第196回放送 '16.02.25
Guest:滝口悠生「死んでいない者」(第154回芥川賞)、本谷有希子「異類婚姻譚」(第154回芥川賞)、青山文平「つまをめとらば」(第154回直木賞)
恒例となりました芥川賞・直木賞の受賞作家が勢揃いする放送です。もう、前回の放送から半年経ったのね。逆にゴロウデラックスがそれだけ番組として定着し、続いているということを幸せだと思います。
だけど、お一人ずつだけでも番組1本できるのに、3人で1本って贅沢だよなぁ、と毎回思う。
吾郎:みなさん、お互いの印象はどんな感じなんでしょうかね?
本谷:ご挨拶したぐらいで、ちゃんとお話するのは始めてです。
吾郎:受賞のときはどちらで?発表のときは?
本谷:私は一番リラックスできる空間、自宅に。赤ちゃんが産まれたばかりなので、なので赤ちゃんと居ました。
吾郎:滝口さんは?
滝口:お蕎麦屋さんで、ちょっとお酒を飲みながら待ってました。
吾郎:会見のとき、ちょっと酔っ払ってました?目、こんなになって(しょぼしょぼさせて)
外山:ちょっと赤くなって
滝口:そうですか?
吾郎:いろんな待ちかたがある。青山さんは?
青山:僕は逆に、候補の知らせを受けたときの方が嬉しかったですけどね。
滝口:そうですよね。
本谷:えっ、どうして?
青山:やっぱり候補っていうのは、最初に認めてもらえたって、分かってもらえたっていう瞬間なんですよ。あとは運任せみたいなところがあるから。その候補が嬉しいんですよね。
ちなみに、青山さんと滝口さんは2度目の候補、本谷さんは4度目の候補での受賞だったようです。
本谷さんは、今回は滝口さんが取るのだと最初は思っていたそう。本谷さんの担当編集者さんからも、今回は取れないと言われていたそうで、油断していたところでの受賞だったようですが;
滝口:今回、正にその方(本谷さんの担当編集者)とお会いしたんですけど、本当は候補になったという連絡が(本谷さんから伝えられたのが)遅かったから、ちょっと怒ってたんですって。
本谷:あ!!じゃぁ、意地悪で言ったんだ。
一同:(笑)
滝口:しかも、そのときお願いしていた仕事を本谷さんがまだやってなかったから、ちょっと怒ってたっていう。
吾郎:それさ、滝口さん、言っちゃっていいんですか?
本谷:どうりで!もう、ぴしゃって言われたの。
滝口:普通、そんなこと言わないですよね。
本谷:言わないですよね。
吾郎:えっ、そのわだかまりは大丈夫ですか?これからまた会いますよね。
本谷:まぁ…
吾郎:もう、受賞で全て、帳消しということで。
青山:なかなか人間らしい。
ここで、受賞会見での話し。会見で注目を浴びたのは、本谷さんが左右違う靴下を履いて会見に登場したという話(笑)。本谷さんは電話が掛かってきて10分後には家を出なきゃいけないような状況だったので…ということで、その慌しさのせいにされてますが;
吾郎:でも、靴下ってそもそも、普通、セットにしてさ、タンスに入れときません?
本谷:そうですか?
吾郎:(笑)
外山:2つ一緒にね。
吾郎:その時点で間違ってたんじゃないですか?
本谷:結構、セットにしないの、うちは。だからそこまで違ってる靴下には私には見えなかったんですね(汗)
吾郎:すごい可愛らしい感じ。
受賞作の内容について。まずは本谷さんの芥川受賞作、『異類婚姻譚』。
元々はパソコンの顔認証システム。登録をすると、数多くの写真からその人だけのアルバムを作ってくれるという機能があるというソフトとのことですが、本谷さんの旦那様のそのアルバムに、本谷さんの写真も結構紛れていたということで、夫婦が似てくるという話を書こうと思ったようです。
吾郎:まぁでも、似てくるもんなんだね。
外山:似たもの夫婦って言いますしね。
本谷:何かそこに何となく薄気味悪さがあるじゃないですか。
吾郎:あります、あります。
本谷:他人なのに似てくるって。そこに流れるなんだか薄気味悪いの、何だかを自分なりに書いていったつもり。
吾郎:滝口さんは読まれて?
