プレミアムステージ特別企画


9・11



04.09.11 Sat 21:00〜22:54 フジテレビ系列 にて ON AIR

 

 【CAST】
 杉山 晴美 : 和久井映見
 杉山 陽一 : 稲垣 吾郎
          【特別出演】
 三田村 誠 : 石黒  賢
 高木 倫子 : 鈴木 杏樹
 堤 健太郎 : 勝村 政信
 幼稚園の先生: 山口紗弥加
 町田  修 : 中根  徹
 陽一 の 母 : 柏木由紀子
 陽一 の 父 : 宇津井 健
 晴美 の 母 : 白川 由美
              ほか
【STAFF】
原作    : 杉山晴美
 『天に昇った命、地に舞い降りた命』
         (マガジンハウス刊)
脚本    : 大石 静
プロデュース: 現王園佳正
演出    : 平野 眞

 

【STORY】


2000年10月

日本からアメリカ・ニューヨークへと向かう飛行機。晴美は幼い二人の息子と共に搭乗していた。

  晴美 「ぴんちゃん、力斗、ニューヨークよ。お父さんが迎えに来てるわよ」


  晴美 『半年前、富士銀行ニューヨーク支店に赴任した夫と暮らすため、
      私は太一と力斗とを連れて、夫 陽一の待つ ニューヨークに向
      かいました。今から4年前の秋のことです』

空港に降り立った晴美たちを出迎えに、陽一がやってきた。力斗のベビーカーを押して、停めてある車の所までいきます。そこには運転手のシンさんが待っていてくれた。

  陽一 「Sin-san, this is my wife.(シンさん、家内です)」
  晴美 「Nice to meet you.(はじめまして)」
  シン 「Mr.Sugiyama is very busy person. It's good for ******.
      (杉山さんはとても忙しい 奥さんが来てよかった)
  晴美 「(陽一をちらりと見て)どうかしら。一人の方が良かったりして」

晴美にそう言われて、少しふくれっつらをする陽一。その間にもシンさんは彼らの荷物を車に運び入れてくれた;

  シン 「OK. Already to go.(準備OKです)」

家族は車に乗り込み、シンさんの運転する車はニューヨーク中心部へと向かう。夕暮れのマンハッタンが車の窓から見える。

  晴美 「綺麗〜〜〜」
  陽一 「夕暮れが一番きれいなんだよねぇ」
  晴美 「ふーん。忙しいの?」
  陽一 「うん」
  晴美 「合併で」
  陽一 「うん」
  晴美 「やっぱり3つの大銀行が1つになるのは大変なのね」

車はニューヨークの中心(タイムズスクエアだけは分かったσ(^^;))を抜け、橋を渡って対岸へ。ちょうど、ワールドトレードセンサーのビルが眺められる公園で、車を停めた。

  晴美 「どうしたの?」
  陽一 「ちょっと降りてみない?」

そう言って、陽一は子供達と一緒に車から降りた。

  陽一 「あれがワールドトレードセンター。ぶーちゃの銀行だよ」
  太一 「ぶーちゃの銀行!」
  陽一 「(笑)」

  晴美 『太一は父親のことをぶーちゃと呼んでいました。
      何故だかよく分からないのですが、
      夫はこの呼び名を気に入っていたようです』

陽一は太一と一緒にビルの方向に駆けていく。

  陽一 「ちゃちゃちゃちゃちゃちゃ、ジャ〜ンプ!」

それに晴美も続き、共に川べりの柵の前に並んで、ビルを眺めた;

  晴美 「富士銀行はどっちのビル?」
  陽一 「右側。てっぺんに塔の無い方」
  晴美 「塔の無い方だって、ぴんちゃん!」

その家族に向かって、シンさんがカメラを手に「Everybody get together.」と声を掛けた。じっとしてられない太一は、とことことあさっての方向に歩き出したりもしたが;

  陽一 「ああ…ほらほら。写真撮るぞ」
  シン 「Everybody together. Closer,Closer…. Ready? Say cheese」
  太一 「Cheese」

一家はワールドトレードセンターをバックに一枚の写真に納まった。



車はそのまま、住まいのあるニュージャージー州・フォトリーに。社宅があるのは郊外の緑豊かな住宅街。

  晴美 「着いた!」
  陽一 「こっち」
  晴美 「へぇ、ここだぁ〜」
  陽一 「うん」
  晴美 「へぇ。静かな良い街だけど、ワールドトレードセンターまで通勤が大変そう」
  陽一 「心配するなって」
  晴美 「ぶーちゃはいっつも”ぶー”ってしてるねぇ」

