったんだそうです。
今回は新聞連載のもので、読者も楽しみつつ、小説家としても楽しみながら書かなきゃいけない、そんな書き方をされていたそうです。
そして、吾郎さんがポツリと;
吾郎:ちょっと映像になったところも観てみたいですよね。
なんて言ってみた所、冗談で浅田さんも;
浅田:どうですか、あの、主人公で。
とか言ってみた所;
吾郎:あ、よろしくお願いします。
即答かい!!(笑)
外山:(笑)
吾郎:本当ですか?先生が、もう、僕って言えばいいんですよ。映画化したいんですけど、浅田さんって行った時に、あ、主人公はゴロウデラックスって番組で会った稲垣君じゃなきゃやらないよ、って先生が一言言えば、絶対に僕はできます
外山:あははは(笑)
浅田:台詞の無い主人公ですよ?かつて無かったんじゃないですかね?
吾郎:(笑)。でも、役者としては、これは役者冥利につくというか、演技のね。
浅田:これは、その、しなのよさとか、表情のよさとかよっぽど無いとできないでしょうね。
吾郎:初め、ちらっと見て目線を落としたとかって描写があったじゃないですか。ああいう、難しい・・・。まぁ、(主人公も自分も)40前後ですから!
浅田:(笑)
外山:そうですね…(笑)
原作者に面と向かって売込みとは、ちと図々しいとは思いつつ、だけどこういう売り込みも必要だよなと最近、特に思います。実現する/しないじゃなくてね。実現するといいな(言霊)。
さて、ここで、浅田さんがこれまでに出版された小説を振り返ります。
今も4本の作品を同時に連載されてます。ただ、似たような話は書かないようにされていて、混ざらないようにしていると。一方で、こちらの小説は筆が乗るけど、違う作品はあまり筆が進まないというケースもあるようです。
初めての文学賞は、『地下鉄(メトロ)に乗って』で第16回 吉川英治 文学新人賞を受賞。えっ、新人賞?と思いましたが、作家になりたいと思っても中々なれなかったんだそうです。
浅田:中々デビューできなくて、40になるわけなんだけど、デビューした後もあんまり信じなかったですね、自分の、もう大丈夫だという風には思わなかった。今だってそんな思ってないですよ。
外山:今でもですか?
吾郎:今でもですか?
浅田:そらぁだって、何の保証もないですから、仕事の。
吾郎:これだけ・・・
外山:そうですよ。
浅田:だからこうやって書き続けなきゃならないっていうのは、自分で怖いんでしょうね。書いてないと怖いの、自分で。
吾郎:そっか、でも、先ほど直木賞ってものをとると、人生…、直木賞作家になるって冠もつくわけじゃないですか、自分の。何か、自信にもなってさ・・・
浅田:そういう意味では文学賞はすごく励みにはなるんですよ、自分の。もう大丈夫だぞ、もう大丈夫だぞ、って言われてるような気がするんですよ。でも、それって、やっぱり頭の中では信じていいものかどうかって思っちゃう。
外山:へぇ…。
吾郎:でもそれが、ずっとやり続ける原動力だし、やり続けられるってことなのかな。
浅田:自分からこれを取ったら何も残らないという怖さもあるんですよ。普通さ、ちゃんとした教育を受けて、ちゃんとした会社に行ってっていう人は、例えばその会社辞めてもどこかの会社に行くだろうと思うけども。
浅田:これは…読み書きすることができなくなったら、何の取り柄があんだろうって話しを考えてみたんだけど、何にもないのよ。
外山:でも、それってすごいですよね、自分からこれを取ったらって思えるものがあるっていうのが凄いですよね。
浅田:これ・・・これを教えてくれたのが直木賞でしたね。直木賞頂いたときにすっごい皆さんに祝福されたときにそのことに気がついた。
吾郎:直木賞で安心するのではなくて、より自分に対してそういう。
浅田:複雑な気持ちだったですね、それがありがたくもあったし、また怖くもあった。
ここで、とある雑誌に掲載された浅田さんの仕事場の写真を紹介。障子もあるような和室に着物姿で執筆されてます。
吾郎:格好いい!いわゆる作家さんの佇まいじゃないですか、この…着物着て
浅田:着物着てるのは伊達じゃないんですよ。あの…、畳に座るタイプの人は、着物じゃないと長くは座れないんですよ。
外山:ああ・・・
浅田:ズボンは絶対ダメ。
外山:
吾郎:胡坐かかれてるんですよね?