滝口:一番好きだったのはだんなさんが仕事に行かなくなっちゃったりして、不穏になってくるんですけど、ある日突然、揚げ物を理由も分からず揚げまくるところがあって。旦那さんの不調がきわまってそうなってるんですけど、お話がすごく活力が出てきて、元気で明るい感じになっていく。この感じがすごく面白かったですね。何で他の料理じゃなくて、揚げ物だったのかっていうのがすごく。
吾郎:えっ、何でだったんですか、揚げ物は?
本谷:やっぱり食べさせられた後に胃にもたれるじゃないですか?美味しいんだけど、それこそ毒みたいなイメージが揚げ物の中に私があるんですね。
滝口:結構、これまでの本谷さんの作品とちょっと雰囲気が違うかなっていう感じで始まって、読んでいくんですけど。その揚げ物のちょっと不快な、どんどん食べるところが、本谷さんっぽい。
本谷:そうなん、毒が出ちゃった(笑)
続いては滝口さんの芥川賞『死んでいない者』。大往生した老人の葬儀の場で親族たちのそれぞれの立場で話が行われるという物語。とにかく登場人物が多く、親族30人が登場します。
滝口:作品の長さをこれまで書いてきたものよりも、一番長いものを書こうっていうのが唯一の目標っていうか、挑戦しようとしたくて。どうやって長く書けるかなっていうときに、人数を増やせば。
外山:確かに(笑)。
滝口:長くなるんじゃないかと。
外山:青山さん、これ、お読みになって?
青山:これ、僕、本当に独断なんですけどね、パッと浮かんだのはこれは聖書ですよ。
滝口:すごい・・・(苦笑)
青山:宗教って言うのは非常にあの…神経質な問題含みますから、聖書のようなもの。聖書っていうのはね、だから、どっから読んでもいいんですよ。よくホテル行くと聖書置いてありますよね。ここを読めばこういうときに、ああ、ちゃんと自分に帰れるみたいな。そういう意味で、その聖書のようなものと言ったんですけど。
吾郎:ふーん。そういう見方もあるんだね。
最後に、青山さんの直木賞受賞作『つまをめとらば』。江戸時代後期、人生に惑う武家の男の話と、身一つで生きる女の強かさを描いたもの。
吾郎:時代がこんなに離れてても、本当に今の僕らと何か感覚が。
青山:今と同じにするために、この時代を選んでるもんですから。時代小説ってやっぱり、戦国/幕末がメインですけど、やっぱりそこには行かないんですよね、ええ。僕が書いてる時代っていうのは、18世紀の後半から19世紀の前半ですから、この時代は今の時代とそっくりなんです。キーワードが無いって言う。正解が無くて、もがいているっていう時代で。
吾郎:だから何かすーって入れましたもんね。
外山:そういうことなんですね。
吾郎:何か、男としても、何か分かるなぁっていうかね。
滝口:こういう市井の、普通の人たちって言うのは、何か資料は探そうと思えば結構、見られるものなんですか?
青山:あのですね、一番いいのは日記ですね。
外山:本当に普通の人の日記が残ってるんですか?
青山:そうです、そうです。本当にこういう風に生きてたんだっていうのが、一番よく、歴史書なんかよりもそれが一番よくわかる。何がねぇ、その、生き生きとするか、例えばですね、その…、文化(年間)っていうのはバブルなわけですよ。で、その後の天保(年間)っていうのは、本当に幕府がこう(傾いて)なって、要するにみんなその…、今みたいな時代ですよ。あんまりお金も使えない。そうするとねぇ、天保に生きてる日記に出てた女の人がね、『文化の人はいいわよね。贅沢を知ってる』って言う。
本谷:へぇ〜。
青山:そういうのを読むとね、何にもかわらないっていうのがよくわかりますよ。今とほとんど同じでしょ?
吾郎:バブルと平成と。
本谷:やっぱり、生きていくとどうしても図太くなってしまうんですよね。図々しくなるし。まぁ、女性として強くなってく。これ、どうしようもないなって思ってて。でも、ここでその青山さんがその女性に一抹の寂しさを覚えて、がっかりしたという風に書かない。『俺はこの女にやっぱり頼って生きていくんだ』っていう風に何かこう、女性のことを淡い気持ちのまでとっておきたかったというところを乗り越えて書いてくださるので、それは何か嬉しいなと思いますね。
青山:それは正に違うからこそ生きているわけだから、良い/悪いじゃないんですよ。そのあたりをですね、汲んで頂けると本当に嬉しいっていう。
吾郎:なるほど。すごいフェミニストだし、青山さんも、この本もね。女性の方が読むと、また違った感じなのかな。
最後に山田君のハンコ。授賞式のように3人が並んでました。
(16.03.06 up)
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