そんな会話をしながら、家の中に入ってきます。

  陽一 「さぁ、ここが新しいおうちだぞー」
  太一 「うわぁい、ここが新しいおうちだー」
  陽一 「よし、ジャーンプ」
  太一 「ジャーンプ」

  晴美 「へぇ、素敵!天井が高いわねぇ」
  陽一 「でかいだろう、おうち!」

陽一は太一とじゃれあい、晴美は、力斗を抱えたまま、さっそくキッチンにふれたりしている。

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数日後。陽一の運転で出かける一家。陽一は口をつけた缶ジュースを助手席の晴美に手渡したりして、いかにも仲のいい夫婦って感じです。

少しキャッチボールをして遊べそうな公園(記念写真を撮ったのと同じ公園なのかな?)にやってきました。

  晴美 「負けるなー。ぴんちゃん!」
  陽一 「よーい、スタート」
  晴美 「がんばれ、ぴんちゃん!あはは、すごいすごい」

陽一と太一は、赤いゴムボールめがけて、かけっこし始めました。その様子を力斗を抱きかかえながら晴美は声援している。先に赤いボールに到達したのは太一の方。

  太一 「勝った!」
  陽一 「負けた!」
  晴美 「あはは、勝った」

陽一は赤いボールを手にして;

  陽一 「ぴんちゃん、アイスクリーム食べるか?」
  太一 「うん!」
  陽一 「力斗、アイスクリーム」
  晴美 「はーい」
  陽一 「はい、お待たせ」
  晴美 「はい、アイスだー」

ワゴンでの移動露店のおじさんから、もう1つアイスを受け取る陽一;

  陽一 「Thank you」
  店員 「Your welcome」



その日の夜。夕食の時間、陽一は力斗に食事を食べさせている;

  陽一 「あーん。食べた!!おいちい?」

と、力斗に声をかけると、太一の方が;

  太一 「おいしい!!!」

と(笑)。

  陽一 「おいしいですか?!そっか、食べてみようかな?どれどれ、おいしい!!」
  晴美 「でしょう?」
  陽一 「うん、おいしい、おいしい。もうちょっと食べようかな」
  太一 「おいしい!!!」


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2001年9月11日

晴れ渡った、いつものように平穏な朝。


6:25AM

出勤の身支度を整えるため、鏡に向かって電機かみそりで髭を剃る陽一(ちょっと貴重な映像かも、と思ってしまった)。一方の晴美は食事の準備を整えている。


6:40AM

晴美は太一のお弁当を作り、その横で陽一は新聞を読みながら朝食を取っている。

  陽一 「太一も力斗も、今日は遅いな」
  晴美 「起こす?」
  陽一 「いいよ、いいよ。顔だけ見ていく。ご馳走様」

読んでいた新聞を置いて立ち上がる。そのまま子供達の部屋に行き、眠っている二人の顔を覗き込む。

  陽一 「髪、そんなに変か?」
  晴美 「うん、昨日のカットは大失敗。二人ともすごい暴れるんだもん」
  陽一 「ははは(笑)。少し河童みたいだな。今夜も遅くなるから、明日
      の朝からかってやろう」

などと言ってる一方で、晴美は少し気分悪そうに胸を抑えてベッドの脇に座った。

  晴美 「はぁ」
  陽一 「3人目でもツワリってあるんだ」
  晴美 「うん」
  陽一 「無理すんなよ」
  晴美 「なによぉ〜。私一人で妊娠したんじゃないわ」

陽一にすねてみせる晴美。


そのまま玄関に出て、いつものように陽一を見送る晴美。

  晴美 「いってらっしゃい」
  陽一 「明日の朝、会えるように、子供達早く寝かせろよ」
  晴美 「毎晩ちゃんと寝かせてるわよ」

そうして、見送る晴美の方を振り返って手をふって、陽一は出掛けて行った。


                     ・・・それがこの日の 7:00 AM



家の中に戻った晴美は、つわりに少し苦しみながらも朝食の後片付けをしている。


一方の陽一は、バス停へ。バスがやってきて乗り込もうとしたときに;

