第212回放送 '16.07.14
祖父江慎 「祖父江慎+コズフィッシュ」
先週に引き続き、ブックデザイナーの祖父江慎さんがゲスト。
ここからは祖父江さんの経歴を振り返ります。
ブックデザインを始めたきっかけは、デザインを学ぶために多摩美術大学に入り、そこで先輩である漫画家のしりあがり寿さんから、本を出すので一緒にやろうよと声を掛けてもらった事。そこで初めて手がけた『エレキな春』(1985年)という漫画本。しりあがり寿さんもデビュー作だったそうですが、それが新人漫画家としては異例のヒットとなり、それがきっかけで、祖父江さんにもブックデザインの依頼がくるようになったんだそうです。
そんな祖父江さん、ご自身は本を読まれるのか?
祖父江:僕はね、本を読むのは時間がかかるんです。
吾郎:えっ、本当ですか?
祖父江:読もうとすると文字の形が気になっちゃって。最初読んでたのに、文字の形とか、行間空きすぎだろうとか、そっちが気になっちゃって、止まっちゃうんです。
吾郎:へぇ〜
祖父江:子供の頃からそうなんですけど。
吾郎:これ、生活してて大変ですね。あらゆる文字が目に入ってくると。
祖父江:大変ですね。
吾郎:テレビ観てて、テロップ観るだけでも、もう。
祖父江:テレビのテロップ流れると、「あ、この書体使ったんだ!新しいなぁ」とかそっちばっかり。内容が頭に入らないんですよね。
もともと、こういう仕事に向いた性格をされてるんでしょうね。
文字にこだわりがあるという祖父江さん、恩田陸さん小説「ユージニア」をてがけたときに、「読めば読むほどすっきりしない感じを何とかしてもらいたい」という変ったリクエストがあったようです。
そして、句読点をあえて昔のフォントを使ったり、漢字/ひらがな/カタカナでフォントを変えていたり、些細な違和感を演出しています。
吾郎:こんなこと知らないよ、見てる人。本好きな人でもね?意外と。
祖父江:知られないようにしたいっていう気持ちもあるんです。
吾郎:そっかそっかそっか。それもあるんですね。
祖父江:先にねそういうのを知ってから読んでも。何か、普段と微妙に違うかもしれない、という本当に、そよ風ぐらいでいいです。
場面は少し戻って、祖父江さんの書棚を見せていただいているVTR。
書棚いっぱいに夏目漱石の『坊ちゃん』ばかりが並んでます。文字の研究をしようと購入したもののようです。出版されてから約100年、いろんなタイプの『坊ちゃん』が発売されているようで、かつ、古本屋で買えば、1冊100円、毎年1冊発売されるとして100年で100円×100年=10,000円で過去の本が揃えられると思い、集めだしたそうです。
同じ本でも、初版(大正3年)と94版(大正13年)では、行間、文字数も変ってます。そういうのを見比べるのが楽しいんだそうです。
そして、いつかは夏目漱石の小説をデザインしたいと思っていた祖父江さんに、2014年『心』のブックデザインの依頼が舞い込みます。祖父江さんが手がけた『心』は、片手で読めるように配慮されてます。
めくりやすいように、そして、「ノド」のところの空間を広くしているので、無理して開かなくても読めると。片手設計を極めようとしたんだそうです。
話を戻して、今回の課題図書の『祖父江慎+コズフィッシュ』から、本の寿命について書いた部分を朗読。
本の寿命は長い方がいいが、読んでいくうちにほどほどに汚れていく本の方が好きだと。
吾郎:なんかいいけどね、古めかしくなっていくニオイとか。
祖父江:読者と本が、1対1の関係をきちんとつくれるかどうか。その人によって書き込んだり、破ったりいろんなことをして大丈夫だと思っている。あんまり大事大事にされて誰にとっても、いつ出しても同じような本よりは、僕はこの人が読んだこの本という状態がいいなと思うんで。まぁ、汚す人は汚してもらえればと思っていますけどね。
たとえば、吉本ばななさんの『ベリーショーツ』という小説では、”ノドボトケさん”が隠れていると。本がバラバラになったときに、つまり壊れないと見れないんですが(笑)、今回、特別に表紙を外して解体させてもらうと、本が綴じられた背表紙の部分に、イラストが隠されてました。
吾郎:知らない事ばっかりだね、本の番組やってんのにね。
外山:本当ですね、中身、ね?
他にも色々と探究心がとどまることがない祖父江さん。インクに酢醤油、カレー粉、著者の生髭・・・そんなものを混ぜて色々とやろうとしたこともあったそうです。
いや、これは祖父江さんんもすごいけど、それに協力する印刷所の人も偉いよね(笑)
さらに今、実験中のもの。新素材を使って次に試みられているのは、薄いゴムを綴じこんでみたり、ブラックライトに対してのみ反応するインクを使ってみたり。
祖父江:ブラックライトを当てるとカラフルに出てくるんです。不思議でしょう?これ、インクは開発されたんですが、どう使うかがこれから考えないといけないwww
吾郎:でも、面白いよね。これ、だって、絵とかでもいいじゃないですか。本だけじゃなくて何でもできるよね。CDジャケットとかでもできるよね。
外山:ああ〜
祖父江:だよねぇ。やっちゃいますよ!!言って頂ければ!!!
最後に、祖父江さんにとってのブックデザインとは?
祖父江:あまり無理して作るって感じでは無いんですね。デザイナーがこうだ!ってやりすぎると内容が消えていってしまうし、ほどよい具合にテキストが形になることをお手伝いする助産師的なそういう立場が、僕はこの仕事かな、って思ってるんです。
吾郎:自分の子供ではない。
祖父江:お手伝いですね。やっぱり本は著者のものだから、デザイナーのものではない。そこが何とも不思議で面白いですね。
今回の山田君のハンコは、ブラックライトでのみ光って見えるというインクを使って作品を仕上げてました。早速、ブラックインクを使って作品を作っちゃうゴロデラ、これはゲストさんとしても嬉しいですね。
(16.07.31 up)
|