浅田:うん。じゃぁ、なぜ畳に座るのかって言ったら資料が置けるから、360度に置けるから。
今回の課題図書で言うと、江戸の地図を右側に置いて、左側に江戸城の図面があって、背後に辞書などが置いてあったりと、そんな状態なんだそう。
浅田:だから、資料を使う時代小説作家というのは、畳に座わらねばならず、畳に座るときには長くもたないから着物を着なければならず。だからこれ、仕事着ですよ。だから外に出るときは着替えますよ。
吾郎:えっ、逆に?
浅田:もちろん。
外山:ええ!!
浅田:だって恥ずかしいじゃない。
吾郎:いや、格好いいですよ、このままでいきましょうよ。
外山:何で恥ずかしいんですか?!
浅田:作家の家から着物来て出てきてみな?近所の人。恥ずかしいよ?!
外山:何でですか?
吾郎:いやいやいやいやいや。
浅田:せめてトレーニングウエアに着替えます。
吾郎:いや、トレーニングウエア、ちょっとびっくりしちゃいます。だって、(着物姿が)格好いいですもん。安心しますし。これであって欲しい。
浅田:今日もTBSさんに着物を着てきてくれって言われたから着物を着てきたんで。だから、近所の人の目につかないように、飛び乗るんですよ車に。
外山:ええ!!
吾郎:全然・・・
浅田:恥ずかしいじゃない。
外山:浅田さん、着物ですよ。
吾郎:着物でいいんです!
浅田:だから、普段の生活は割と洋風。食べるものも割と。
吾郎:あ、そうなんですか。
外山:じゃぁ、お茶とかじゃなくて、コーヒー飲むんですか?
浅田:コーヒー飲む。コーヒーばっかり飲んでますよ。
外山:お好きなんですね。
浅田:さっき楽屋で、お茶の冷たいのと温かいのとどちらにしますか?って。そういう風にしか見えないのかなぁ、って。
吾郎:(笑)
外山:イメージがね。
浅田:コーヒーっていう選択肢が普通あるでしょう?!
吾郎:イメージが勝手に。
浅田:一応、あわせて、温かいのを・・・
外山:言ったんですか?!
そして、次に見せていただいたのは、こだわりの原稿用紙。浅草・満寿屋というお店のものなんだそうですが、やはり手書きということにこだわりはお持ちのよう。
浅田:原稿用紙に字書くの、好きなんですよ。気持ちいい!エクスタシー?
外山:へぇ〜
吾郎:へぇ〜。嬉しいですね。
外山:ねぇ?
吾郎:(イメージとして浅田さんが)パソコンじゃ嫌だよね。
外山:よかった、そこはね(笑)
浅田:覚えようとしたんですよ。でもね、やっぱり、エクスタシー感じなかった。速いのは分かるし、読みやすくなるのも、それは分かった。これはすごい武器になるだろうなとは思ったけど、気持ちよさが足りなかった。
外山:気持ちいいっていうのはねぇ?
浅田:それは機械に半分、渡してるような感じがした。
吾郎:肉体の一部じゃないと・・・、肉体から出るものですから。
浅田:だからねぇ、そのときに、やっぱり辞めよう、と思ったのが今日に至る。
そんな話をしているところで、山田くんのハンコ。浅田さんにちょんまげをつけて、六兵衛さんをイメージした作品でしたが、浅田さんの反応は薄かったかなぁ・・・(汗)
(17.02.05 up)
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