  女性 「Wait! Wait!」
  陽一 「Hold on」
  女性 「Thank you」
  陽一 「your welcom」

7:10AM 陽一の乗ったバスが出ていく。


その頃晴美が子供達の部屋に戻ると、子供達は二人とも目を覚ましていた;

  太一 「おはよう!」
  晴美 「なんだー。ぶーちゃ会いたがってたのにぃ」


そのままバスはニューヨーク・マンハッタンへと向かう。


7:24AM 子供達は別途で母と戯れ


陽一の乗ったバスは、マンハッタン島に近づいてきて、徐々に込み合ってくる。転寝をしていた陽一も、目を覚まして会社の資料に目を通してます。


7:35AM マンハッタンに向かうバスターミナル到着?


7:40AM 晴美は子供達に服を着せ、陽一は地下鉄に乗り込む


7:59AM AA11便 離陸


8:14AM UA175便 離陸


8:15AM 陽一は地下鉄に揺られ


8:20AM 晴美はお弁当を袋に入れ


その頃、陽一はトレードセンターの地下鉄の駅の改札を抜る


8:27AM 陽一はそのままWTCのビルのエレベーターホールへ


そしていつものように、到着したエレベーターに乗り込み、80階のオフィスへと向かった。


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8:50AM 太一を幼稚園に連れて行く準備を終えた晴美は、「いくわよー」と太一に声を掛けた。その太一はじっとテレビ画面を見ている;

  晴美 「何これ?事故?」

テレビ画面には、WTCと「BREAKING NEWS」「LIVE」の文字。

  晴美 「嘘・・・これどこよ」

そこに、日本にいる陽一の母親から電話がかかってきた。息子を心配する電話である。

  晴美 「あ、お母さん、大丈夫です。だってこれ、飛行機がぶつかった
      の、北側のビルでしょ?もしもし、テレビ観てらっしゃいます?
      てっぺんに塔が立っている方は北側のビルなんです。陽さんが
      いるのは南側のビルですから。富士銀行は南側なんです。よか
      ったわ、お母さん、陽さんは無事だわ」

だが、次の瞬間、テレビに映し出された南側のビルに近づく機影を見て、晴美は言葉を失った。



晴美は太一,力斗と共に、テレビをただ見続けている。

  晴美 「絶対大丈夫、今ぶーちゃ、一所懸命逃げているところだから。
      絶対、絶対、大丈夫」

その間も、ひっきり無しに電話がかかってくるが、いずれも陽一のものでは無かった。逆に陽一の携帯に電話をしても、留守番サービスに繋がるだけだった。

   『夫の職場は南等の80階。
    テレビで見た感じでは、飛行機はビルの真ん中の50階あたりに
    突っ込んだように見えました』


9:59AM

   『見舞いの電話がひっきり無しに掛かってくるのに、
    陽さんからの電話はありませんでした』

そのとき・・・


  晴美 「きゃーーーーーーー」

訳も分からず泣き出す子供たち。

  晴美 「陽一さんが死んじゃった。陽さんが!!どうして!どうして、
      どうして、どうして、どうして!!ぶーちゃ、どうして」

そのとき、ドアフォンが鳴り、陽一だと思って晴美は出る;

  晴美 「何で電話してくれないのよ!」

出ると、隣に住む高木倫子だった。晴美は彼女から富士銀行の人はほとんど全員無事だと伝えられる。



その頃ニューヨークでは街中がパニックの状態であり、同じく、ニューヨークのビルの一角にある富士銀行の事故対策本部でも、逃げてきたけが人の対応と、社員の身元確認が行われていた。オフィスに張り出された確認/未確認のリスト。陽一の名前はその未確認者のリストの中にあった。

陽一の安否を確かめるため、晴美はその対策本部にいる三田村の元に電話を入れるが、そこで晴美はいまだ陽一の安否が確認されていないことを知る。

  三田村「何かありましたら、すぐにご連絡致します」
  晴美 「お願いします。あの人は生きています」



そのまま夜になり、何度電話をしても、陽一の携帯には繋がらない。

  『お腹の中の、小さな命のためにも、眠らなければと思いました』


(回想シーン) 1987年 春

  男性 「先輩どうぞ!」
  晴美 「ほんと、もういいから」
  男性 「おい、お前も動けよ!一年生だろ!」
  陽一 「・・・」


(回想シーン) 1990年 夏

  陽一 「ごめん」
  晴美 「うーん」
  陽一 「富士銀行、うかったよ」
  晴美 「え?」

  陽一 「結婚しよう!」
  晴美 「えっ?」
  陽一 「いいだろう?」
  晴美 「・・・」
  陽一 「いやって顔してないんだけど」
  晴美 「自信ありすぎ!」
  陽一 「あるもん」
  晴美 「(笑)・・・ばか」
  陽一 「(笑)」


(回想シーン) 1992年 冬

そして、結婚式。友人達に祝福される二人。

  ♪ きみにしあわせあれ!




   『その晩、ついに夫は戻りませんでした』


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2001年9月12日

翌日。陽一の携帯に電話をし続ける晴美。その横では太一が積み木遊びをしている。

  太一 「ぶーちゃのビル!」
  晴美 「壊れちゃったから作ってるの?」
  太一 「(頷く)」
  晴美 「お母さんも一緒に作っていい?」
  太一 「うん」


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2001年9月13日

晴美はフェリーでマンハッタンへと向かう。

   『事件以来、マンハッタンへの橋もトンネルも閉鎖されてしまって、
    この日、川を渡る手段はフェリーしかありませんでした。
    マンハッタンはビル倒壊現場から立ち上る黒い粉塵で煙っていました』


フェリーが到着すると、シンさんが迎えに来てくれていた。車で移動する晴美だが、その車の中で今現在のニューヨークの様子を目の当たりにする。


   『フェリーに乗っていたのは、わずか5分・・・。
    5分しか離れていないのに、フォートリーとマンハッタンは別世界でした。
    ビル崩壊の現場に行って、夫の名前を叫びたい。
    どこにいるの?と呼んでみたい。
    そう思いましたが、現場には近づくことも出来ません』


そのまま、救助者が収容されている病院に出向く晴美。そしてまた別の病院へと・・・。だが、陽一らしき人物には辿り着かなかった。


富士銀行の対策本部。三田村と面談する晴美。三田村からは捜索のための調査票を渡され、身につけていたものなどの情報を記載するように告げられる。そして、居合わせたボランティアグループの人からはDNA鑑定のための書類も。それらの書類も受け取り、晴美は再び船で戻った。



その日の夜。

  ヘアブラシ、歯ブラシ、爪切り、髭剃り・・・

帰宅した晴美は、陽一の身の回りの品を集めた。隣の倫子が子供達を寝かしつけてくれている。

  倫子 「DNA 鑑定だなんて気が早すぎるわね。アメリカは何でも段取り
      が良すぎて」
  晴美 「・・・」
  倫子 「信じよう。太一君もさっき言ってた。『今、ぶーちゃは逃げて
      るんだ』って」
  晴美 「私、あの子と同じ年に父を亡くしたの。母は強い人だったから、
      私はそんなに寂しい思いをすることは無かったけれども、私は
      母みたいに強くなれるかどうか、自信無い・・・。
      陽さんにはそばにいて欲しい。帰ってきてもらいたい」
  倫子 「帰ってくる。杉山さんは帰ってくる!」
  晴美 「うん。ありがとう(笑)」


晴美はパソコンに向かった;

   『励ましのメール、本当にありがとうございます。
    みなさまの温かいお心遣いは、海をこえ、私の心を優しく包み込み、
    支えてくれています。
    主人の安否はまだわかっておりません。
    負傷して病院にいる可能性もありますので、今日も病院回りをしてきました。
    みなさまも、どうか一緒に主人の無事を祈って下さい』


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2001年9月15日

フェリー乗り場に子供達とやってきた晴美。

   『事故から4日目、夫の両親と私の母がニューヨーク入りしました』


陽一の両親、そして晴美の母親は、暫くの間、共に暮らすことになった。陽一の母親がかなり滅入っている様子を見て、気丈に振舞う晴美だったが、自分の母親と二人で出掛けたスーパーマーケットでは、何も考えれず、何も見えず、それでいて、スーパーの一角に掛けられた掲示板を目にしたとき、つい数日前の陽一の姿が思い出される;


(回想シーン) 9月8日

買出しにやってくる、晴美たち。太一を連れた陽一は、掲示板に空手教室の生徒募集の張り紙があるのを見つける。

  陽一 「お、空手教室だ」
  晴美 「ん?」
  陽一 「なぁ、ぴんちゃん、空手習わないか?」
  太一 「空手?」
  陽一 「うん。K-1だよ。男は強くないと」
  晴美 「そうよ、ぴんちゃん、行ってない、空手!」
  陽一 「空手やれよ!」

そうして、電話番号の書かれた紙片を剥ぎ取った陽一。



その剥ぎ取られた後が、まだそのままに残っている。その空白をじっと見たまま、そのまま静かに、お腹を押さえながらうずくまる晴美。突然出血し、そのまま救急車で病院に運ばれる。

  晴美 「ごめんね。お母さんのせいで、ごめんね」



   『胎盤の端がはがれたことによる、出血でした』

晴美はそのまま病院に入院し、絶対安静だと告げられる。


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その二日後。パソコンに向かい、メールを打つ晴美。

   『太一と力と夫の両親に預けて二日間入院し、
    現在は自宅に戻りましたが、安静を命じられています。
    幸い、お腹の子供は命を取り留めました』


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一週間後、三田村と共に、陽一の同僚の堤と町田がやってきて、事故のときの様子を晴美たちに告げる。晴美は陽一が生きている望みを見出すためにも、無理をしながらも話を聞く。


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そして、事件から一ヶ月近くが経ち・・・

   『10月7日米英両軍によるアフガン攻撃が始まり、
    10月18日ニュージャージー州にも炭素菌の感染者が発生しました』


  晴美 「私たちの気持ちも、死んだ人のことも行方不明の人のことも、
      みんな忘れて、アメリカ中がみんなビンラディンを捕まえるこ
      とに血眼になっちゃって…」

晴美の母親は一度、日本に帰らないかと提案するが、晴美は「陽さんの安否が分かるまで私はここを離れない」と宣言する。


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その頃、NYのGiuliani市長から晴美宛に追悼式典の招待状が届く。

  晴美 「あの場所に行ってみたいの。あの人が最後に目撃されている、
      あの場所に」

そうして、お腹の中の子にも「一緒に行こうねー」と話し掛ける晴美。


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2001年10月28日

ニューヨーク・ワールドトレードセンター跡。その場所には、多くの人がつめかけている;

   『事件から2ヶ月経ってもなお、煙がくすぶっている事件現場には、
    飛行機の燃料の匂い、ビルが溶ける匂い、
    さまざまな異臭がゆらゆらと立ち上っていました』

足元に転がってきた赤いボールを見て、アメリカに来て間もなく、公園に遊びに行ったときのことを思い出し、また涙する晴美。



夕方、現場の砂が入った小さな茶色い壷を抱いて、晴美は帰りのフェリーに乗りました。


その日の夜、晴美は母親に言われて太一に父親のことを話すことを決意します。


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翌日。力斗を寝かした後、ベッドルームで太一に話し掛ける晴美。

  晴美 「ぶーちゃのことだけど、お母さんもぶーちゃはどこかで生きて
      いて、そのうちきっとこの家に帰ってくると思ったんだけど、
      やっぱり帰ってこられないみたいなんだ」
  太一 「嘘だ!ぶーちゃ、今、逃げてんだから!」
  晴美 「うん。お母さんもずーっとそう思ってきたんだけど、やっぱり
      逃げられなかったみたいなんだ。悲しいけど、とっても悲しい
      けど、ぶーちゃは、お空に上ってお星様になって、お母さんや
      ぴんちゃんや力斗のことを見守っていてくれていると思うんだ」
  太一 「・・・」
  晴美 「ぴんちゃんが小学生になって、中学生になって高校生になって
      大学生になって、もっと大人になって、結婚して、ぴんちゃん
      みたいに可愛い子供が出来て、それからおじいさんになるまで
      ずーっと。ぶーちゃはぴんちゃんのことを応援してくれるし、
      護ってくれるよ!ずっと、ずーとね」
  太一 「・・・わかった」
  晴美 「本当?わかってくれたの?」
  太一 「うん、ぶーちゃ、お星様になったんでしょ」
  晴美 「・・・。お星様見に行こうか?」
  太一 「うん!」

晴美は太一と共に庭に出て、空にいる陽一を探した。


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翌日。太一を見送る際に、昨晩、太一と星を眺めたベンチに封筒が置いてあるのを見つけた。

  太一 「お手紙!」
  晴美 「お手紙?」
  太一 「ぶーちゃに書いたんだ!」


その日、富士銀行のオフィスにいる三田村を訪ねる晴美。家族の中には年内に日本に帰る人もいるという。だが、晴美はここでお腹の子供を出産すると決めていた;

  三田村「あのとき、私だって杉山君と同じように80階に残っていたかも
      しれません。そしたら、私の妻も奥さんと同じ思いをしていた
      と思うんです。そう思ったらとても他人事とは思えません」
  晴美 「三田村さん・・・」
  三田村「奥さん、杉山君は真面目で誠実で、裏表の無い本当に可愛い部
      下です。会社も杉山君のことは大事な人材だと思っています」
  晴美 「ありがとうございます」
  三田村「銀行は奥さんに出来る限りのことはします。どうか、安心して
      こちらでご出産なさって下さい」



その帰り道、待ち中の街頭ビジョンには、テレビのニュース番組が流れている。

   『11月13日、アフガニスタンの北部同盟が首都カブールを完全制圧。
    アメリカは立ち止まったままの私たちの気持ちを置き去りにして、
    前へ前へと進んでいくのでした』



帰宅した晴美は、太一の帰りを出迎える。

  太一 「ぶーちゃの手紙が無くなっちゃった!」
  晴美 「ええ!それ、ぶーちゃがお空から取りに来て持って帰っちゃっ
      たんじゃないの?」
  太一 「え?あ、そっか」

元気よく自分の部屋に上がっていく太一を見て、晴美は母親と笑顔で顔を見合わせた。



晴美はその夜、太一や力斗が眠った後、こっそりと太一の書いたぶーちゃあての手紙をライトにかざしてみた。三歳の息子が父親に書いた手紙;

   『DAD』


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2001年12月20日

   『私のお腹も落ち着いたので、母は三ヶ月ぶりに日本に帰りました』


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2002年 元旦

おせち料理をテーブルに並べ、太一,力斗と3人で正月のイベントを行う晴美。

  晴美 「日本ではね、家族が亡くなった次のお正月は、『おめでとー』
      って言わないの。でも、ぶーちゃはおせち料理が大好きだった
      し、お雑煮も大好きだったから、お正月、やりましょう!
      『あけまして、おめでとうございます!』」



その日の夜。庭に出て星を眺める晴美。

(回想シーン) 1990年

バーのカウンターに座っている陽一と晴美。

  陽一 「80歳になってもさ、こうやってカウンターで手つなぎながら、
      一緒にお酒のみたいよね」

陽一のその言葉に、黙って頷く晴美。


(回想シーン) 1993年 結婚記念日

ホテルのレストランで晴美は陽一と食事をしている。

  陽一 「毎年結婚記念日はさ、式を挙げたこのホテルでフレンチを食べ
      よう」
  晴美 「いいわね。食べることの話題が一番盛り上がるわね、私たち」
  陽一 「食べ物の相性が合わなければ上手くいかないと思うよ」
  晴美 「同感」



晴美はそのまま部屋に戻り、パソコンの前に座り、メールを打つ。

   『日本に帰っても結婚記念日の行事は続けていきたいと思っています。
    太一に付き合ってもらって…。
    夫も私もまだ結婚とは如何なるものか、分からずに歩いていました。
    これからもっともっと時間を掛けて本物の夫婦になろうとしていたのに、
    ゴールのテープを切りそびれた気分です。でも・・・
    彼との出会いが合ったからこそ子供達がおり、彼らの人生があります。
    そして、その子供達を見守る、私の楽しみがあるのです。
    間もなく10年目の結婚記念日を前にした、私の独り言でした』

パソコンの向こう側では、結婚式での二人の写真が、晴美の方を向いていた。


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2002年3月11日

一人、病院にやってくる晴美。

   『同時多発テロから半年後のメモリアルデーに、
    私は定期健診に病院を訪れました。
    半年前、流産しそうになって運び込まれた病院です』

いきなり「今日、産んだ方がいいですね」と医者に告げられる晴美。実際、いともあっさりと、その日のうちに男の子を出産した。

   『無痛分娩で、あっけないほど楽なお産でした。
    妊娠中にあまりに悲しいことばかりだったから、きっと夫が
    お産は楽にしてくれたのでしょう』

晴美は生まれてきた子供の顔を眺める。

  晴美 「あなた・・・陽さん・・・あなたなの?お帰りなさい」


   『新しい命となって、夫が私の元に帰ってきたと感じました。
    案外、彼はそれを狙って遺体が発見されることを
    拒み続けていたのかもしれません』


その日の晩、病院の窓から、WTCの跡地に空に向かって伸びる青い光を眺めた。


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数日後、退院し、知人にメールを打つ晴美。

   『三男を想弥(そうや)と名づけました。
    沢山沢山、本当に沢山のみなさまの思いを頂きました。
    父親の手に抱かれるこは叶わないけれど、
    いつも父親の想いに包まれて生きていくであろうという意味も含まれています。
    弥は弥生三月の生まれという意味です。
    当初の予定通り7月末には日本に帰国しますので、その際には是非是非、
    お暇を見つけて元気なだんご3兄弟と、
    想弥の中の主人に会いに来て頂ければ幸いです』


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桜の咲き乱れる季節のある日、三田村が訪ねてきた;

  三田村「ご遺体が確認されました」

それは、DNA鑑定の結果の確認であった。

  晴美 「そうですか。3男が生まれたら発見されるような気がしていた
      んです。それであの人はどこに?」
  三田村「それが、右手の親指の先が確認されまして、その骨で確認され
      たそうです」
  晴美 「・・・」

三田村の話を聞きながら、まだ付き合っていた頃の、陽一のつり革を握っていたその指や、太一と指相撲をしている様子が思い出される。

  晴美 「まだ、半分以上の人が行方不明のままなんですものね。今確認
      できただけでも、ありがたいと思わないといけないのかもしれ
      ません」

晴美は三田村に、気丈にそう答えた。


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葬儀場で、夫の棺に寄り添う晴美。

   『アメリカの火葬は骨を拾うような儀式はありません。
    お骨は私が選んだブロンズの骨壷に入れられ後日受け取りました。
    灰の一部は4つのペンダントにつめ、身に付けられるようにもしました』



陽一の写真、骨壷、スキー靴、家族の写真が並べられた式場。そこには、晴美や3人の子供達、陽一の両親、晴美の母親、そして富士銀行の陽一の同僚たちが集まった。その場で、晴美は挨拶を行う;

  晴美 「幼い子供達を残し、三男を抱くこともできず、また、みずほ銀
      行の一員として皆様と共にスタートを切ることができなかった
      ことは、夫 杉山陽一 にとって、どんなにか無念であったろう
      と思います。けれど、今回の事件で妻である私は数々の貴重な
      体験をしてまいりました。命の尊さを改めて思い知らされ、人
      間のシンの強さ、新の優しさに直に触れ、人生勉強を積ませて
      頂いた思いです。悲惨な状況は悲惨な結果のみを生むものでは
      ありません。人間、乗り越えられない苦しみもありません。
      それが、私にとって、驚くべき真実でありました。
      この教訓こそが、夫がいのちがけでくれた一番の財産であると
      感じ、これを子供達に伝えていくことが、私の使命だと感じて
      おります。本日はありがとうございました」


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警察にて、三田村、晴美、父親が、陽一の遺体確認についての手続きをしている。三田村は警官の言った言葉を通訳して陽一の父親に告げる;

  三田村「『これから先もご遺体の一部が確認されることがあるかもしれ
      ません。そのときはどうされますか?』と聞いています」
  父親 「その都度、連絡してください。私が遺体を受け取りに来ます。
      私が生きている以上、陽一は日本に連れて帰ります。いいね?」
  晴美 「はい」

晴美にそう断って、陽一の父親は、書類にサインをした。その様子を黙って見つめる晴美;

   『二つの国に眠っている夫。
    それが夫の運命なのだと受け入れようとしていた私ですが、
    夫の父の気持ちも、また、よくわかりました』


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2002年7月30日

晴美たちにとってニューヨーク最後の日。倫子にも手伝ってもらいながら、家の片づけを終え、出発のために玄関を出ると、三田村が見送りと家の後始末のためにやってきていた。そして、車の運転手としては、晴美が何度か世話になったシンさんもやってきていた。

シンさんの運転で、最後の一日、思い出の場所をめぐるために、まずニューヨークにやってきて最初に写真をとった場所にやってきた。あの日と同じようシンさんに写真を撮ってもらう晴美。

そして、次に訪れたのは、グランドゼロの目の前のビルの一室;

   『ニューヨーク最後の日、
    被害者家族のために設けられたファミリーセンターを訪れました』

そして、晴美はそのビルがあった場所をしっかりと目に焼きつけ、太一はファミリーセンターに置かれた画用紙に「ぶーちゃ またくるからね」と書き残した。

  晴美 「また来ようね。きっと、また来ようね」

晴美たちは、数多くの記憶と、ペンダントを胸に、ニューヨークを後にした。



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2002年9月11日

幼稚園に太一を出迎えにやってくる晴美。そこで、太一と太一の友達の何気ない会話を目にする;

  子供 「太一君のお父さんって死んじゃったの?」
  太一 「うん」
  子供 「悲しかった?」

その様子を見て、晴美は二人の会話に割って入る;

  晴海 「そうなのよ。太一君のお父さんは死んじゃったの。でも、悲し
      いけど、太一君には弟が二人もいるから、寂しくないんだよ!」

そうして、太一と共に帰路につく晴美。

  晴美 「いいんだよ、本当に悲しかったら悲しいって言って」
  太一 「うううん、悲しくないよ」
  晴美 「そうだよね。死んじゃったのは本当のことだもんね。仕方ない
      もんね」
  太一 「うん」

そうして、途中、街中のベンチに座って揃ってアイスを食べる晴美たち。


   『あの朝のあなたとの尻切れトンボの会話
    ・・・あの続きはいつすればいいの?』

アイスを食べ終え、再びゆっくりと歩き始めた。

  太一 「お母さん、何で犯人はぶーちゃを殺しちゃったの?年をとれば
      みんな死んじゃうのに」
  晴美 「・・・。そうだよねぇ。すごいねぇ、ぴんちゃん、それって、
      ・・・すごい」
  陽一 「アイス、もう一個食べたい!」
  晴美 「それはだめ!」
  陽一 「食べたい!!」
  晴美 「だめだめ!」


   『9月11日 …忌まわしいイメージのつきまとわれがちのこの日を、
    嬉しそうにアイスクリームを食べる子供達の微笑ましい姿でバラ色に塗り替える、
    それが無力なイチ市民である私たち家族のテロへの抵抗でした』


その夜、静かに眠る子供達の顔を見ながら、晴美は語りかける;

  晴美 「三人とも、すごい運命背負ってるよね。でも幸せだよ!大勢の
      人たちが君達のことを心配してくれているし、お父さんのいる
      普通の家庭では手に入らない幸せだもん。感謝しないとね。お
      母さんもまだまだ立派なお母さんじゃないけど、君達にこれが
      お母さんの生き方だって、胸を張れるようなお母さんになりた
      いと思ってるんだ。お空のぶーちゃもいつも見守ってくれてい
      るよ」

そうして、そのまま子供達と眠ってしまう晴美。

ニューヨーク、グランドゼロで行われている『一周年 追悼式典』・・・日本のテレビもその様子が放送され、その中で事件で犠牲となった一人一人の名前が読み上げられた。そこには陽一の名前も読み上げられた。


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翌日。それでも晴美にとっては子供達とのいつもの慌しい日常が続く。


  『昨夜寝てしまったことは不覚でした。
   けれど、こうして普通の日常を懸命に積み重ねていくことが、
   私なりの夫への供養なのだとも思いました。

   そうよね、あなた?

   なーんて言っちゃって。本当はどこかで生き延びているんじゃないの?
   発見されたのは右手の親指だけだもの、親指一本無くても生きていけるし、
   親指無いままアメリカ脱出して、
   今頃イタリアあたりで素敵な彼女を作って生活してたりしてねぇ〜。
   まぁ、それでもいいわ。あなたが生きていてくれるなら。
   他の女性と一緒でも、特別に許してあげる!それほど私はあなたに惚れてます。

   何度生まれ変わってもあなたと添い遂げたい。
   短い夫婦生活でしたが、またいつか、夫婦やって下さい。
   えー次は断るって?!口の悪かったあなたのそんな言葉が聞こえてくるわ。
   いいわよ、何とでも言って下さい。
   仕方ないから、これからの私の生き様で再度惚れて頂けるよう、頑張ってみましょう。
   あなたの残してくれた子供を立派に育て上げたら、
    ”よくやった、仕方ないからまた結婚してやるよ”
   なんて言ってもらえるように。

   そんな日を、楽しみにしています。あなたの妻より・・・』



(04.10.09 up)


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